【日時】2024.7.15.(月・祝)14:00〜
【会場】東京オペラシティ・リサイタルホール
【出演】
○橋本京子(Pf.)
〈Profile 〉
橋本京子は、伝説的ピアニストであり教師であったジョルジ・シェボックより「非凡な音楽的才能をもち、現代において最も素晴らしい演奏家の一人である」と称賛されたピアニスト。東京生まれ。3歳よりピアノを始める。桐朋学園高校、大学を通じて富本陶教授に師事し、卒業後、スイスのメニューイン国際アカデミー、米国インディアナ大学、ジュリアード音楽院などにおいて研鑽を積む。このうちメニューイン国際アカデミー及びジュリアード音楽院においては、 全額学費免除奨学生として在籍。この間、G.シェボック、M.ブレスラー、W.マセロス、G.シャンドールにピアノを、G.ヤンツァー、F.ガリミアなどに室 内楽を師事する。その後もG.クルターク、F.ラドシュなどに師事する。 1978年以来、スイス、米国、ベルギー、オランダなどに居住し、現在カナダ、モントリオールに在住。演奏活動は常に世界中に渡っており(既に30か国 以上に及ぶ)、これまでにロンドン・ウィグモアホール、ニューヨーク・リンカーンセンター及びカーネギーホール、ワシントンDC・ケネディセンター、室内楽音楽祭、PMF 音楽祭、サイトウ・キネン・フェスティバルを始めとする各国の主要な音楽祭にも度々招待される。また世界各地の多数のソロリサイタルのほか、プラハ・ドボルジャークホールにおいてのブラハ室内フィルとのベートーヴェンのピアノ協奏曲をはじめ、 ※ベオグラードフィル、ベオグラード放送響、米国、日本、カナダのオーケストラとの共演など多彩なレパートリーにて世界中で活動。これまでにパロック ・以前から多くの現代曲まで1000曲以上にわたる曲を演奏しており、ルッジェーロ・リッチ (Vn)、トーマス・ツェートマイヤー(Vn)、アントニオ・メネセス ~ (Vc)とのデュオ活動など数多くの著名な音楽家とデュオや室内楽の共演を行なう。 国際フランス音楽コンクールでの一位大賞および聴衆賞、フランス国際音楽コンクールでの一位なしの二位、シュポア国際コンクールでのピアニスト賞、ブダペスト国際コンクールやシュボア国際コンクールでの最優秀伴奏者賞などを授与される。オランダのラジオ局にてのベートーヴェン 20曲連続録音、CD はイギリス、オランダ、ドイツ、チェコ、日本などで20枚以上録音されており、2011年にナミレコードよりドビュッシー前奏曲集第2巻と一緒にリリー スされたシューベルト即興曲集 作品142の録音がBBCラジオ (イギリス)にてエドウィン・フィッシャー、ウィリアム・カベル、ウィルヘルム・バックハ ウス等の伝説的巨匠と列した名演奏として選ばれるなど、国際的にも高い評価を獲得。2014年には、バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、ブルーメンフェ ルド、バルトークのダンスにまつわる曲でソロCDをナミレコードよりリリース、2018年にはオールモーツアルトソロ8曲が発売され、主要な雑誌などで 高評価を得る。現在、カナダ、モントリオールの名門マギル大学音楽学部ピアノ本科主任教授。また12年間にわたりオランダのユトレヒト音楽大学ピア ノ本科及び室内楽教授、チェコとポーランドのヨーロッパモーツァルトアカデミーやチェコの国際室内楽アカデミーにて客員教授を務め、生徒は世界中で 演奏家や教師として活動。また室内楽を教えた生徒の中にはジャニーヌ・ヤンセン (Vn)、 アレクセイ・オグリンチュク (Ob)、シャルル・リシャール=アムラン(Pf)、など世界的な芸術家も含まれる。国際コンクールの審査員としては、米国のジーナ・バッカウアー国際ピアノ芸術家コンクール、カナダのモント リオール国際ピアノコンクール、ステッピングストーンコンクール、オランダのヤマハベネルックスコンクール、イタリアの Piana del cavalier 国際ピアノ コンクール(審査員長)、フィンランドの Maj Lind 国際ピアノコンクールなどに招待される。 2004年より毎年開催されている、ドイツ、チェコやボルトガルでの国際音楽ワークショップと音楽祭 (IMWAF)の芸術監督。他に、ロンドンのギルドホー ル音楽院、王立音楽院やトリニティカレッジにてのマスタークラス、また米国(オベリン音楽院、マイアミ大学、ネヴァダ大学、デュポール大学、カーネギー メロン大学など)、オランダ、フランス、スイス(ジュネーブ音楽院、ベルン音楽大学など)、チェコ、オーストリア(ウィーン芸大、ザルツブルクモーツア ルテウムなど)、カナダ(ブリティッシュコロンビア大学、ヴィクトリア大学、カルガリー大学など)、ドイツ(ベルリン芸大、ベルリンハンスアイスラー芸大、 ケルン、トロッシンゲン、フライブルグ、リューベック、マインツ、アウグスブルク、デュッセルドルフ、ハンブルグなど殆どのドイツの音大)、台湾(台 北芸大、台湾師範大学など)、中国(北京中央音楽院など)、モンゴル(モンゴル国立音楽院)、ポルトガル、フィンランド (シベリウス音楽院、サヴォリンナアカデミーなど)、日本、韓国、モンテネグロ、ブラジル、マレーシア、タイ(マヒドル大学)、ベルギー(ブリュッセル音楽院)、イスラエル(エルサレム音楽院など)など、主要大学やその他のマスタークラスで常に世界中で教え、後進の指導にも多忙な日々を送る。www.Kyoko-hashimoto.com
○伊藤万桜(Vn.)
〈Profile〉
伊藤万桜は、ロシア人指揮者でヴァイオリニストのボリス・ベルキン氏より音色を直に称賛され、林昌英氏よりデビューアルバムを「どこまでも真摯で清純、 「派手さに走らず自然な美しさを追究した演奏、筋の通った俊英の登場」と評されて、進化し続けるヴァイオリニスト。東京音楽大学卒業、同大学院音楽 研究科科目等履修修了。10代よりフランスのパブロ・カザルス国際音楽アカデミー、ドイツのアントン・ルービンシュタイン国際音楽アカデミー、イタリ ア、カナダなどにて研鑽を続ける。ヴァイオリンを大谷康子、海野義雄、神尾真由子、嶋田慶子、漆原朝子、村瀬敬子、山岡耕筰、マーク・ゴトーニ各氏 に、室内楽を山口裕之、店村眞積、横山俊朗、大野かおる、橋本京子各氏に師事する。ファニー・メンデルスゾーン国際コンクール 2022 プロフェッショ ナルヴァイオリン部門第1位、第7回日本管弦打楽器ソロ・コンテスト第1位・クリスタルミューズ賞、第16回 KOBE 国際音楽コンクール第2位・兵庫県
芸術文化協会賞、第5回蓼科(現セシリア国際) 音楽コンクール第2位、公益財団法人樫の芽会第10回樫の若木賞を受賞する。 フランスのプラード・カザルス国際音楽祭、橋本京子氏が芸術監督のドイツのキルヒベルク国際音楽祭 (IMWAF)に二度、イタリアのテアトロオリンピコ 国際フェスティバル、大学代表としてモスクワ音楽院交流演奏会に、また、大学より奨学金を受けてバイエルン州立青少年オーケストラに参加しミュンヘ ンとベルリンでのジョナサン・ノット氏指揮ニュー・イヤーコンサートに出演する。2016年第31回練馬区新人演奏会にて上野正博氏指揮東京フィルハーモニー交響楽団と共演、2019年東京文化会館小ホールにて、文化庁/日本演奏連盟主催新進演奏家育成プロジェクトによるリサイタルが好評を博す。
ドイツのシュロス国際音楽アカデミー主催 CLASSIC@HOMEにて2019年リサイタル演奏曲のヴィエニャフスキのファウスト幻想曲が動画配信される。 2021年より毎年東京オペラシティにて、文化庁助成、日本演奏連盟の後援等を得てリサイタルを開催している (2025年は2/23の予定)。NHK「名曲ア ルバム+」、テレビ朝日、BSフジ、OTTAVA、FM軽井沢などに出演する。2021年デビューアルバム「Flessibile」、2022年配信アルバム 「夢の色彩」をリリー ス(2025年第3弾を予定)。2023年より練馬放送パーソナリティ。日本演奏連盟、練馬区演奏家協会会員。www.maoito.info
【曲目】
①モーツァルト『 ヴァイオリン・ソナタ第42番 イ長調 K.526』
Wolfgang Amadeus Mozart: Sonata for Piano and Violin No.42 in A major, K526
(曲について)
モーツァルトの35年の人生のラスト10年の非常に実りの多い時期に作曲された、最後の本格的ヴァイオリ ン・ソナタとなるこのK.526は、彼のソナタの中では最も技巧的で、演奏者には指と心の両方の多才さが求め られます。ヴァイオリンが伴奏役であったこれまでのソナタとは違って、2つの楽器はほぼ同等に扱われる ようになり、堂々とした風格を備えた協奏曲的二重奏ソナタの傑作となっています。
第1楽章は2つの楽器が交代で現れて上品な活気が増していく完全にモーツァルト的陽気な雰囲気で、第2 楽章は和声や調の陰影が美しく、第3楽章は解き放たれたピアノから始まり、同年1月に亡くなったバッハと 親交のあったC.F. アーベル (1723-1787)のソナタからのロンド主題の引用によって追悼の意が込められています。 A. アインシュタイン(アメリカへ帰化したドイツの音楽学者)は、一このソナタはベートーヴェン (1770-1827)の 「クロイツェル・ソナタ」の先駆と呼ばれている。しかしこのソナタは《劇的なもの、情熱的なもの》を避けて、 18世紀の限界内にとどまっているのであり、そのためにいっそう完全度を高めているのである、と述べて います。
②バルトーク:『ヴァイオリン・ソナタ第2番 ハ長調 Sz.76』
Bartók Béla Viktor János: Sonata for Violin and Piano No.2 in C major, Sz. 76
(曲について)
ハンガリーに生まれ、亡命先のニューヨークで没したバルトークは20世紀を代表する作曲家としての活動以外にも、学 問分野としての民俗音楽学の第一人者の1人として、東ヨーロッパの民俗音楽を収集・分析し、アフリカのアルジェリアまで足を伸ばすなどの精力的な活動で功績を残します。さらに、F.リスト(1811-1886)の弟子 T. イシュトバーン (1862-1940) に師事したドイツ・オーストリア音楽の伝統を受け継ぐピアニスト・教師としても活動します。
音楽院前後の若い時代には、ベリオからサラサーテ、ヴィオッティ、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューマン、 ブラームス、グリーグ、シューベルト、メンデルスゾーン、ドヴォルザーク、ブルッフ、ヴィエニャフスキ、ヴュータン、R.シュ トラウスに至るバロック、古典、ロマン派の殆どのヴァイオリン作品を研究し、同郷のヴァイオリニストのフバイ (1858-1937)、 イェリー(1893-1966)と演奏活動を共にしています。26歳でブタペスト音楽院教授となりますが、二度の大戦から逃れ民俗音楽の研究のできる環境を求めて1940年にアメリカへ移住し、晩年は厳しい経済状況と白血病に苦しみます。 ヴァイオリン・ソナタ第1番を作曲した40歳を迎えた1921年頃から、民謡採集などで培った素材を生のまま作曲に活用することを止め、抽象的で純音楽的な方向の作風に向かっていきます。この第2番はヴァイオリンの技法が尽くされた ラブソディ風の第1楽章と、めまぐるしく曲想を変える舞曲風の第2楽章からなりますが、2つの楽章はアタッカで切れ目 なく演奏されます。第1楽章を中断させて、それを第2楽章に融合させ、最後にそれを完成させるという変則な構成によっ て難解さと緊張に満ちた音楽となっています。バルトーク自身が好んでシゲティ (1892-1973) やセーケイ (1903-2001)らのヴァ イオリニストとヨーロッパ各地を演奏して回った曲です。
③フォーレ『 9つの前奏曲 作品103』 より
3曲、4曲、5曲 (1909-1910)
Piano solo
(曲について)
フランスのロマン派音楽と20世紀の近代音楽を繋ぐ進歩的作曲家であり、音楽学校の学生時代に恩人となるサ ン=サーンス (1835-1921)と出会い生涯の親交を結んでいます。マドレーヌ寺院などのオルガニスト時代が長く、 後にパリ音楽院教授から学長に就任して、ラヴェル (1875-1937) やケクラン (1867-1950)、デュカス(1865-1935)等 がそれぞれの個性を生かした道を見出せるよう育てています。
初期には歌曲「夢のあとに」や「月の光」、ヴァイオリン・ソナタ第1番など良く知られた親しみやすい作品が多 くあり、中期では「レクイエム」、「パヴァーヌ」、「ペレアスとメリザンド」など年齢を重ねて簡素化された和声を 流麗に歌わせる彼の特色が現れ、晩年にはオペラ「ペネロープ」やヴァイオリン・ソナタ第2番が作曲されていま すが、耳の障害が悪化する中、最後の20年間は内向的な時に荒々しく情熱的な作風となっていきます。彼の音楽は大規模な管弦楽向けではなく、規模の小さな作品において伝統的なあらゆる手法を駆使し、音のごく自然な流れが独自の緻密な構成によってまとめられているものです。
このジャンルにおいて集中的に初めて取り組んだ「9つの前奏曲」は、フォーレの後期を代表するピアノ曲集と言えます。直接的な関連性はないものの、奇しくもドビュッシー (1862-1918)の「前奏曲集」の第1集( (1909-1910)の作 時期と重なります。J.M. ネクトゥー(フランスの音楽学者)はこれら9曲を、1.夜想曲的な響きの豊かなもの(1・3・7番)、2.技巧的なもの (2・5・8番)、3.ポリフォニックなもの (4・6・9番)という3つのタイプに分類しています。 フォーレ後期のピアニズムが凝縮された曲集より本日はタイプの異なる3曲をお届けします。
④R.シュトラウス『ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調』
(曲について)
バイエルン王国のミュンヘン宮廷歌劇場の首席ホルン奏者の子として生まれ、父から保守的音楽教育を受けて育ち、その影響でブラームスに傾倒しますが、後にベルリオーズやリスト、父の嫌ったワーグナーの作品に触れて新しい音楽 に覚醒し、指揮者としても活躍します。ドイツ後期ロマン派最後の作曲家として今でも上演される人気のレパートリーであり、オペラ、交響詩、歌曲等の広いジャンルに代表作を残すシュトラウス独自の展開をみせています。 この彼唯一のヴァイオリン・ソナタは24歳の時に作曲され、古典的な絶対音楽からオペラや交響詩へと創作の方向 転換を図った頃で、同年に出世作となる交響詩「ドン・ファン」を手掛けてから、バルトークが刺激を受けた交響詩「ツァ ラトゥストラはかく語りき」(1896年)、オペラ「サロメ」 (1905年)やオペラ「ばらの騎士」 (1910年)等々に精力的に取り組んでいく突破口となった時期に当たります。彼唯一のヴァイオリン協奏曲 (1882年)を凌ぐ傑作となったこのソナタは、ピアノがオーケストラの役割を果たす壮大で華麗な作品となっていて、オーケストラ風の演奏と対峙して自由快活に謳うヴァイオリンが印象的で、ヴァイオリニストにとってこの上なく幸福な作品であると同時に技巧的にも求 られるものが高く、弾くたびに新しい解釈を見せてくれる戯曲のような面白さも感じさせる曲です。 第1楽章はソナタ形式で流麗なピアノが柔和な主題と情熱的な主題の2つのメロディを先導し、第2楽章「即興曲」はヴァ オリンの美しいメロディが酔わせて、第3楽章では一気に発散される若きシュトラウスの情熱に圧倒されて幕を閉じます。
【演奏の模様】
今回のヴァイオリニスト伊藤さんの演奏は、三年前の2021年2月にそのリサイタルを初めて聴きました。若くて将来性がある奏者だと思っていたのですが、アッと言う間に3年以上も経ち、その後どのような発展ぶりを見せているのか楽しみに思って今回聴きに行きました(参考まで2021年の記録を文末に再掲しました)。
①モーツァルト『 ヴァイオリン・ソナタ第42番 イ長調 K.526』
全三楽章構成
Ⅰ. Allegro molto
Ⅱ. Andante
Ⅲ. Presto
立ち上がりからPf.がいい音を立てています。Vn.演奏はそれに比しやや元気がない調べにきこえました。このDUOはピアノの勢いが優勢で、伊藤さんのVn.の音は受け身の姿勢が見られました。でもモーツァルトらしさはVn.旋律からも十分漂っていました。
②バルトーク:『ヴァイオリン・ソナタ第2番 ハ長調 Sz.76』
全二楽章構成
Ⅰ. Molto Moderato
Ⅱ. Allegretto
ここに来て俄然Vn.の演奏が複雑、稀なる出音を次々と繰り出し、伊藤さんは①の時とは見違える様な張り切り様で、バルトークの難しそうな旋律に食い下がって持てる技術を発揮していました。旋律の美しさは少ないかも知れませんが、非常に親しみの持てる民族調も感じられるバルトークの難曲を元気一杯弾き通しました。勿論その際の橋本さんの力強いPf.演奏により、Vn.演奏が勇気づけられていたことは明らかでした。
《休憩 》Intermission
③フォーレ『 9つの前奏曲 作品103より』 Piano solo
3曲. Andante, in G minor
4曲. Allegreto moderato, in F major
5曲. Allegro, in D minor
当初発表された資料には無かったソロ演奏が橋本さんによって為されました。これは今では世界のピアノ界の大御所と言っても過言でない、日本人ピアニストが来日したのだから、純粋にその演奏を聴きたいという声もきっと多く有ったのでしょう。演奏前にマイクを持った橋本さんのトークに依れば、日本のこの音楽の殿堂で、演奏するのはホントに久しぶり、何年、何十年振りか分からない程で、確かアルゲリッチ(聞き間違いかも知れませんがそう聞こえました)と演奏した時以来か?と言った趣旨の話をしてから弾き始めました。
フォーレのピアノ曲の中から三曲だけの演奏です。しっかりしたタッチで力強い出音で冒頭から、流石と思われる演奏でした。4曲は美しい調べでスタート、きらびやかさの中に深さを感じるものでした。5曲は冒頭から強く激しく迸り出る速い音達の中にも不思議と落ち着きを感じる演奏でした。割りと短時間で済んでしまったので、もっともっと聴きたい気がしました。
④R.シュトラウス『ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調』
全三楽章構成
Ⅰ. Allegro ma non troppo
Ⅱ. Improvisation: Andante Car
Ⅲ. Finale: Andante - Allegro
シュトラウスのソナタの存在は何かの際に知り何時か聴こうと思ってそのままになっていたので、今回が初めて聴いた事になります(前日別な演奏会があって、予習する時間も取れませんでした)。
伊藤さんはVn.をくねくねと音を連綿と出す奏法で如何にもシュトラウスらしさを感じる調べ(自分はこれをシュトラウス節と勝手に呼んでいます)を繰り出し、橋本さんは、堂々とした節回しでかなりの迫力ある打鍵ですが、シュトラウスにしてはしめやかな旋律と感じました。伊藤さんは滔々と気持ち良さそうに音をたてています。
次楽章では随分とシュトラウスはVn.に謳わせるのですね。緩やかな短めの旋律が有るかと思えば、弱音も落ち着いた様子で、華がある演奏。対するPf.はコロコロと美しい合の手を入れています。
そのPf.は終楽章に入り、イントロから激しく強い演奏、対するVn.は比較的弱い音を立て、くねくね奏でPf.の上行する速い激走に応じ、Vn.も旋律を上行させました。そして短い旋律をPf.とVn.が掛け合い曲は終えるのでした。Pf.の情熱的とも言える音の強さに対する伊藤さんのくねくね奏はややおとなし過ぎたきらいがあります。しかし総じてシュトラウスのソナタの素晴らしさを味わうことが出来ました。きっと伊藤さんにとっても弾き甲斐いのある曲に違いありません。
尚、本演奏後、アンコール演奏が有りました。
《アンコール演奏曲》タイスの冥想曲。(Vn.版)
彼女が最初に録音した(?聞き取れませんでした)曲で、随分思い入れがある曲の様です。
帰り際受け付けの処で、帰る人々を見送る伊藤さんでした。
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////2HUKKATS Roc. 『伊藤万桜ヴァイオリンリサイタル』(再掲)
2月20日(土)に表記のリサイタルを聴いて来ました。時々若い人の演奏も聴いておかないと、熟練者の演奏を理解する力も鈍ってしまうと考えるので、時間が許す限り出来るだけの機会を捉えようと心がけています。 今回の演奏者は伊藤万桜さんというまだ二十歳代ではなかろうかと思われるヴァイオリニストです。「万桜」と書いてmaoと読む様です。春の満開の桜を連想させる季節感もあり、また名作曲家の代表的ソナタを意欲的に三つ演奏するというので、聴きに行ってみました。ネットによると概略経歴は以下の通りです。
東京都立芸術高等学校、東京音楽大学を卒業。同大学院音楽研究科を経て多岐に演奏活動を行う。パブロ・カザルス国際音楽アカデミー、ヴィチェンツァ国立音楽院、アントン・ルービンシュタイン国際アカデミー等にて、Mark Gothoni、Leon Spieler、Albert Martini、Boris Davidovich Belkin、Lucie Robert、Lorenz N-Herschcowiciの各氏のマスタークラスを受ける。
第16回KOBE国際音楽コンクール優秀賞、兵庫県芸術文化協会賞をはじめコンクールに多数入賞。
カザルス音楽祭(仏)、キルヒベルク国際音楽祭(独)、テアトロオリンピコ音楽フェスティバル(伊)、モスクワ音楽院演奏会(露)に出演。2016年第31回練馬区新人演奏会にて東京フィルハーモニー交響楽団とチャイコフスキーの協奏曲を共演。2017年度東京音楽大学卒業演奏会に出演。
2018年よりNHK「名曲アルバムプラス」、Sony Music Entertainment主催STAND UP! ORCHESTRAとしてBSフジ、2019年よりMUTIAとしてOTTAVAラジオ、ラ・フォル・ジュルネTOKYO等に出演。2019年10月東京文化会館小ホールにて、文化庁/日本演奏連盟主催のリサイタルを開催。バイオリンを大谷康子、海野義雄、嶋田慶子、漆原朝子、村瀬敬子、山岡耕筰、Mark Gothoniの各氏に師事。
また今回の演奏会の主催者プロモート文は以下の様なものでした。
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ヴァイオリンソナタ最高峰をオペラシティで文化庁助成、日本演奏連盟後援。2019年東京文化会館初リサイタル(文化庁主催)では300人を超える来場者にてリヒャルト・シュトラウスのソナタ等でブラーボを頂戴した注目の若手ヴァイオリニスト伊藤万桜。憧れのホールにて、後期ロマン派より、ヴァイオリンソナタの最高傑作の一つと言われるフランク:ヴァイオリン・ソナタ、グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第3番、イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番をお届け。
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《プログラム》
【日時】2021.2/20(土)14:oo~
【会場】東京オペラシティリサイタルホール
【曲目】①フランク『ソナタイ長調FWV8』
②グリーグ『ソナタ第3番ハ短調作品45』
③イザイ『無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調作品27「バラード」』
尚、当日配布されたプログラムでは、当初予定の演奏順に変更があり、①グリーグ、②イザイ、③フランクの順で演奏されました。
【ピアノ】山崎早登美
※略歴
東京芸術大学付属音楽高等学校、 東京芸術大を経て、同大学大学院音楽研究科修了。第5回北海道学生ショパンコンクール金賞。河合賞受賞。第41回全日本学生音楽コンクール東京大会中学校の部第2位。第9回宝塚ベガ音楽コンクールピアノ部門第3位。第15回大曲新人音楽祭グランプリ受賞。第67回日本音楽コンクール(毎日新聞・NHK共催)ピアノ部門入選。大学在学中、東京芸術大学管弦楽研究部と共演。その他、これまでに東京都交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、警視庁音楽隊、東京学芸大学オーケストラ等と協演。1997年東京文化会館新人推薦オーディションに合格し、新人演奏会に出演。1998年東京にてソロリサイタルを開催。1999年、芸大定期室内楽演奏会に出演(津田ホール)。2000年、東京芸術大学主催ショパン全曲演奏会に出演。ピアノを白石朋子、水田香、植田克己、クラウス・シルデの各氏に、室内楽を植田克己、岡山潔、田中千香士の各氏に師事。東京音楽大学 弦楽科講師(伴奏・室内楽)。
【演奏の模様】
グレー系の薄衣のラメ入りロングドレスを身に纏って登壇した万桜さんは、チラシの和やかな写真とは打って変わって、口をややへの字にし、キリッと引き締まった表情で弾き始めました。かなり緊張しているかな?と思った途端、非常に太いずっしりた重量感のある音が滔々と響き始め、杞憂であることが分かりました。神経を研ぎ澄まして弾いているのでしょう。12月に聴いた庄司さんも、演奏中は、決っして和やかな表情は見せなかったし、昨年、一昨年と聴いた竹澤恭子さんの演奏では、音を魂から捻り出しているといった苦しい表情で演奏していました。神尾さんは、割りと淡々とした表情でしたが。
①グリーグのヴァイオリンソナタは三つあります。1番、2番よりかなり(20年)も経ってから作曲されたこの3番が良く演奏されますが、生で聴いたのは初めてです。 メロディーやリズム・パターンなどは、ノルウェー民族音楽の影響力が感じられます。これは、当時グリーグはノルウェーの文化や民俗に強く傾倒していたためと考えられます。その直後から、他の作品でもノルウェー風の調べが多く入る様になるからです。グリーグは民族音楽や美しい北欧の自然の風景に対する愛着を一生抱き続けましたが、このソナタ全体は、伝統的なロマン主義時代の様式に従っています。
第1楽章(9分程度)
重々しい太い音が、まるで重戦車のチェロの様な勢いで広がり、中盤の重音奏法もしっかり、流麗なメロディが厳かに響きました。やや高音が弱いかな?
第2楽章(7分程度)
少し遅れて入るヴァイオリンの調べを予想させるピアノの、流れる様なメロディがイントロとして始まり、優雅なヴァイオリンの音に引き継がれ、続く馴染みのある特徴的なリズミムのピッツィカートの音との組み合わせは何回聴いても印象的です。最後はかなりの高音をズーと伸ばし消え入る様にして終了です。最後の最後、音がややふら付いた感じがしましたが、気のせいかもしれません。
この楽章の高音は、力のある奇麗な音となっていました。
第3楽章(7分程度)
前楽章にもあった北欧的調べが、ここでは明確に将に民族音楽だと思わせるピアノとの駆け引きの調べ、リズムが冒頭から流れました。ピッツィカートが多用され、力強い万桜さんの調べに変化を与えていました。最後の主題の演奏は将に堂々として良かった。 さらに高音がチューニングされ、わずかな雑味の波長音が無くなれば、もっと素晴らしい音になるでしょう。
②イザイはヴァイオリニストらしく、高度なテクニックを駆使するヴァイオリン曲を作り、無伴奏のソナタは全6曲から成っています。超絶技巧を要する曲が多く、難曲が故に演奏会に遡上される曲は少ない中で、この3番の「バラード」は単一楽章からなる比較的短い曲で、良く演奏される様です。6番の曲は昨年1月に荒井里桜さんが弾いたのを、同年8月には佐藤玲果さんという若手が弾いたのを聴いた事があります。超絶技巧曲だったと思います。
今回の演奏は、冒頭から重音演奏でゆったりとしたメロディが輻輳して流れ、最後まで技巧も素晴らしく欠点が見当たらないくらいいい演奏でした。
不気味な美しさのある曲、アクセントの掛け方も特徴ある奏法、この世のものと思えない風景、怪しげな静けさに満ちた蓮池に、煌めく粉雪が舞い降りている、と見る間もなく一陣の風が吹き荒れ、雪はいつの間にか舞い散る桜の花びらに変化、花吹雪に覆われた池の蕾の蓮花はまたたく間に大きく開いて池を埋め尽くした浮き葉の間から次々と茎をのばす。そしてそれに絡まるなんとも不気味な小動物や蝶たちがあちこちで蠢いているといったアンリ・ルソーの絵の如き幻想的風景を瞼に浮かべながら聴いていました。
《休憩》
万桜さんは、今度は桜の花を先取りする薄ピンク色の白いロングドレスに着替えて登場、短いトークで恥じらいぎみに挨拶するのも初々しい。
さて③のフランクのこのソナタは、当時のヴァイオリニスト、イザイに献呈された曲で、名曲の名をほしいままにし、多くのヴァイオリニストが好んで弾いています。
昨年だっか、一昨年だったか、レーピンのリサイタルで聴いた記憶があります。
都合四つの楽章の万桜さんの演奏は、これまた言うことが無いくらい、素晴らしいものの一言でした。
予定曲演奏後、アンコールがあり、シューベルト『アヴェ・マリア』でした。
総じて、今日の伊藤万桜さんの演奏は、予想以上のもので、今後の更なる向上と活躍が期待出来そうです。うえに上げた新井里桜さんや佐藤玲果さん、そのほか、これまで聴いた若手ヴァイオリニストである戸澤采紀さん、辻彩奈さん、新井章乃さん、寺内詩織さんなど、皆驚く程の演奏をします。日本のヴァイオリン演奏技術のルベルは高いですね。コロナ禍で演奏会がシュリンクしてしまったことは残念です。しかし「禍を転じて福となす」です。演奏家の皆さんは練習に励み、技術向上が出来る訳ですから、羨ましい限りです。いつの日かまたそうした磨きをかけた腕前を披露される日が必ずや来るでしょうから、その時はまたコンサートにせっせと足を運びましょう。楽しませて下さい。