〜サントリーホール開館40周年記念「時を編む響」〜

【日時】2026.8.27.(木)18:30〜
【会場】サントリーホール
【曲目】
〈第1部 Part1〉
①カミーユ・ペパン (1990)
『弦楽四重奏のための 「シルヴァカーヌの水の葉』(2019) 【日本初演)』
[奏者]
〇ヴァイオリン:石上真由子/小林壱成
〇ヴィオラ:三国レイチェル由依
〇チェロ:下島万
②池田亮司 Ryoji Ikeda (1966-)
『9本の弦のための 『Op.1』 (2000~01) 【日本初演】』
[奏者]
〇ヴァイオリン:石上真由子/小林壱成/土岐祐奈/森岡 聡
〇ヴィオラ: 三国レイチェル由依/戸原直
〇チェロ:下島万乃/柴田花音
〇コントラバス:長坂美玖
《休憩 intermission》
〈第2部 Part 2〉
③三善晃『ソプラノと管弦楽のための〈決闘〉』 (1964)
Akira Miyoshi (1933-2013)
1. 霊智
II. 白夜
Ⅲ. 決闘
[奏者]
〇管弦楽:東京交響楽団
〇ソプラノ: 砂田愛梨
④武満徹Toru Takemitsu (1930-96)
ピアノと管弦楽のための 『リヴァラン (1984)』riverrun for Piano and Orchestra
[奏者]
〇管弦楽:東京交響楽団
〇ピアノ: 小林愛実 Aimi Kobayashi, Piano
《休憩 intermission》
【第3部 Part3】
⑤ショーン・シェパードSean Shepherd (1979ー)
『管弦楽のための「表現抽象主義」』(2017)[日本初演】
Express Abstractionism for Orche -stra (2017)[Japanese Premiere]
Ⅰ. dense bubbles, or: Calder, or: the origin of life on earth (濃い泡、あるいはカルダー、あるいは地球における生命の起源)
II. Richter, or: the rainbow inside a bolt of lighting (リヒター、あるいは稲妻の中の虹)
III. Kandinsky, and: marble, and: Krasner (カンディンスキー、そして大理石、そしてクラスナー)
IV. the sun, or: the moon, or: Mondrian (太陽、あるいは月、あるいはモンドリアン)
[奏者]
〇管弦楽:東京交響楽団
⑥トーマス・アデス Thomas Adès (1971-)『ヴァイオリンと管弦楽のための「アリア(エア)」』 ~シベリウスへのオマージュ (2021~22) 【日本初演】Air-Homage to Sibelius for Violin and Orchestra [Japanese Premiere]
[奏者]
〇管弦楽:東京交響楽団
〇ヴァイオリン:成田 達輝 Tatsuki Narita,Violin
【演奏の模様】
サントリーホールでは、毎年この時期になると、現代音楽に的を絞った《サマーフェスティバル》を開催し、世界各国のこの分野の注目されている或いは活躍している作曲家の作品を中心に、集中的な演奏をするという先進的試みを行っていて、今回は、特に、サントリーホール開館40周年記念として「時を編む響」と称した演奏会が催行されたので、聴きに行きました。
演奏会は、〈第1部〉〜〈第3 部〉におお繰りされ、大雑把に言うと〈1部〉は、日仏の活躍中の作曲家の作品から室内楽奏曲、〈第2部〉では、故邦人ニ作曲家の作品で管弦楽奏とソリストの協奏曲、〈第3部〉では、現在も働き盛りである50代の米英現代音楽家の作品からなる演奏会でした。以下詳細を記します。
〈第1部 〉
①カミーユ・ペパン (1990 仏)
『弦楽四重奏のための 「シルヴァカーヌの水の葉』(2019)
[奏者]
〇ヴァイオリン:石上真由子/小林壱成
〇ヴィオラ:三国レイチェル由依
〇チェロ:下島万乃
②池田亮司 (1966-)
『9本の弦のための 『Op.1』 (2000~01) 【日本初演】』Op. 1 for 9
[奏者]
〇ヴァイオリン:石上真由子/小林壱成/土岐祐奈/森岡 聡
〇ヴィオラ: 三国レイチェル由依/戸原直
〇チェロ:下島万乃/柴田花音
〇コントラバス:長坂美玖
第1部では、弦楽四重奏曲及び、二つのカルテット+コントラバス=9つの弦楽器の重奏曲で、何れも石上さんが1Vn.奏者として先導的役割を演じていました。曲自体は、①では、冒頭からゆったりとしたポルタメント音や、ハーモニックス音、ピチカート音が交錯し、恰もオーロラの光が揺らぎ蠢くイメージを抱きました。作曲家自身の言によれば、❝この作品の時間構造は、葉に露が宿る朝からはじまり、昼の光を経てついには月光へと至る一日の推移に譬えられる❞と説明しており、確かに朝の訪れからの変化とも考えられます。
一方②は、デジタル・ノイズやサイン波を極限まで切り詰めた鋭利なサウンドによって電子音楽の新たな地平を切り開き、その後も音、映像、光、データを統合したインスタレーションやパフォーマンスを世界各地で発表し続けている作品で、美術館とコンサートホールの双方で高く評価される数少ないアーティストの一人、現代音楽作家である池田亮司の作曲です。
池田の音楽はしばしば「ミニマル」とも形容されますが、しかこの作品ではその傾向よりは、ハーモニクス音に倍音が高音域で混入、其れ等が次第に音に色彩と厚みを加わえて行く①と類似性のある曲相でした。
①も②でも若手中心の演奏家集団で、何れも各所で活躍中で、名の通った人ばかりでした。


《休憩 intermission》
〈第2部 〉
③三善晃(1933-2013)『ソプラノと管弦楽のための〈決闘〉』 (1964)
1. 霊智
II. 白夜
Ⅲ. 決闘
[奏者]
〇管弦楽:東京交響楽団
〇ソプラノ: 砂田愛梨
この曲は、Ⅲの「決闘」に至る前提を管弦楽の調べに乗ってソプラノの砂田さんが高音の声を張り上げて歌い上げる趣向ですが、物語の緊迫性は、歌声を聴いているとジクジクと伝わって来るのですが、砂田さんの歌は、三善が、萩原朔太郎の詩を元に日本語に作曲したというものの。しかし砂田さんの歌からは日本語が明瞭に聞こえて来ませんでした。歌声は、強さを有した立派なソプラノなのですが、若しドイツやイタリア歌劇を原語で歌う時は、果たしてその歌い言葉が聴くものの耳に意味が分かる発音で伝わって来るのか少し心配になりました。
朔太郎の原詩は、以下の通り。
1 靈智
ふるへる、 微光のよるに、 いつぱつ、 ぴすとるを撃つ、 遠方に、 金の山脈、 かすかな、 黒曜石の発光。
II 白夜
夜霜まぢかくしのびきて
跫音をぬすむ寒空に
微光のうすものすぎさる感じ
ひそめるものら
遠見の柳をめぐり出でしが
ひたひたと出でしが
見よ手に銀の兇器は冴え
闇に冴え
あきらかにしもかざされぬ
そのものの額の上にかざされぬ。
III 決闘
空と地とに緑はうまる、
緑をふみてわが行くところ、
靴は光る魚となり、
よろこび樹蔭におよぎ、 手に軽き薄刃はさげられたり。

④武満徹 (1930-96)
ピアノと管弦楽のための 『リヴァラン (1984)』
[奏者]
〇管弦楽:東京交響楽団
〇ピアノ: 小林愛実
〇楽器編成:Pf.Solo-3FI (Picc/A-FI)/30b (E-Hm)/3CI (Es-CI)/CB-CI/3Fg (C-Fg)-4 Hrn/Trp in D/2 Trp in C/3 Trb-(14-12-10-8-6) 4 Perc (I-Glock/Timp II-Vib III-Tubular Bells/Mar V=Xyl/3 Tam-Tams/Timp) - Cel-2 Hrp- Strings
この曲は、ピーター・ゼルキンのために、ロサンゼルス・フィルハーモニー協会が、武満に委嘱して出来た作品です。ピーター・ゼルキンは、往年の名ピアニスト、ルドルフ ゼルキンの息子です。この曲は、 1985年1月10、11、13日ロサンゼルスでサイモン・ラトル指揮、ロサンゼルス・フィルハーモニックとピーター・ゼルキン(ピアノ)により初演されました。
管弦楽曲自体は、幾多の武満の名曲の様な素晴らしさまでは、感じませんでしたが、小林さんの演奏は、流石百戦錬磨の楽士、幾ばくの淀みなく、彼方此方に散りばめられたカデンツァを軽々とこなして全体的には、コンチェルト的活躍をしていました。

《休憩》
【第3部 】
⑤ショーン・シェパード (1979-)『管弦楽のための「表現抽象主義」』[日本初演】
Ⅰ. 濃い泡、あるいはカルダー、あるいは地球における生命の起源
II. リヒター、あるいは稲妻の中の虹
III. カンディンスキー、そして大理石、そしてクラスナー
IV. 太陽、あるいは月、あるいはモンドリアン
[奏者]沼尻/東京交響楽団
舞台には、③、④の時よりも多くの楽器群が並びました。
この曲は、ボストン交響楽団、アンドリス・ネルソンスの委嘱により、2017年に曲が作られ、 2018年2月8日 ボストン、シンフォニーホールで、アンドリス・ネルソンス指揮ボストン交響楽団により初演。今回が日本初演です。
〇楽器編成:3FI (Picc)/20b/E-Hrn / 2 CI (Es-CI)/Bs-CI/3Fg (C-Fg)- 4 Hrn /3 Trp/2 Trb/Bs-Trb/Tub Timp ー 4 Perc (I=Nipple Gong/Suspended Cym/Tamb/Xyl/Finger Cym / Glock /Egg Shaker/Tenor Drum /Cowbell/Sizzle Cym II-Bass Drum /Sleigh Bells/Vib/2Tri/ 2 Wood Blocks/ Whistle / Metal Pipe III = Tam-Tam/Log Drum/Mar/Crotales / Suspended Cym/Guiro/Caxixi / Cabasa/Crash Cym/2 Congas / Brake Drum/Vibraslap/2 Bongos IV Tubular Bells / Suspended Cym /Temple Bowls / Temple Blocks / Almglocken/Maracas/Claves/3 Tri /Cowbell/2Bongos/Ratchet) - Hrp-Pf (Cel) - Strings16Type
〇全四楽章構成
第1楽章アレクサンダー・カルダー
第2楽章ゲルハルト・リヒター
第3楽章ワリシーカデンスキーとリー・グラスナー
第4楽章ピエット・モンドリアン
各楽章には、何れも高名画家の名前が付けられていますが、曲の内容が、各画家の絵画を音で表したものではないとのことです。
この曲で目だったのは、様々な打楽器の演奏でした。まるでマーラーの曲の如く打楽器に目を引き付けられました。
全体的には、交響曲と呼ぶには、オーケストレーションの厚みと変動が小締んまりしている点で違うかな?という気がします。

最上段(最後列)の様々な打楽器群
⑥トーマス・アデス (1971ー)『ヴァイオリンと管弦楽のための「アリア(エア)」』 ~シベリウスへのオマージュ (2021~22) 【日本初演】
[奏者]
〇管弦楽:東京交響楽団
〇ヴァイオリン:成田 達輝
〇楽器編成:2FI/20b/2Cl/2Fg (C-Fg)-2 Hm-Timp-3 Perc (I-Glock /Tam-Tam/Tamb II-Crotales /Gongs/Wood Chimes III-Mar / Bass Drum) -Hrp-Pf Strings 12Type
金管楽器が縮小されました。
この曲はロシュ社(ルツェルン・フェスティバルの 「ROCHE COM-MISSIONS 」の一環として)、 アンネ=ゾフィー・ムター、カーネギーホール、ボストン交響楽団の共同委嘱です。
ソリストの成田さんが指揮者と一緒に登場すると、今回最後の演奏曲がすぐに演奏開始です。Vn.アンサンブルとグロッケンシュピールの音が響き、成田さんのソロヴァイオリンは、超スローのテンポで、一つの音を長々と響かせています。しかも弱奏で。作曲者自身は、❝この曲を「協奏曲というより、一つの長い弧を描く作品」と呼んでおり、まさに「Air」という原題は有名なバッハ作品と同じく「アリア」と考えるのが正しい。独奏ヴァイオリンはオーケストラと対峙するのではなく、内部を漂いながら声を発し続ける一人の歌手なのだ。❞と語っています。
その言葉通り、成田さんは、先日催行された「東京音楽コンクール弦楽部門本選大会」の様な、ソリストがバリバリとオケと対峙し協奏するのとは全く異なったアプローチで、この日の標題の様に「時を編む響」をゆっくりと出音していました。非常に細かい短いオタマジャクシの連続とは真逆の長音符をゆっくりと弾き続けることで、管弦楽の調べが、様々な楽器群の次々と伝播するフガートまたは輪奏により、響きにグラデーションや色彩さえ感じる様な効果を上げていました。しかし超絶技巧を駆使するヴァイオリンソリストの難しさとは、異なった難しさがこうした演奏には、あるのでしょう。管弦楽のアンサンブルとの整合性、融合が全体の響きに影響すること大なのでしょう。そこは成田さんも百戦錬磨の楽士、見事な安定感のある演奏をしていました。最後に発音を再開したソロVn.の上行する調べの何と美しかったことでしょう。
