【日時】2023年3月2日(木)18:00~
【会場】東京オペラシティ・コンサートホール
【出演】
①石川健人(作曲)②松原みなみ(Sop.)③清水 伶(Fl.)④榎 かぐや(Ob.)⑤渡邊紗蘭(Vn.)⑥.⑦小嶋早恵/坂口由侑(Pf.)
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指揮】演奏部門:角田鋼亮(Cond.)、作曲部門:板倉康明(Cond.)
【曲目】
①石川健人:Beyond the Melting Pot II for Orchestra
②マーラー:「子供の魔法の角笛」より「天上の生活」
③尾高尚忠:フルート小協奏曲 op.30a
④フランセ:花時計
⑤ヴィエニャフスキ:ヴァイオリン協奏曲第2番ニ短調 op.22より 第1、3楽章
⑥プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番ハ長調 op.26より 第2、3楽章
⑦リスト:ピアノ協奏曲第1番変ホ長調 S.124/R.455
【演奏の模様】
①石川健人:Beyond the Melting Pot II for Orchestra
最初何かの管楽器が短く鳴らされ、それがPiccとCl.に引き継がれ、Vn.のトレモロのアンサンブルに絡み合っています。打楽器(Timp.?)のドンドンドンという音に弱いTamb.の音がかすかに混じっています。さらにフワーッという管の響きが広がる、弱音器を付けたTrmb.ですね。ここまでほとんど管楽器の響きが優勢で、弦楽は僅か、何か情景音楽的雰囲気。その後弦楽アンサンブルも息を吹き替えし管弦を牽引する箇所も有りましたが、全体的には管・打を多用した作品と言えるでしょう。これだけ作曲するのは大変なことかも知れませんが、聴いていて素晴らしい、成程と言った共感は湧い
②マーラー:「子供の魔法の角笛」より「天上の生活」
はっきり言って選曲に問題があったのだと思います。コンクールの本選で何を歌ったかは存じませんが、歌曲部門の1位ですから、マーラーの歌を、オケを背景に歌うにはやや役不足の感がします。少なくともオラトリオ歌手の素養とか、例えば第九のソリストを務める訓練とかがないと、せっかくいい声で歌っても、オケの音に埋もれて殆ど聞こえない、という事は自分の良い所を聴衆に分かってもらえないことを意味します。今後の精進・発展を期待します。
③尾高尚忠:フルート小協奏曲 op.30a
管楽器と打楽器奏者は退場しました。3楽章構成のフルート曲です。
第1楽章 イ長調 Allegro con spirito
第2楽章 ニ短調 Lento‐Allegretto
第3楽章 イ短調 Molto vivace
最初の楽章では指は良く動き、くねくねくねといった速い旋律を上手そうに噴出していますが、何か冴え冴え感がない。速いパッセッジでタンギング無しのせいか、息が100%管を振動させるに不足しているためのか、いい演奏とは思われません。暫くこの状態でした。これが長く続くとしたら1位とは言えないですね。
2楽章になるとHp.のポロンポロンという音がFl.を誘い、ここでは流石に奏者とFl.が馴染んで来たのか、ゆっくりした旋律を十分に楽器を共鳴させて鳴らしていました。Hp,の響きはFl.と相性がいいですね。伸びやかな音は窮屈感が無くなりFl.の響きと弦楽アンサンブルとのマッチングが良くなって来ました。Cb.の弓で弦を叩く様なpizzicatoが 面白い。
最終楽章は速いテンポでしたが、1楽章と比べて見違える様な演奏。音が粒よりになり、切れ味が良く低音も魅力的なフル-トの響きを繰り出していました。尻上がりに調子が良くなって来て最後は1位の面目を保った様です。
④フランセ:花時計(Ob.)
大変安定した演奏でした。最初低く太い穏やかな音で吹き始め、弦楽アンサンブルはたびたびpizzicatoで伴奏、Ob.の速いソロ部分ではCl.が合の手を入れ、リズミカルなOb.旋律でもCb.他の弦のpizzicatoが効いていました。でも同じ範疇を繰り返している感じ、ほとんどOb.の中・低音域での演奏、高音のOb.の音が聞きたい気がしました。そしたらやっと最終楽章で初めてピーピーと高い音が認識されました。でも短いパッセッジ、全体的にOb.の特徴が余り発揮されない地味な曲だと思いました。でも奏者は良く吹き慣れた曲の様子で、首を左右に振りながら楽しそうに演奏しているのも良かった。女性奏者でした。女性オーボエ奏者と言えば、昨年10月に来日したラトル・ロンドン響で、R.シュトラウスのオーボエ協奏曲を吹いたユリアナ・コッホさんの事を思い出します。彼嬢は演奏している時、楽器の切っ先を左右上下に動かしながら吹いていました。その時は旋律に没頭して拍子を取りながら吹いているのかなと思っていたのですが、後で考えるとあれは小さな楽器の音をオケの音に埋もれさせないため、広いホールに行き渡たらせるためだったのかなと思いました。
⑤ヴィエニャフスキ:ヴァイオリン協奏曲第2番ニ短調 op.22より 第1、3楽章
オケのダイナミックな調べで開始、弾き出したVn.のやや高音の調べは、少し金属音が気になりました。技術は素晴らしいのですが、「目出度さも中くらいかな、音の張る」。迫力もあり高度な技術を駆使していく演奏でしたが、粗削りの感がして、未完の大器の様相。高音画鳴り響いても、気持ちをキュッと掴む様な、惹きつける処は余り感じません。音が研ぎ澄まされていない。重奏演奏の難しそうな音も、速いテンポで弦城を弓が滑り落ちる様な下行音も、弓を弦上で弾みマセル様な演奏でも、難なく音を繰り出していました。その後の楽章での猛スピードのテンポの箇所でも、荒々しさは感じるのですが繊細さは不足かな?速い舞曲的旋律の箇所では発散する音の広がりが無かった。Fl.が合の手を入れた超特急の速い演奏や終盤のリズミカルな表現は、力強くも有りとてもいいと思いました。矢張りこれから益々伸びる奏者ですね。
ここまで、自分も含め熱狂的拍手が沸き起こる演奏は無かったのですが、二回目(ピアノなど舞台設営の為)の休憩後のピアノ演奏はこの日の圧巻演奏でした。
⑥プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番ハ長調 op.26より 第2、3楽章
この曲はあちこちのコンクールで本選指定選択曲に入っていることがあります。それだけ難易度が高い曲です。奏者の小島さん(女性)が本選で弾いたのかどうかは(聴きに行ってないので)分かりませんが、今回の演奏を聴いた限りでは細部に渡って見事な繊細さも豪胆さも金揃えた演奏で、流石1位にランクされたピアニストだと思いました。詳細は省略しますが、指間隔を比較的大きく広げて鍵盤上に添え、しなやかな運指でもって、弱音も強打鍵もスムーズに発音、しっかりとした調べを繰り出していました。例えば、第三楽章のクリッサンドから左右の跳躍和音や中音域から高音域での腕をクロスさせる跳躍音など軽快さも有り良かったのですが残念ながらその後のオケの全開全奏になるとピアノの音はかき消されてしまっていた。鍵盤が見える座席の自分の位置で聞こえないのですから舞台遠くの座席には聞こえないでしょう。二楽章の最後の方でも同じことがありました。でも流石1位の奏者(この時の1位は二人だったのでしょうか)女性奏者としては力強い迫力十分の演奏でしたプロコフィエフの最後は一発終了。スッキリ感があります。
⑦リスト:ピアノ協奏曲第1番変ホ長調 S.124/R.455
男性奏者の坂口さん、これは文句なしの大力演でした。リストのジャーンジャジャッジャジャジャジャジャーンと低音部で下行するテーマを度々オケのみならずPf.も様々に繰り返し、激しい速いパッセッジと、緩やかな穏やかな旋律、時にはショパンを思わす様な旋律を交互に表出させる二刀流リストの超絶技巧曲をミス一つなく全く完全に力強く弾きこなした音大3年生の力量には脱帽です。今後の活躍がとても楽しみです。
この「日本音楽コンクール」は長い歴史を刻んで来ましたが、これとは別に「東京音楽コンクール」が歴史は浅いものの年々力をつけて来て、最近多くの素晴らしい演奏家を発掘・送り出していることは自明の事実です。両コンクールとも高位受賞者には賞金が出るのですね。賞金の大きさに限らず、その後の演奏家として独り立ちするための援助や売り込み、推薦の程度も社会的評価の要因となるでしょうから、今後の推移に注視して行きたいと思います。