C.M.G.オープニング・コンサート
【日時】2025.6.7.13:00〜
【会場】サントリーホール・ブルーローズ
【出演者】北村陽 上野通明、笹沼樹、堤 剛、のチェリスト4名。
〈Profile〉
〇北村陽 Yo Kitamura, Cello
2024年ジョルジュ・エネスク国際コンクールチェロ部門日本人初優勝を果たし、 イギリスの弦楽器専門誌「The Strad」において「紛れもない音楽的才能の持ち主である」と評された。同年パブロ・カザルス国際賞第1位受賞。23年ヨハネス・ブラームス国際コンクール、日本音楽コンクール優勝。25年ホテルオークラ音楽賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞、出光音楽賞を次々と受賞し、注目を集めている。現在ベルリン芸術大学にてイェンス・ペーター・マインツに、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コースにて堤剛に師事している。使用楽器は上野製薬株式会社より貸与された1668年製カッシーニ。
〇上野通明 Michiaki Ueno, Cello
2021年ジュネーヴ国際音楽コンクールチェロ部門日本人初の優勝、あわせて3 つの特別賞受賞。13歳で若い音楽家のためのチャイコフスキー国際音楽コンクール日本人初の優勝、以来、数々の国際コンクールで優勝。日本製鉄音楽賞 「フレッシュアーティスト賞」、ベートーヴェン・リング賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞など受賞歴多数。桐朋学園大学を経て、ピーター・ウィスペルウェイに招かれ 19歳で渡独。エリザベート王妃音楽学校にてゲイリー・ホフマンに師事し、アーティスト・ディプロマを取得。楽器は、1730年製A. Stradivarius "Feuermann (日本音楽財団)、1758年製P. A. Testore (宗次コレクション)、弓はF. Tourte (住野泰士コレクション)をそれぞれ貸与されている。
〇笹沼 樹 Tatsuki Sasanuma, Cello
2022年第20回齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞。全日本学生音楽コンクール優勝(2011年)。カルテット・アマービレとしてミュンヘン国際音楽コンクールで第3 位入賞および特別賞を受賞。東響、都響、新日本フィル、スロヴァキア・フィルなど国内外のオーケストラと共演。アルゲリッチ、ダン・タイ・ソン、ヴィトマンなど世界的アーティストとの室内楽でも活躍の幅を広げる。学習院大学卒業後、桐朋学園大学大学院、パリ・エコールノルマル音楽院を修了し、現在エリザベート王妃音楽大学アーティスト・イン・レジデンス在籍。宗次コレクションより1771年製C. F. Landolfiが貸与されている。
〇堤剛 Tsuyoshi Tsutsumi, Cello
名実ともに日本を代表するチェリスト。桐朋学園で齋藤秀雄に師事。1961年インディアナ大学(アメリカ)に留学、ヤーノシュ・シュタルケルに師事。63年ミュンヘン国際コンクール第2位、カザルス国際コンクール第1位入賞。2009年秋の紫綬褒章を受章。13年文化功労者に選出。24年11月には、クラシック音楽の器楽奏者として初めて文化勲章を受章した。20年秋、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演においてソリストを務め、反響を呼んだ。インディアナ大学教授などを経て、現在、桐朋学園大学特命教授(元学長2004~13年)、韓国国立芸術大学客員教授。霧島国際音楽祭音楽監督。サントリーホール館長。 日本藝術院会員。
【曲目】
①J.S.バッハ (トーマス=ミフネ編曲)『G線上のアリア」(チェロ四重奏用編曲)』
第1Vc.堤(T)第2 Vc.笹沼(S) 第3Vc.上野(U) 第4 Vc.北村(K)
②フレスコバルディ(カサド/小林幸太郎編曲)『トッカータ(チェロ四重奏用編曲)』
第1Vc.堤(T)第2 Vc.笹沼(S) 第3Vc.上野(U) 第4 Vc.北村(K)
③モーツァルト(ムーア 編曲):『オペラ<フィガロの結婚> K. 492 序曲(チェロ四重奏用編曲)』
第1 Vc.上野(U) 第2Vc.堤(T)第3Vc.笹沼(S) 第4 Vc.北村(K)
④クレンゲル『主題と変奏 作品28』
第1Vc.笹沼(S)第2 Vc.北村(K)第3Vc.上野(U) 第4 Vc.堤(T)
⑤グリュッツマッハー『奉献聖歌作品65』
第1Vc.北村(K)第2 Vc.笹沼(S) 第3 Vc.堤(T)第4Vc.上野(U)
《20分の休憩》
⑥ハイドン『ディヴェルティメント ニ長調』
1. Adagio II. Allegro di molto
III. Menuet: Allegretto IV. Finale: Vivace
第1Vc.堤(T)、第2 Vc笹沼(S)、第3 Vc.上野(U)
⑦ゴルターマン『 ロマンス 作品119-1』
Georg Goltermann: Romance, Op. 119, No. 1
第1Vc.上野(U)、第2 Vc..堤(T)、第3 Vc.北村(K)、第4Vc.笹沼(S)
⑧ポッパー『2つのチェロのための組曲 作品16』
David Popper: Suite for 2 Cellos, Op. 16
1. Andante grazioso
II. Gavotte: Allegro vivace ma non troppo
III. Scherzo: Quasi presto
IV. Largo espressivo
V. Marcia. Finale: Allegro ma non troppo
第1Vc.笹沼(S)、第2 Vc.上野(U)
⑨ベートーヴェン:二重奏曲 変ホ長調 WoO 32 『2つのオブリガート眼鏡付き』
Ludwig van Beethoven: Duet in E-flat Major, WoO 32, "Mit zwei obligaten Augengläsern
Ⅰ. Allegro
II. Minuetto
第1Vc.北村(K)、、第2 Vc.堤剛(T)
【演奏の模様】
今回の演奏会は、我が国でのみならず世界で活躍してきたトップクラスのチェリスト4人が、一堂に会した演奏を聴けるというかなり贅沢なコンサートで、毎年この時期に開かれるサントリー・C.G.M.のオープニングに相応しいものでした。
大きく分けて、前半の①から⑤では四人による四重奏五曲を、第1~第4Vc.の担当を交代で変わりながら演奏、後半では、四重奏曲1、三重奏曲1、二重奏曲2、の合計4曲を、北村さんは2回出場、他の3人は3回出場するようにうまく配分して演奏しました。、今回の演奏会はサブタイトルに『堤剛プロデュース2025』と有りますから、推察するに、これ等のプログラミングは、堤さんが、出来るだけ全員に平等な演奏機会を与えつつ、個性を発揮し易くし、しかも先輩は後輩を思いやり、後輩は先輩をリスぺト出来る様な絶妙なプログラム配慮をしたものと考えられます。
①J.S.バッハ (トーマス=ミフネ編曲)[『G線上のアリア」(チェロ四重奏用編曲)』
第1Vc.堤(T)第2 Vc.笹沼(S) 第3Vc.上野(U) 第4 Vc.北村(K)
以下、各演奏者は()内の頭文字で書きます。
Tが主旋律を担当、他の三者は、適宣タイミング良い合の手を入れ、互いに出でず引かず、Tの渋い中にも花がある古色たっぷりの演奏を、支えていました。演奏終了後、Tのトークがあるかな?と期待しましたが、有りませんでした。
②フレスコバルディ(カサド/小林幸太郎編曲)『トッカータ(チェロ四重奏用編曲)』
第1Vc.堤(T)第2 Vc.笹沼(S) 第3Vc.上野(U) 第4 Vc.北村(K)
①と同じパート担当で、 緩い旋律で開始した四者は、次の速い軽快なパッセッジをテンポアップして如何にも古楽の味わい深い味を出して演奏していました。終盤のSは高音を二回立て、最後Tは相当力を込めて弾き切りました。
③モーツァルト(ムーア 編曲):『オペラ<フィガロの結婚> K. 492 序曲(チェロ四重奏用編曲)』
第1 Vc.上野(U) 第2Vc.堤(T)第3Vc.笹沼(S) 第4 Vc.北村(K)
UGがトップに移動、他の三者は一つづつ下がる移動です。
聴き慣れた旋律がスタート、Uの少し不鮮明な音も最初だけ、気色張っていたのかも。第4→3→2→1とフガートでリレーする箇所OKでした。メインのUは金属音が出る時もあり、しかし次第に冴えた音になる。最終局面の速いパッセッジはOKでした。
④クレンゲル『主題と変奏 作品28』
第1Vc.笹沼(S)第2 Vc.北村(K)第3Vc.上野(U) 第4 Vc.堤(T)
ゆったりと構えた四人のスタート、Sの音がこれまで以上に冴えて、落ち着いた音は安定しています。中間の速いパッセッジの変奏を経て、元の美しいアンサンブルの調べに戻り、緩急を繰返して四者とも生き生きとした演奏でした。
⑤グリュッツマッハー『奉献聖歌作品65』
第1Vc.北村(K)第2 Vc.笹沼(S) 第3 Vc.堤(T)第4Vc.上野(U)
ここまでの編曲は(当然だとは思いますが)世界の色んなチェリストによってなされたもので、前半最後の曲は聖歌の旋律が基だと言います。確かに神聖感のある曲でした。
第1を弾いたKの調べはこれまで以上に、とてもいい音色でした。今回初めて彼の演奏を聞いたのですが、表現力も素晴らしいし音楽性もいいし、アンサンブルにも良く馴染んでいて、まだ20代になって間もない若さですから、今後順調に伸びていくことを期待します。
《20分の休憩》
⑥ハイドン『ディヴェルティメント ニ長調』
Ⅰ.Adagio
II. Allegro di molto
Ⅲ.Menuet: Allegretto
IV. Finale: Vivace
第1Vc.堤(T)、第2 Vc笹沼(S)、第3 Vc.上野(U)
この曲は、様々な楽器の組合わせで演奏される様です。今回はチェロ三重奏版でした。
オリジナルはバリトン(ヴィオラ・ダ・ガンバの変種)、ヴィオラ、チェロのための三重奏曲です。
ハイドンが30年近く仕えたエステルハージ家の領主はこのバリトンを愛奏し、ハイドンは彼のために100曲以上の三重奏曲ほか、数多くのバリトン作品を残しています。
このディヴェルティメントは、その膨大な三重奏曲の中から4つの楽章を抜粋して構成し、チェロ三重奏に編曲したものです(第1、2楽章:113番、第3楽章:第95番、第4楽章:第81番)
流石ハイドンの調べといった感じの曲。4楽章もあるので、かなり本格的構成の長い曲でした。
1楽章は、スタートのアンサンブルが太い調べで、強くも有りいい感じ、Sの合いの手もピッタリ息が合っていました。第2楽章は速い荒ら荒らしい調べでスタート速いパッセジの連続でした。第3楽章はAllegrettoのメヌエットとTrio、落ち着きのある調べで、T⇒Sの掛け合いがとてもいい感じでした。第4楽章Finale:VivaceではUも張りきって活躍、かなり速いリズムで主客が入れ代わり、フーガのやり取りはアンサンブルに厚みと軽快感を印象付けていました。
⑦ゴルターマン『 ロマンス 作品119-1』
Georg Goltermann: Romance, Op. 119, No. 1
第1Vc.上野(U)、第2 Vc..堤(T)、第3 Vc.北村(K)、第4Vc.笹沼(S)
何回も何回も優美なテーマが繰り返され、Uは甘い調べを滔々と弾いていて、三者の下支えもしっかりとしたアンサンブルで応えていました。短い曲でした。
⑧ポッパー『2つのチェロのための組曲 作品16』
Ⅰ. Andante grazioso
Ⅱ. Gavotte: Allegro vivace ma non troppo
Ⅲ. Scherzo: Quasi presto
ⅣLargo espressivo
Ⅴ.Marcia. Finale: Allegro ma non troppo
第1Vc.笹沼(S)、第2 Vc.上野(U)
若い二人の力強い二重奏が結構長い時間続き、一方が時々速いトレモロ奏で伴奏していました。5楽章までテンポや掛け合いの順に変化の有る面白みのある曲を二人は、エネルギッシュにこなしていました。合の手が速いトレレモロだったりPizzicato奏だったりクネクネ奏だったり、変化に富んだしかしテーマは十分しっかりと相も変わらぬ演奏で4楽章ではテーマの美しさを誇示、最後はユニゾーンの強奏で終えました。
⑨ベートーヴェン『二重奏曲 変ホ長調 WoO 32 《2つのオブリガート眼鏡付き》』
Ⅰ. Allegro
(Ⅱ.Minuetto)削除
第1Vc.北村(K)、第2 Vc.堤(T)
最終曲は、Tの秘蔵っ子と思えるKの若々しい演奏でした。休憩時間に張り出し紙を見たら、この曲は予定を変更し第1楽章のみ演奏する、と言った趣旨の事が書いて有りました。今回は演奏曲目も多く、後で考えれば、アンコール演奏も用意されていた様なので、時間の関係だと思います。
如何にもベートーヴェンらしさを感じる旋律が速いテンポで繰り出されました。Kの調べは前半の⑤を聞いた印象が、最後のこの曲を弾くのを聴いて、印象が確信に変わりました。二十そこそこなのに大したものです。Vn.やPf.演奏であれば十代或いはもっと小さな子でも素晴らしい音を立てるケースは珍しくないかも知れませんが、Vc.というあの大きい楽器をいい音で鳴らすには相当なパワーと奏法を身に付けなければらないでしょう。経歴を見ると9歳でオケ団と一緒にステージに立ったというのですから驚きです。陽という名の通り太陽の様な明るさを有した本物の音色です。Kは時々師匠のTの顔を見て微笑みながら弾いていました。終盤、Kは「眼鏡」を取り出してかける仕草をして、会場からこの曲名に重ね合わせた笑いを誘っていました。演奏曲はテーマの変奏の繰り返しがなされました。演奏終了と共に、満員の会場からは大きな拍手で観客が答えたのでした。
尚、今回はアンコール演奏が有りました。四人全員が登場し、すぐ次の曲を演奏し始めたのです。
《アンコール曲》クレンゲル『即興曲作品30』
最初四人の斉奏から始まり次いで重奏アンサンブル化、途中からどういう訳かメンデルスゾーンの「結婚行進曲」のメロディーが出て来たのには、笑みを浮かべてしまいました。将に「即興」感が有りますね。