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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

大野・都響+アリョーナ・バーエワ(Vn.)/『チャイコ5番+ショスタコVn.1番』鑑賞

東京都交響楽団第1019回定期演奏会

 

【日時】2025年4月22日(火) 19:00〜
【会場】サントリーホール

【管弦楽】東京都交響楽団
【指揮】大野和士

【独奏】アリョーナ・バーエワ(Vn.)

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    〈Profile〉

    1985年、キルギス・ソビエト社会主義共和国・オシの音楽一家に生まれた。5歳からヴァイオリンを始め、1995年からモスクワ音楽院附属中央音楽学校に進学してエドゥアルド・グラチの薫陶を受けた。2002年にモスクワ音楽院に進み、引き続きグラチの指導を受けた。

    2001年のヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクール[5]、2004年のパガニーニ・モスクワ国際ヴァイオリン・コンクール、2007年の仙台国際音楽コンクールの各コンクールで優勝を果たした。


【曲目】
①ショスタコーヴィチ『ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調Op. 77』

(曲について)

    ドミートリイ・ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 作品77は、1947年から1948年にかけて作曲されたヴァイオリン協奏曲である。曲の長さ・内容・オーケストレーションとも大規模であり、交響曲に匹敵すると言える。ショスタコーヴィチの傑作の1つである。

    この頃のショスタコーヴィチは、「若き親衛隊」(1948年)や「エルベの邂逅」(1949年)など、ソヴィエト的テーマの映画音楽を相次いで書いていた。これらの音楽において彼は、大衆との結びつきを目指したと言われており、ヴァイオリン協奏曲第1番も全曲に通奏低音のように流れるユダヤ趣味をはじめ、ロシアの民族的要素が主導的役割をもっている。しかし、この曲でショスタコーヴィチは確かにロシア民族の本性に立ってはいるが、単に民謡や民族舞踏のリズムを流用に留まってはいない。ショスタコーヴィチは、インターナショナルな内容を追求しながらも、なおかつ民族的な表出を持ったものを完成しつつあった

    この曲は、スターリン死後の雪解けの雰囲気の中、交響曲第10番の初演が一応の成功をもって終え、ジダーノフ批判が一段落したと考えられた1955年、曲の完成から約7年が経った頃に発表された。本作は、ヴァイオリニストのダヴィッド・オイストラフに献呈され、初演も彼により、1955年10月29日、エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー交響楽団との共演で行われた。

 


②チャイコフスキー『交響曲第5番 ホ短調 Op. 64』

(曲について)

交響曲第5番 ホ短調 作品64(こうきょうきょくだい5ばん ほたんちょう さくひん64、ロシア語Симфония № 5 ми минор, соч. 64)は、ロシアの作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーが作曲した交響曲である。チャイコフスキーの円熟期にあたる1888年の作品であり、交響曲第4番ヘ短調作品36とは作曲時期に10年の隔たりがある。    4つの楽章からなり、演奏時間は約42分。一つの主題が全ての楽章に登場し作品全体に統一感を与えている。この主題は「運命」を象徴しているとされており、第1楽章の冒頭で暗く重々しく提示されるが、第4楽章では「運命に対する勝利」を表すかのように輝かしく登場するといった具合に、登場するつど姿を変える。第1楽章と第4楽章は序奏とコーダがあるソナタ形式。緩徐楽章である第2楽章は極めて美しい旋律をもち、第3楽章にはスケルツォの代わりにワルツが置かれている

【演奏の模様】

①ショスタコーヴィチ『ヴァイオリン協奏曲第1番』

〇楽器編成:打楽器を増強したオーケストラながらも、トランペット、トロンボーンを含まないことが特徴的。

独奏Vn. Fl.(3)(うち1本はPicc.持ち替え)、Ob.(3)(うち1本はEn.-Hrn.持ち替え)、Cl.(3)(うち1本はBas-Cl.持ち替え)、Fg.(3,うち1本はCon.-Fg.持ち替え)、Hrn.(4)、Tub.、Timp.、Tamb.、Tamt.、Sylp.、Chels.、Hrp.(2)、三管編成 弦楽五部  (14 -12 - 12-10 -8)

〇全四楽章構成

  第1楽章 Nocturne. Moderato

  第2楽章 Scherzo. Allegro

  第3楽章 Passacaglia. Andante - Cadenza (attacca)

 第4楽章 Burlesque. Allegro con brio - Presto

 

    第1楽章冒頭、低音弦の唸り・うねりでスタート、バーエアも続いて、静かに低音域の調べをゆっくりと奏で始めました。次第に明確化するソリストの音、いい音色です。Vn.アンサンブルは、聞こえるか聞こえない位の微弱音で、寄り添っている。ここはNocturne(仏語)ですから、あたかも夜のシジマに遠くに小さく聞こえる夜行動物の遠吠えが、時々叫びとなって響いて来るが如しです。鐘風の音もポンカンキンと聞こえます。こうした様子が暫く繰り返えされ、木管が高音の合いの手を入れるとソリストは同じパッセッジを弱く繰り返し、そのあとは、静かに演奏を続けるのでした。仲々おしゃれなショスタコの調べです。それにしてもバーエアは、微かな微弱音からなる旋律を些かの狂いもなく安定して出音していました。かなりの熟練者とみました。ここまでズート流れのテンポは、殆ど同じ様なもので、強弱に変化を付けて演奏、終盤では、夜明けが近いのか?ソリストは、低音域で、強いボーイングに転じましたが、テンポは相いも変わらず同じ様なスローな状態、低音弦アンサンブル他が合いの手を入れると、ソリストは、弱音⇒高速音⇒高音⇒細く強い音を立て、最後は、オケのうねりの中で、次第に響きを弱めて、ハーモニクス音で、消え入る様子で終了したのでした。Hrp.も銅鑼も弱弱音を添えていました。

 一説によれば、ショスタコはこの楽章に死の影を映し出していると謂われます、確かに不気味な響きを有していますね。

第1楽章の演奏を聞いた限りではバーエワは、非常に繊細さを感じるヴァイオリニストです。ところが次の第2楽章からが、ソリストの演奏は驚く程の変貌振りでした。

 第2楽章はアレグロのScherzo。スケルツォは元来の「諧謔」の意から転じて器楽演奏では、快活な速いテンポの曲などを意味する様になりました。当然、第1楽章とは趣向が異なる演奏は予想されましたが、冒頭、バーエワは弓の根元で、Pzzicato かと見まごう強い低音のハジキ音を、ジャン、ジャジャジャジャジャンと立てて、すぐに猛列なテンポの高音旋律を奏で始めました。速い旋律の中にはさらに細かい修飾音をまじえながらのかなりの強奏です。木管(Fl.Con-Fg.etc.)が盛んに囃し立てていました。タッタッララッタ タッタッララッタとソロVn.と合いの手木管の勢いは衰えず、ソロは重音演奏を交え疾走しています。まるで制御の効かなくなった機関車の暴走の様に力強く。 すぐに合の手は木管に金管群も参加し、さらに打楽器群も応戦、オケが全力で激しい混沌の世界へと誘うのでした。この楽章の猛烈な勢いのソロ演奏でも、バーエワは殆どノーミス、表現力もテクニックもハイレヴェルの素晴らしい演奏を見せて呉れました。

 第3楽章、Passacaglia では Timp.の囃しに乗ってHrn.群がゆっくりと低音の勇大な斉音を吐き出しました。弦楽等はひそかに寄り添った弱音演奏をしています。

。暫しオケの序奏が進むとバーエワはおもむろにヴァイオリンを肩に掛け、滔々と低音域の調べを静かに奏で始めました。ここで初めてだい1楽章でも次楽章でも見られなかったバーエワの美音旋律を聴くことが出来ました。高音域に上り詰める旋律は、まるで天女の舞いか。    この間管弦は低音奏の弱音っでソリストに寄り添い、一層ソロ演奏を引き立てるものになっていた。今回はソリストに気が取られ、目はそちらに集中していて指揮者は殆ど目に入らなかったので、オケの音から判断する限り、大野さんの指揮指導はかなり堂に入ったものだったのではと推定されます。続いてソリストはカデンツア演奏に入り、低音域の重音演奏もしっとりと、それから第一楽章の様な微弱音で、あたかも絹糸を神経を集中させて、ゆっくりゆっくりと手繰り寄せる様な調べを重音も交えて立てたかと思うと、物凄く速いパッセジを閃光の様に煌めかせ(どんな凄い音符が並んでいるのでしょうか?楽譜を見ていないので分かりませんが)、次第に力が入った演奏を重音を続けて組合せ、相当な力奏でかなりの長時間一人で広い会場に音を充満させていました。この楽章は繊細な美音と力強い分厚い音とが縦横無尽に繰り出され、ショスタコの素晴らしい曲を素晴らしい腕前で、聴くことが出来ました。この曲をショスタコはオイストラフに献呈したと言いますから、随分と気張って作曲したのだと思います。

 最終4楽章にはアタッカで入りました。この楽章Timp.やパーカッションの演奏が印象に残りました。アタッカで入った冒頭のTimp.のダダダーンダダダーンダダダーンダダダーンとそれまでのソロVn.の醸しだす張りつめた空気を一掃し、Xyl.も入って楽相の変換を知らせるも、再び速い調べを繰り出したソロVn.が、相もかわらず前楽章のカデンツァを引きずって、全力疾走の演奏を続け様とした際に、弦楽アンサンの同テンポの調べが行き手を阻み、一旦ソロは中断しました。  それも束の間、再びバーエワは走り出しましたが、パーカッションとの掛け合いが一風変わったジャズ風なテンポ演奏で面白かった。こうなるとソロVn.の勢いを止める手立ては無くなり、さらに変則的にテンポアップしたバーエワの調べは、猪突猛進とも言える弾丸演奏で突っ走り一気に終演となったのでした。会場は(自分も含め、恐らく皆な)あ然とした様子、大野さんがタクトを降ろしたか、将に降ろさんとした時に怒涛の様な大きな拍手喝采が会場に広がりました。 

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尚鳴り止まぬ拍手に応えて、ソリストはアンコール演奏を行いました。

《アンコール曲》

グラズナ・バツヴィチ『ポーランド カプリース』

 

《20分の休憩》

 

②チャイコフスキー『交響曲第5番 ホ短調 Op. 64』

 この曲は、次の6番の『悲愴』とは、大違いで、物凄く動物的、それも獰猛動物の圧倒される迫力ある曲なので、昔初めて聞いた後は、何か心が休まらなかった覚えがあります。

   しかしその後聞くたびに、そのうるさい程のダイナミックなオーケストレ-ションに徐々に慣れて来て、全体の中で好きな部分を少しづつ広げていった経緯いが有ります。 例えば第2楽章アンダンテカンタービレの冒頭のHrn.のしみじみとした調べの部分。今回の都響のHrn.の演奏は、自分のメモによると「Hrn.のソロ音ゆっくりと旋律奏、安定感のある良い演奏(Cl.Fl..)」と有るので、Hrn.又はCl. or Fl.又はそれらの組合せが良かったのだと記憶しています。その後の弦楽アンサンブルの旋律奏の尻上がりに盛り上がる箇所も都響はいいと思いました。

 又第3楽章始めの軽妙な調べも好きな箇所の一つですし、弦楽のPizzicatoと速い調べに挟まれた木管の変奏部分も、特にFg.の渋い低音にはしびれます。こうした各パートの掛け合いや合いの手では、今回のまたその後のVc.アンサンブルもとてもいいものでした。さらに最終4楽章の冒頭の低音域テーマの弦楽奏も分厚くカッコいいと思いました。

 しかし弦楽アンサンブルと管楽器、打楽器の全楽全強奏になると、何かしっくりいかぬ、調和感の不足とも言うべきか満足度がやや足りませんでした。これには複雑な要因があると思いますが、以前生で聴いた中では、2018年12月サントリーホールでの「ドイツグラムフォン120周年記念東京ガラコンサート(小沢さん最後の指揮)」における第5番の演奏(指揮は異なりました)が、この統合性において頭一つ抜きんでいたという記憶が有ります。何れにせよ自分の気持ちの中では今の処、5番はチャイコフスキーの6番を越える存在にはなっていません。

 尚、この曲は最初から最後まで、一貫して「運命の主題」が繰り返し出現して曲自体のキーポイントとなっているので以下に参考まで詳細を引用しました。

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《参考》

「運命の主題」とは?

    交響曲第5番では、第1楽章冒頭の主題が全楽章にわたって登場する。この主題は「運命」を表していると考えるのが通例であり、「運命の主題」と呼ばれる(「主想旋律」のように呼ばれることもある)。主題の後半に見られる下行する音階は、第3楽章の最初のワルツ主題や第4楽章の第1主題などにも関連する重要な動きである。

「運命の主題」は登場するたびにテンポやニュアンスを変える。チャイコフスキーがエクトル・ベルリオーズの「イデー・フィクス」(idée fixe、固定楽想)に学んだこの手法は、1885年の『マンフレッド交響曲』ですでに用いられており、交響曲第5番の翌年に作曲されたバレエ音楽『眠りの森の美女』ではさらに磨きをかけた形で使われることになる。

楽章

箇所

テンポ

拍子

開始音量

楽器

第1楽章

序奏

Andante(♩=80)

4分の4

p

クラリネット

第2楽章

中間部の終わり

Tempo preccedente(♩=100)

4分の4

fff

トランペットなど

再現部の終わり

Allegro non troppo

fff

トロンボーンなど

第3楽章

コーダ

Allegro moderato(♩=138)

4分の3

pp

クラリネットとファゴット

第4楽章

序奏

Andante maestoso(♩=80)

4分の4

mf

弦楽器

p

木管楽器

提示部の終わり

Allegro vivace(二分音符=120)

2分の2

ff

金管楽器

再現部の終わり

Poco meno mosso

ff

管楽器

コーダ

Moderato assai e molto maestoso(♩=96)[注 42]

4分の4

ff

弦楽器

fff

トランペットなど

なお、「運命の主題」だけでなく、第1楽章の第1主題も、第4楽章の集結部分で姿を変えて再現される

 

第1楽章

短調、序奏とコーダをもつ自由なソナタ形式 。

序奏はアンダンテ、4分の4拍子。2本のクラリネットが暗く重々しい「運命の主題」を提示する。交響曲第4番の冒頭に出る激しく圧倒的なファンファーレも「運命」を象徴しているが、第5番の「運命」は暗澹として弱々しく絶望感に満ちており、「運命への服従」を暗示している。

主部はアレグロ・コン・アニマ、8分の6拍子。弦楽器が pp で刻む行進曲調のリズムに先導され、クラリネットとファゴットがホ短調の第1主題を提示する。この主題は「運命の主題」から派生しており、前述したように第4楽章の最後でも登場する。

 

第2楽章

ニ長調、 三部形式。「多少の自由さをもつアンダンテ・カンタービレ」の指示がある。 デュナーミクは pppp から ffff までと全楽章の中で最も幅があり、テンポの変化も全楽章の中で最も多い。美しい旋律と劇的な展開をもった楽章であり、オペラを器楽に移し替えたような趣がある。

曲は8分の12拍子で開始される。弦楽器の低音による静かなコラール風の前奏に続き、ホルンのソロにより主旋律が提示される。甘美かつ抒情的であり、チャイコフスキーの旋律美が発揮された名旋律である

 

第3楽章

イ長調、コーダをもつ複合三部形式。アレグロ・モデラート。本来であればスケルツォ楽章がおかれるところであるが、チャイコフスキーは新しい試みとしてワルツをおいた。なお、多楽章形式の作品ではすでに『弦楽セレナーデ』の第2楽章にワルツをおいているが、交響曲では初めてである。

ワルツの旋律は3種類あり、弦楽器や木管楽器によって奏でられる。

曲は前奏なしに優雅な第1のワルツから始まる。旋律は「運命の主題」に関連する下行音階から始まっている。この旋律が最初に第1ヴァイオリンで提示される際、伴奏は各小節の1拍目が休符になっているため、聴く者の拍節感を狂わせる効果がある

 

第4楽章

序奏とコーダをもつソナタ形式、またはロンド・ソナタ形式。輝かしい勝利と全民衆の祭典のようなフィナーレである。

序奏はホ長調、4分の4拍子。弦楽器、ついで管楽器によって「運命の主題」が荘厳に奏でられる。序奏のクライマックスが静まるとホ短調の第3音である音がティンパニのトレモロとコントラバスに残り、そこにアレグロ・ヴィヴァーチェで主部の第1主題が飛び込んでくる。