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フェスタサマーミューザ『N響室内合奏団』演奏会

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『N響室内合奏団』演奏会

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【日時】2021.7.28.15:00~

【会場】ミューザ川崎

【演奏者】N響室内合奏団

ヴァイオリン:篠崎史紀(NHK交響楽団 第1コンサートマスター)

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ソプラノ:盛田麻央 *
ピアノ:入江一雄
ハーモニウム:山口綾規
フルート:甲斐雅之
オーボエ:池田昭子
クラリネット:松本健司
ファゴット:水谷上総
ホルン:今井仁志
打楽器:植松 透
打楽器:竹島悟史
ヴァイオリン:白井 篤
ヴィオラ:中村翔太郎
チェロ:市 寛也
コントラバス:西山真二

【曲目】

①ヨハン・シュトラウスⅡ(シェーンベルク編):南国のバラ
②ヨハン・シュトラウスⅡ(ウェーベルン編):喜歌劇「ジプシー男爵」から 宝石のワルツ
③ヨハン・シュトラウスⅡ(ベルク編):酒、女、歌
④マーラー(K.ジモン編):交響曲 第4番(室内楽版) *                 

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 演奏に先立って20分程のトークがあるというので早めに会場に入ったら、まだ1/3程の入りでした。トークの為、演奏者3名を伴って登壇した篠崎さんは、現在が、世界的な変革の時代にさしかかっており、それは大昔のルネッサンス時代、100年前のアール・ヌーボー時代に匹敵する変革の時期といった趣旨のことを語っていました。さらに ❝今日はハーモニウム(外見が似たチェレスタとは構造が異なる)という楽器が参加しているので、その奏者から説明してもらいましょう❞と言って山口さんを紹介、山口さんは、❝戦後まもなく日本の小学校などにあった、足漕ぎオルガンの類いですが、今は廃れて一部のオケ演奏以外では殆ど使われない❞ といった趣旨のことを話していました。

そのあとで、登壇者全員で、ハーモニウムをつかっている曲の演奏がありました?

ドヴォルザーク作曲『バガテルOp.47 B.79』(Vn,Va,Vc,harmoniumの構成)

ハーモニウムは最初の音からして非常に小さい音量で、地味な音、他の楽器のアンサンブルに埋没していました。昔の学校オルガンをもっともっと目立たなくした感じ。これでは、衰退して使われなくなるのもむべかなと思いました。

 いよいよ開演です。客席を見渡すと、粗密のムラはありますが、ほぼ40~50%の入りでしょうか。緊急事態宣言で、上限1/2の規制内の座席販売だったのでしょうか?

【演奏の模様】

①『南国のバラ』

 演奏の前に器楽構成の増強があり弦楽五部(Vn-Va-Vc-Cb=2-1-1-1)、ピアノ、ハーモニウムの構成になりました。

    この曲と ②『宝石のワルツ』、③『酒、女、歌』は何れも、シュトラウスⅡ世の曲をシェーンベルグが室内楽用に編曲したもので、あの特徴のある「ン、ジャッチャ、ン、ジャッチャ」という一拍目が短い「ウィンナーワルツ」が出て来るともう気分はウィーン市内を駆け巡ります。

①は懐かしいメロディばかり、大編成オケの様な迫力は無いですが、返ってしみじみした味わいのあるアンサンブル音が心に滲みる。1Vnのマロさんの調べが、決して派手ではありませんが卓越して目立っていました。②の中音域での1Vnの調べがグーッと滲みてきます。時々入るPfの合いの手が効果的。気持ち良い調べが続き、眠気を催します。隣席の方はコックリコックリされていました。

③はホイリゲ辺りの情景なのでしょうか?Vcのソロ音が何ともいえない触感で腹にずっしりと響いて来ます。これまで以上に全弦のかなりの音量が擦り出されその不足分をPfが補足、Pfの低音演奏の時、それまでほとんど聞こえなかったハーモニウムの音が識別出来ました。マーラーは随分気を使うと云うか、やさしいというか、各パートの活躍の場を与えていますね。唯全体としての活躍度合いは楽器により寡多はありますが①から③まで通しては、矢張り1Vnの篠崎さんの音が卓越していました。それにしても篠崎さんの演奏スタイルは独特ですね。手足、運弓、体躯の動き、長年の経験が培ってきた「自由度」がここかしこに感られるものでした。それでいて音はいいし音楽のセンスは抜群だし、大したものです。 

《休憩》 

④マーラー4番

 1899年、マーラーがアルトアウスゼーにおいて、『少年の魔法の角笛』から「死んだ鼓手」を作曲した後、この交響曲第4番に着手しました。「第4番」は、歌曲「天上の生活」を第4楽章に置き、これを結論としてそのほかの楽章がさかのぼる形で作曲されたのです。この年に第1楽章と第2楽章が、翌1900年に第3楽章ができあがり、8月5日にマイアーニックで完成されました。

第4楽章でソプラノ独唱を導入していて、またマーラーの全交響曲中もっとも規模が小さく、曲想も軽快で親密さをもっているため、比較的早くから演奏機会が多かった曲です。マーラーの弟子のブルーノ・ワルターは、この曲を「天上の愛を夢見る牧歌である」と語っています。

 随所に古典的形式を外れた要素が持ち込まれ、音楽が多義性を帯びてきている点で、マーラーの音楽上の転換点にも位置づけられています。器楽構成は、本来3管編成、弦楽五部計88人規模に準ずる大きなものです。今回はそれをKジモンが室内楽規模に縮小編曲したものです

 ①~③を演奏した楽器に、各種管・打 楽器が増強されました。Fl(Picc)  Ob  Cl(Eh.)  Fg  Hr   大太鼓 Tria  銅鑼、シンバル、ドラム、鈴  etc. 

 速度記号がドイツ語で表示されている処にマーラーの意図を感じます。

④-1 Bedächtig, nicht eilen(中庸の速さで、速すぎずに) ト長調 ・・・「現生の表現」

④-2 In gemächlicher Bewegung, ohne Hast(落ち着いたテンポで、慌ただしくなく) スケルツオ ハ短調・・・「死の舞踏」

④-3 Ruhevoll, poco adagio

(静かに、少しゆるやかに) ト長調・・・「静寂な幸福感⇒永遠の天国への動機」

 1楽章2楽章3楽章では(一部4楽章でも)鈴、ホルン Ob Fag等の楽器が大活躍するのですが、詳細は割愛して、第4楽章に関して詳しく見て行きますと、

 ④-4 Sehr behaglich (非常に心地よく) ト長調 - ホ長調

ここでソプラノの歌が歌われます。マーラーは歌曲集「魔法の角笛」の中の「天上の生」を個々の4楽章に転用、第1楽章との関係性を紐付けしました。

歌詞は次の様です。

『Das himmlische Leben
(aus Des Knaben Wunderhorn)』

Wir genießen die himmlischen Freuden,
Drum tun wir das Irdische meiden.
Kein weltlich Getümmel
Hört man nicht im Himmel!
Lebt alles in sanftester Ruh.
Wir führen ein englisches Leben,
Sind dennoch ganz lustig daneben.
Wir tanzen und springen,
Wir hüpfen und singen,
Sankt Peter im Himmel sieht zu.

Johannes das Lämmlein auslasset,
Der Metzger Herodes drauf passet,
Wir führen ein geduldig's,
Unschuldig's, geduldig's,
Ein liebliches Lämmlein zu Tod!
Sankt Lukas, der Ochsen tät schlachten
Ohn' einig's Bedenken und Achten,
Der Wein kost' kein' Heller
Im himmlischen Keller,
Die Englein, die backen das Brot.

Gut Kräuter von allerhand Arten,
Die wachsen im himmlischen Garten,
Gut Spargel, Fisolen
Und was wir nur wollen!
Ganze Schüsseln voll sind uns bereit!
Gut Äpfel, gut Birn und gut Trauben,
Die Gärtner, die alles erlauben.
Willst Rehbock, willst Hasen,
Auf offenen Straßen
Sie laufen herbei!
Sollt' ein Festtag etwa kommen,
Alle Fische gleich mit Freuden angeschwommen!
Dort läuft schon Sankt Peter
Mit Netz und mit Köder
Zum himmlischen Weiher hinein,
Sankt Martha die Köchin muß sein.

Kein Musik ist ja nicht auf Erden.
Die unsrer verglichen kann werden,
Elftausend Jungfrauen
Zu tanzen sich trauen!
Sankt Ursula selbst dazu lacht!
Kein Musik ist ja nicht auf Erden,
Die unsrer verglichen kann werden.
Cäcilia mit ihren Verwandten,
Sind treffliche Hofmusikanten.
Die englischen Stimmen
Ermuntern die Sinnen,
Daß alles für Freuden erwacht.

《略意》

我々は天上の喜びを味わう。だから地上のことは避けるのだ。俗世間の騒ぎは天上では聞こえない。すべては最高の柔和な安らぎの中で生活している」という歌詞で始まる第一歌では、穏やかで牧歌的な雰囲気で、天上の生活の喜びを歌います。これに対して、「ヨハネは子羊を放ち、屠殺者ヘロデは待ち受ける。私たちは寛容で純潔な愛らしい子羊を死に導く。」と歌われる第二歌は、かなり冷酷です。曲想が突然に穏やかになる第三歌では、「すべての上等な野菜が天上の庭に生えている。良質のアスパラガス、インゲン豆、その他欲しいものみな思うままにある」と次第にテンポをあげながら歌われます。第四連では穏やかで幸福感にあふれた前奏に引き続き「私たちの天上の音楽に比べられるものは、地上にはないのだ」と繰り返され、音楽は最も落ち着いて静かに終わるのです。

将に来世=天上の神の世界を願うキリスト教徒マーラーの気持ちの迸りが感じられる4楽章です。日本人の仏教でもこの世の苦行は極楽浄土で救済されるという思想の根本は類似性がある と思われます。

 個人的には天上の音楽より今世の音楽を楽しみたいという気持ちが強いですが。

盛田さんの歌は、第1歌、第2歌あたりの立ち上がりは声量も声の広がりもなく、やや気の毒なくらいでしたが、次第にエンジンがかかり、最終の第5歌になると見違える様な素晴らしい歌い振りを披露しました。多くの歌手の様に、人間の喉という楽器は立ち上がりに時間がかかる場合が多いですね。特にオペラ等で明瞭なケースが多いです。

 (追記)

さすが皆さんN響の名だたる若手演奏家、弦楽は勿論、管、打の奏者の腕の確かなこと、見事でした。今後こうした合奏団の演奏が、恒常的に聴けるといいのですが。