HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

《オペラ速報》ウィーン国立歌劇場来日公演『フィガロの結婚』初日を観る

◉代役大健闘!!

◉伯爵役ルチアーノの各所怒りのアリア、迫真に迫る強さあり。

◉スザンナ役コンラディ、タイトルロール以上の歌唱と演技で大活躍!!

◉伯爵夫人役ミュラー、品格十分の詠唱!

◉ケルビーノやや未完の大器の感あるも、「恋とはどんなものかしら」は、百点満点の出来。

◉主要歌手ほかの詠唱はみな一流もの、層の厚さを感じます。

◉最少数による最大効果を図った合唱団の活躍。「山椒は小粒でピリリと辛い」スパイスが効いていました。

◉歌手の歌声と一体化したビリー指揮・ウィーン歌劇場管弦楽団、特にアリアに寄り添う管・弦・打の合いの手の優しさを感じる演奏が素晴らしい。

◉省資源的舞台設備・演出も、モーツァルト時代と齟齬のない範囲の読み替え、服装は全く問題ないし、第4幕のモグラたたきの如き床装置は、暗闇の茶番劇に代わり、見える化を図った独創的演出。

◉舞台設備の色彩も豪華〜質素まで考え抜かれ、特に歌手服装他の色彩感覚は超一流デザイナーの如し。

 

f:id:hukkats:20251004062307j:image


【演目】モーツァルト『フィガロの結婚』

【上演】ウィーン国立歌劇場

【鑑賞日】初日:2025.10.5.(日)14:00〜

【公演日時】

10月 5日(日)14:00〜
10月 7日(火)15:00〜
10月 9日(木)18:00〜
10月11日(土)14:00〜
10月12日(日)14:00〜

【会場】東京文化会館

【上演時間】約3時間35分(休憩1回を含む)

 

【主催者言】

    ウィーン国立歌劇場日本公演の歴史は1980年に始まりました。以来45年間に日本公演は10回を数えます。今回のツアーは2016年以来9年ぶりになりますが、本来なら2021年に予定されていました。そのときはコロナ禍によって中止を余儀なくされましたが、これまでも、その時々の社会環境に大きく影響されてきました。

 オペラ引っ越し公演にはそれを実現するための舞台機構を備えた劇場が必要ですが、これまでオペラ引っ越し公演のメイン会場だった東京文化会館が改修工事のため休館することから、2026年から3年間は今回の規模のような公演は実現できそうにありません。今回のウィーン国立歌劇場日本公演は、同会館が休館前の最後の本格的なオペラ引っ越し公演になります。

 ウィーンは音楽の都と呼ばれます。ウィーンの香り、ウィーンの響き、日本の音楽ファンにとって憧れの対象です。ウィーン国立歌劇場はまさにその象徴といえます。偉大な作曲家、多くの名指揮者、名歌手を生み、数々のすぐれたオペラを初演し、いまなお18世紀の宮廷オペラ以来の栄光と伝統を保っています。ウィーン・フィルは世界の最高峰として人気のオーケストラですが、ウィーン・フィルはウィーン国立歌劇場の専属オーケストラのメンバーで構成されています。

【管弦楽】ウィーン国立歌劇場管弦楽団

【指揮】ベルトラン・ド・ビリー

  f:id:hukkats:20251003165501j:image

〈Profile〉

    フランス系スイス人のベルトラン・ド・ビリーはこれまでに300回近くもウィーン国立歌劇場に登場している信頼の厚い指揮者です。ド・ビリーがウィーン国立歌劇場で振っているのはフランスものはもとより、『魔笛』『ラ・ボエーム』『オテロ』『さまよえるオランダ人』と、幅広いレパートリーでその手腕が認められています。その最大の理由を挙げるなら、彼とオーケストラとの相性が良く阿吽の呼吸で演奏することができるから。オーケストラとの信頼関係は、指揮者の作品についての解釈や洞察力が評価されている証しでしょう。
 ド・ビリーとモーツァルトといえば、2006年にウィーンのシュテファン大聖堂で行われた「モーツァルト生誕250周年祝賀演奏会」。ウィーン少年合唱団が天上の声を響かせたこの祝祭は、ド・ビリーの指揮のもと行われた世界が注目した一大イヴェントでした。
 ド・ビリーは2024年末にウィーン国立歌劇場の名誉会員に任命されていますが、フランスやオーストリアで数々の賞を受賞していることは、彼の実力が内外に認められているからにほかなりません。世界最高峰のオペラハウスとして、ウィーン国立歌劇場の高いクオリティの上演が保たれているのは、ド・ビリーのような真の実力者がいてこそです。

【合唱】ウィーン国立歌劇場合唱団

【合唱監督】トーマス・ラング

【主なキャスト】

〇アルマヴィーヴァ伯爵夫人

ハンナ=エリザベット・ミュラー 

〈Profile〉

「水晶から切り出したような声」(ザルツブルガー・ナッハリヒテン紙)を持ち、リートやコンサート・レパートリーにおいて今日屈指の演奏者であるとともに、最も人気があるオペラ歌手の一人でもある。ソプラノとして世界的に注目を浴びたのは2014年のザルツブルク復活祭音楽祭で、R.シュトラウス《アラベラ》ズデンカとしてクリスティアン・ティーレマン指揮のもと、ルネ・フレミングやトーマス・ハンプソンと共演した。
    この役によって、オペルンヴェルト誌の「ヤング・アーティスト・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれた。さらに、このプロダクションはC Majorとの提携により、Unitel ClassicaからDVDとしてリリースされた。世界の主要なオペラハウスや音楽祭にも頻繁に客演しており、バイエルン国立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、ドレスデン・ゼンパーオーパー、スカラ座、コヴェント・ガーデンのロイヤル・オペラ・ハウス、チューリッヒ歌劇場、ザルツブルク音楽祭等が挙げられる。
2023/24年シーズンは、ウィーン国立歌劇場に再登場して比類のない多才さを示し、セバスティアン・ヴァイグレ指揮でR.シュトラウス《ダフネ》タイトルロールに役デビューする。また同歌劇場では、昨シーズン絶賛を浴びたデビューに続き、《ニュルンベルクのマイスタージンガー》エファでさらなるパフォーマンスを行なう。バイエルン国立歌劇場では《イドメネオ》エレットラを再演し、ザルツブルクのモーツァルト週間では《皇帝ティートの慈悲》ヴィテッリアに役デビューする。コンサートでは、十八番でもあるR.シュトラウス《4つの最後の歌》を、アンカラのCRRコンサート・ホール、モーツァルテウム管弦楽団とのザルツブルク公演、クリストフ・エッシェンバッハ音楽監督によるバンベルク公演、と三度歌う。また、ソリストとしてヤープ・ヴァン・ズヴェーデン音楽監督のニューヨーク・フィルハーモニックに初登場し、マーラーの交響曲第2番《復活》を歌う。同公演はケルン・フィルハーモニーでも上演される。さらにチューリッヒでブラームス《ドイツ・レクイエム》、フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団とベートーヴェン《ミサ・ソレムニス》、ヘルシンキでベルク《7つの初期の歌》、ドレスデンではマレク・ヤノフスキ指揮でドヴォルザーク《スターバト・マーテル》も歌う。加えてドレスデン聖母教会の2023年クリスマス・コンサートでは、クリスティアン・ティーレマン指揮でピョートル・ベチャワと共演。このコンサートはZDFによりライブストリーミングされる。
昨シーズンは、ウィーン国立歌劇場の《ニュルンベルクのマイスタージンガー》エファで幸先のよい役デビューを果たし、同歌劇場では新制作の《フィガロの結婚》アルマヴィーヴァ伯爵夫人や、バリー・コスキー演出の《ドン・ジョヴァンニ》ドンナ・アンナでも活躍した。同役ではさらにバイエルン国立歌劇場や、パブロ・エ゙ラス=カサドの指揮とロバート・カーセンによる記念碑的な演出でスカラ座にも出演した。
近年のシーズンの主なオペラ出演としては、《フィデリオ》マルツェリーネでメトロポリタン歌劇場にデビューし、続いて《フィガロの結婚》スザンナと《魔笛》パミーナで再登場した。チューリッヒ歌劇場には《イドメネオ》イリアでデビューし、同作品のエレットラをバイエルン国立歌劇場のアントゥ・ロメロ・ヌネスによる新制作で歌った。2012~16年までバイエルン国立歌劇場のアンサンブル・メンバーとして活動して以来、同歌劇場でも人気を得て、日本ツアーで《魔笛》パミーナ、ニューヨークのカーネギー・ホールで《ばらの騎士》ゾフィー、パリのシャンゼリゼ劇場公演等にも出演している。
長年、ルドルフ・ピエルネに師事した他、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、ユリア・ヴァラディ、エリー・アーメリング、トーマス・ハンプソンのマスタークラスにも参加している。

 

〇スザンナ

(代)カタリナ・コンラデイ(イン・ファン罹病による欠場のため)

 

   〈Profile〉

 キルギスタン(現キルギス共和国)出身のソプラノ。リリコレッジーロ・ソプラノ。2009年から16年までベルリン芸術大学およびミュンヘン音楽演劇大学で学んだ。2015年から18年までヴィースバーデン・ヘッセン州立劇場のメンバー、2018年からハンブルク国立歌劇場のメンバーであり、ドイツを拠点に活躍している。2021年にはバイエルン国立歌劇場に『ばらの騎士』のゾフィー役でデビューした。「コンラディの音色は繊細な香りがあり、声は羽のように軽く、重さを感じさせない」(オペランヴェルト)と評される通り、 透明感のある声の正統派リリコ・レジェーロ。2023年にはウィーン国立歌劇場に『フィガロの結婚』のスザンナ役でデビューし成功をおさめた。2024/25シーズンは、チューリッヒ歌劇場で『仮面舞踏会』のオスカル、バイエルン国立歌劇場で『こうもり』のアデーレ、ハンブルクでの『リゴレット』のジルダはロールデビューとなる。また、同シーズンのハイライトの一つに、キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのベートーヴェンの交響曲第9番がある。エルプフィルハーモニーではケント・ナガノ指揮のもとモーツァルトのハ短調ミサ曲で共演するなど、コンサートでも活躍している。

  今回の来日公演では、薔薇の騎士でもメインで歌います。

 

〇フィガロ

リッカルド・ファッシ

 

  〈Profile〉

    ミラノ生まれのイタリア人バス。ジャンルカ・ヴァレンティとステファノ・ジャンニーニに声楽を学んだ。2014年にコモのテアトロ・ソシアーレでグラハム・ヴィック演出による『ドン・ジョヴァンニ』のマゼット役でデビューした。

    リッカルド・ファッシは、2014 年にテアトロ・ソシアーレ・ディ・コモでグラハム・ヴィック演出のモーツァルトの「ドン・ジョバンニ」のマゼット役でデビューし、オペラのキャリアを開始。それ以来、毎年、多くの国際オペラハウスにデビューした。彼のレパートリーはモーツァルト、ベルカントヴェルディ間で、バッソ・カンタービレのレパートリーに特化していた。 『フィガロの結婚』のフィガロ、『ドン・ジョバンニ』のドン・ジョバンニとレポレッロ、『ラ・ソンナンブラ』のイル・コンテ・ロドルフォ、『ラ・ボエーム』のコリーヌなどは彼のレパートリーを特徴づける役のほんの一部であり、ウィーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座、ベルリン国立歌劇場、オペラ座などの劇場で演じるきっかけとなった。ローマ、トリノ王立劇場、またはアレーナ ディ ヴェローナにも出演。

    キャリアを重ねるにつれ、モーツァルト、ベルカント、ヴェルディなど、幅広いレパートリーを専門としています。 

    2024年には、同歌劇場のドニゼッティ『ランメルモールのルチア』に出演した。

 

〇アルマヴィーア伯爵

(代)ダヴィデ・ルチアーノ(アンドレ・シュエンの都合による欠場のため)

   f:id:hukkats:20251004204032j:image

   〈Profile〉

    2017年8月、ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル(ROF)で、《試金石》のマクロービオ役を歌った際、指揮をしたダニエーレ・ルスティオーニに「注目すべき歌手はだれか」と聞くと、即座に返ってきた答えが「ダヴィデ・ルチアーノ!」だった。翌18年のROFでは《セビーリャの理髪師》に出演し、これは記憶に深く刻まれるフィガロだった。

彼の声は艶やかで、輝かしく、濃密で、音圧が高い。そして黒光りするような濃厚な声が自然と、快活に湧き出るのだ。南イタリアの強い日差しを浴びて育ったぶどうから作られた、果実味が豊かだが深く、複雑な味の上等な赤ワインとでもいえばいいだろうか。しかも、音域がきわめて広いうえに、あらゆる音域で性質が一定しているから、音楽が映えることこのうえない。ロッシーニの歌唱に必要な、連なる小さな音符を敏捷に駆けぬけるアジリタも、非常にシャープに歌いこなす。

声同様に身体の動作も快活で、だから歌にも表情が加わるという好循環が起きる。視覚的なインパクトも強く、私の友人は「オペラ界の海老蔵」と呼んだが、実際、歌舞伎で見得を切るような動きをし、目力が異常なほど強い。まさか、本人が歌舞伎役者を意識しているわけではなかろうが、インタビューした際、左肩に入れたタトゥーを見せてくれた。「日本には行ったことがないけど、歌舞伎が好きだから」。そこには歌舞伎役者の顔が彫られていた。

19年にROFで歌った《とてつもない誤解》のブラリッキオ役も、コミカルな表現が堂に入って秀逸だったが、注目すべきは最近の活躍の広がりである。メトロポリタン歌劇場(MET)では、18年1月に《愛の妙薬》のベルコーレ、同年9月に《ラ・ボエーム》のショナールを歌い、今年1月にはバイエルン州立歌劇場で《ラ・ボエーム》のマルチェッロ。9月にはベルコーレでミラノ・スカラ座にデビュー。そして20年7月には、ザルツブルク音楽祭で《ドン・ジョヴァンニ》のタイトルロールである。まだ30歳を少し超えた年齢にして、一気にスターダムにのし上がってきた。

〇ケルビーノ

パトリツィア・ノルツ

   f:id:hukkats:20251004203451j:image

    〈Profile〉

    オーストリア出身の若手メゾソプラノ。2020年から2年間、ウィーン国立歌劇場のオペラスタジオに在籍。この間に『チェネレントラ』のティスベ、『フィガロの結婚』のケルビーノ、フィリップ・ジョルダン指揮による『ドン・ジョヴァンニ』の新制作でツェルリーナを歌い、現在は同歌劇場のアンサンブル・メンバーとして活躍している。これまでにシェーンブルン宮殿劇場に『ヘンゼルとグレーテル』のヘンゼル、『エフゲニー・オネーギン』のフィリピエヴナ、『オレステ』のタイトルロール、『フィガロの結婚』のケルビーノ、『セビリアの理髪店』のロジーナなどで出演している。2020年秋、アン・デア・ウィーン劇場でシュテファン・ゴットフリート指揮、アルフレッド・ドルファー演出による新演出『フィガロの結婚』のケルビーノ役は高く評価された。2024/25シーズン、ウィーン国立歌劇場では、『フィガロの結婚』のケルビーノ、『ロメオとジュリエット』のステファノ、『セビリアの理髪師』のロジーナを歌う。数多くのコンサートにも出演しており、リート歌手としても活躍。演奏活動の傍ら、ウィーン音楽大学でフローリアン・ボッシュとクラウディア・ヴィスカの指導の下、リートとオラトリオの修士号取得を目指している。

 

【その他の配役】

〇マルチェッリーナ:ステファニー・ハウツィール

〇バルトロ:マティス・フランサ

〇バジリオ:ダニエル・イェンツ

〇バルバリーナ:ハン・ヘジン

○ドン・クルツィオ:アンドレア・ジョヴァンニーニ

○アントニオ:クレメンス・ウンターライナー

 

 

【スタッフ】

演出:バリー・コスキー
装置:ルーファス・ディドヴィシュス
衣裳:ヴィクトリア・ベーア
照明:フランク・エヴィン

 

【粗筋】

  舞台は、18世紀半ばのスペインセビリア近郊のアルマヴィーヴァ伯爵邸。

 

《第1幕》

    フィガロは伯爵が下さるというベッドが部屋に入るかどうかをみるため部屋の寸法を測っている。伯爵がこの部屋をフィガロ達にくださるというのだ。スザンナがそれを聞いて伯爵の下心に気づく。

    フィガロは最近伯爵が奥方に飽きて、スザンナに色気を示しているばかりか、夫人との結婚を機に廃止を宣言した初夜権を復活させたいと画策していることを聞き大いに憤慨する。それならこちらにも手があるぞと計略をめぐらすフィガロ(原作はこのあたりで貴族階級を批判する有名なモノローグがあるが、ダ・ポンテの台本では、自分の婚約者を狙う伯爵個人への対抗心に置き換えている)。

    マルチェリーナとバルトロ登場。フィガロに一泡吹かせようと相談する。彼女はかつてフィガロから「借金を返せなければ結婚する」という証文を取っている。それを見たバルトロは「俺の結婚を妨害した奴に俺の昔の女を押し付けるのは面白いぞ。フィガロ(「セビリアの理髪師」で伯爵夫人ロジーナとの結婚を妨害した)に復讐する良いチャンスではないか」とほくそ笑む。

    スザンナが登場し、マルチェリーナと口論したあと一人になると、小姓のケルビーノ登場。せんだって庭師アントニオの娘バルバリーナと一緒にいたところを伯爵に見つかって追放されそうなので、伯爵夫人にとりなしてほしいと懇願する。「あら最近彼女に恋しているの」とスザンナがからかう。彼は目下女性なら誰でもときめいてしまう年頃なのである。ここでケルビーノが「①自分で自分が分からない」を歌う。

    ところが、そこへ伯爵がスザンナを口説きにやって来る。慌ててケルビーノは椅子の後ろに隠れる。伯爵が口説き始めるとすぐに、今度は音楽教師のバジリオがやってくるので伯爵はあわてて椅子の後ろに隠れ、ケルビーノはすかさず椅子の前に回り込み、布をまとい隠れる。バジリオはケルビーノと伯爵が隠れているとは夢にも思わず、ケルビーノと伯爵夫人の間の話題を持ち出す。

    「ケルビーノが奥様に使う色目をみたかい?」これを聴いた伯爵は思わす姿を現し、「今のは何のことだ?」と迫る。慌てたバジリオは打ち消すが、伯爵は続けて「昨日庭師アントニオの所にいったら、娘のバルバリーナの様子が何となくおかしい。そこでそばにあった布をふと持ち上げると...(と、さきほどケルビーノが隠れた椅子の上の布をはがす)おお、これは何としたこと」。「最悪だわ」とスザンナ。バジリオは「おお、重ね重ねお見事な」。

    ここで三人がそれぞれの気持ちを歌うが、バジリオの歌う「②女はみなこうしたもの(Cosi fan tutte le belle)。何も珍しいことではありません」という一節はモーツァルトの後のオペラ・ブッファ「コジ・ファン・トゥッテ」の主題となる。

    さて、ケルビーノは伯爵夫人を通じてのとりなしを頼みにきていたのだという事実を何とか納得した伯爵ではあるが、「自分の連隊に空きポストがあるから配属する、直ちに任地に向かえ」と命令する。

    そこへフィガロが村の娘たちを連れて登場。「私たちは殿様が廃止なさった、忌まわしい習慣(初夜権)から逃れられる初めてのカップルです。村の皆の衆と一緒にお礼を言わせてください」という。大勢の証人を頼んで初夜権廃止を再確認させようというフィガロ。「図ったな」と困惑する伯爵。しかし、ここは慌てず騒がす「皆の者、あのような人権侵害行為はわしの領地内では二度と行われないであろう」と廃止を改めて宣言した。

万歳!と叫ぶ村人。しかし、「盛大に式を挙げさせてやりたいからもう少し時間が欲しい」と村人を帰してしまう。がっかりするフィガロたち。ケルビーノが浮かない顔をしているのに気づいたフィガロは事情を聞くと「あとで話がある」とこっそり耳打ちし、ケルビーノの出征を励ますための豪快なアリア「③もう飛ぶまいぞこの蝶々」を歌ったところで幕

 

《第2幕》

伯爵夫人ロジーナの部屋。夫人はひとりで夫の愛情が薄れたことを悲しんでいる。そこへスザンナ、ケルビーノと相次いでやってくる。伯爵夫人とスザンナは伯爵の行状を暴くために囮捜査をしようというのである。つまり、伯爵をスザンナの名前でおびき出し、女装させたケルビーノと会っているところを見つけて動かぬ証拠を突きつけようという計画である。ここでケルビーノが有名な「④恋とはどんなものかしらを伯爵夫人に歌う。

スザンナが化粧道具を取りに行ったところにドアをたたく音と伯爵の声がする。夫人はあわててケルビーノを隣の部屋に隠す。部屋に入ってきた伯爵、妻が落ち着きの無いのをみて詮索する。するとケルビーノが隣で音を立ててしまう。「あれは何だ?」と問う伯爵に「スザンナが結婚式の衣装に着替えているのです」と言い訳する夫人。伯爵は納得せず、部屋を開けて見せろと言う。伯爵夫人は何と言う失礼なことを、と怒って見せるが気が気ではない。いらついた伯爵はついに鍵を壊してでも入ると言って、夫人の部屋を施錠して夫人とともに道具を取りにいく。

そのすきに部屋の陰に隠れていたスザンナが出てきて、ケルビーノを2階の窓から逃がし、自分は先ほどの部屋に入ってまちうける。戻ってきた伯爵夫妻が戸を開けると出てきたのは当然スザンナである。必死に非礼を詫びる伯爵。夫人も初めは事情がわからないが、しかし、スザンナの耳打ちでさとったあとは彼女と一緒に夫をやり込め、最後は寛大に許す。

フィガロがやってくる。そこへ庭師アントニオ登場。彼は夫人の部屋の窓から何物かが飛び降りて植木を壊したと苦情を訴える。怪しむ伯爵に、フィガロは「飛び降りたのは自分だ。スザンナを待っていたのだが、伯爵の声がしたので慌てて逃げたのだ」と強弁する。アントニオと伯爵は怪しむがフィガロはうまく言いくるめる。そこにバルトロとマルチェリーナとバジリオの3人がやってきて例の証文で訴訟を起こすという。伯爵はこれで勝ったと思い、結婚式の前に裁判を行うことにする。各人の思いをそれぞれが歌うフィナーレで第2幕が閉じる。

 

《第3幕》

スザンナはマルチェリーナの引き起こした混乱から逃れるため、奥方と相談して2人だけで伯爵を罠にかけようと考えた。まずは、伯爵に今夜の結婚式のあと2人で会う約束を承諾する。伯爵とスザンナの駆け引きを歌う二重唱が終わると伯爵は去る。そこへ裁判に出るフィガロが登場。フィガロに「裁判に勝たなくても結婚できるわよ」と耳打ちするのを聞いた伯爵は一人でそれを怪しみ、さらに「わしがため息をついて嘆いている間に家来が幸せになるのか」と憤慨しつつ、自分の意地を通そうと決意し、法廷に入っていく。

ついに裁判が終わって、一同退廷してくる。伯爵の言いなりの裁判官は当然マルチェリーナの訴えを認める判決を下したのだ。さあ、借金を払うか私と結婚するかだとせまるマルチェリーナに対し、フィガロは「俺は貴族の出だから親の許しがないと結婚はできない」と食い下がる。いいかげんなほら話だと思った伯爵たちが、「では証拠を見せろ」と言うとフィガロは「幼いときにさらわれたので親はわからないが、かくかくしかじかの服を着ていて腕には紋章がある」、などという。これを聞いたマルチェリーナはなぜか真っ青になり、フィガロに右腕を見せろという。何故右腕だと知っているんだと思いながらフィガロが腕を見せると、マルチェリーナは慌てる。それもそのはず、フィガロは盗賊に盗まれたマルチェリーナの赤ん坊だったのだ。しかも父親はバルトロだという。つまり、昔、フィガロはバルトロ家の女中をしていたマルチェリーナにバルトロが生ませた子だったのである。「親子か?それでは結婚は成立しない」と判事が判決を取り消す。親子とわかった3人は抱き合って喜ぶ。ここで有名な六重唱「⑤この抱擁は母のしるし」(スザンナ・フィガロ・マルチェリーナ・バルトロ・伯爵・ドン・クルツィオ)が始まる。

そこにスザンナが走りこんでくる。「奥様からお金を借りたので、フィガロの借金を返します」といってそこを見ると、なんとフィガロがマルチェリーナと抱き合っている。早くも心変わりしたのかとカッとなったスザンナ、「違うんだ実は訳があるんだ」と近寄るフィガロの横っ面をいきなり張り倒す。マルチェリーナがスザンナに向かって、「さあさあ、お義母さんを抱いておくれ」というのを聞いて何のことかわからないスザンナが皆に「彼の母親ですって?」と聞くと皆口々に「彼の母親なんだ」と答える。おまけにフィガロがバルトロを、お義父さんだというので、ますます混乱したスザンナが同様に聞き返し、皆が肯定する。最後はどうにか納得したスザンナとフィガロたち親子が幸福に歌い交わし、作戦に失敗した伯爵と判事(どもりつつ)が失望して歌うが、これをひとつの曲に見事に納めているわけである。この曲はモーツァルト自身もお気に入りだったという。バルトロとマルチェリーナは、この際だからということでフィガロたちと同時に結婚式をあげることになった。

場面変わって奥方の部屋である。ロジーナは伯爵と結婚した当時の幸せな日々を回想し、今の身の上を嘆いている(レチタティーヴォとアリア「⑥あの楽しい思い出はどこに」)。

注:このアリアは本来は裁判の場面の前に置かれていた。しかし、初演時にアントニオとバルトロが一人で演じられていたため、着替えの時間を確保するために現行版の曲順になったという説が最も有力である。現在は本来あるべき曲順で演奏されることが多い。

そこにスザンナが登場し、さきほどの急展開を報告する。あとは伯爵を懲らしめるだけであり、これはフィガロにも内緒の作戦となった。スザンナが伯爵に今夜会う場所を知らせる手紙を書く(手紙の二重唱「⑦Sull'aria...che soave zeffiretto そよ風によせて…」)

再び場面が変わって、屋敷の広間に皆が揃い、結婚式が始まろうとしている。村娘が大勢登場し伯爵夫人に感謝を捧げて花束を贈る。ひとりひとりから花束を受け取って頬にキスしていると、一人だけ顔を紅潮させてもじもじしている少女がいる。夫人がスザンナに「どこかで見た人と似ているわね」「ええ、そっくりですわ」などと話していると、そこに庭師アントニオが登場。その少女のヴェールを剥ぎ取るとそれはケルビーノだった。「おまえは連隊に行ったはずだが」と怒る伯爵に、庭師の娘バルバリーナが「殿様、いつも私に親切にして、キスをしながら、愛してくれたら何でも欲しいものをやるぞと約束してくださいますね。それならば、是非ケルビーノを私のお婿さんにください」と伯爵夫人の目前でいうので、自分に矛先が回ってきた伯爵は仕方なく望みをかなえることにする。

フィガロとスザンナ、バルトロとマルチェリーナの結婚式がいよいよ始まった。結婚式で結婚のしるしに花嫁の頭に花冠をのせるのは伯爵だが、スザンナの時に彼女は先ほど伯爵夫人の部屋で書いた手紙をそっと渡す。式が進んで皆が踊っているときに、伯爵は手紙を開こうとするが、手紙に封をしていたピンが指に刺さって驚く。その様子を見ていたフィガロが「誰か伯爵に恋文を出したらしいぜ」とスザンナにいう。宴も盛り上がり、一同で伯爵夫妻を称える合唱で幕となる。

 

《第4幕》

 伯爵邸の庭、もう日はとっぷり暮れた後である。バルバリーナがカンテラを手に何かを必死で探している。それを見つけたフィガロは何をしているのかと上機嫌で声をかける。バルバリーナは「伯爵からピンを探してスザンナに届けるよう頼まれた」と言う。フィガロは先ほどの伯爵の行動を思い出し、手紙を渡したのがスザンナであることに気づく。思わずカッとなるフィガロ。いっしょにいたマルチェリーナからピンをもらい、それをバルバリーナに手渡す。マルチェリーナは「まさかあの子がそんなことはしないだろう」となだめるがフィガロは聞かないで去る。残ったマルチェリーナは何か事情があるのだろうと察し、女同士助け合わないと、といってその場を去る。

フィガロはスザンナの浮気を暴いてやろうと人を連れてやってくる。庭に潜んで現場を押さえようというわけだ。事情を聞いたバジリオは、殿様は自分抜きで話を進めたのだなと思い、世の中を行きぬくための処世訓を歌う。

フィガロは仲間の配置を確認し、自分も隠れる。待っている間スザンナに裏切られたという思いと、彼女を愛する気持ちの板ばさみになって心を乱し、「男ども目を見開け」と女性の本性の浅ましさや嫌らしさを歌う。

スザンナと伯爵夫人が衣装を交換してやってくる。スザンナはマルチェリーナからフィガロが来ていることを知らされる。そしてレチタティーヴォとアリア「⑧とうとう嬉しい時が来た~恋人よここに」を歌う。

(フィナーレ)

さてそこにケルビーノがやってくる。彼はバルバリーナを探しに来たのだが、皆にとっては思わぬ邪魔者になりかねない。 まず、スザンナに扮する伯爵夫人を見つけると、スザンナだと思い込み、早速軽口をたたいてまとわりつく。夫人は伯爵が来たら計画がぶち壊しなので何とかやりすごそうとする。フィガロは気が気ではなくそばに近寄る。そこへ伯爵が登場し、スザンナのそばに誰かいることに気づく。近寄って邪魔者に平手打ちを食わすと、機敏に身をかわしたケルビーノと入れ替わりに寄ってきたフィガロの頬に命中し、驚いたフィガロはケルビーノと反対方向に逃げ出す。

伯爵はスザンナだと思い込んだ自分の妻を口説き始める。夫人は複雑な思いだがスザンナの振りをして彼に従ってついていく。二人が去ったのを見てフィガロが出てくると、スザンナも現れる。彼女は伯爵夫人を装うが、夫が彼女の「不実」を訴えるのを聞いて思わず地声を出すので、フィガロに気づかれる。状況を悟ったフィガロはスザンナにからかわれたお返しとばかり、伯爵夫人に「私の妻は奥様のご主人と浮気をしていますが、実は私も奥様をお慕いしております」などと口説きにかかる。変装を見破られたとは知らないスザンナは「この裏切り者」とフィガロを張り倒す。殴られたフィガロが笑いながらスザンナを抱擁しその声でわかったと打ち明けると、ようやく彼女もこのややこしいばかし合いに気づき、喜んで抱き合う。

そこに伯爵がスザンナに変装した妻を見失ってやってくるので、フィガロは再び「夫人」を大げさに口説き始める。これに気づいた伯爵はカンカンになり、皆を呼び集める。衆人環視の中、隠れ場所から人が次々でてくる。ケルビーノ、バルバリーナ、マルチェリーナらに続いてスザンナ扮する伯爵夫人が出てくるので一同驚き、伯爵は浮気の現場を捕らえたと勝ち誇る。「許してください」や「夫人」と皆が口々に懇願するのに対し、断固「いや駄目だ」と応じない伯爵。しかし、そこへスザンナの服を着た夫人が現れ、「私からお願いしたら許してくれますか」と聞くと伯爵を始め一同驚く。すべてを理解した伯爵は、伯爵夫人に心から謝る。夫人は「私はあなたより素直なので…ハイと答えましょう」とこたえる。一同が伯爵夫妻を祝福して歌い、幕となる。

 

【上演の模様】  

主なアリア集

《第1幕》

①自分で自分が分からない(ケルビーノ)

 

②女はみなこうしたもの(Cosi fan tutte le belle)。何も珍しいことではありません」

(バジリオ)

 

③もう飛ぶまいぞこの蝶々(フィガロ)

 

《第2幕》

④恋とはどんなものかしら(ケルビーノ)

 

《第3幕》

六重唱「⑤この抱擁は母のしるし」(スザンナ・フィガロ・マルチェリーナ・バルトロ・伯爵・ドン・クルツィオ)

 

⑥あの楽しい思い出はどこに(伯爵夫人)

 

手紙の二重唱「⑦Sull'aria...che soave zeffiretto そよ風によせて(伯爵夫人&スザンナ)

 

《第4幕》

「⑧とうとう嬉しい時が来た~恋人よここに」(スザンナ)

 

詳細については、後日「ウィーン国立歌劇場来日公演』初日鑑賞(続き)」に記することにします。

 

四幕終了と同時に熱烈な拍手・喝采、歓声が沸き起こりました。

 

 

【フォトギャラリー】

Photos: Wiener-staatsoper / Michael Poehn 

(NBS H.P.より)