HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

オペラ/R.シュトラウス『サロメ』初日

【演目】オペラ(演奏会形式)R.シュトラウス『サロメ』

<演目について>

サロメ』(ドイツ語Salome)作品54は、リヒャルト・シュトラウス1903年から1905年にかけて作曲した1幕のオペラ(元々の記述はオペラではなく、「1幕の劇 Drama in einem Aufzuge」であるが、ドイツオペラはむしろオペラと明記してある作品の方が少数でもあり、通常は一括してオペラと呼ばれる)。台本はオスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」をもとに、ヘートヴィヒ・ラハマン英語版が独訳したもの。サロメの物語はもともと『新約聖書』の挿話であるが、オスカー・ワイルドの戯曲になる頃には預言者の生首に少女が接吻するという世紀末芸術に変容している。シュトラウスが交響詩の作曲を通じて培った極彩色の管弦楽法により、濃厚な官能的表現が繰り広げられる。

シュトラウスは最初、アントン・リントナーの台本による作曲を考えていたが、原文をそのまま用いる方が良い

と判断し、原作の独訳を台本としている(原文の台詞を削除している箇所もある)。

前奏なしの4場構成となっていて、第4場の「サロメの踊り(7つのヴェールの踊り)」が著名で単独の演奏や録音も存在する。ただし、劇の流れからするとこの部分はやや浮いており、前後の緊張感あふれる音楽・歌唱を弛緩させているという評価(例えばアルマ・マーラーによる批判など)も少なからず存在する。この「欠陥」は次作の『エレクトラ』でほぼ克服されている。

さほど長い作品ではないが、表題役サロメは他の出演者に比べて比重がかなり大きく、ほとんど舞台上に居続けで歌うこととなる。また少女らしい初々しさと狂気じみた淫蕩さ、可憐なか細い声と強靭で大きな声といった、両立困難な演技表現が求められる。さらに前述した第4場の「サロメの踊り」の場面では、長いソロダンスを踊らなければならない(ただし、この踊りには代理のダンサーが立てられることもある)。これらのことから、サロメの表題役はドイツ・オペラきっての難役とも言われる。

【日時】2022.11.18.(金)19:00~

【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール

【出演】

〇ディアの小姓 杉山由紀 (メゾソプラノ)

 

〇兵士1 大川博*(バリトン)

〇兵士2 狩野賢一 (バス)

 

〇ナザレ人1 大川博 (バリトン)

 

〇ナザレ人2 岸浪愛学 (テノール)

 

〇カッパドキア人 髙田智士 (バリトン)

 

〇ユダヤ人1 升島唯博 (テノール)

 

〇ユダヤ人2 吉田連 (テノール)

 

〇ユダヤ人3 高柳圭 (テノール)

 

〇ユダヤ人4 新津耕平*(テノール)

 

〇ユダヤ人5 松井永太郎 (バスバリトン)

 

〇奴隷 渡邊仁美 (ソプラノ)

 

〇演出監修:
サー・トーマス・アレン

*印=当初発表の出演者から上記のとおり変更になりました。

【管弦楽】東京交響楽団

 【指揮】ジョナサン・ノット  

 

【概要】

 原作の独訳を台本としている(原文の台詞を削除している箇所もある)。

前奏なしの4場構成となっていて、第4場の「サロメの踊り(7つのヴェールの踊り)」が著名で単独の演奏や録音も存在する。ただし、劇の流れからするとこの部分はやや浮いており、前後の緊張感あふれる音楽・歌唱を弛緩させているという評価(例えばアルマ・マーラーによる批判など)も少なからず存在する。この「欠陥」は次作の『エレクトラ』でほぼ克服されている。

さほど長い作品ではないが、表題役サロメは他の出演者に比べて比重がかなり大きく、ほとんど舞台上に居続けで歌うこととなる。また少女らしい初々しさと狂気じみた淫蕩さ、可憐なか細い声と強靭で大きな声といった、両立困難な演技表現が求められる。さらに前述した第4場の「サロメの踊り」の場面では、長いソロダンスを踊らなければならない(ただし、この踊りには代理のダンサーが立てられることもある)。これらのことから、サロメの表題役はドイツ・オペラきっての難役とも言われる。

【粗筋】

紀元30年ごろ、ガリラヤ湖に面したヘロデの宮殿の大テラス。シリア人の衛兵隊長ナラボートは、宮殿で開かれている宴を覗き見し、サロメの美しさに心を奪われるものの、ナラボートをひそかに慕うヘロディアス小姓にたしなめられる。そこへ救世主の到来を告げる重々しい声。兵士たちによればそれは地下の空の古井戸に幽閉されている預言者ヨカナーンの声だとのこと。

そこへサロメが現れる。彼女は義父であるヘロデが自分に投げかける、情欲むき出しの視線に耐えかね、宴席を抜け出してきたのだったが、聞こえてくる声に興味を示し、ナラボートが自分に好意を抱いていることにつけこんで、ヨカナーンをここへ連れて来いという。兵士たちはヨカナーンに接触することを禁じられていたため、はじめはそれに応じないが、サロメはナラボートに媚を売り、古井戸から連れ出させる。現れたヨカナーンに圧倒されるサロメ。ヨカナーンは彼女には見向きもせず、サロメの母ヘロディアスの淫行を非難するが、サロメはなおも彼に近付こうとする。憧れのサロメの、あまりに軽薄な態度に落胆したナラボートは自決を遂げてしまう。ヨカナーンはサロメをたしなめつつ自ら古井戸に戻る。

やがてサロメを探してヘロデがヘロディアスや家臣たちとともに姿を現す。彼らはナラボートの死体から流れ出た血で足を滑らせたため、ヘロデはナラボートが自決したことを知る。不気味な前兆におびえながらも、ヘロデはサロメを自分の側に呼び寄せ、関心を惹くべく酒や果物を勧めるが、サロメはまったく興味を示さず、ヘロディアスも娘を王に近づけまいとする。

そこへヘロデ夫妻の行状を非難するヨカナーンの声。ヘロディアスは激怒し、彼を黙らせるか、ユダヤ人たちに引き渡してしまえ、と叫び、ユダヤ人とナザレ人たちは言い争いを始める。ヨカナーンの声はなおも響いてくるので、心を乱されたヘロデは気分直しにサロメに舞を所望する。サロメははじめはそれに応じようとしないが、ヘロデが褒美は何でもほしいものを与える、と持ちかけたため、サロメは裸身に7枚の薄いヴェールを身につけて踊り始める。官能的な舞が進むにつれ、ヴェールを一枚ずつ脱ぎ捨ててゆくサロメ。ヘロデは強く興奮し、やがて舞を終えたサロメに何が欲しいかと尋ねる。

サロメの答えは銀の大皿に載せたヨカナーンの生首。さすがに狼狽したヘロデは代わりのものとして宝石や白いクジャク、果ては自分の所領の半分ではどうか、と提案するものの、サロメは頑として合意しない。ヘロデはとうとう根負けし、ヘロディアスが彼の指から死の指輪を抜き取って首切り役人に渡す。役人は古井戸の中へ入ってゆき、サロメはその近くで耳を澄ましている。不気味な静寂だけが続き、サロメが苛立ちを募らせていると、騒々しい大音響が響き、首切り役人が銀の大皿に乗せたヨカナーンの生首を持って現れる。サロメは狂喜してそれを掴むと、お前は私にくちづけさせてはくれなかった、だから今こうして私が、と長いモノローグを歌った後、恍惚としてヨカナーンの生首にくちづけする。そのさまに慄然としたヘロデはサロメを殺せと兵士たちに命じ、サロメは彼らの楯に押しつぶされて死ぬ。

【上演の模様】

カラヤンは、「サロメという女は20歳になっていない。従って、若くて細身の魅力ある歌手がいて初めて成立するオぺラなのだ」と語ったそうです。

 今回のサロメ役は今年で41歳になるアスミク・グリゴリアン、若手と言ってもかなりの舞台経験のある歌手の模様。確かに細身ですが、歌唱力は相当高いものが有りました。しかし初めから3/4くらいまでは声量が惚れ惚れする程のものではなかった。最後近くなってから(4場)、首を所望して手に入れ、

「Ah! Du wolltest mich nicht deinen Mund küssen lassen (私に口づけさせようとはしなかった、ヨカナーン)

と叫ぶように歌う狂気のサロメの歌唱は、絶叫調ですが、オケにも負けず会場に鋭い声が響き渡りました。

ヘロデ王は、「踊りを見せて呉れたので、何でも所望のものは与える。何が欲しい」とサロメに約束したのですが、サロメは自分の思う通りにいかなかった預言者ヨカナーンの首を欲しいと答えるのです。これには流石に参ったヘロデ王は何回も何回も拒んで、代わりに宝石とか孔雀とかそれ以外なら何でも与えると説得するのですが、サロメは「首が欲しい」の一点張り。遂には王は

 ❝Man soll ihr geben, was sie verlangt! Sie ist in Wahrheit ihrer Mutter Kind(王女が欲しいというものを、為方がない、渡してやれ。 ほんに母が母なら子も子だ)❞

と、自暴自棄になって許してしまうのでした。ヘロデ王役のミカエル・ヴェイニウスは、舞台に登場した時にその堂々としたかなりのビール腹(太鼓腹)の体躯から素晴らしいテノールを期待したのですが、期待外れでした。当初は歌も歌詞も本格ドイツオペラからは少し違うなと思ったら、経歴で見ると、スウェーデン出身でテノールには途中から転向したとありました。このくらいのテノールだったら日本人でも沢山いると思います。ついでに王とセットで出ていた王妃役のメゾソプラノ、バウムガルトナーの歌唱もいま一つ満足できるものでは有りませんでした。今年は、素晴らしいメゾソプラノ歌手達が来日してリサイタルを開いたのを聴いて耳に残っているので、王妃役のメッゾの声に強さが足りない感がし、声量的にもオーケストラのかなりの轟音にかき消されていたのが残念でした。

いつも外人歌手の出演がある聴くと、期待が大きく膨らみ、実際聴いてみると、期待に沿った場合が多いのですが、今回はどうかな?そうそう一人素晴らしいと思った歌手がいました。ヨカナーン役のトマス・トマソン。結構なお年の歌手と見ましたが、最初登場したのは二階席の右サイドの空間、そこに立って、

❝Siehe, der Herr ist gekommen,des Menschen Sohn ist nahe(見よ。主がお出ましになられたのを。人の子の近くまで来られたのを。)と第一声をはりあげ、さらに❝Jauchze nicht, du Land Palästina, weil der Stab dessen, der dich schlug, gebrochen ist. Denn aus dem Samen der Schlange wird ein Basilisk kommen, und seine Brut wird die Vögel verschlinge.(こりゃ。パレスチナの国。お前を打った笞が折れたといって、喜ぶなよ。なぜかというに、蛇の種からは、一睨みで殺すバシリスコスの龍が出て、その子が飛鳥を皆呑んでしまうからだ)❞ 

と堂々としてホール全体に広がるバリトンの歌声を響かせ、これを聴いただけでこの歌手は本物だと思いました。予想に違わず最初から最後まで、トマソンのヨカナーンは他の歌手を圧倒した歌唱を披露していました。特に見もの(聞きもの)だったのは、サロメが盛んに彼に好きだから触れらせよ、キスをさせよと迫るのを、決然と「不浄の輩、近寄るべからず」とオケの大轟音にも負けず、圧倒的な歌声でサロメをたしなめる歌声を張り上げていたのは、見事でした。大轟音と言えば、今回のノット東響は、16型(16-14-12-10-8)三管編成の舞台一杯に広がる大きな編成で、全体的に大きな音を各パートに奮い出させて、サロメの狂気性を中心に表現していたのは、力強く大変良かったと思いました。特にパーカッションの前の雛壇に8台横に並んだHrn.団や10挺中央部に固まったVc.団は特に迫力あるアンサンブルの妙技を披露していました。R.シュトラウスの音楽としてはこれまでの曲では聴いた事のない混沌と不協の調べを、大々的に響かせていたと思いますが、これも昔から有名な伝説的な不気味な狂気性を帯びた物語の「サロメ」を表現するからには必要欠くべからざる要素だったのでしょう。

 最後ヘロデ王が「サロメを殺せ」と叫んで、Timp.他がババン、ババンと打ち鳴らし終焉となると、結構たくさん入っていた(階によっては空席が大きい部分も有りましたが、これは東海道線が19時前から不通になっていたせいもあるかも知れません)観客席からは大きな拍手が沸き起こり、主要歌手陣と指揮者は袖と舞台を何回も何回も往復し、全体的には演奏会方式としては十分な出来映えだったと互いに満足を確認し合っていたのでした。