HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026ヴァイグレ・読売響『マイスタージンガー』&鈴木愛実(Pf.)

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〜 フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026 〜読売日本交響楽団
【日時】2026.7.31(金)19:00〜
【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール

【管弦楽】読売日本交響楽団 

【指揮】セバスティアン・ヴァイグレ(常任指揮者)

【独奏】鈴木愛美(まなみ)(Pf.)

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〈Profile〉

長崎県壱岐市生まれ、大阪府箕面市出身。

4歳でピアノを始め、2017年大阪府立夕陽丘高等学校音楽科入学。を経て東京音楽大学に進学。2020年東京音楽大学ピアノ演奏家コース入学、卒業後、同大学院修士課程に特別特待奨学生として進学、石井克典および仲田みずほに師事。

2023年、第47回ピティナ・ピアノコンペティション - 特級グランプリおよび聴衆賞

2023年、第92回日本音楽コンクール・ピアノ部門 第1位、岩谷賞(聴衆賞)、野村賞、井口賞、河合賞、三宅賞、アルゲリッチ芸術振興財団賞

2024年、第12回浜松国際ピアノコンクール - 第1位、室内楽賞、聴衆賞、札幌市長賞、ワルシャワ市長賞

これまで日本国内の多くのオーケストラと共演すると共に精力的にリサイタル活動を行っている。

 

【曲目】

①ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 op. 37

(曲について)

    目に入ってきたのは、ほとんど白紙状態に近いページだった。飛びとびに、なにやらエジプトの象形文字のようなものが幾つか殴り書きされているだけ。それは、記憶のよすがとして彼には分かるのだろうが、私にはまったく意味不明のものだった。」
作曲家で指揮者のイグナーツ・フォン・ザイフリートによる回想である。「彼」とはルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン(1770〜1827)のこと。「協奏曲」とは、これから聴くピアノ協奏曲第3番を指す。1803年4月5日、ウィーンでの初演の模様
は、このようなものであったらしい。独奏部分を記憶に頼って弾くというやり方を、名ピアニスト、ベートーヴェンは以前にも採ったことがあるので、楽譜を書く暇がなかったというより、即興精神を大切にしたということなのかもしれない。
1800年にピアノ協奏曲第2番を出版社に送った際、ベートーヴェンは「もっと良い曲もありますが、そちらはまだ自分のために取っておきたいのです」と書いている。
ピアノが管弦楽とともに交響曲を奏でるような点、短調を主調に選んだ点(全5曲ある彼のピアノ協奏曲で唯一の例)などをみても、実際、チャレンジ精神は明白だ。全3楽章。第2楽章はホ長調でハ短調から遠く、夢の領域に移ったかのよう。第3楽章は
ハ短調で始まりハ長調で華やかに終わる。


②ワーグナー(デ・フリーヘル編):楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』~オーケストラル・トリビュート
 (曲について)

    19世紀ドイツオペラ界の傑物、リヒャルト・ワーグナー(1813〜1883)といえば、なんといっても4部作『ニーベルングの指環』(1874年完成)が有名だろう。『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(1867年完成)は、その『指環』創作を中断して成った中期の傑作である。日本語で「楽劇」とされることも多いが、『指環』とは異なり、重唱や楽しい合唱もふんだんに盛り込まれた本作は「3幕の喜歌劇」と銘打たれている。台本もワーグナー自分で書いたのは、いつものどおりだが、題材を伝説や神話ではなく、実在の場所と実在の人物、ハンス・ザックス(1494〜1576)にたずねた点は珍しい。靴作りの親方にして詩人である。
    まずは、そのストーリーをご紹介しよう。靴屋にパン屋に仕立屋さん。みずから詩作しそれを歌い競う「マイスタージンガー」はみなニュルンベルクの市民にして職人だ。時は16世紀。南ドイツのこの自由都市に、ある日、ヴァルターという若い騎士がやってきて、金細工師の娘エファとたちまち恋に落ちる。彼は、あす催される歌合戦の勝者をエファが花婿に迎えると知り、資格を得るための試験を受ける。しかし、市の書記官ペックメッサー(彼もエファを射止めたいのだ)が下した判定は不可。ほかのマイスタージンガーたちもこれに同意するのだが、靴屋のザックスだけが、その歌の「いかにも古い、だがとても新しい響き」に感じ入るのだった。才ある若者を救わねば。年かさのザックスはそう決心し、詩作の手ほどきをし、ヴァルターが歌合戦で優勝する――これが大筋である。

その過程では、町で大騒動が起きたり、書記官ベックメッサーが歌合戦で笑い者になったりと、 いろいろと破天荒なことがあり、これらがことごとくヴァルターを利する。それもこれもザックスの巧妙な立ち回りの結果であり、彼には期するところがあったのだ、ヴァルターのような者を、可愛がってきたエファの婿にしてやろうというのが一つ。それによって、旧時代の担い手(騎士)を新時代の担い手(市民)に統合しようというのが、最終目的であった。古くて新しい――これがこのオペラのテーマである。

 

 

【演奏の模様】

①ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 op. 37

 演奏者の鈴木愛美さんは、一昨年の11月.第12回浜松国際ピアノコンクールで日本人初の第1位に輝いた経歴のピアニストで、翌年2月に優勝後初のリサイタルを 横須賀で開催した時、どんなピアニストだろうと思って飛んで聴きに行きました。その時のプログラムが何とオールシューベルトだったのには、少し驚きました。そしてまた、その演奏の完成度が高かったことにも大いに驚いた記憶が有ります。

    その時の記録を文末に抜粋再掲しておきます。  

      その後、鈴木さんの人気は急上昇、引っ張りだこ状態で、コンサートがあちこちで開かれていたことは、承知していましたが、都合が合わず今回まで一度も聴きに行けませんでした。そして今回のベートーヴェンの3番の協奏曲を聴いた訳です。

    聴いた感想は、単刀直入に言って、曲は、シューベルトとベートーヴェンの違いがあり、ソロとオケとの協奏の違いは有りましたが、鈴木さんは、その違いの壁をやすやすと乗り越えて、完全に自分の演奏スタイルを確立しつつ有る、と言う事でした。とても器用なピアニストですね。ベートーヴェンのコンチェルトに求められる、オケとの阿吽の呼吸、何十人もの奏者とがっぷり四つに組んで、一歩も後に引かぬ粘り腰、管弦楽アンサンブルに華を添える独奏カデンツァの大輪の花、すべて楽々と壁を乗り越えるのに成功していました。オケの力奏の大音にも呑み込まれず、毅然と強奏を繰り出し、かなりの強打者の印象を受けました。これには、指揮者ヴァイグレの読響を抑制制御する術(すべ)の寄与するところも大きいと思いましたが。今回の鈴木さんの演奏を聴いて、着実に成長しつつある現状から見て、近い将来の何れの日か、世界に羽ばたく時が来るのでは、と期待が膨らむ演奏でした。

尚、万雷の拍手に応えて、ソリストアンコールがありました。

 

《アンコール曲》

シューベルト『楽曲の時第3番』

 

②ワーグナー(デ・フリーヘル編):楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』~オーケストラル・トリビュート

〇楽器編成:二管編成弦楽五部16型

    この「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は、通常4時間を越える全三幕(15場)からなる楽劇で、ワーグナー後半生の油の乗った時期の作品です。神聖ローマ帝国(ドイツ)の終焉期に当たり、歌合戦という民衆伝説を題材としていて、その他の神がかった作品群とは一線を画す楽劇です。

    この楽劇は、2021年11月に、新国立劇場オペラパレスでフルオペラを観た事が有ります。通常は靴屋をやっている親方ハンス・ザックが所謂マイスタージンガーの草分けで、今は亡きバス歌手トーマス・ヨハネス・マイヤーが歌っていました。歌合戦に出場した吟遊騎士ワルターが、合戦に勝利して、銀細工師の愛娘エファとの結婚権を得るのですが、その時のワルター役であるテノールのシュテファン・フィンケが、第三幕の歌合戦で歌った「楽園のエファ」が、とても麗しい素晴らしい歌唱だったことを思い出しました。

  各のごとく、楽劇もオペラに違いがないですから、あくまで歌唱が中心なのですが、ワーグナーの作品は、管弦楽もワーグナー一流の取って置きの素晴らしい調べを有しているので、今回の読響の演奏では、オーケストラのみで、この作品を表現してしまおう、つまり管弦楽がピットから出て主役を張ろうとするものです。

    本日の「マイスタージンガー」は、歌を伴わない50分程の管弦楽版です。オランダの作曲家兼編集者であるヘンク・デ・フリーヘル (1953~)が楽劇全3幕のスコアから独自に編んだもので、全11曲は切れ目なく演奏されました。

以下に各曲を列挙します。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 1.前奏曲  ハ長調の全音階で始まる冒頭からして、どこか古風。旋律の重なり具合はバロック時代のバッハ作品のよう。しかし、そこには思いがけない音も潜んでいる。全体は、オペラに現れる主要動機によるメドレーであり、建築物と言ってもよい。「マイスタージンガーの動機」 「組合の動機」などからなる部、ヴァルターの髪を表わすゆるやかな感じ、ベックメッサーへの笑いが中心となる急速な部、そして既出の諸動機が積み重なる部へと展開する。第1幕最初の教会の場面の音楽が短く続く。

2. マイスタージンガーたちの集まり第1幕より。歌合戦の資格試験のためにマイスタージンガーらが集まる。低音で繰り返される「資格試験の動機」。

3. 徒弟たちの歌 第2幕冒頭より。夏至の頃のタべ、洗礼者ヨハネの誕生を祝う祭を前に、徒弟たちが愉しげに歌う。徒弟→職人→親方(マイ

スター)が、マイスター制度の昇格順。

4. ザックスの独白 第2幕より。ヴァルターが第1幕で歌った歌を、ザックスがひとり思い返す。激した「靴屋の動機」から柔らかな「春のうながしの動機」へ。

5. 前奏曲Ⅲ第3幕への前奏曲。冒頭でチェロが奏でるのは「該念の動機」。ザックスはエファへの淡い恋を諦めている。ホルンの重奏は、オペラの終盤で「目覚めよ」と歌う合唱の先取り。

6. 洗礼の辞 ヴァルターとエファ、ダーヴィット(ザックスの弟子)とマグダレーネ(エファの乳母)、そして

ザックスが、めいめいの思いを歌う五重唱。

7. 同業組合の隊列 歌合戦の場となる草地に、職人たちが組合ごとに続々とやってくる。

8. 徒弟たちの踊り 第3曲の再現が終わるとワルツ風に。徒弟たちが娘たちと踊る。

9. マイスタージンガーたちの入場 「マイスタージンガーの動機」を中心に行進曲が展開。

10. ヴァルターの懸賞歌 いよいよ歌合戦。ヴァルターは華麗な比喩と大胆な転調で、「楽園のエファ」を歌い、エファを感激させる。最後にふとザックスの「諦念の動機」が。

11. 幕切れの歌 ヴァルターは優勝するも、マイスターの称号を拒否。ザ

  (  尚、本作がミュンヘンで初演された1868年の3年後に、史上初のドイツ統一国家「ドイツ帝国」が成立することとなる。)

    

    正直言って この管弦楽曲のかなりの部分で、第一幕の前奏曲がテーマソングの様に出没、若干食傷気味のきらいが無い訳ではないですが、勿論そのライトモチーフ達は、堂々とした素晴らしいメロディなので、編曲に際し、何回も使わざるを得なかったのでしょう。了解です。

    この曲は、ピットに入ってオペラの楽曲を演奏する楽団員にとっては、いつも歌手達の歌のお相伴にあずかっている ような、後塵を拝する様な気兼ねが無いとは言い切れず、それが払拭され、思い存分楽曲を演奏出来ることに満足なのではないでしょうか。しかし会場の観客の多くにとっては、オペラ=歌、それに舞台が若干といった意味合いを有していると思われ、楽劇のすべてが管弦楽の音のみで表現されても、余程その楽劇に精通していないと、即ち何回も楽劇を観て、隅から隅まで(ピットの音を)良く理解してないと、交響曲を聴いていることに類似してしまいます。

    こうした危惧が考えられるにせよ、 今回の編曲版のヴァイグレ・読響の演奏は、エネルギッシュな指揮者の牽引に良く応えていたと思います。Hrn.群は、最初不安定な斉奏が、あったものの、次第に安定感が増した演奏をしていました。特に首席奏者は大したもので、この曲の彼方此方で活躍を必要とされるソロ音を渋く明るく響かせていました。Trmb.とTrmp.は、弦楽奏の中でも最初の序曲が各処で弦楽奏される毎にパンパカパーンと合の手を入れて、Triは、チリチリチーンと小さな巨人振りを発揮していたのも、面白い。

 

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/////////////////////////////////////////////////////2025-02-18 HUKKATS Roc.

(抜粋再掲)  鈴木愛美ピアノ・リサイタル

【日時】2025.2.16.(日曜)14:00〜

【会場】ヨコスカ・ベイサイド・ポケット(横須賀芸術劇場内)

【出演】鈴木愛美(Pf.)Manami             Suzuki

【曲目】

①シューベルト『3つのピアノ曲 より 第2番 変ホ長調 D946-2』

(曲について)

    《割愛》

②シューベルト『高雅なワルツ集 D969 Op.77』

(曲について)  

 《割愛》   

 

【演奏の模様】

 今回の演奏会場の横須賀芸術劇場は、京急横須賀中央駅(横須賀の中心市街地にある駅)でなくて一つ品川寄りの『汐入』という駅前に有り、初めて行きました。京急は「特急」や「快速特急」というのが走っていてそれだと横浜駅からでも20数分で着きます。その芸術劇場内の小ホールで開かれ、「ヨコスカ・ベイサイド・ポケット」と名付けられていました。空席は幾つか見える程度、満員でした。それもその筈、上記<プロフイール>にある様に、昨年の「浜松国際ピアノコンクール」で日本人初の優勝、一昨年の「日本音楽コンクール」の覇者、そしてPITINA特級グランプリも獲得している大型新人だからです。

    今回の演奏曲目を見て又少しびっくりしました。Allシューベルトでは有りませんか。(各コンクールの選曲は全然知りませんが、)ショパン中心のプログラムかと思っていたので。シューベルトはこれまでの例をあげれば、内田光子、アンドラーシュ・シフ、河村尚子の来日公演などを聴いて来ました。かなりの年季の入ったピアニストでないと弾きこなせない曲では?とも思っていました。これをまだ大学に在学する新進気鋭のピアニストが弾くとういうのです。しかもシューベルトの曲、就中ピアノ曲は自分にとって大の好物、いくら食べても飽きることは有りません。この若手はどのような味にシューベルトを料理するのか?果たしてシューベルト本来の味を出せるのか?などなど興味津々でした。そういう訳で、この演奏会は見逃せないとかなり前からチケット手配をしていたのです 。

当日配布されたプログラムを見ると、曲目は以前から発表されたものと変わり有りませんが、演奏順が少し変わりました。即ち上記①②③の曲が③②①の順に演奏されることに。

①ピアノ・ソナタ 第9番 ロ長調 D575 Op.147
〇全4楽章構成 演奏時間は約24分。全楽章がソナタ形式で統一されています。

第1楽章Allegro ma non troppo 

第2楽章Andante

第3楽章 Scherzo:Allegretto-trio 

第4楽章 Allegro giusto 

 

 登場した鈴木さんは、一見どこにでもいそうな女学徒と言った風貌をしていて、まだ純情な若さ、幼なさも感じるピアニストでした。 冒頭、鈴木さんは、強いタッチからすぐに打鍵を緩めて弱いタッチに変え、さらにかなりの強度の強い音をハジキ出し、その中にも強弱織り交ぜたデュナーミクを効かせていて、変化に富んだ表現の出来る人だという事がすぐに分かりました。間の取り具合もいいし、高音もしっかり出ていて綺麗な調べです。転調パッセッジを安定的にこなし、速いパッセッジも弱めに弾き、さらに変化に富んだ表現。繰り返し部も強打で、ゆっくりとした弱音から強奏化し、この最初の楽章の演奏からして表現力の有るピアニストだなとの感じを受けました。謂わば表情豊かなシューベルトの印象。部分的には、ノンレガートでさらに歯切れの良い音が欲しいと思った箇所も幾つかありましたが。

第2楽章では冒頭から、穏やかな調べは、如何にもシューベルトらしさが出ていました。謂わばシュベ節の響きが出ていた。続く左手の強打に右手の高音の合いの手が寄り添い、不協的響きも混じるその後の展開でも、一抹の不安も感じさせない堂々として演奏。各種コンテストで勝つのも宣べなるかなの感が有りました。

 第3楽章、スケルツォでは速いテンポで軽やかな音が躍動し始めました。ここでも小休止の間の取り具合がいいと思いました。テーマを何回か繰り返すのですが、何れも表現、表情が少しづつ異なった演奏、器用だと思う。他の楽章よりも鈴木さんは、気軽に弾いている感じ、微笑ましい楽しいスケルツォでした。この楽章でもスタッカート的というか、さらに歯切れの良い出音が欲しいと思った箇所が有りました。間の取り方には絶妙なうまさを感じました。

 最終楽章では、三連符の主題の強奏は十分歯切れが良く、⇒弱奏への変化もいい表現だと思いました。全体的にテンポもだれなく、しっかり保っていました。最後の三連符の下行音階のディミヌエンドからバーンと一強音で閉まりよく終了しました。

シューベルトらしさが十分出ていた演奏でした。

最初にこの力作を演奏することに変更したのは正解だったかも知れません。初めから鈴木さんの力量を如何なく発揮して、今回の演奏会を乗り切る初動に成功したと思われました。

 

②シューベルト『高雅なワルツ集 D969 Op.77』

 この曲は、全体的に似た調子の旋律的な繰り返しを、12の調で表現しているものの、所謂「12の前奏曲」の様にすべて異なる調ではなく、ハ長調が5曲、イ長調とイ短調が二曲づつ、残りはト長調、ホ長調、ヘ長調の曲の集合から成っており、鈴木さんの演奏は、最初こそややモタモタして流れに乗れない感が有りましたが、すぐに持ち直し、これ等のワルツを鈴木さんは、各曲のつなぎ目を感じさせず、一つの連続した曲の如く滑らかに弾いたのには舌を巻きました。しかもしっかりとシューベルト節が表現されていました。最終12曲目のハ長調ワルツの高音の美しく速い調べがとても気に入りました。ところで、配布されたプログラムノート(鈴木さん自身が書いたと思われる)に、アインシュタインが述べた❝<幻想>ソナタの第3楽章のメヌエットは、<高雅なワルツ>の反響である❞との言を引用して作曲年代を示唆していますが、「反響」とは「こだま」の事でしょうか?だとすれば両曲を聴き比べてみれば、何んとなくその類似性と応答性に対照的響きの音楽が感じられないことも無く、アインシュタインはするどい感受性の持ち主だったのだなと感心しました。

 

③シューベルト『3つのピアノ曲 より 第2番 変ホ長調 D946-2』

 今回は3つのピアノ曲のうち二つ目の曲が演奏されましたが、この曲もかなり以前から気に入っていて、例えば昨年来日したポール・ルイスの録音が自分にとっては、最っとも心に滲みる演奏の様な気がして、何回も繰り返し繰り返し聞いていました。昨年ポール・ルイスが来日公演した時聴きに行きましたが、残念ながら本演プログラムでもアンコールでも、この2番は弾かれませんでした。彼の演奏を実演で聴きたかったので残念でした。ともあれ今回鈴木さんがこの曲をプログラムに入れていたことは大変興味が湧くことでした。

 曲の構成としては、作曲者自身の歌劇『フィエラブラス』から引用された抒情的で落ち着いたロンド主題の部分と、そしてハ短調で挿入される2つのエピソードの激しい部分と2分の2拍子による変イ長調の清澄な部分から成ります。

先ずこの曲の白眉と思えるしっとりとした部分の演奏を、鈴木さんは、ポール・ルイスさながらに、心から染み出る様に弾いたのでした。何回か繰り返され、さらに挿入エピソードの後も繰り返され弾かれるテーマソング、つい口遊みたくなる様な柔らかい調べを、何回も心に届けて呉れたこの若手ピアニストの完成度、熟された技量には舌を巻きました。 

 

《20分の休憩》

 

④ピアノ・ソナタ 第18番 ト長調 D894 Op.78「幻想」

〇全4楽章構成。 演奏時間は約40分。

第1楽章 Molt moderato e cantabile

第2楽章 Andante

第3楽章Menueto:Allegro/moderato-trio

第4楽章 Allegretto

 この曲は昔から(十年以上も前から)いや大昔から大好きな曲で、クラウディオ・アラウの演奏が特に好きで、そのCD録音を何回となく(レコードであれば擦り減る程)聴いて来ました。自分はピアニストではないので弾きませんが、曲の一部始終が頭に入っています。頭で音を鳴らすことが出来ます。シューベルトのダイナミックな曲の流れと繊細さが何とも言えない調和を保っているこの曲はまさに名曲の一つでしょう。

鈴木さんは、非常に落ち着いた感じで、冒頭の弱音を繰り出しています。この第一声からして、完璧なスタートと言って良いでしょう。左手低音部もバランス良く効いています。三回テーマ部を繰り返し、そのあとの軽やかな美しい旋律奏も歯切れが良く、何かアラウの演奏に似ている様な気がするのですよ!気のせいかな?下行の旋律もリズムも申し分ないと思いました。高音の跳躍4音も絶妙の合いの手の様子、何回も繰り返されるテーマソングはだれなく飽きなくくどくなく、この曲の骨格を形づくっているのでは?と思われる程シューベルトの構成力は大したものです。第四回目のテーマ変奏は、やや強い調子で表現、余り体を動かさないで弾いていた鈴木さんもこの辺りでは頭を少し上向きに上げて冥想するが如き姿勢で弾いていました。この楽章はお手本の様な完璧な演奏で、恐らく基本を極めると(型にはまったと看做す向きもあるかも知れませんが)この様な完璧性を身に着けることが出来るのでしょうね、きっと。

次楽章はゆったりと音を紡ぎ出す鈴木さん、将に心で紡ぐ調べだと思いました。その表現は理に適っているとも。十分シューベルトはピアノに歌を歌わせるのですね。第二パッセッジの強打健も続く強速奏も切れが良い表現。落ち着き払っていました。丹念に音を繰り出す鈴木さん、一音一音を大事にしている様子が分かります。低音部の強壮の後跳躍した高音の弱奏は美しく奏で、強奏部では一歩一歩指使いを鍵盤上を確かめ歩む様に移動、最後の短調変奏から静かに指を修める箇所は、かなり速いテンポで指を進め、了となりました。

 第三楽章では、冒頭ややもたついていたかも知れません。結構重い表現の旋律と重厚なテンポ具合で進められましたが、低音部⇒高音部への跳躍はOKでした。相変わらず高音の調べは美しいものがあります。これまでの楽章と同様ここでもシューベルトは繰り返しの技法を駆使しています、が曲として不自然な処もしつこさも感じない訳を考えました。これはやはり和声の進行にも旋律性を重んじる歌うシューベルト特有の効果かも知れません。

 最終的にはやや速いけれども、通常強度の進行が続き、次の瞬間には繰り出す出始めはややSlow Down,転調が繰り返され、やはり静かに曲を終えるのでした。ここでもシューべ節は盛んに存在感を示していました。

これだけの大曲を幾つも弾き、終ってからも少しも疲れを見せない鈴木さん、立派なもの!若さの特権ですね。

満員の会場の大きな拍手と歓声に応えてアンコール演奏が有りました。

《アンコール演奏》シューベルト『楽興の時第3番Op.94-3』でした。

 

 総じて今回のシューベルトの演奏は、はるかに想像を越えた完成度の高い演奏でした。こうしてみると鈴木さんの弾くD960やD959、D958も聴いてみたくなる気がしますが、その前にやはりショパンを聴いてみたいと思いました。多くの若いピアニストはショパンを得意とする人も多いかと思いますが、鈴木さんも是非ショパンを沢山弾いて欲しいものです。あれは何年前でしたか、東京で日本ショパン協会の演奏会があって、何名かのピアニストが賞を授与されていましたが、その中の一人、藤田真央君に協会会長の海老さんが❝もっともっとショパンも弾いて下さいね❞と話していたのを思い出します。モーツァルトを弾いては日本では当代随一かも知れませんが、世界にはモーツァルト弾きとして名を馳せた名ピアニストは多くいる訳で、巨匠として世界中の音楽愛好家から尊敬される人はどれ程になるのでしょう?こうしたことを考える時、いつもポリーニのエピソードを思い出します。ショパンコンクール優勝後、引き手あまたの誘いを絶ち、自己研鑽中心に励んだというのは本当なのでしょうか?本当だとしたらその後のポリーニの存在を、世界的なピニストに成らしめた根本精神を見る思いです。そうした生き方には尊敬の念を抱きますね。あ、申し訳ないつい余計な繰り言をぶつぶつ言ってしまって。兎に角、今回のピアノリサイタルでは、鈴木さんの力量をまざまざと見せつけられた演奏会でした。今後は海外での演奏経験を積まれ、更なる飛躍を目差されん事を祈ります。

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