◉最後の来日ツアー!アンネ・ゾフィー・フォン・オッターがクリスマスを歌うスペシャルな一夜

【日時】2025.12.4.(木)19:00〜(21:00終演予定)
【会場】横浜市青葉区フィリアホール
【出演】アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(メゾソプラノ)
〈Profile〉
CD時代を代表する我らのスター・メゾ、クリスマス・ソングを歌う10年振りの来日公演!
ストックホルムで生まれ、ロンドンで学んだメゾ・ソプラノ、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(1955-)は、1982年にハイドンの歌劇「騎士オルランド」のアルチーナ役でオペラ・デビュー(パーゼル歌劇場)を果たし、「フィガロの結婚」のケルビーノなど〈ズボン役〉で各国の一流オペラ・ハウスを席巻し、瞬く間にスター歌手となる。日本でも〈伝説〉となった、ウィーン国立歌劇場の1994年引っ越し公演におけるカルロス・クライバー指揮の「ばらの騎士」(オクタヴィアン役)で輝かしい歌声とエレガントな舞台姿を披露し、その人気を決定付けた。幅広いレパートリーを持ち、リサイタルでも世界中で活躍してきたのは言うまでもないが、やはり〈タワレコ的〉にはこれまでの40年以上にわたるキャリアの中で築き上げられた、比類なき豊潤なアルバム・カタログに注目しないわけにはいかない。もちろんオペラ/オラトリオの全曲盤や宗教曲も素晴らしいが、とりわけ『ヴォルフ&マーラー歌曲集』(1989年)や『ブラームス歌曲集』(1991年)に始まり、1993年の『グリーグ歌曲集』で早くも最初の決定的名盤を輩出してしまうソロ・アルバムの充実ぶりで(奇しくも同じメゾであるチェチーリア・バルトリと並んで)他のオペラ歌手を圧倒している。〈王道〉ドイツ・リートやクルト・ヴァイル作品からフランス歌曲にコルンゴルト、女流作曲家シャミナードや故郷スウェーデンの歌曲といった知られざる分野まで、CD時代を通じて彼女が残した名録音は数知れず。しかもエルヴィス・コステロとコラボした『フォー・ザ・スターズ』(2001年)や同郷のABBAのナンバーを集めた『ザ・ウィナー シングス・アバ』(2006年)、ジャズ・ピアノ界の雄ブラッド・メルドーとの『ラヴ・ソングス』(2011年)、歌曲とシャンソンの2枚組『Douce France』(2013年)……と、そのディスコグラフィーはジャンルを超えて拡大していったのだった。そんなフォン・オッターも今年70歳。これが最後の日本ツアーかもしれないという12月の来日公演のために彼女が選んだのはクリスマス・ソング。クラシック曲を中心としたプログラムだが、スティングがJ. S. バッハの無伴奏チェロ組曲第6番“サラバンド”をカヴァーした“You Only Cross My Mind In Winter”やスタンダード・ナンバー、99年リリースの名盤『北欧のクリスマス』冒頭を飾った讃美歌調のフォーク・ポップ・ソング“コッポンゲン”など盛り沢山。 〈TOWER RECORDS 評 より〉
(追記)1994年10月カルロス・クライバ-指揮/ウィ-ン国立歌劇場『ばらの騎士』来日公演のオクタヴィアン役は伝説的歌唱(文末《hukkats注》参照)。
ギター◎ファビアン・フレドリクソン

〈Profile〉
1991年生まれのスウェーデンのソングライター、プロデューサー、ギタリスト。音楽プロデュースおよびソングライターの学校であ sikmakarnaを卒業。
アンネ・ゾフィー・フォン・オッターの録音には、グラミー賞を受賞したCD 「Douce France」や、2018年にリリースされた「A le Song)に、ベンクト・フォルスベルクのピアノとともに参加している。アンネ・ゾフィー・フォン・オッターとレイフ・ケ -=リドストロムとの演奏で、ナーンタリ (スウェーデン)、ノイハーデンベルク (ドイツ)、パレルモのマッシモ劇場などで実やフェスティバルに定期的に参加している。
ピアノ◎クリストフ・ベルナー

〈Profile〉
1995年ベーゼンドルファー・ピアノコンクール優勝をはじめ、ベートーヴェン国際ピアノコンクール第2位、ゲザ・アンダ国際ピアノコンクールでモーツァルト賞およびシューマン賞受賞など、オーストリアを代表するピアニストとして確固たる地位を築いている。世界的なオーケストラにソリストとして出演を重ねるほか、室内楽においても優れた音楽家たちと共演している。また歌曲の分野でも深い造詣を示し、特にテノール歌手ヴェルナー・ギューラとは、数々の国際音楽祭への出演やハルモニア・ムンディからリリースされた録音で高い評価を受けている。2014年からチューリッヒ芸術大学でリート解釈および室内楽の教授をつとめている。
【曲目】《クリスマス歌曲》》
プログラムProgramme ★…歌 □…ピアノ △…ギター
①シューベルト『冬の夕べ D938』 ★□
②ヴォルフ『 ああ、御子の瞳は/この棕櫚の樹々のあたりに』 ★□
③ー1ブラームス『「6つの小品」より ロマンス Op.118-5』□
③ー2ブラームス『5つのリートより 子守歌 Op.49-4』★□△
④シューベルト『冬の歌 D401』 ★△
⑤ー1コルネリウス『クリスマスの歌より 4.シメオン 3.賢王たち』★□
⑥シューベルト『楽興の時 D780より 第3番』 □
⑦フォーレ『ノエル Op.43-1』 ★□
⑧ラヴェル『おもちゃのクリスマス』 ★□
⑨ー1ペルト『アリーナのために (ピアノ・ソロ)』 □
⑨ー2ペルト『クリスマスの子守歌』 ★△
⑩レーガー『聖母マリアの子守歌』 ★□△
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⑪ノルドクヴィスト『クリスマス、クリスマス、栄光のクリスマス』 ★□
⑫ー1シベリウス『我に華やぎを与え給うな、黄金も、栄光も Op.1-4』★□
⑫ー2『今クリスマスがやってくる Op.1-2』★□△
⑬イザーク『今や全地は安らかに憩い』 ★△
⑭グルーバー『きよしこの夜★□△
⑮パーセル『ザ・コールド・ソング(歌劇「アーサー王」より)』★□△
⑯J.S.バッハ『フランス組曲 第5番 ト長調 BWV816 より サラバンド』 □
⑰J.S.バッハ/スティング『You only cross my mind in Winter(J.S.バッハによる)』 ★□△
⑱アンダーソン『Little things★△
⑲バーリン『恋に寒さを忘れて』 ★□△
⑳W.ケント『クリスマスを我が家で』 ★□△
㉑P-E.モラエウス『コッポンゲン』 ★□△
【演奏の模様】
メゾソプラノの世界的歌姫だった(現在もか)オッターの今回の来日演奏は、上記彼女の<Profile>にもある様に10年振りで、恐らく最後の来日公演となるであろうという事なので、これは聞き逃せないと思い(上さんの病気の状態も投薬等のお陰で安定期に入って来たことも有り)、同じ横浜の会場でも少しアクセスは遠いのですが、青葉区民文化センター(フィリアホール)まで足を延ばしました。
今回のプログラムは、全部で21曲という意欲的なもので、時節柄クリスマスに因んだ曲が殆どだったので、自分としては、オペラのアリアも少し入れて欲しかった気がしました。
伴奏はピアノとギター、両者のソロ演奏も少し有りました。
各論としては、強い印象を与えた曲及び目立った点があった曲を見て行きたいと思います。
先ず最初の曲①が、オッターの声の想像以上の強さと声量のある声で、堂々と歌い始めたのには驚きでした。発声の安定さ、節回しの上手さ、将に超一流の証しを感じました。今年古希を迎えた歌手とはとても思えない歌い振りでした。この様に歌う歌手は、近年の日本の声楽界では、滅多にお目にかかれません。
①Der Winterabent
Es ist so still,so heimlich um mich.
Die Sonn ist unten,der Tag entwich.
Wie schnell nun heran der Abend graut.
Mir ist es recht,sonst ist mir's zu laut.
Jetzt aber ist's ruhig,es hämmert kein Schmied,
Kein Klempner,das Volk verlief,und ist müd.
Und selbst,daß nicht rassle der Wagen Lauf,
Zog Decken der Schnee durch die Gassen auf.
Wie tut mir so wohl der selige Frieden!
Da sitz ich im Dunkel,ganz abgeschieden.
So ganz für mich. Nur der Mondenschein
Kommt leise zu mir ins Gemach.
Er kennt mich schon
Und läßt mich schweigen.
Nimmt nur seine Arbeit,die Spindel,das Gold,
Und spinnet stille,webt,und lächelt hold,
Und hängt dann sein schimmerndes Schleiertuch
Ringsum an Gerät und Wänden aus.
Ist gar ein stiller,ein lieber Besuch,
Macht mir gar keine Unruh im Haus.
Will er bleiben,so hat er Ort,
Freut's ihn nimmer,so geht er fort.
Ich sitze dann stumm in Fenster gern,
Und schaue hinauf in Gewölk und Stern.
Denke zurück,ach weit,gar weit,
In eine schöne,verschwundne Zeit.
Denk an sie,an das Glück der Minne,
Seufze still und sinne,und sinne.
とても静かだ とてもひそやかだ 私のまわりは
太陽が沈み 一日は終わった
何とすばやく夕暮れは灰色になっていくのだろう
私にこいつはいい具合だ
でないとあたりは騒がしすぎるのだ
だけど今は静かだ 鍛冶屋のハンマーの音もなく
板金屋もなく 人々は姿を消した 疲れきって
その上 馬車の走る音も響かぬようにと
雪の覆いが路面に敷き詰められたのだ
何という聖なる安らぎが私にもたらされたことか!
私は暗闇の中に座っている 他人から離れ
全くの一人ぼっちで ただ月の光だけが
そっと私の部屋の中に入ってくる
光は私を知っていて
私を沈黙させたまま
自分の仕事をするのだ 紡ぎ器と金とで
静かに糸を紡ぎ 織り 優しく微笑む
それからそのきらめく布をかける
あたりの家具や 壁の上に
全く静かで 好ましい訪問は
私には何の邪魔にもならない
この家の中で
留まりたいと思えば 光には居場所があるし
いたくないと思えば いなくなるだけだ
私は黙って窓辺に心地よく座り
そして見上げるのだ 雲や星たちを
思い返す ああ遠い はるか遠い
あの美しかった 過ぎ去った昔のことを
あのことを思い返す あの愛の幸せのことを
静かにため息をつき 思いに耽る 耽るのだ
この曲は、有名な「冬の旅」の中の曲ではなく、オーストリアの詩人ライトナー (Karl Gottfried von Leitner,1800-1890)の詩に、シューベルト(Franz Peter Schubert,1797-1828)に死が近づいた時期の1827年に作曲されたものです。従ってドイチュ番号がD911と大きい数字となっています。(最後のピアノソナタはD960台)シューベルが冬もとても好きだったのはその凛とした輝きの中に冷たい神々さを感じ安らぎを覚えたからでしょうか。この歌では冬の日、窓から差し込む月の光の事を歌っています。
月の光と言えば、話題は飛びますが、昨日12月5日(金)は日本では今年最後の満月の日、しかも月の光が特に明るく見える今年二回目の「スーパームーン」でした。「コールドムーン」とも言うそうです。それで窓を開けて空を見上げたら、雲一つない夜空に確かに大きく輝く「スーパームーン」が見えました。このことを知っていてオッターさんはトップバッターの曲に選曲したのでしょうか?
②は歌曲でも有名なヴォルフの二曲です。聴いているといい曲なのですが、シューベルトと似た様な調子で歌われ、これだけではヴォルフの特徴は分りませんでした。
ただ、②ー2のDie ihr schwebet (この棕櫚の木のあたりで)「浮かぶ天使よ」の最後の歌詞 ❝ Grimmige Kälte Sauset hernieder, Womit nur deck ich Des Kindleins Glieder! O all ihr Engel, Die ihr geflügelt Wandelt im Wind, Stillet die Wipfel! Es schlummert mein kind.❞の辺りは、かなり声を張り上げて歌っていました。「天使さん、うちの子が寝ています。棕櫚の木の頂上が風で唸声を上げるのをストップさせて!!」と叫ぶ様に。
③はブラームスです。③ー1はピアノ独奏、③ー2はこれまた世界的に超有名な子守歌でした。
③ー1ブラームス『ロマンス』はクリストフ・ベルナーのピアノ演奏。大学の先生ですから、それは一流のピアノ演奏だったのですが、第2パッセッジの速い修飾音の発音は先ず先ずであっても、ディナミークに更なる工夫の要と終盤の短調から長調への変化の箇所の演奏も含めて、全体として単調な一定テンポに近く、もっとアゴーギグを効かせて立体的な演奏を聴きたかったです。それだけブラームスのピアノ曲は根源的に素晴らしさを内在しているのですから。
③ー2は、「ブラームスの子守歌」として人口に膾炙しています。フリードリッヒ・フォン・シラーの詩に作曲されました。
Guten Abend,gut Nacht,
Mit Rosen bedacht,
Mit Näglein besteckt,
Schlupf unter die Deck':
Morgen früh,wenn Gott will,
Wirst du wieder geweckt.
Guten Abend,gut Nacht,
Von Englein bewacht,
Die zeigen im Traum
Dir Christkindleins Baum:
Schlaf nun selig und süß,
Schau im Traum's Paradies.
おやすみ、おやすみ、
贈り物のバラと、
ナデシコを飾ったから
ふとんの中にもぐりこんでね。
明日の朝、神様がお望みになって、
またお目々が覚めるでしょう。
おやすみ、おやすみ、
天使たちに見守られながら。
天使たちは夢の中で
あなたにクリスマスツリーを見せてくれるよ。
さあ、しあわせな甘い眠りにつきましょうね、
天国の夢を見ていらっしゃい。
ここまでで最もクリスマスらしい歌が出ました。
子を寝かし付ける母親の優しさが滲み出た曲です。歌の方は、かなりの柔らかを感じました。1番はギター伴奏で、2番はギターにPf.伴奏が入りました。ギターは音量が小さいためか、電気的に拡大してスピーカーを通していましたが、時々ギターから出るキーキーという金属音が気になりました。
膨大な数の演奏曲目だったので、すべて記する訳にはいかないので、先を急ぎます。
ピアノ独奏はその他3曲有りました。
⑥シューベルト『楽興の時 D780より 第3番』
⑨ー1ペルト『アリーナのために (ピアノ・ソロ)』 □
⑯J.S.バッハ『フランス組曲 第5番 ト長調 BWV816 より サラバンド』 □
⑥はNHKラジオ音楽番組「音楽の泉」のテーマソングで日本ではよく知られた曲です。演奏はややもたつく時がありました。
今回の四曲のピアノ独奏の中では、⑯のバッハが最もよく弾けた曲だと思いました。
一方、ギター伴奏は珍しいのですが、独奏は有りませんでした。ただどの曲だったか記憶が明確でないのですけれど、ギタリストがオッターの歌唱に合わせて小さい声で重唱的に歌っていた部分が有り、良く女声と男声がハモッて綺麗な歌振りになっていたのは印象的でした。
ピアノとギター両方が伴奏する際は、どちらかが先行して次に別な楽器が伴奏する時が多く、両者一緒の伴奏だと(ギター音が拡大機を使っても)やはりPf.の陰げにギターの音が隠れてしまうことが有りました。
それからオッターさんはやはり北欧出身ということがあって、ドイツ語の歌の発音はかなりしっかりしていたと思いましたが、仏語の歌、⑦フォーレ『ノエル Op.43-1』や⑧ラヴェル『おもちゃのクリスマス』になると、明確なフランス語の特徴的発音が聞こえて来ませんでした。矢張り仏語は難しい?それから英語の歌も有りました。後半でマイクを持ったオッターさんは英語でトークした時は綺麗な分かり易い英語だったのですが、どういう訳か⑰S.バッハ/スティング『You only cross my mind in Winter(J.S.バッハによる)』 の英語の歌は、日本語でよく❝滑舌が良くない❞と言うあの感じ、明確なキレの良い英語、は聞こえて来ませんでした。
また同⑰の演奏が、⑯のピアノ独奏が完全に終わって少し余韻を感じてからのスタートでなく、⑯がまだ演奏中にピアノの右後方に待機(袖には戻らず舞台上で椅子に座って待機していました)していた歌手が前に進み出て、すぐに歌ったのは、時間的に急いでいたからでしょうか?少し違和感を感じました。
尤も終盤はマイクを握って、同じスウェーデン出身のかって一世を風靡したボーカルグループABBAの歌や、ジャズ風の曲やらを何曲も歌い、更にはアンコールを二曲歌うなど、かなり時間をかけて演奏したので、時間的には14h開演で既に2時間は過ぎ様としていたため密度が濃すぎたのかも知れません。
それでも個人的には、オペラのアリアも出来ればアンコールで聴きたかった気もしたり、聞き手の気持ちが欲張り過ぎるのかも知れません。
《アンコール曲》
①ロン・セクスミス『Maybe this Chrirmas』
②ミュージカル『The Fantastics』より「Try to remember」


///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////《hukkats 注》
吉田秀和 評その1: 1994年伝説的名演!《ばらの騎士》K・クライバ-指揮ウィ-ン国立歌劇場
1994年10月公演日 東京文化会館(10/7、10/10、10/12、10/15、10/18、10/20)
論評対象公演の日時記載なし(1994年10月24日夕刊記事による)
R・シュトラウス作曲『ばらの騎士』全3幕
論評タイトル:語りの名手 ”クライバ-の「ばらの騎士」あでやかでつややかな響き”
この秋のウィ-ン国立歌劇場の東京公演はりっぱな出来栄えだった。
かつてのNHK招聘(しょうへい)のイタリア・オペラ、日生劇場のベルリン・ドイツ・オペラと並んで、このあと長らく、ことあるたびに思い出されるものになろう。
いちばん感心したのは《ばらの騎士》。
中でもクライバ-指揮のオーケストラの響き。
そのあでやかな艶(つや)やかな美しさはたとえようのないものだった。
彼の棒の下で、音楽は大きく歌い、陽気に笑い、浮かれたり踊ったりしただけではなく小声で囁き(ささやき)、涙ぐみながら口ごもり、二人の女の間でどうしたらいいかわからずまごまごする若僧に同情したり、からかったり・・・・クライバ-がオーケストラによる語りの名手であることを、今度こそありったけ披露してみせたのが、この《ばらの騎士》だったといっていい。
かつてカラヤンはオーケストラに言葉「つまり歌手」と肩を並べて進むことをきびしく仕込んだといわれるが、クライバ-も同じことをやった揚げ句、言葉に先立って誘導したり、言葉にならないものを暗示したり仄めかし(ほのめかし)たりしていた。
私も長いこと音楽をきいて感想を筆にする仕事をしてきたが、「入神の技」などいう言葉が使いたくなったのはこれがはじめてである。
また、これがみんなスコアに書いてあったのを考えると
――このごろ、また、シュトラウス二流オペラ作家説を目にするけれど――
やっぱり、私は同意できない。
クライバ-がこれだけのことをやってみせられるのもオケがとびきり優秀だからであり、絵に描いたように美しい《ばらの騎士》になったのは揃って(そろって)美声の歌手が並び、常識的だけれど、何の無理もなく、そうあるべき姿が生まれるような演出があったからである。
第1幕の幕切れ、真っ青に抜けた秋空のように澄んだ音で高く高く上がっていったヴァイオリンのピアニッシモ、第2幕のオクタヴィアンの登場の折の――シュトラウスのお得意の3度転調を大々的に使っての――あの華々しい音の回転。
それまでたわいもないざわめきがぴたりとやんで、舞台の全体が銀色に輝き、「ペルシアのバラ」の甘美な香りに包まれたようなものに変わる時の、豊饒(ほうじょう)な響き。
あれもウィーン国立歌劇場管弦楽団ならではのものに違いない。
そういえば、同じ第2幕の幕切れのオックスのワルツ、第3幕での金管のおどけ、こういうものはみんな、オーケストラはもちろん、私たちだってさんざんきいてきたものなのに、今度の舞台は、「こんなに鮮やかな生き生きした音楽としてきいた覚えはなかった」というものになっていた。
オクタヴィアンのフォン・オッタ-の美声と、優等生といってもいい、きちっりした歌い方に比べて、ゾフィ-役のボニ-は同じく美声であっても、少し子音が弱く、ことにフレ-ズの最後の音を呑(の)みこむようにする癖が気になったけれど、二人の声の質は違っていて、しかも、よく調和していた。
元帥夫人はロット。これまで、どちらかというと太り肉(じし)の歌手で見馴(な)れた目に、この細面のイギリス女性は清楚(せいそ)で、ほとんど知的といってもいいようなタイプで、おもしろかった。
それに彼女のは、声をきかすのではなく、きき手に語りかけ、歌の温かみで包みこむといった行き方なのだ。
クルト・モルが当代随一のオックス男爵であるのは周知のこと。
女好きでケチで、野趣芬々(ふんぷん)としていながら、エチケットの心得もある。
怪物では全然なくて人間味が横溢(おういつ)している点で、彼はファルスタッフと好一組。
指揮:カルロス・クライバ-
演出:オット-・シェンク
ヴェルデンベルク公爵夫人:フェリシティ・オット
オックス男爵:クルト・モル
オクタヴィアン:アンネ・ゾフィ-・フォン・オッタ-
ファ-ニナル:ゴットフリ-ト・ホルニック
ゾフィ-:バーバラ・ボニ-
歌手:キース・イカイア・バーディ
他
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団