HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『巨人』との闘い

 また新たなウィルスが猛威を振るい始めましたね。今回の原産国中国の新型コロナウィルスは、野生動物起源の病原菌の様です。 

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 古来人間は、外敵から身を守り或いは戦い、地上での覇権を握りました。2億年も前の恐竜全盛時代には、人類の祖先は猿にも進化しておらず一種のネズミの様なものだったそうではないですか。きっとゴジラの如き怪物に食べられまいとして、コソコソと逃げ回って生き延びて来たに違い有りません。マンモス時代には、逃げるだけでなく、知恵を絞って戦い、倒し、逆にマンモスを食らうこともあったでしょう。こうした巨大生物から受けた恐怖感は、人間の遺伝子に深く記憶されているに違いない。時代がズーと下がり中世になっても西欧では巨人伝説が残されています。澁澤龍彦は次のように述べています。“ヨーロッパの中世にも、悪魔や魔女や巨人の出て来る妖精物語や奇跡譚や伝説集があったのである。”(澁沢龍彦『西欧文藝批評集成…幻想文学について』)と。
 スペインの画家ゴヤの大作「巨人」を観れば、如何に恐怖心が大きかったか分かります。

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 近代合理主義と科学技術の発展は、そうした恐怖を取り除き、人類が地球上の覇権を握ることを可能としました。しかし、覇権を握ってからも安心では無かったのです。病原菌という強敵が、次から次へと襲ってきたからです。菌が人間を死に至らす事もあれば人間が菌を死滅させることもありました。仁義なき戦い!でもやっかいなことに、菌は次から次へと姿を変えて攻撃するようになったのです。科学技術による武器の一つは「抗生物質」でした。ところがこの武器が当初の効果を発揮出来ない事態が生じました。敵もさるもの、この武器をすり抜ける手段を得たのです。そう耐性菌の出現です。「進化」という手段は、ネズミをホモサピエンスに変えただけでなく、平等に菌も進化させたのでした。はるかに速いスピードで。小さな巨人との仁義なき戦いが続くのです。  
 何かこうした現実を考えると、「共存共栄」という言葉は、空虚に聞こえますね、残念ながら。こういう時期には外出しないで、家にこもっていればいいのかも知れませんが、昨日土曜日は大学オーケストラ演奏を聴く予定にしていたので、みなとみらいホールに行ってきました(2020.2.1.13:00~)。演奏は、東京大学音楽部管弦楽団(指揮:三石精一)、曲目は、①ワーグナー作曲『さまよえるオランダ人』序曲 ②シューベルト作曲『交響曲第7番未完成』 ③マーラー作曲『交響曲第1番巨人』 
 演奏の模様を記す前に先ず配布された「プログラム」の充実振りを特記しなければなりません。オケの構成員全員の担当楽器パート毎の名簿、曲毎、パート毎の管・打構成表、曲毎の配置図など仔細に渡って記載されており、これらを参考にしながら演奏を聴いたので非常に役立ちました。中でもプログラムノートは曲と作曲家の関係など、楽譜も引用しながら記述されており、ちょっとした解説書より良く出来ていた。
 さて、三つの曲の演奏とも、ヴィオラとチェロの配置が入れ替わっていました。即ちチェロ群がステージの右手前面に配置、第一ヴァイオリンと対面する形です。
一番気に入った演奏は、シューベルトの②の曲「未未完成」でした。この時の楽器編成は①の時より若干の楽器の減があり、二管編成 弦楽5部は12型の変形か?
 第1楽章の弦のアンサンブルも良かったし(特に第1ヴァイオリンは他の曲も含めて一番良く合っていて綺麗なアンサンブル、中でも弱音でのアンサンブルが非常に澄んだ音でした。)、フルートもオーボエもクラリネットも独奏部、弦との掛け合い共良く出来ていたと思います。第2楽章も前半の弦の調べ、管の響き共穏やかな流れの中にも力強さが感じられ、クラリネット、オーボエ、ホルンの独奏部も心地良く聞こえました。やはりシューベルトの曲の多くは、基本的にメロディの大きな流れがあってその変奏も流れに抗うことなく、流れに乗った状態で繰り出されるのですが、この曲もそんな感じで、とても気持ち良いですね。心が安らぎました。
 ③の演奏は、楽器群が増加され総勢110人態勢。マーラーの曲は、何回も聞くうちに、聴くだけでなく「観る管弦楽」だと最近思っています。兎に角見ていて非常に面白い。マーラ-はご存知の様に、管や打楽器に大変活躍の場を広げました。女性テンパニー奏者の思い切りの良い打奏、しかも二名で打ち鳴らす箇所の小気味よさ。第2楽章でオーボエ奏者、フルート奏者などが楽器を上に立てて、高らかに演奏する箇所(楽譜でマーラーがこまごまと指示しているそうですね?)、弦楽5部も4楽章等の大音量の管・打に負けずと、力一杯体を大きく揺すって弦を行き来させる姿など、そうそうバンダの動きもありました。(オペラを除いて)これ以上見ごたえのある演奏は他に有りません(ピアノ演奏の鍵盤上の動きも面白いですが、それ以上です。)混沌から抜け出した時の静かなアンサンブルのこれまでとの落差の大きい対比、長い演奏時間の割に小気味よく簡潔に演奏を終結させる。マーラーはやはり尋常でない天才ですね。この曲の演奏を聴いて非常に楽しくなりました。
 尚①について は立ち上がりのせいなのか、ワーグナーの楽譜の音構成のせいなのか分かりませんが、聴いていて余り感動しませんでした。やはり個々の演奏力が全体の響きに少なからず影響するのかも知れません。
 「プログラムノート」のマーラーの曲目解説に “この曲紹介は、マーラーという「ゴリアテ」に筆者が対峙しようとする格闘記である”との記載がありますが、オーケストラの皆さんは『巨人』との闘いに挑み見事勝利したと言えるでしょう。コロナウイルスという巨人との闘いにも人類が大勝することを祈ります。