20分の休憩後の最初は、今回の目玉演奏、
⑧『笙とハープシコードのための<ミラージュ>』
一柳慧氏の曲です。この作曲家の名前は、時々オーケストラを聴いても出て来ます。交響曲やピアノ協奏曲を始めその他の楽器のための協奏曲、管弦楽曲、室内楽、合唱曲、オペラまで数多くの作品を作っています。もう九十歳近いでしょうにまだ現役だというのは驚きです。さらに驚きなのは半世紀以上も前に彼の有名人、オノ・ヨーコと結婚したことがあるというのです。凡人には真似出来ない巨人なのでしょう、きっと。 笙の演奏は初めて聴きました。演奏者は宮田まゆみさん。Profileにもある様にこの楽器の演奏では第一人者と言って良いでしょう。楽器の底を両手ですくい上げる様に持ち、口を当てて息を吹き込んでいる様子。不思議な音が、チェンバロのポンポンポンポンという伴奏に乗って、長―く続いて出ている。将に雅楽の音ですね。息継ぎしないのではと思える程、音の切れ目が有りません。宮田さんのトークによれば、上方に伸びる数本の管は竹製で、その下は金属のリードが付いている短い漆塗りの木製管がつながっているとのこと。複数の音が同時に出ていて、和音と言っても、西洋楽器の和音とは全く違った不協和音的音がチェンバロの音に不思議と違和感なく絡み合っています。両方の楽器とも、金属の振動音だから相性が良いのでしょうか?何か幻想的な世界に誘われる様なひと時でした。
⑨ヘンデル『グロリア』より第1曲 中山さんが登場です。この有名な歌を、今回の演奏の中では声に透明感が有りました。でも少しくぐもった箇所もあったかな。コロラテューラもやや不鮮明。⑩パッサカリアト短調 大塚さんの独奏です。ヘンデルはバロック音楽の代表的作曲家の一人と言って良いでしょう。
《ヘンデルのオペラ名場面集》
大塚さんのトークがあり、ヘンデルが英国に出てきてからも作曲を続け、大人気を博して器楽以外にもオペラを作って評判をよんだこと、外国からポット出てきて、ロンドンで何故それだけの人気ものになったか分からないという話をしていました。実は以前自分も外国人ヘンデルが英国で何故活躍出来たのか分かりませんでした。それがあることが切っ掛けで、‘そういった事だったのか’と分かった時があったのです。それは昨年、上野、西洋美術館で開催されていた
『KING&QUEEN展(from National Portrait Gallery of London)』を見に行ったことが切っ掛けでした。そのあたりの事情は、昨年1月のhukkats 記事に記したので、参考まで文末に再掲しておきます。
⑩ヘンデル『パッサカリア ト短調』
先ずヘンデルのチェンバロ曲を大塚さんの演奏で聴きました。リズミカルで華やかな曲でした。大塚さんはさすがチェンバロ専攻で名を成しただけあってここまで完璧な演奏でした。
次に、ヘンデルのオペラの名場面の最初の曲は、バロックファンのみならず、クラシックファンいやポップスも含めた多くの音楽ファンが知っている
⑪オペラ『リナルド』の第二幕よりより<涙の流れるままに(Lacia ch’io pianga)>でした。普通<私を泣かせてください>と訳されている曲です。これを歌ったのは、アルミレーナ役鈴木さん、アルガンテ役中山さんとの短いやり取りの中での詠唱でした。
デモこれまで多くの歌手が歌っているこの曲の記憶が、鈴木さんの声をすんなりと耳が受け付けて呉れませんでした。もう少し感情を込めて歌えないものでしょうか。MET管弦楽団と共に来日予定のディドナートがU-tubeですぐ聞けるはずです。亡くなられたポップス(いや)の本田美奈子さんが歌っているのを聴くと涙なしには聞けませんね。
⑫『シャコンヌ ト長調』
これも大塚さんがソロでチェンバロを弾きました。今回のシリーズは《チェンバロの窓を通して見るバロック音楽》に焦点を当てているという事ですから、もっとチェンバロ独奏曲に関してもバロック音楽がどの様に見えて来るのか、又歌の伴奏曲との関係等説明がないとよく理解できないのではなかろうかと思いました。FM放送の時の様な大塚さんのクリアな解説が欲しかった。
続いて
⑬『エジプトのジュリアス・シーザー』よりアリア『この辛い運命に涙し(この胸に息のある限り)』です。
このオペラは、世界の二大有名人、ジュリアス・シーザーとクレオパトラに関するものですから、世界中のオペラ好きは知らない人はない位だと推測しています。中山さんの歌は、声に力は籠っているのですが、高音は耳にビンビン響き、耳障りが良くありません。特に後半は“私は、わが運命を涙し嘆くでしょう。こんなにも辛く邪悪に満ちたわが運命を この胸に命ある限り でも死んだ後はあの暴君に夜も昼もまとわりつき 亡霊となってくるしめてやることでしょう”と、クレオパトラが涙しながら感傷に耽る場面ですから、もっとしっとり感が欲しかった。
歌はルネッサンスであれ、バロックであれ、如何にすれば聴衆の心に届くかを常に考えながら歌うのが肝要と思います。
ヘンデルのオペラに関しては、昔SONY MUSIC から出たオペラ全集を持っていて聴きたい時はちょこちょこ聞いています。全集と言っても数多くのヘンデルのオペラの中から6作品だけですが、主なものは入っていると思います。その中で『クレオ・パトラ』のアリアは、今回演奏された第三幕3場の部分は有名なことは確かに有名ですが、それよりも第二幕2場でクレオパトラの処に誘われてやってきたシーザーが、建物に入るなりうっとりと聞き惚れた、クレオパトラが歌うアリアの方がはるかに音楽として見事で美しく大好きな歌です。
“(nelle vesti di Virtù)V'adoro, pupille,saette d'amore,le vostre faville on grate nel sen. Pietose vi brama il mesto mio core,ch'ogn'ora vi chiama l'amato suo ben.”
と歌うのです。要するに美神の姿に扮して世界一の美女クレオパトラが歌うのですから、シーザーは魂を奪われたのでしょう。「(「美徳」の姿で)私はあなたを恋い慕う。瞳よ 愛の矢よそのきらめきは私の心を喜ばせる。打ちひしがれた私の心は切なくあなたを求め愛するその人をいつも呼んでいる。」
最後は⑭ヘンデル『夜明けに微笑むあの花を』。中山さんと鈴木さんの二重唱でした。
これには驚きました。お二方とも度々歌っている曲なのか、呼吸がうまくあっていて今日一番の出来栄えだったと思いました。二人とも発声が安定し適度な声量でカノン的な箇所もリズム感があって宜しい、ただ残念なことに楽譜を見て歌っていたのが気になりました。
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『KING&QUEEN展(from National Portrait Gallery of London)』鑑賞詳報Ⅲ-3
《Ⅲハノーヴァー朝③》
1727年にジョージ2世が即位したと前回記しましたが、戴冠式は恒例のウェストミンスター寺院で行われ、その際ヘンデルの作曲した『ジョージ2世の戴冠式アンセム』がヘンデルの指揮で演奏されました。
「アンセム(Anthemu)」はこの場合祝い曲の意味です。4曲から成り、その第1曲「司祭ザドク」は後の戴冠式も含め、演奏される機会が一番多い曲です。冒頭の前奏がしばらく続き、次にコーラスが続き、終盤はハレルヤコーラスの連呼で神を讃えます。①から④の全曲演奏は滅多にありません。
①司祭ザドク ②汝の手は強くあれ ③主よ、王はあなたの力に喜びたり
④わが心は麗しい言葉にあふれ
①の歌詞は次の様です。
Zadok the Priest, and Nathan the Prophet anointed Solomon King.
And all the people rejoic'd, and said:
God save the King! Long live the King!
May the King live for ever,
Amen, Allelujah.
エリザベス2世戴冠の時は『God save the Queen! Long live the Queen! May the Queen live forever』と置き換えられて歌われたのでしょう。
ヘンデルは若い時ドイツ各地やイタリア各地を回って音楽活動を続けましたが、 1710年、ハノーヴァー選帝侯(1708年に選帝侯となったゲオルク・ルートヴィヒ、後のイングランド王ジョージ1世)の宮廷楽長となり、その後もジョージ1世とは良好な関係を保ち、1727年にはイギリスに帰化したのです。この年は将にジョージ1世が亡くなりジョージ2世が戴冠して即位した年でした。ジョージ2世もヘンデルを重用していたのです。現代でもヘンデルの『メサイア』が演奏される時には「ハレルヤ」コーラスの時聴衆は起立しますが、これは1743年にロンドンでの初めての演奏会に出席したジョージ2世が起立したことに由来すると謂われます。 ジョージ2世は自分の子供たち(フレデリック、アン、キャロライン、アメリア)に当然の様に音楽をたしみとして身に付けさせたと思われ、その子女たちが演奏する様子の絵画が今回展示されました。
ところで、今日(1/11(月))をもって、KING&QUEEN展は終了したのですね。
3か月間、クラスター発生もなく無事終了したことは慶賀に堪えません。主催者から以下のツイートがありました。今回は日本の他の美術館では開催しないみたいですね。
【ご来場ありがとうございました】 「KING&QUEEN展」は本日1月11日を持ちまして全ての会期を終了致しました。 王と女王のポートレートはこの後ロンドンに帰国致 します。たくさんのみなさまのご来場、また感染対策へのご理解ご協力、誠にありがとうございました。