
【日時】2026.2.1.(日) 14:00〜
【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール
【管弦楽】東京交響楽団
【指揮】川瀬賢太郎
〈Profile〉
東京都出身。国分寺市立第一中学校、私立八王子高等学校芸術コース、東京音楽大学音楽学部音楽学科作曲指揮専攻(指揮)卒業。ピアノ及びスコアリーディングを島田玲子、指揮を広上淳一、汐澤安彦、チョン・ミョンフン、アーリル・レンメライトに師事。
2014年から2022年まで神奈川フィルハーモニー管弦楽団 常任指揮者、2018年からオーケストラ・アンサンブル金沢 パーマネント・ゲストコンダクター(2022年からパーマネント・コンダクター[2])、2019年から名古屋フィルハーモニー交響楽団 正揮者(2023年から音楽監督[3])、2022年から札幌交響楽団正指揮者[4] を務める。三重県いなべ市親善大使。
【独奏】牛田智大(ピアノ)
〈Profile〉
福島県いわき市生まれ、愛知県名古屋市育ち。生後間もなく父親の転勤により、家族と共に上海に転居する。1歳の頃から電子ピアノをおもちゃ代わりのように遊んでいたが、3歳の時に郎朗やユンディ・リの演奏を収録したDVDを鑑賞して夢中になり、本格的にピアノを始める。幼稚園の時に父親からピアニストになる目標に対して一度は反対されたが、「自分の人生なので、自分で決めさせて欲しい」と父親を説得した。
小学校入学時に帰国して愛知県名古屋市に転居し、名古屋市立笹島小学校を卒業した。
モスクワ音楽院ジュニアカレッジで、ユーリ・スレサレフ (en:Yuri Slesarev) 、アレクサンドル・ヴェルシーニン、アルチョム・アガジャーノフ等に師事。
2012年(平成24年)3月、日本人クラシックピアニストとしては史上最年少の12歳でユニバーサルクラシックスより、デビューアルバム『愛の夢』を発表し人気を得る。同年7月、東京オペラシティにおいてデビューリサイタルを行う。以後、日本各地で精力的にコンサートを実施。当初リサイタルではプーランクの曲と中華人民共和国の作曲家である汪立三 (de:Wang Li-san) の曲を気に入り必ず演奏していた。2013年(平成25年)9月からはショパンとリストの作品を中心にリサイタルを行う。
2014年(平成26年)、シュテファン・ヴラダー指揮によるウィーン室内管弦楽団との公演で自身初となる海外音楽家との共演を果たす[14]。2015年(平成27年)にはミハイル・プレトニョフの指揮によるロシア・ナショナル管弦楽団と、2018年(平成30年)にはヤツェク・カスプシクの指揮によるワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団との日本公演を行う。2019年(令和元年)にブリュッセルピアノフェスティバルに招待され、演奏会を行う。
作曲も行い、2012年(平成24年)秋に国立新美術館で開催された「リヒテンシュタイン展」のテーマ曲を担当。
『音楽の友』2022年12月号では、読者アンケート「あなたのもっともすきなショパン演奏家」で第1位に選ばれた。
【曲⽬】
①モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲 K.492
(曲について)
この曲は、1786年にウィーンで初演された同名オペラの冒頭を飾る、約4分間の軽快で華やかな管弦楽曲。ソナタ形式で構成され、快速なテンポとザワザワするような第1主題が物語の「狂った一日」の幕開けを告げる、コンサートのオープニングやアンコールで非常に人気のある名曲です。
②モーツァルト:ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調 K.537「戴冠式」
(曲について)
モーツァルは生涯でおよそま30曲もの鍵盤協奏曲を書きました。名声を得、生計を立てるために、自身をソリストとした華やかな作品が必要だったからです。
そこでモーツァルトはかなり即興を交えて弾いていたようです。独奏パートの楽譜はメモ書きに近く、左手に至っては空欄であることもありました。こうした箇所はほかの音楽家に演奏を託す場合や、楽譜の出版をきっかけに整理されていましたが、1788年という晩年に書かれた本作はその機会を逸し、完全な姿はモーツァルトの頭の中に残されたまま失われてしまいました。モーツァルトの没後、妻コンスタンツェから大量の自筆譜を購入したドイツのJ.A.アンドレはこうした空白を補筆して出版しました。現在流通している「戴冠式」の楽譜はすべて、このアンドレの補筆をもとにしています。
「戴冠式」という愛称は、神聖ローマ皇帝レオポルト2世の戴冠式にあわせて開かれたコンサートで演奏されたことに由来しています。ウィーンで人気がかげりはじめていたモーツァルトは借金をしてまでフランクフルトに赴き、本作を演奏して挽回を期しました。しかし結果は芳しくなく、しだいに困窮がすすみ、厳しい晩年へと向かっていくのです。
現在この曲は「ピアノ協奏曲」として知られていますが、当時モーツァルトが弾いていたのはクラヴィーアという楽器です。ピアノの祖先にあたるこの楽器は現在のピアノより鍵盤数が少なく、音も小さいシンプルな楽器でした。かたや本作のオーケストラはティンパニと複数の管楽器を含む重厚なもの。モーツァルトは巧みにバランスを調節し、この難しい取り合わせを実現しています。星がまたたくような鍵盤の音色は、オーケストラのふくよかな背景によってますます趣を深めるのです。
③メンデルスゾーン:交響曲 第4番 イ長調 op.90 「イタリア」
(曲について)
イタリア旅行中に書き始められ、作曲開始当初メンデルスゾーン自身が家族の手紙に『交響曲「イタリア」』と説明していたことからその愛称で呼ばれるこの曲は、躍動的なリズム、叙情と熱狂、長調と短調の交錯による明暗の表出が特徴的で、メンデルスゾーンの交響曲の中でももっとも親しまれている。長調で始まり、同主短調で終わる、多楽章の大規模な作品である(ブラームスの『ピアノ三重奏曲第1番』とバーバーの『ヴァイオリン協奏曲』に他の例を認めることができる)。最終楽章にイタリアの舞曲であるサルタレッロが取り入れられているが、これ以外には具体的にイタリアの音楽を素材としてはおらず、標題音楽的な要素も認められない。
【演奏の模様】
①モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲 K.492
〇楽器編成: フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、二管編成弦5部10型(10-8-6-4-2)
〇曲構成:第1主題→第2主題→展開部 再現部→コーダ
1.第1主題:16分音符の細かいざわめきッポイ調べが、弦の刻み奏と木管で奏でられ、すぐ全楽全奏に突入しましたが、最初の立ち上がりのアンサンブルに僅かな乱れを感じました(繰り返し部は問題なし)。
2.第2主題:第1バイオリンとファゴットが掛け合う明るい旋律。Fg.の出番は比較的短いですが、ユーモラスな音で弦楽奏に合いの手を入れていました。
3.展開部・再現部・コーダ: 短く、急速に再現部を経て、華やかに全楽全奏で締めくくられました。短いソナタ形式。
この曲は、指揮者もオーケストラもこれまで何回も演奏する機会があったでしょうから、謂わば手うちの曲、若干の切れ味不足感は有りましたが、軽快に指揮者の牽引に従う東響の演奏でした。この曲らしさは十分伝わって来ました。
②モーツァルト:ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調 K.537「戴冠式」
〇楽器編成:
| 木管 | 金管 | 打 | 弦 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Fl. | 1 | Hr. | 2 | Timp. | 1 | Vn.1 | 12 |
| Ob. | 2 | Trp. | 2 | 他 | Vn.2 | 10 | |
| Cl. | Trb. | 2 | Va. | 8 | |||
| Fg. | 2 | 他 | Vc. | 6 | |||
| 他 | Cb. | 4 | |||||
〇全三楽章構成
第1楽章 Allegroニ長調、4分の4拍子、協奏風ソナタ形式。
展開部では、主題提示部の小結尾の動機が執拗に展開される。
第2楽章 Largett イ長調、2分の2拍子(ア・ラ・ブレーヴェ)三部形式
第3楽章 Allegretto ニ長調、4分の2拍子、
ロンド形式
牛田さんの生演奏の実演を聴くのも久し振りです。(ショパンコンクールの録画は何回か拝見しました)2022年3月にタケミツホールで、allショパンプログラムを聴いて以来です。今回はショパン以上に世に知られていると思われるモーツァルトのピアノコンチェルト『戴冠式』でした。
第1楽章、如何にもモーツァルトらしい弦楽アンサンブルが比較的低音域で鳴り出し徐々にせり上がり、次第に強奏オケへと導火され、さらに弦楽に混じった管の美しいモツ節が響くと、暫し待機していた牛田さんは、おもむろにピアノの鍵盤をはじき始めました。左右のフガート的進行もスムーズ、鍵盤の良く見える階上の席だったので、指使いが手に取る様に見えます。鍵盤を上下する指使いも慣れたもの、上行下行を繰り返し、転調フレーズもスムーズに柔らかそうな指で鍵盤をなぞり、これといった欠点は見当たらない完璧に近い運指です。オケもピアノに合わせるというか、指揮者がピアノの音を瞬時に把握しオケ音との調節をしていた感じでした(勿論何回か練習はしているのでしょうから、ソリストとオケの間にはテンポ、タイミングの調整がある程度終了していたのでしょうけれど)。牛田さんは見た限りでは感情的にならず、どちらかと言うと淡々と弾いている様に見えました。やがてカデンツアに達し、何事も万全進行と言った風にスムーズに楽章を終えたのでした。この立ち上がりの楽章を聴いた限りでは、特に可不可の明瞭な処は顕在化しませんでしたが、欲を言えば、もう少し覇気のある演奏が欲しい気もしました。
第2楽章に入り、ゆったりとしたテンポで牛田さんは、前楽章の速いパッセジよりも際立って異なる淡々とした運指でピアノをなぞり、追う様にオケが同旋律でfollowします。この楽章では、牛田さんは待ってましたとばかり心を込めて、いかにも得意な演奏が出来ることを喜ばし気に弾いていたのが印象的でした。こうした遅い心に滲みる演奏が彼に合っているのかも知れない。第1楽章では感じなかった素晴らしさも感じた演奏でした。気のせいか、最初より随分と堂々とした姿に見えました。
最終楽章、非常に軽やかなテンポで、速い高音の下部が、牛田さんの指間から迸り出ました。オケが同旋律でfollow、この楽章に入り牛田さんの力は全開と言った感じで、川瀬・東響は良く合いの手を的確に合わせ、ソリストの音を大切にしていてお邪魔虫にならない様気を使っていた感じでした。木管、中でもFl.が少し弱い様な気もしましたが。Cb.は低音部をしっかりと押さえて全体的に重量感を与え、Timp.も良く指揮者の意図を正確につかんで、オケの牽引役になる場面も有りました。
終盤となり、かなり高速のPf.パッセッジを指がもたつくことも無くコロコロ音を立てるソリスト、中でも左手がクロスして立てた高音の跳躍音がピシッと決まって心地が良く、最終的に疾走の勢いを保ったまま、オケと共に最終ゴールのテープを切ったのでした。
今回のピアノ演奏を振り返ってみると、牛田さんのピアノ演奏は、やはり優等生タイプ、「良く出来ました」の感は強いのですが、何かもう一つさらに効かせて貰いたかったという渇望感が残りました。それは何かなと考えましたが、うまく表現出来ません。多分上記した「覇気」かな?いや「アピール心」?いや「心のぶち撒け」?
何か聴く者の頭をガツーンと殴る様な衝撃が欲しいのかも知れません、単なる個人的気持ちとしては。
処で、このモツの「戴冠式」、ネットで見ていたら、 2006.年12月24日のモスクワ、クリスマスコンサートで初めて海外オーケストラデビューを果たした小林愛実さんの動画が目に留まりました。幼い姿で果敢にピアノに挑む彼女は、何と12歳だと言います。完璧な素晴らしいタッチでこの曲を弾きこなし、大きな拍手を浴びていました。将に天才少女。幼くして天分を発揮することに於いて、牛田さんも負けていません。経歴を見ると、2012年に12歳でタケミツホールでデビューリサイタルをしたというのですから。我が国にも幼い時から才能を発揮するピアニストが、何と多くいる事か!!これまた国内、海外ピアノコンクールに挑戦する若者が何と多いことか!! 3歳位からピアノを習い始める幼児が何と多いことか!!日本には何と多くのピアノ教室がある事よ!
こうした現象は日本国内の特有なものではない筈です、他国の状況は分りませんが。ただ言えることは「恒産なくして恒心なし」、国の繁栄無くして、人々、殊に音楽学徒の気持ちの安らぎと進歩は難しいでしょう。戦禍に見舞われている国家には安寧は無理でしょうし、音楽の才能が伸びる余地も皆無に近いでしょう。国力が衰えて来たとよく言われる我が国では、今後小さな芽の伸長はどうなるか分かりません。
会場の大きな拍手に応えて牛田さんは、アンコール演奏を行いました。
《アンコール曲》
シューマン『子供の情景から〈トロイ・メライ〉』
かってホロビッツがモスクワに何十年か振りで帰国してリサイタルを行った時、アンコールで弾いた曲もこの曲でした。聴衆の一人が、この「トロイメライ」を聴いて、頬に一縷の涙を垂れた瞬間をテレビ映像が捉えて話題となっていました。
牛田さんのアンコール演奏は、ホロビッツ程ではなかったですが、何かジーンとする響きを有していました。

③メンデルスゾーン:交響曲 第4番 イ長調 op.90 「イタリア」
この曲は豊かな銀行家の子息だったメンデルスゾーンが、当時の欧州の一種の流行とも言える他国を周遊して回り、見分を広める旅行でイタリアを旅した印象などを織り込んで作曲した交響曲です。全体的に喜々とした明るさに満ちた音楽です。
〇楽器編成:フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、二管編成弦楽五部12型
第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ - ピウ・アニマート・ポコ・ア・ポコ
第3楽章 コン・モート・モデラート
時間の関係で、少し飛ばして記録します。
第1楽章冒頭のVn.主題アンサンブルはOKでした。Fg. Hrn.の合いの手の音もOK。全オケのテーマの総奏もOK。Ob.のソロ音、やや控えめでした。Vn.アンサンブル主導の曲の感が有り。次、Hrn,とCl.の合いの手やや弱いか?繰り返されるテーマ奏。Cb.の弓奏でもPizzicato奏に負けないくらいのボンボンと下地を守る音がしました。
第2楽章の特徴として民謡調が聞こえたこと。初盤Vn.と木琴の強奏音が続きVn.アンサン(に掛け合うFl.は殆ど聞こえず、)は、短調の哀切を帯びた調べ。
第3楽章冒頭流麗な調べが穏やかに弦楽奏中心で演奏され、これはいい調べ。民族舞曲的調が印象的な箇所も。
第4楽章、これまた舞曲的調べが激しい管弦楽の演奏で迸しり出て、激しさが一旦
収まるが、再度繰り返された。聴き慣れない速い軽快な三連符の連続で、踊る舞曲とは如何なるものぞ?実際ローマ近郊でメンデルスゾーンが見聞きした舞踊だったのかも知れません。
この曲は今まで何回かは聞いていますが、今回の川瀬・東響の演奏を聴いて、これまでに無い明るさと楽しさを感じる「イタリア」の演奏だったので、この曲がかなり好きになりかかっています。聴きに来て良かった。
