【日時】2025.3.16. [日] 14:00~
【会場】東京都美術館 講堂
【出演】
◉ヴァイオリン:毛利文香
〈Profile〉
1994年4月20日 (年齢 30歳), 神奈川県 横浜市 上大岡西生まれ(29歳)
桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コース、洗足学園音楽大学アンサンブルアカデミー修了。慶應義塾大学文学部卒業。これまでに田尻かをり、水野佐知香、原田幸一郎、ミハエラ・マーティンらに師事。ドイツ・クロンベルクアカデミーを経て、ケルン音楽大学を最高点で修了。
2012年ソウル国際音楽コンクール優勝。2015年パガニーニ国際ヴァイオリンコンクール第2位、エリザベート王妃国際音楽コンクール第6位、2019年モントリオール国際音楽コンクール第3位、ホテルオークラ音楽賞ほか受賞多数。読売日本交響楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、ベルギー国立管弦楽団、クレメラータ・バルティカなど著名オーケストラと共演。現在はベルリンを拠点に音楽活動を繰り広げている。使用楽器は日本音楽財団より貸与の1717年製ストラディヴァリウス「サセルノ」。
◉ピアノ:小林海都
〈Profile〉
2021年9月にイギリスで行われたリーズ国際ピアノコンクールにて46年ぶりに日本人歴代最高位の第2位及びヤルタ・メニューイン賞(最優秀室内楽奏賞)を受賞。更に2024年第12回浜松国際ピアノコンクールに於いて第3位受賞。これまでにドイツのエトリンゲン国際青少年ピアノコンクールのプゴリーB(20歳以下の部)にて歴代最年少優勝及びハイドン賞、ポルトガルのサンタ・チェチーリア国際ピアノコンクールにて第3位、東京音楽コンクル第2位、松方ホール音楽賞などの受賞歴を持つ。高校在学中に日本で行われたマリア・ジョアン・ピリス氏のワークショップにおいて留学を強くめ勧められ、高校卒業後に渡欧。ベルギーのエリザベート王妃音楽院にてピリス氏に師事。同氏の若手育成プロジェクトの一員としてイタリア、モロッコ、日本でのコンサートツアーを行った他、ポルトガルのベルガイシュ村での収録にも携わった。またオーギュスタン・デュメイ氏とも共演を重ねなど、室内楽にも積極的に取り組んでいる。NHK交響楽団をはじめ国内のオーケストラ、さらには海外でもベルギー国立管弦楽団、バーゼル交響楽団、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団など多数のオーケストラと共演。2022年12月には、東京・紀尾井ホール、ロンドン・ウーグモアホールにて、本格的なリサイタルデビューを飾った。中学生よりヤマハマスタークラス特別コースに在籍し、上野学園高等学校音楽科演奏家コースを特待生として卒業。エリザベート王妃音楽院での2年間の在籍を経て、バーゼル音楽院にて、学士課程、修士課程演奏科、修士課程ソリストを修め、2023年卒業。同時に最優秀修士リサイタル演奏に贈られるBrambilla賞を受賞。
これまでにピアノをマリア・ジョアン・ピリス、湯口美和、故ヴェラ・ゴルノスタエヴァ、横山幸雄、田部京子、クラウディオ・マルティネス=メナーの各氏に師事。
2014年・2015年ロームミュージックファンデーション奨学生。江副記念リクルート財団第45・48回生。
【曲目】
①ストラヴィンスキー『イタリア組曲』
(曲について)
原曲は、1919年にストラヴィンスキーによって作曲された「ペルゴレージの音楽による一幕の歌とパントマイムを伴うバレエ」
という副題を持つバレエ組曲「プルチネラ」である。
バレエ・リュス(ロシア・バレエ団)の創設者ディアギレフによって依頼され、副題の通り、ナポリのオペラ作曲家であったペルゴレージ(1710~36)の音楽を基に書かれた。しかし今では、その音楽素材は全てペルゴレージの作品ではなかったことが判明。
この時期のストラヴィンスキーは「新古典主義」という古典派音楽の理念を探究していて、この「プルチネラ」もその理念に従い、小編成で古典的なスタイルを取りながら、ストラヴィンスキーらしい、近代的なリズムや和声、刺激的な色彩感あふれる独創性に満ちた作品に仕上がっている。
②ラヴェル『ヴァイオリン・ソナタ(遺作) 』
(曲について)
創作初期にあたる1897年に書かれた単一楽章の『ヴァイオリンソナタ 遺作』は、未出版のまま存在が知られていなかったのが、ラヴェルの生誕100周年にあたる1975年になって自筆譜が発見され、遺作のヴァイオリンソナタとして出版されたものである。この曲は単一楽章から成りラヴェンルがまだ若い時22(歳)の時の作品です。
③ラヴェル『ヴァイオリン・ソナタ ト長調』
(曲について)
遺作のソナタが発見されるまではラヴェルが作曲した唯一のヴァイオリンソナタとして知られてきた曲であり、こちらの方が有名な作品である。その第2楽章「ブルース」にはジャズの要素が取り入れられており、後の『左手のためのピアノ協奏曲』や『ピアノ協奏曲 ト長調 』の先駆けとも言える。また、全体を通して見られる声部の独立性や複調といった特徴は、並行して作曲されていた『マダガスカル島民の歌』の作風とも共通している。この作品はラヴェルの親友であるヴァイオリン奏者エレーヌ・ジュルダン=モランジュに献呈された。ラヴェルは生涯に8曲の室内楽作品を残しており、2曲のヴァイオリンソナタはその最初と最後に位置づけられる。なお、両曲の間には音楽的な関連性はなく、全く別の曲である。作曲された順に、前者を『ヴァイオリンソナタ第1番』、後者を『ヴァイオリンソナタ第2番』と呼ぶ場合もある。
【演奏の模様】
今年も「東京春さい」が始まりました。その一環としての、「ミュージアムコンサート」を聴きました。
①ストラヴィンスキー『イタリア組曲』
全六曲から構成されています。
I. Introduzione
II. Serenata
III. Tarantella
IV. Gavotte con due variazioni
V. Scherzino
VI. Minuetto e Finale
全体として古典的な趣向溢れる旋律美に満ちたメロディーを、毛利さんは時として静かに、時として力強いタッチで、重音奏も交えながら、緩急織り交ぜて滔々と演奏していました。またピアノの小林さんは、Vn.に良く合わせていてながら、自己主張もしっかりと表現、例えばⅠ.では弾む様な音を弱音で出したり、Ⅲでは、ダダダーダダダーとかなりの強打鍵で応じたり、がボットでは、グリッサンドをクリアに入れたり、終曲のメヌエットでは、かなり激しくVn.と掛け合いたり、強い打鍵でVn.と斉奏したりしていました。毛利さんの調べは、厚みがあって軽々しくない重厚な響きを有していて、低音域だとVa.の音に聞き紛うかも知れない等と思いながら聴いていました。
②ラヴェル『ヴァイオリン・ソナタ(遺作) 』
ラヴェルの若い時の作品らしく、単純性を残しているけれども、素朴さ故えの心に響く旋律で、海を思い浮かべるという人もいます。キラキラと美しいPfの伴奏の上に、うねりを伴うダイナミックなVn演奏は、何回も何回も押しては引き、引いては押し寄せる、波の動きを連想しました。時には不協和的な響きも。最後は高いハーモニックス音で静かに弾き取りました。Pf.の音は、ラベルの「亡き王女のパヴァーヌ」を思い起こす美しさがありました。
③ラヴェル『ヴァイオリン・ソナタ ト長調』
速いテンポでPf.が如何にもrヴェルらしい軽やかで洒脱な調べを先行すると(右手のみで弾いています)、次いで入った毛利さんのVn.からは、別調の同旋律が軽やかに繰り出されました。毛利さんはテーマの変奏を含めクネクネと弾き続け、高音の滔々とした旋律奏に至り、対する小林さんの伴奏は、相変わらポンポンポカポカと軽快な合の手を入れています。ズンズンズカズカ戸重い低音のパッセジの後はVn.は低音域を(この辺りもテーマの変奏ッポイ?)クネクネ奏で続けるのでした。時々入るPf.の冒頭の調べ、第1楽章終盤では低音域から高音域まで力奏する毛利さん、Pf.が時々ポンポンポンポコポコポンと異音の合いの手を入れていました。連綿と続くVn.の滔々たる調べ、ここまで毛利さんの演奏を聴いて、音楽性がいいと思いました。
第2楽章は、(曲について)にある様に、ジャズっぽい演奏が面白かった。冒頭から毛利さんはPizzicato.奏でギターの様な音を立て、暫くすると旋律奏に代わりました。小林さんのPf.はポツポツポツと伴奏している。Vn.の旋律には、既にジャズっぽいうねりが入った演奏、突然弓を滑らす様な弓法やその後のPizzi奏や人指しゆびで弦をはじく等様々なVn.の奏法を繰り出してブルースを歌うジャズ歌手の雰囲気を連想させていました。
最終楽章、Pf.の短い発音、対するVn.も数音弾いて応じ、両者は次第にテンポを速めてすぐに猛スピード化、熊ん蜂の様な猛烈な動きのVn.奏で突進、Pf.もよくVn.の動きにピッタリ寄り添って伴奏、クリッサンドも入った合の手を入れていました。最後まで毛利さんは、スピード運転の手を緩めず、最後は両者による狂騒とも言える激しい演奏で締め括られました。この辺りもジャズっぽさの感じを受けました。
全楽章を聴くとこの曲は、(当然ながら)②の遺作とは全く違っていて、ラヴェルの進歩というか変貌の後が見て取れる、そして一般的なその他のラヴェルの力強い曲と齟齬の無い、如何にもラヴェルらしさ芬々の曲でした。二人の演奏は見事にそれらを表現出来ていたと思います。
又今日の演奏全体的に言えることは、毛利さんのVn.の音は、どちらかというと重い沈んだズッシリ感の強いネ色で、低音域はVa.やVc.を連想せるこの上無い太い音でした。一方高音は太目だけれどズッシリ感から解き離された飛翔感の強いいい音を立てていました。資料を見ると貸与された「ストバリ」を使っている様ですが、今後さらに使いこなせば、まだまだいい音が出るものと確信しました。更なる精進と発展を期待したいです。
演奏が終わって会場からは大きな拍手が鳴り、アンコール演奏が有りました。
《アンコール曲》
ドビュッシー作ハイフェッツ編『美しい夕暮れ』
短いけれど日が沈む様子を連想させるしっとりした曲でした。
3月17日(月)は彼岸の入りの日、「暑さ寒さ云々」という格言は当てはまらなくなってきている昨今ですが、前日の寒い雨も上がり、横浜は夕方は晴れていました。駅からの帰路の道、西の方を仰ぎ見れば富士山と大山がかなりはっきりと見え、両峰のくぼみには太陽が将に沈もうとしていました。
空には「むらさきだちたるくものたなびきたる」でした。
火曜日はいい天気になりそう。