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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

東京・春・音楽祭2024『ルドルフ・ブッフビンダー』べートーヴェンを弾く(第4夜)

【日時】2024.3.19. [火] 19:00〜

【会場】東京文化会館 小ホール

【出演】ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー

【曲目】
①ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第6番 へ長調 Op.10-2 』

(曲について)

 3曲からなる作品10のピアノソナタのうち第2曲にあたる。確実な作曲年代の同定には至っていないものの、グスタフ・ノッテボームはスケッチの研究から1796年から1798年の夏季に至る期間に全曲が書き上げられたと推定している。出版は1798年9月にウィーンのエーダーから行われ、ブロウネ伯爵夫人アンナ・マルガレーテへと献呈されている。ブロウネ伯爵夫妻は早くからベートーヴェンの庇護者であり、伯爵には作品9の弦楽三重奏曲やピアノソナタ第11番、夫人にも作品10以外にいくつかの楽曲が献呈されている。

 ひとまとめとして出版された作品10の3曲であるが、内容的にはそれぞれが際立った特徴を有している。本作は軽快な調子で書かれており、形式的には4楽章のソナタから緩徐楽章を除いた3つの楽章によって構成される。緩徐楽章の省略はベートーヴェンの作品では珍しいことではなく、これ以降も研究されて後年の傑作の誕生へと繋がっていく。本作が内に秘める豊かなユーモアの由来には作曲者が教えを仰いだフランツ・ヨーゼフ・ハイドンの存在が指摘される。師の影響に加えて十全に発揮されたベートーヴェン自身の個性もこのピアノソナタに顕れている。

 曲想は対照的で、明るさと軽やかさに満ちている。このような対比は、交響曲第5番《運命》と第6番《田園》など、のちの交響曲でも同じ傾向が見られる。しかも同じ調性の組み合わせ(ハ短調とヘ長調)というのが興味深い。3連符と16分音符が入り乱れていたり、主調がヘ長調なのにもかかわらず再現部でニ長調が突然現れ、♭系から♯系に変わるなど、変化に富んでいるのも特徴である。


②べートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第24番 嬰ヘ長調 Op.78<テレーゼ>』

(曲について)

 ルドルフ大公の目録によれば、この作品の写譜が大公の元に届けられたのは1809年10月であった。当時は旺盛な創作活動を続けていたベートーヴェンであるが、ピアノソナタの分野では前作『熱情ソナタ』以来既に4年が経過していた。1809年のナポレオン軍の侵攻はルドルフ大公がウィーンを離れるという事態を招き、この出来事に絡んで作曲された『告別ソナタ』によってベートーヴェンはこのジャンルに舞い戻る。そうした中、同時期に書かれたより規模の小さい本作が先に完成されて世に出されることとなった。

 楽譜は1810年9月にブライトコプフ・ウント・ヘルテルから出版され、伯爵令嬢テレーゼ・フォン・ブルンスヴィックに捧げられた。そのため本作は『テレーゼ』と通称されることもある。ベートーヴェンはブルンスヴィック家と親密な関係であり、ピアノの教え子でもあったテレーゼから贈られた彼女の肖像画を生涯大切にしていた。なお、彼女は『エリーゼのために』の「エリーゼ」の正体として有力視されているテレーゼ・マルファッティとは別人である。アントン・シンドラーによれば、作曲者自身はこの作品に強い愛着を抱いていたという。

 全2楽章と規模が小さく、歌謡性も強く、前作とは対照的な様相を呈している。これはベートーヴェンがそれまで徹底して用いていた、主題を動機的に分解して展開する「動機展開」を封印し、新しい手法として1809年から旋律性豊かな主題を積極的に使用するようになったことが関連している。


③べートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第16番ト長調 Op.31-1 』

(曲について)

 作品31の3曲のピアノソナタ(第16番、第17番、第18番)は1801年に作曲が開始されると、翌1802年に入ってまもなく完成に至ったものとみられている。同年4月22日には作曲者の弟であるカスパールが、楽譜出版社のブライトコプフ・ウント・ヘルテル社と本作の出版に関わるやり取りを開始したことがわかっている。しかしながら、最初の出版はハンス・ゲオルク・ネーゲリの『クラヴサン奏者演奏曲集』に第17番と対にして収められる形で行われた。この際、第1楽章に対しベートーヴェンの意図しない4小節の改変が行われており、これを正す「厳密な改訂版」が1803年にジムロック社より出された。この時点ではまだ本作は第17番と組になっていたが、最終的にカッピが1805年に作品29として出版した版から現在の作品31がひとまとめとなる。

 ベートーヴェンは1802年に衰え続ける聴力を苦にハイリゲンシュタットの遺書を書いている一方、同時期にヴァイオリニストのヴェンゼル・クルンプホルツに対して「私は今までの作品に満足していない。今後は新しい道を進むつもりだ」と述べたとカール・チェルニーが伝えている。そうした失意と決意の中で作曲されたこのソナタは、古典的なたたずまいの中に明るい楽想がまとめられたものとなった。

 この曲は冒頭のアウフタクトからの音階、シンコペーションや付点の多さなど、リズムの面白さを活かした曲である。主調はト長調だが、ヘ長調やロ長調など遠隔調への転調など、響きにも新鮮さが散りばめられている。

 


④ピアノ・ソナタ『 第29番 変ロ長調 op106《ハンマークラヴィア》』

(曲について)

 第28番のピアノソナタを書き上げてからのベートーヴェンは、甥カールの親権争いなど音楽以外のトラブルに頭を悩ませることが多くなっていた。しかし、創作活動が一見停滞したかのように見えたこの時期にも音楽への情熱は作曲者の内で結晶化を続け、このソナタや続く『ミサ・ソレムニス』や交響曲第9番として開花していくのである。

 この楽曲の作曲に取り掛かったのは1817年11月のことで、翌1818年初頭に第2楽章までが仕上がり、夏季を過ごしたメートリンクで後半楽章もおおよそ形になっていたものと思われる。1819年3月までには浄書を含めて完成しており、同年9月に出版されてルドルフ大公に献呈された。

この曲が『ハンマークラヴィーア』と通称されるのは、ベートーヴェンがシュタイナー社へ宛てた手紙の中で作品101以降のピアノソナタに「ピアノフォルテ」に代わりドイツ語表記で「ハンマークラヴィーアのための大ソナタ」(Große Sonate für das Hammerklavier)と記すように指定したことに由来する。ところがその後、この曲だけが『ハンマークラヴィーア』と呼びならわされるようになった。ベートーヴェン自身が「50年も経てば、人も弾くだろう」という言葉を残したほどに演奏至難な作品。当時普及していたピアノではカバーしきれない音域も使われていることから、ピアノの進化と手を携えるように創作を行なっていたベートーヴェンが、先の時代を見据えてこの曲を生み出したことが推察される。全楽章に共通するモティーフが用いられ、もっとも大きな規模の最終楽章へ向かっていく形は、後期ベートーヴェンの顕著な特徴だが、この曲ではそれがより緊密かつ有機的なものとなっている。本作はやがて、ロマン派以降では珍しくなくなる〝単一楽章〟のピアノ・ソナタの嚆矢となった。なお、この曲の自筆譜は散逸してしまっている。

 

【演奏の模樣】

 今回の演奏曲目は、好きな曲達とまだ自分の中で好きとまでは咀嚼出来ていないですが、誰が聴いたって大曲の匂い芬々の「ハンマー・クラヴィ-ル」が含まれている選曲なので、聴きに行きました。今回も満席の様です。

①ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第6番』

 定刻になり満員の会場は固唾を飲んで奏者の登場を見守っていま。定刻になって登壇したピアニストはややお疲れの表情でした。それもそうでしょう。幾ら自分の得意の分野であっても、喜寿のピアニストが、前日まで連日二時間のリサイタルを慣れない東洋の異国で、連続三夜こなしている訳ですから、いくら同曲の連続演奏を何回も録音しているとはいえ、録音作業とは比べ物にならない位のストレスと疲労が溜って当然です。その辺の超人的演奏を観るのも興味の一つでした。

全三楽章構成。

第1楽章Allegro 2/4拍子 ヘ長調

第2楽章Allegretto 3/4拍子 ヘ短調

第3楽章Presto 2/4拍子 ヘ長調 

 この曲も初期の傑作と言えるでしょう。冒頭から伸び盛りの作曲家ベートーヴェンの面目躍如の明快な旋律が登場畳み掛ける様に進行しました。こんな素晴らしく美しい新鮮味のある曲を献呈されたブロウネ伯爵夫人はいかばかりか喜んだことでしょう。恐らく夫人でも弾けた可能性が有るのでは?ブッフビンダーは、最初から最後までひとりでに指が動くと言った風に速めのテンポで一気に弾き切りました。

 ドナルド・フランシス・トーヴィーという19世紀末から20世紀前半に活躍した英国の作曲家でピアニストは、この楽章を演奏するに当たっては決して急ぎ込まないようにと注意を促している。

 でもそんな事には無頓着に小気味よい程の快走でブッフビンダーはテープを切ったのでした。

 

②べートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第24番  』

全二楽章構成

第1楽章 Adagio cantabile 2/4拍子 Allegro, ma non troppo 4/4拍子 嬰ヘ長調
ソナタ形式。 

第2楽章Allegro vivace 2/4拍子 嬰ヘ長調

 32個のソナタ作品の中で二楽章構成の曲は、19. 20. 21. 22. 24. 27. 30. 32.などで、全体の1/4を占めます。特に中・後期に目立ちます。理由は様々なのでしょうが、10分足らずの曲から「ワルトシュタイン」の様に27分のものまで有ります。ここで選曲された24番のソナタは、上記(曲について)にある様に、伯爵令嬢テレーゼ・フォン・ブルンスヴィックに献じられたといいます。この曲も一の様に美しい女性好みの曲かも知れません。 令嬢にはベートーヴェンがピアノを教えていたのでしたっけ?いやそうでないかも知れない。何れにせよ煌めく星の様にキラキラと煌めく旋律はロマンティックな夢心地になってしまう調べです。ブッフビンダーはこの曲もかなりのテンポで弾き通しました、と言うか勝手に指が動いてしまう感じ。5歳から今まで70余年の間、それこそ何百回いや何千回弾いたかも知れない曲なのでしょう。第二楽章のジャーンジャジャーンジャ、ジャチャチャチャといった風なシンコペーション的旋律も面白いですね。

 

③べートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第16番 』

全三楽章構成

第1楽章Allegro vivace 2/4拍子 ト長調

第2楽章Adagio grazioso 9/8拍子 ハ長調

第3楽章Rondo, Allegretto 2/2拍子 ト長調

 この頃ベートーヴェンはかなり耳が聞こえなくなってきた様ですが、その頃のこの曲にはそうした困難性は微塵も感じられない素晴らしい曲となっていますね。音階やリズムの面白さは、②にも増しています。速いテンポを自由闊達な指使いで鍵盤上を縦横無尽に行き来し、勢いを感じるブッフビンダーの演奏でした。

 

 

《20分の休憩》

 

④べートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第29番〈ハンマークラヴィーア〉』

 この曲を実演で聴くのは、何年振りでしょう? 2018年にキーシンが来日公演した時には当初のプログラムに入っていましたが、横浜みなとみらいホールでの公演直前に、曲目変更になってしまい、この曲は聴くことが出来ませんでした。その後録音では何回も聴きましたが、どうも最後の3つのソナタとも異なる、非常に独特の印象が強くて、何回か予定曲目に入れる国内ピアニストのリサイタル予告も目にしましたが、聴きに行く気にはなりませんでした。今回、あのモンスターの様な曲を、ウィーン楽壇のヴィルトゥオ-ソがどの様な曲に表現して呉れるのか一番の関心事でした。

 ブッフビンダーは2010年の来日時にこの曲を日本では初めて弾きましたが、その直前のインタヴューで次の様に述べています。

❝「ハンマークラヴィーア」は「ディアベッリ変奏曲」と並んでベートーヴェンがピアノを通して自分の世界観を語った巨大な記念碑というだけではなく、ピアニストに対して途方もない精神力と体力を要求する特別なモンスター作品です。「ディアベッリ」はすでに日本で弾いているので、今回「ハンマークラヴィーア」が実現できてうれしいです。この曲をちょうどワルシャワやミュンヘンで弾いている時期でもあるので、タイミング的にも良いですね。年齢と体力に関しては、私はこの先もずっと「ハマークラヴィーア」を弾き続ける自信があります。独自の練習メトードを練り上げたので。いま1日の練習時間は2時間程度で、他の時間は読書とか、趣味に当てるようにすることで肉体的にも精神的にも余裕が出てきます。6時間とか8時間とかいう長時間練習しても、頭が付いて行きません。指だって腱鞘炎とか、背中が曲がるとか、ロクなことはありません。頭がカラッポで指だけ動かしているのは、まったくナンセンス。だから私は2時間集中して十分必要な練習は済ませます。そのかわり本番に匹敵するぐらいの集中力でやりますから、30分ほどでヘトヘトになります。小休止を途中に取りながら先を続けます❞ 

2010年から14年経った今日、上記のブッフビンダー哲学がこんにちの驚異的演奏を支えているのでしょう。

全四楽章構成、40分近い大曲です。

第1楽章 Allegro 2/2拍子変ロ長調ソナタ形式

第2楽章 Assaivivace 3/4拍子 変ロ長調 三部形式

第3楽章 Adagio sostenuto 6/8拍子 嬰ヘ短調 ソナタ形式

第4楽章[ Largo 4/4拍子 – Allegro risoluto 3/4拍子 変ロ長調

 

 正直言ってこの曲は自分の中で好きとか嫌いとか言えるだけの段階では有りません。十分咀嚼が出来ていない。登壇して挨拶もそこそこにピアノに向かったピアニストは、第一楽章を力一杯の強打健 ⇒静寂⇒強打健の繰り返しでスタート、前半的には相当な力奏で、時々割り込む緩やかで穏やかなパッセッジで力は抜いても強さは感じられる殆どは繰り返しのモザイクを組み立てているが如きの旋律移行は、ベートーヴェンの意図が何を表現したいのか分からない、その分からなさが不気味さをも感じさせる一因かも知れません。しかもブッフビンダーは①から引きずる速や目のテンポはやや弾き急ぎの感も有りました。

 二楽章冒頭ではタッタターラ、タッタターラ、タッタターラ、タッタターラと速い付点リズムが繰り返され、その後中間部を挟み再度同様なテンポで終える短い楽章でした。一楽章の魔物の胸騒ぎの様な不気味さは影を潜め、リズムと和声移行の遊びの様な印象。後半はターンタターンタ、ターンタターンタとリズム(勿論旋律も)変わり、どういう訳か上行スケールも入って、再度最初のリズムに戻りました。尤もここはScherzo的存在ですからさも有りなんと思いました。ブッフビンダーは一楽章の強打、力演に比し、この楽章からは(次楽章も含め)美しい旋律の流れを優しいタッチで(勿論途中には強い指使いも差し挟まれましたが)弾くのが目立ちました。何か最後の3つのソナタを彷彿と予想させる様な雰囲気も感じられた。

 アタッカ的にすぐに進んだ第三楽章、うって変わって緩やかな静かで優美な旋律が、ブッフビンダーの指間からほとばしり出ました。ベートーヴェンは何かを回顧的に追憶でもしていたのでしょうか?一種映画音楽にでも使えそうな美しい旋律でした。特に高音部が美しかった。ブッフビンダーは一音一音淡々と弾いていましたが、その一打一打には力が籠っていました。心を込めて弾いている感じ。ピアノが十二分に謳っていました。この楽章は、この長い時間のソナタの中でも一番長大な楽章で20分程もかかったでしょうか(測ってはいませんが)。この麗しい楽章と直前の短いスケルツォの楽章、それからこれらと落差の大きい最初のあの暗夜行路の様な手探りで進む不安な楽章、これ等をどの様に統一的に纏まりを付け納得いく一塊の曲と理解するのかそれこそ暗中模索です。

 最終楽章は前半がLargo、そして主だった部分がAllegro risolutoとなっていますが、最初からかなり速いパッセッジが差し挟まれて進行し、全体的に把握すると、奏者の速い指使いが目立った楽章でした。スローな箇所は最終部のフーガ進行の始まりでしょう。特にフーガ的調べは相当な強打の力演で、第一楽章に対抗する明るいアンチテーゼとも考えられました。ブッフビンダーは結構長い(十数分かかったでしょうか?)フーガの様々な進行形を、疲れも見せない鋭い切れの良い発(出)音で難なく軽々と弾き切りました。

 弾き終わって一息於いてすぐに会場からは大きな拍手と声援が沸き起こり、ブッフビンダーも満足そうな表情でゆっくりと袖に消えました。

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 何回か袖と舞台を往復したブッフビンダーは、いつもの様に、声を上げて、最後に、❝ナンバー3のソナタを弾きます❞と言ってピアノに向かいました。

《アンコール曲 》

ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第3番 ハ長調 op.2-3 』より 第4楽章 Allegro assai

でした。再度大きな拍手・声援。