HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

《オペラ速報》ウィーン国立歌劇場『ばらの騎士』初日を観る

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◉元帥夫人マリアンデル役 カミラ・ニーランド、立上りこそハンキーの若さに押されるも、 〈私もまたひとりの娘のことを思い出す〉では、絶妙なピアニッシモで歌い、しっとり歌い切る。成熟Sop.の貫禄十分。

◉オクタヴィアン役ハンキー、立上りから、堂々とズボン役に徹した元気な歌唱、声に張りも強さも有り。三幕のマリアンデルに扮しての擬声の歌も滑稽さが出ていました。

◉ オクタヴィアン 役のハンキーのアリア、全体的に迫真に迫る強さがあったが、僅かに不安な箇所も。

◉ オックス男爵役のピータ・ローズ、歌唱は十分なバスの迫力声を発揮するも、出番が多いためか、ややお疲れ声の時も。

◉好色なオックス男爵の歌唱に、さらなる演技力(ワルツの踊り等の身のこなし、対面歌手への表情作り、身振り手振りetc.)がつけば、いやらしさが減殺し、どこか憎めない喜劇的キャラをさらに濃厚にしたのでは?

◉  ピータ・ローズ、オックス男爵の存在感は、十二分に発揮。

◉第ニ幕のばらを受け取るゾフィー役カタリナ・コンラディの詠唱の素晴らしさは、前回の「フィガロの結婚」のスザンナ役で、実証済み。その延長線上の歌い振りでした。残念ながら、出番の少ない役柄です。

◉主要歌手ほかの詠唱も大健闘。ここでも層の厚さを感じました。

◉ジョルダン指揮・ウィーン歌劇場管弦楽団の演奏は、第一幕前半では、さらにしっくり感が欲しいと感じた処もあり。後半から、第ニ幕にかけてから、素晴らしい響きとなる。

◉歌手の歌声と一体化したジョルダン・ウィーン歌劇場管弦楽団、特にアリアに管・弦・打の合いの手の 絶妙なタイミング を感じる演奏が素晴らしい。弦以上に管の活躍が、目立ちました。

◉随所に出て来るチェレスタの音は。刺身のツマを食する様な新鮮感あり。

◉各幕に頻繁に出て来るワルツの弦楽奏により、ウィーンの雰囲気を堪能しました。

◉演出は、現代読み替えなし。舞台装置も衣装も場面設営も、やや地味ながら歴史的表現がなされ、雰囲気盛り上げに十分寄与。

◉最高にいい場面は、やはり第三幕の最後の「元帥夫人、オクタヴィアン、ゾフィーの三重唱」かと思って聴き、矢張りと思って間もなく、元帥夫人が場面から去って歌われた「オクタヴィアンとゾフィーの二重唱」が、それ以上の出来映えだったのには、びっくりでした。

◉全体的に振り返ると、「ばらの騎士」のタイトル通り、名実ともオクタヴィアンが題名役に当確でした(若しオックス男爵の更なる大活躍があれば、シュトラウスの旧いタイトル「オックス男爵」に相応しいタイトル・ロールを奪い取ったかも知れませんが)。

 

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【演目】R.シュトラウス『ばらの騎士』

【演出】オットー・シェンック

 

  〈Profile〉

 カトリックの両親の元に生まれる。父親は弁護士であったがユダヤ系であったため、1938年のドイツによるオーストリア併合が原因で失職した。シェンクは、マックス・ラインハルト・ゼミナール英語版で演技を学んだ後、ヨーゼフシュタット劇場英語版及びウィーンのフォルクス劇場英語版で俳優として、ウィーンのカバレット・ジンプルでコメディアンとしてのキャリアを開始する[1]。演出家としての仕事を始めたのは1953年、小さなウィーンの劇場であった。そこでの活動を足掛かりに、ブルク劇場ミュンヘン室内劇場英語版ザルツブルク音楽祭といった著名な劇場で、ウィリアム・シェイクスピアアルトゥル・シュニッツラーエデン・フォン・ホルヴァートアントン・チェーホフの演劇の舞台を手がけるようになる。

 1957年、ザルツブルク州立劇場のモーツァルト作『魔笛』で、シェンクは初めてオペラの演出を行う。オペラ演出家としての飛躍のきっかけになったのが、1962年のアン・デア・ウィーン劇場におけるアルバン・ベルク作『ルルであった。このプロダクションは、後にウィーン国立歌劇場へと場所を移して上演されることになる。シェンクのウィーン国立歌劇場デビューは1964年のレオシュ・ヤナーチェク作『イェヌーファ』であった[2]。 数シーズンにわたり、同歌劇場で常任演出家を務める一方で、シェンクはフリーランスの俳優・コメディアン、演出家として、オーストリア及びドイツの劇場、歌劇場、テレビ用のプロダクションで活躍する。1965年には、オーストリアのテレビ局に起用され、監督としてスターキャストとともにヴェルディの『オテロ』のスタジオ作品の制作に携わった。1970年代から1980年代には、シェンクはスカラ座コヴェント・ガーデンロイヤル・オペラ・ハウスのほか、ドイツのベルリン国立歌劇場バイエルン国立歌劇場ハンブルク州立歌劇場等のドイツの歌劇場と契約し、モーツァルト、ガエターノ・ドニゼッティジュゼッペ・ヴェルディアントニン・ドヴォルザークジャコモ・プッチーニリヒャルト・シュトラウスリヒャルト・ワーグナーエルンスト・クルシェネクフリードリヒ・チェルハといった作曲家らの作品の舞台演出を手がけた。先鋭的な読み替え演出が主流を占めつつあるドイツ圏では保守的にすぎるとの批判を受けることもあったが、『こうもり』や『ばらの騎士』のようにオーソドキシーが生きる演目では高い評価を受け続けた。    アメリカでは、メトロポリタン・オペラにおける、豪華で伝統的かつリアリスティックな舞台で特に知られている。シェンクのプロダクションのうち最も特筆すべきは、リヒャルト・ワーグナーによるオペラ、『ニーベルングの指輪4部作で、伝統を重んじるワーグナーのオペラファンから、真のワーグナーのヴィジョンを反映したプロダクションであるとして喝采を受けた。このメトのプロダクションは2009年に終了した。シェンクのメトロポリタン・オペラデビューはプッチーニの『トスカ』、2006年の最後のプロダクションとして、ドニゼッティ作『ドン・パスクワーレ』を手がけ、アンナ・ネトレプコが出演した。

 シェンクは、30作を超える映画作品に登場している(主としてドイツ映画)。1973年には、アルトゥル・シュニッツラーの戯曲に基づき、映画『輪舞』の監督を務めた(ヘルムート・バーガー、 シドニー・ローム、 センタ・バーガー出演)。2013年現在ウィーンの室内劇場で、リリー・ブレット作『Chuzpe』を舞台化した作品で主演を務めている

 2025年1月9日の朝、イル湖英語版の自宅で死去。94歳であった。

 

【上演】ウィーン国立歌劇場歌劇団

【鑑賞日】初日10/20  15:00〜

【演目】R.シュトラウス『ばらの騎士』全三幕

    (ホフマンスタール作詞 ドイツ語/1911年、ド

     レスデン宮廷歌劇場初演)

【会場】東京文化会館

【公演日時】

第1日目:10月20日(月)15:00~
第2日目:10月22日(水)15:00~
第3日目:10月24日(金)15:00~
第4日目:10月26日(日)14:00~

【上演時間】約 4時間(休憩 2 回を含む)

【演奏・合唱】

  ウィーン国立歌劇場管弦楽団
  ウィーン国立歌劇場舞台上オーケストラ
  ウィーン国立歌劇場合唱団

 

【指揮】

フィリップ・ジョルダン

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 〈Profile〉

    チューリッヒ生まれ。指揮者アルミン・ジョルダンを父に、芸術家一家に育ち、チューリッヒの学校で学んだ。各地の歌劇場で経験を積み、現在では世界の主要なオペラハウス、音楽祭、オーケストラに出演する、現代で最も定評のある重要な指揮者の一人とみなされている。
指揮者としてのキャリアは、ドイツのウルム市立劇場とベルリン国立歌劇場のカペルマイスター(楽長)としてスタートした。 2001年から2004年までグラーツ歌劇場およびグラーツ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務め、この間には、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場、英国ロイヤル・オペラ、ミラノ・スカラ座、バイエルン国立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、バーデン=バーデン祝祭劇場、エクス=アン=プロヴァンス音楽祭、グラインドボーン音楽祭、ザルツブルク音楽祭など、世界有数のオペラハウスや音楽祭にデビューした。2006年から2010年まで、ベルリン国立歌劇場首席客演指揮者。2012年には『パルジファル』でバイロイト音楽祭にデビュー、2017年には同音楽祭で新制作『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を指揮。2009年から2021年までパリ・オペラ座の音楽監督を務め、『モーゼとアロン』、『ファウストの劫罰』、『ばらの騎士』、『サムソンとデリラ』、『ローエングリン』、『ドン・カルロ』(オリジナルのフランス語版)、『トロイアの人々』、『ドン・ジョヴァンニ』、ボロディンの『イーゴリ公』の新制作、ワーグナーの《ニーベルングの指環》演奏会版など数多くの初演や再演を指揮した。2014年から2020年まで、ウィーン交響楽団首席指揮者。
2020年9月ウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任。新制作を含む数多くの作品を上演してきた。2023/24シーズンには、プッチーニの〈三部作〉の新制作を指揮。2021年の『ドン・ジョヴァンニ』、2023年の『フィガロの結婚』、そして2024年の『コジ・ファン・トゥッテ』の新制作によって、「ダ・ポンテ・チクルス」も完了をみた。 

 

【コンマス&首席奏者】

・コンサートマスター:アルベナ・ダナイロヴァ
・第二ヴァイオリン:ルーカス・ストラットマン
・ヴィオラ:クリスティアン・フローン
・チェロ:タマシュ・ヴァルガ
・コントラバス:エーデン・ラーツ
・フルート:ワルター・アウアー
・オーボエ:クレメンス・ホラーク
・クラリネット:グリゴア・ヒンターライター
・ファゴット:ニコロ・セルジ
・ホルン:ヨーゼフ・ライフ
・トランペット: シュテファン・ハイメル
・トロンボーン:ディートマル・キューブルベック
・チューバ: クリストフ・ギグラー
・ティンパニ: アントン・ミッテルマイヤー

 

【登場人物】
元帥夫人(S): 陸軍元帥の妻、貴婦人
オックス男爵(Bs): 好色な田舎貴族
オクタヴィアン(Ms):伯爵家の若き貴公子
ゾフィー(S):オックス男爵の婚約者
ファーニナル(Br):新興貴族、ゾフィーの父

 

【時&場所】18世紀中頃、マリア・テレジア統治下のウィーン

 

【出演】 

◯陸軍元帥ヴェルテンベルク侯爵夫人(マルシャリン)役

カミラ・ニールンド

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 〈Profile〉

 フィンランドのヴァーサ出身。はじめエヴァ・イレスに師事し、その後ザルツブルクのモーツァルテウムでオペラと歌曲を学んだ。ハノーバー歌劇場、ドレスデン国立歌劇場の専属歌手を経て、活躍の場を広げた。これまでにウィーン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座、パリ・バスティーユ、ベルリンとハンブルクの国立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、バイロイト音楽祭とザルツブルク音楽祭、バルセロナ、バレンシア、チューリッヒ、ヘルシンキ、ケルン、フランクフルト、アムステルダム、東京、サンフランシスコなど、世界中の主要なオペラハウスに定期的に出演している。なかでも、バイロイト音楽祭における名声は特筆される。2011年『タンホイザー』のエルザでのデビュー以来、数年にわたり『ワルキューレ』のジークリンデ、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のエヴァとして出演したほか、2022年には『ローエングリン』のエルザで登場した。ウィーン国立歌劇場へのデビューは2005年『サロメ』のタイトルロール。2019年には、ウィーン国立歌劇場との長く成功した芸術的関係を称え、オーストリアの宮廷歌手の称号が贈られている。

 

◯オックス男爵 役

ピーター・ローズ

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 〈Profile〉

    オックス男爵役の“世界的代表”として広く知られている。ウィーン国立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座、英国ロイヤル・オペラなど、世界の主要な劇場で上演された『ばらの騎士』の舞台で、この役を喜劇のように完璧に歌い上げている。その表現力が生かされるレパートリーは幅広く、『後宮からの逃走』のオスミン、『ジークフリート』のファーフナー、『ボリス・ゴドゥノフ』と『ファルスタッフ』のタイトルロール、『ドン・ジョヴァンニ 』の騎士長とレポレッロ、『マクベス 』のバンクォー、『死者の家から 』のゴリャンチコフ、『トリスタンとイゾルデ 』のマルケ王、『ホフマン物語』の 四人の悪役、『フィデリオ 』のロッコなどがある。また、メトロポリタン歌劇場デビューを果たし、特に高い評価を得た『真夏の夜の夢』のボトム役の秀逸さも有名。コンサートでは、クリーブランド管弦楽団やニューヨーク・フィルハーモニックとの共演、カルロス・クライバー、ロリン・マゼール、カルロ・マリア・ジュリーニ、クルト・マズア、ベルナルト・ハイティンク、サイモン・ラトル、ダニエル・バレンボイム、ズービン・メータ、クリスティアン・ティーレマン、ゲオルク・ショルティ、チャールズ・マッケラス、キリル・ペトレンコなどの指揮者と共演している。

 

◯オクタヴィアン 役

サマンサ・ハンキー

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 〈Profile〉

    アメリカ、マサチューセッツ州出身のメゾ・ソプラノ。ジュリアード音楽院で学んだ。オペラリアほか、いくつものコンクールで優れた成績を獲得。2017年にメトロポリタン歌劇場にデビュー。以来、『メフィストーフェレ』のパンタリス、『ラインの黄金』と『神々の黄昏』のヴェルグンデ、マスネ作曲『サンドリヨン』のシャルマン王子、『ばらの騎士』のオクタヴィアン、『ロメオとジュリエット』のステファノなどで出演している。2019年から21年にはバイエルン国立歌劇場と契約し、数々の役で出演したが、そこには2021年のバリー・コスキーによる新演出『ばらの騎士』のオクタヴィアンも含まれている。2023/24シーズンには、デトロイト・オペラに『利口な女狐の物語』の女狐で、英国ロイヤル・オペラに『コジ・ファン・トゥッテ』のドラベッラでデビューした。また2024年夏にはジェームズ・コンロン指揮シカゴ交響楽団との共演により、『イドメネオ』のイダマンテ役でラヴィニア音楽祭にデビューを果たした。2025年3月にバイエルン国立歌劇場で再びオクタヴィアンを演じるほか、6月には『ドン・ジョヴァンニ』のドンナ・エルヴィラ役のロール・デビューが予定されている。日本では、2025年3月に新国立劇場オペラ『カルメン』のタイトルロール役を演じた。

 

◯ファーニナル役

  アドリアン・エレート

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  〈Profile〉

    オーストリア出身のバリトン。長年にわたり多彩な歌唱力で、拠点とするウィーン国立歌劇場をはじめ国際的な舞台で聴衆を魅了している。幅広いレパートリーのなかでも、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のベックメッサー役は高い評価を得ており、バイロイト音楽祭をはじめ、チューリッヒ、ケルン、ライプツィヒ、東京、アムステルダム、ドレスデン、ザルツブルク復活祭音楽に出演。ウィーン国立歌劇場には、2001年に『ロメオとジュリエット』のマキューシオでデビュー。以来『コジ・ファン・トゥッテ』のグリエルモと伯爵、『セビリアの理髪師』のフィガロ、『ビリー・バッド』のタイトルロール、『ペレアスとメリザンド』のペレアス、『ファウスト』のヴァランタン、『こうもり』のアイゼンシュタインなど、数多くの役を歌っているが、世界初演のアリベルト・ライマン作曲『メデア』には彼のために書かれた男性の主役があることや、作曲家自身の指揮により初演されたトーマス・アデスの『テンペスト』オーストリア初演でのプロスペロー役なども、その存在の大きさを示すところといえる。オーストリアの宮廷歌手の称号を贈られている。『ばらの騎士』のファーニナル役は、2014年にザルツブルク音楽祭デビューを飾った役でもある。

 

◯ゾフィー役

カタリナ・コンラディ

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 〈Profile〉

     キルギスタン(現キルギス共和国)出身のソプラノ。2013年から16年までベルリン芸術大学およびミュンヘン音楽演劇大学で学んだ。2015年から18年までヴィースバーデン・ヘッセン州立劇場のメンバー、2018年からハンブルク国立歌劇場のメンバーであり、ドイツを拠点に活躍している。2021年にはバイエルン国立歌劇場に『ばらの騎士』のゾフィー役でデビューした。「コンラディの音色は繊細な香りがあり、声は羽のように軽く、重さを感じさせない」(オペランヴェルト)と評される通り、 透明感のある声の正統派リリコ・レジェーロ。2024/25シーズンは、チューリッヒ歌劇場で『仮面舞踏会』のオスカル、バイエルン国立歌劇場で『こうもり』のアデーレ、ハンブルクでの『リゴレット』のジルダはロールデビューとなる。また、同シーズンのハイライトの一つに、キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのベートーヴェンの交響曲第9番がある。エルプフィルハーモニーではケント・ナガノ指揮のもとモーツァルトのハ短調ミサ曲で共演するなど、コンサートでも活躍している。

   尚、今回の『フィガロの結婚』でも、スザンナの代役として出演、大活躍であった。

 

【その他の出演】

・マリアンネ/帽子屋:イレアナ・トンカ(ソプラノ)

・ヴァルツァッキ:トマス・エヴェンシュタイン(テノール)

・アンニーナ:ステファニー・メイトランド(メゾソプラノ)

・警部:ヴォルフガング・バンクル(バス)

・公証人:マークス・ベルツ(バス)

・居酒屋の主人:ヨルグ・シュナイダー(テノール)

・テノール歌手:エンジェル・ロメロ(テノール)

・ファーニナル家執事:アンドリュー・ターナー(テノール)

 

【上演の模様】

 

《前奏曲》

Hrn.の重厚な調べで開始したジョルダン指揮(実質的な)ウィーンフィルの前奏は、シュトラウス節をふんだん自在に取り扱った感じで、特に中盤の管楽器の調べの朗々とした響きは、朝ぼらけの雰囲気が甘く美しく漂うが如き雰囲気でした。それも突然の現実的な日課の始まりを告げるオケの強奏に代わり、ウィンナーワルツにより、ここはウィーンですよと謂わんばかりに続くコンマスのソロ音も美味なり、後半はワルツのオンパレード、人々はようやく起き上がり、朝餉の食卓に向かう場面が想像され、元帥家の忙しい生活の息吹が始まろうとしていたのでしょう。最後の低音弦の強音と「キンコンカン」と自分には聞こえるチェレスターの異音に近いアクセントが、何んとも絶妙なシュトラウス節特有の響きを有していました。そして賑々しいワルツの調べが、覚醒された人々の頭と体のせわしい動きを具象し、オペラの幕開けへと続いたのです。

《第1幕》

 元帥夫人とオクタヴィアンの陶酔的な愛の残り火を感じさせる前奏曲が終わり幕が上がる。朝の訪れのなかで陶酔の余韻に浸る二人は甘いやりとりを交わしている。すると突然部屋の外が騒がしくなる。「奥方はわしを入れてくださるさ」と朗々とした声を響かせて入って来るのは元帥夫人の従兄のオックス男爵。この登場の場面では、オックスが貴族でありながら滑稽なキャラクターであることは音楽によって表わされている。元帥夫人はオクタヴィアンを少女に変装させ、オックスには小間使いのマリアンデルだと紹介したうえでこの場から逃そうと考えているが、女好きのオックスはマリアンデルにも目をつける。オックスは元帥夫人に、新興貴族のファーニナルの娘との結婚に当たり、貴族の習慣である銀のばらを届ける使者を推薦してほしいと言いながら、マリアンデルにも執拗に迫る。元帥夫人から品行をたしなめられるオックス男爵だが、臆することなく。<①活気のないロバになれと?>と、自分の女遊びの楽しみを歌う。オックスのやりたい放題といった場面だが、オックスの野郎な面とエレガントさが巧みな音楽のなかで表される。元夫人はふと思い立ち、 オックスにロフラーノ伯爵の肖像画を見せ、ばらの騎士に彼を、と言う。オックスは目の前のマリアンデルと瓜二つの肖像画に驚きながら、すばらしい騎士がみつかったと喜ぶ。

 元帥夫人が訪問客を迎える。援助を求める3人の孤児、帽子を売る女、動物売りやゴシップがれ、賑やかさがひと段落したところでイタリアの歌手が登場。<②固く武装する胸もて>は物語の内容とは関連はないが、優雅で美声を聴かせるアリアとして聴きもの。しかし公証人と話を始めたオックスによって遮られてしまう。元夫人はオックスから「ほのばら」を受け取り、ロフラーノ伯爵に届けさせると約束し、皆を下がらせる。 一人になった元帥夫人は、もの思いに<③私もまたひとりの娘のことを思い出す>と自身の少女時代と時の移ろいの残酷さを思って歌う。そこにオクタヴィアンが戻ってくる。悲しげに見える元帥夫人に声をかけたオクタヴィアンに、彼女は「私はいつも半分类しく半分悲しいのよ」と言う。さらに情熱を向けるすクタヴィアンと揺れる思いの元帥夫人の二重唱が繰り広げられる<④時とは不思議なもので>。元帥夫人の 「あなたが自分から離れて若い娘のもと、行く日はくるのだ」という言葉を彼女は自分で受け入れようとしているが、オクタヴィアンは否定することしかできない。オクタヴィアンは彼女の真意をわからないまま部屋を出て行ってしまった。ふと我に返った元帥夫人は、召使いたちに彼を呼び戻すよう命じるが、間に合わない。「銀のばら」の入った箱をロフラーノ伯爵に届けるように、と小姓に渡すのだった。

 

《第2幕》

 ファーニナル家の、ばらの騎士を迎えるための華やいだ音楽で始まる。期待に胸膨らませるゾフィーと、召使いマリアンネの対話とともに、オーケストラも力強く生き生きと高まる。凛々しくばらの騎士が登場すると音楽は静まり、キラキラとした分散和音が銀のばらの輝きを表すよう。「銀のばら」を手渡したオクタヴィアンと受け取ったゾフィー、二人は幸福感に満ちたやりとりを二重唱<⑤地上のものとは思えぬ天上のばら>で繰り広げる。やがてゾフィーが<⑥あなたのことはもうよく存じております>と話し始め、オクタヴィアンは美しく愛らしいゾフィーに魅了される。

 そこにオックスが登場する。品のない振る舞いに絶望するゾフィー。かたわらでオクタヴィアンも怒りを隠せない。嫌悪感を露わにするゾフィーに向かってオックスは<⑦私と一緒なら夜も長くないさ (オックスのワルツ)>と歌う。ゾフィーと二人になったところで、オクタヴィアンは我慢し切れず「あの男と結婚するのですか?」 とゾフィーに切り出す。会話を遮るのはオックスの召使いたちの不埒な行いによる大騒ぎ。大混乱を描く騒々しさは一転して、ゾフィーとオクタヴィアンが互いの思いを確かめ合う二重唱<⑧目に溢れんばかりの愛をたたえ>へと向かう。

この様子を目撃したヴァルザッキとアンニーナがオックスを呼ぶ。現れたオックスは軽く受け流しているが、とうとうオクタヴィアンは「彼女はあなたが嫌いなんだ!」と言う。さすがのオックスも若造の言葉に反応し、遂に剣を構えることに。オクタヴィアンの剣がオックスの腕をかすめてしまい、オックスは出血死すると大騒ぎする。現れたファーニナルはオクタヴィアンには退去を、ゾフィーにはオックスと結婚しないなら修道院にいれると怒る。

 ファーニナルが自分の味方となったことで、オックスは少しずつ気を取り直すが、オクタヴィアンへの怒りはまだ残っている。そこにアンニーナが、居酒屋で会いたいと書かれたマリアンデルからの手紙をもって来てオックスに手渡す。オックスは最高の気分でワルツを歌い浮かれる。

 

《第3幕》

 速いテンポで奏される導入部の音楽は、大掛かりな策略の準備の様子が表されるよう。幕が上がると、オクタヴィアンが仕掛けた策略の準備に居酒屋は大わらわ。準備が整ったところにマリアンデルとオックスがやって来る。テーブルにつくやいなやマリアンデルに迫ったオックスは、オクタヴィアンの顔を思い出し、おののく。オックスのワルツに乗ってマリアンデルが酔ったふりをして泣き始める。オックスが彼女を抱き寄せようとしたそのとき、窓から奇妙な顔が飛び出し、喪服をまとった女が「この人が主人だ」と言い、子どもたちは「パパ、 ババ!」と叫ぶ。大騒ぎのなかでオックスは警官を呼ぶよう命じる。

警官が到着し、オックスを問いただすが、ごまかしは通用しない。ファーニナルも呼ばれて現れ、 オックスにとってはさらに状況が悪化。ファーニナルは情けない婿の姿をゾフィーに見せ、怒って立ち去る。マリアンデルは警官にこっそり、自分の正体とオックスを相手に仕組んだ計画を話す。

店の主人が元帥夫人の到着を知らせる。元帥夫人の登場<⑨あなたは私をご存じ?>で奏される音楽は、場末の居酒屋の野暮ったさを高貴なものへと一転する。元帥夫人はオックスに、静かに立ち去るようすすめる。オクタヴィアンがもとの衣裳で現れ、ようやく事態の真相を悟ったオックスは、元帥夫人の寝室に居たマリアンデルは.....と考え始めるが、触れることはない。「なにごとにも終わりがあるものです」という元帥夫人の言葉は、オックスに向けられただけでなく、彼女自身にも向けられている。〈⑩ロイボルト、行くぞ!〉というオックスの声とともに、勢いよくワルツが始まり、子どもたちの声、あらゆる請求書を突きつけられるのがオックス退場の場面だ。

ワルツの余韻が残るなかでゾフィー、オクタヴィアン、元帥夫人はそれぞれの思いを表す。元帥夫人は自分が身を引くことを決意している。オクタヴィアンの「マリー・テレーズ!」という呼びかけで始まる。 三重唱<⑪私が誓ったことは、彼を正しいやり方で愛することでした〉は、オペラ最大の聴きどころ。元帥夫人が静かに立ち去った後、オクタヴィアンとゾフィーは二重唱〈⑫夢なのかしら〉で愛を誓い合う。

 

 

【主なアリア集】

<第1幕>

①活気のないロバになれと?(オックス男爵)

②固く武装する胸もて(招聘歌手のアリア)

③私もまたひとりの娘のことを思い出す(元帥夫人のモノローグ)

④時とは不思議なもので(夫人とオクタヴィアンの二重唱)

<第2幕>

⑤地上のものとは思えぬ天上のばら(オクタヴィアンとゾフィー

私と一緒なら夜も長くないさ (オックス男爵のワルツ)

⑧目に溢れんばかりの愛をたたえ(オクタヴィアンとゾフィーの二重唱)

<第3幕>

⑨あなたは私をご存じ?(夫人のアリア)

⑩ロイボルト、行くぞ! (オックス男爵)

⑪私が誓ったことは、彼を正しいやり方で愛することでした(夫人、オクタヴィアン、ゾフィーの三重唱)

⑫夢なのかしら(オクタヴィアンとゾフィーの二重唱)

 

これら多くのアリア、重唱の中でも⑪の三重唱はR.シュトラウスが特に気に入っていた様で、彼の葬送の日に流されもしました。確かに、この場面は、『バラの騎士』の物語の白眉とも言える場面で、「世の中結局落ち着く処に落ち着くのです」という元帥夫人の大人の決断が、古来賛同を得て来たのでしょう。以下にその箇所の歌詞を記します。

 

第3幕終盤での 夫人(マルシャリン)、オクタヴィアン、ゾフィーによる三重唱


OCTAVIAN
unschlüßig, als wollte er ihr nach
Marie Theres’!

MARSCHALLIN
sie winkt ihm, zurückzubleiben und bleibt in der Tür stehen.
Octavian steht ihr zunächst, Sophie weiter rechts.
vor sich
Hab’ mir’s gelobt, ihn lieb zu haben in der richtigen Weis’, daß ich selbst sein Lieb’ zu einer andern noch lieb hab’! Hab’ mir freilich nicht gedacht, daß es so bald mir aufgelegt sollt’ werden.
seufzend
Es sind die mehreren Dinge auf der Welt, so daß sie ein’s nicht glauben tät’, wenn man sie möcht’ erzählen hör’n. Alleinig, wer’s erlebt der glaubt daran und weiß nicht wie -

SOPHIE
vor sich
Mir ist, wie in der Kirch’n, heilig ist mir und so bang und doch ist mir unheilig auch! Ich weiß nicht, wie mir ist. Wie in der Kirch’n - so heilig - so bang.
ausdrucksvoll
Ich möcht’ mich niederknie’n dort vor der Frau und möcht’ ihr was antun. Denn ich spür’, sie gibt mir ihn und nimmt mir was von ihm zugleich. Weiß gar nicht, wie mir ist.

OCTAVIAN
vor sich
Es ist was kommen und ist was g’scheh’n,
ausdrucksvoll
Ich möcht sie fragen: Darf’s denn sein? Und grad’ die Frag’ die spür’ ich, daß sie mir verboten ist. Ich möcht’ sie fragen, ich möcht’ sie fragen: warum, warum zittert was in mir? Ist denn ein großes Unrecht gescheh’n? Und grad’ an die, an die darf ich die Frag’, die Frag’ nicht tun

MARSCHALLIN
Da steht der Bub und da steh’ ich, und mit dem fremden Mädel dort wird er so glücklich sein, als wie halt Männer das Glücklichsein versteh’n.

SOPHIE
Möcht’ alles versteh’n und möcht’ auch nichts versteh’n. Möcht’ fragen und nicht fragen, wird mir heiß und kalt. Und spür’ nur dich
Aug in Aug mit Octavian
und weiß nur eins: dich hab’ ich lieb.

OCTAVIAN
Und dann seh’ ich dich an, Sophie und seh’ nur dich, spür’ nur dich, Sophie, und seh’ nur dich und weiß von nichts als nur dich, dich hab’ ich lieb.

MARSCHALLIN
In Gottes Namen.
sie geht leise links hinein,
die beiden bemerken es gar nicht

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オクタヴィアン
[ためらって、彼女の後を追おうとして]
マリー・テレーズ!

元帥夫人
[彼にとどまるように合図し、戸口に立っている。]

[オクタヴィアンは彼女の隣に立ち、ゾフィーは右手に。]
[独白]
私は固く誓った、彼を正しいやり方で愛すると、他の女に対する彼の愛でさえ愛すると!でもそのことがこんなにすぐに私に課されるとは思ってもいなかった

[ため息をついて]
世の中にいくつかある、人が語っているのを聞いても信じることのできないことの一つなのね。ただそれを経験した者だけがわかること、そしてそれでもどうしたらいいかはわからない…

元帥夫人

ここに坊やが立っていて、ここに私が立っていて、そして彼はあそこの見知らぬ娘ととっても幸せになって、結局男たちが幸福であると考えるような形で。

ゾフィー
全てを理解したいし、また何も理解したくない。尋ねたいし、尋ねたくない。熱くなったり寒くなったりするわ。そしてただあなたを感じる
[オクタヴィアンと見つめ合って]
そしてわかるのはただ一つ、あなたを愛している。

オクタヴィアン
そして僕は君を見つめる、ゾフィー、そして君だけを見て、君だけを感じて、ゾフィー、そして君だけを見て、君以外のことは何もわからない、君を愛している。

元帥夫人
神の御名において(あるがままに)。
[静かに左手に入る。二人はこのことに全く気付かない。
 
 

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(NBS H.P.より)