HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

新国立劇場バレエ『ジゼル』を観る

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【日時】2025.4.19.(土)18:00〜

【会場】NNTTオペラパレス

【会期】

  • 2025年4月10日(木)19:00
  • 2025年4月11日(金)14:00
  • 2025年4月12日(土)13:30
  • 2025年4月12日(土)18:00
  • 2025年4月13日(日)13:30
  • 2025年4月18日(金)19:00
  • 2025年4月19日(土)13:30
  • 2025年4月19日(土)18:00
  • 2025年4月20日(日)14:00
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  • 【芸術監督】吉田都
  • 【振 付】ジャン・コラリ / ジュール・ペロー / マリウス・プティパ
  • 【演 出】吉田 都
  • 【ステージング・改訂振付】アラスター・マリオット
  • 【音 楽】アドルフ・アダン
  • 【美術・衣裳】ディック・バード
  • 【照 明】リック・フィッシャー
  • 演出吉田 都



    【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
    【指   揮】(ポール・マーフィー)  富田実里


    【主要キャスト】

    〇ジゼル:米沢唯
  • ステージング・改訂振付アラスター・
    マリオット
  • 美術・衣裳ディック・バード
  • 照明リック・
    フィッシャー

            

   

  〇アルブレヒト:井沢 駿

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〇ヒラリオン:中家正博  


〇ミルタ:根岸祐衣


〇ペザント パ・ド・ドゥ

飯野萌子


山田悠希貴

 

【粗筋】

第一幕

ブドウ収穫祭をひかえた中世ドイツの村。公国の王子アルブレヒトは、隣村の村人に変装し、村娘ジゼルを口説いている。森に住むヒラリオンもジゼルに恋しており、アルブレヒトの正体を不審に思う。ジゼルの母ベルタは、心臓が悪く体も弱い娘を心配しており、アルブレヒトとの交際を認めずにいる。大富豪の娘バチルドと、アルブレヒトの伯父クールランド公爵の一行が村に到着すると聞いたアルブレヒトは身を隠す。村人のもてなしを受け、優しいジゼルに惹かれたバチルドは、お互い結婚を控えている者同士として彼女に首飾りを贈るが、よもや相手が同じ男性とは知るよしもない。収穫祭のさなか、ヒラリオンは公爵家の紋章がついた角笛を吹いてアルブレヒトの正体を全員の前で明らかにする。アルブレヒトが実は王子で、バチルドと婚約していることを知ったジゼルは愛する人の裏切りに打ちのめされ、ついには心臓が止まって息絶えてしまう。


第二幕

夜が更け、木々がうっそうと生い茂る古い墓地。恋人に裏切られ失意のうちに亡くなった乙女たちの霊、ウィリたちが潜んでいる。ウィリの女王ミルタは、男を見つけたら死ぬまで踊らせるようウィリたちに命じる。ジゼルの墓に花を供えに訪れたアルブレヒトは罪の意識にさいなまれて許しを請う。その姿を見たジゼルは、変わらぬ愛をもって優しく許す。ミルタとウィリたちは同じくジゼルの墓にやってきたヒラリオンを追い詰め崖から転落死させた後、アルブレヒトにも死を告げ、日の出まで踊ることを強いる。力尽きそうになる度、自分のために踊るジゼルに守られ、ついにアルブレヒトは夜明けまで生き延びることができた。ウィリたちを縛る憎悪と復讐の鎖を断ち切った彼女は自らの墓に戻って安らかに眠り、一人残されたアルブレヒトは墓の前で涙を流すのであった。

 

【上演の模様】

この演目は、NNTT(新国立劇場)としては、2023年10月に上演されて以来、2年半振りの上演となります。参考まで、その時の上演の記録を文末に再掲して置きます。

  通常、特に何かある場合を除き、オペラやバレエは、出来るだけ初日を観るようにしているのですが、今回は、二つの理由で、第7日の夜の部の鑑賞となりました。理由の一つは、昨年の同バレエ団の『眠りの森の美女』上演の際、出演予定のプリンシパルの一人が、体調不良で出演中止となってしまったのです。そのプリンシパルが、米沢唯さんだったのです。米沢さんは、2011年にNNTTのプリンシパルに就任以来、長きに渡りNNTTの看板ダンサーとして活躍してきて貢献しており、降板はかなりのショックでした。NNTT吉田芸術監督は、ベルリン国立バレエ団のプリンシパル佐々晴香さんに代役を頼んで、この危機を乗り越えたのでした。しかもその佐々さんの初登場の場面に、舞台天井から下降する大きなシャンデリアにある程度回復した米沢さんを乗せて、舞台に降臨させるという演出で登場させ、米沢さんの面目も立てたのでした。その日は、米沢さんはリラの精を踊りました。でも体調不良の原因は、心臓疾患らしいですから、無理は禁物です。そういうことで、今回の米沢さんのジゼルを見てみたいと考えたのです。米沢さんの出演は、4/12(土)にもあった様ですが、その日は都合が悪く、八回目の公演を見たのです。

    もう一つの理由としては、NNTTバレエ団は、今年の7月に史上初のロンドン公演を実施することになり、その演目に選ばれたのが、『ジゼル』なのです。ロンドン公演も恐らく同じ様な舞台設備・演出で行われるでしょうから、その先駆けの公演を見てみようと思ったのでした。

    前半第一幕の場面は村の広場、後半第二幕は、森の中の墓場にある広場の二セットだけです。非常に省エネ、省資源的。

    そこで起きる出来事が、第一幕の楽しい集いから突然の悲劇、及び第二幕の幽玄の世界の出現と束の間の逢瀬・別れです。

    一幕の見処は、多くの村人の様々な踊り・群舞、及び何と言ってもジゼルと王子の邂逅と互いに惹かれて踊るソロ&パ・ド・ドゥでしょう。村人達の生き生きした活発な動き、群舞の次々と変形する組み合わせと形態は、相当な訓練の賜物に違い有りません。若い村人達は、二、三十人縦列や横一or二列になって、男女別或いは、男女ペアで並び踊ったかと思いきや、すぐに列は、十字型、円陣に変化、円の中では一組の男女ペアが、パ・ド・ドゥ的なダンスを踊っている。民族的な調べに乗ったリズミカルな動きが多く、きびきびした様子で、村人の収穫の喜びが良く表現されていました。

   そこに現れたのが、アルブレヒト王子。王子は身分を隠して、お気にいりのジゼルに会いに、叔父の狩りに便乗して、この村に来ています。広場に面して、ジゼルが母親と住む家があり、その対面に物置小屋風の建物(王子のマントや道具が隠されてある)があります。ジゼルに想いを寄せる森番のヒラリオンは、最近ジゼルに接近し始めたロイス(アルブレヒト王子の偽名)が気に食わなくてまた警戒心もあって、登場した王子に挑む仕草までしたのでした。またロイスが偽名だと嗅ぎつけ、その正体を、狩りに来た城の狩人達を呼び寄せて、皆にバラそうともしたのでした。ジゼルが家から出て来たので、王子は彼女を捕まえて、二人で踊ろうとするのですが、ジゼルは最初のうちはスルリと逃げて、いざという時には捕まりません。この辺りにジゼルが王子の影の部分(何か秘密があること)を感じ取っていた事を暗示しているのではなかろうかと思いました。王子役の井澤さんやジゼル役の米沢さんが登場した時は、会場からは大きな拍手が起こりました。二人の主役に期待する人気の程が分かります。しかしロイス(アルブレヒト王子)に惹かれていたジゼルは遂に彼と手を取り合い、二人で踊るのでした。王子はキスの仕草までしょうとします。

 この二人の踊りの場面で、もう一つ象徴的な場面は、ジゼルが一輪の花を手に取り、花びらを一枚一枚むしり取り、吉凶(愛している、愛していない)占いをした場面です。

 男女間の愛の存在を花占いですることは、欧州では珍しいことではなく、例えばゲーテの書いた『ファウスト』にも記述があり、この物語をもととして作曲されたグノー(仏)作曲のオペラ『ファウスト』の第三幕11場では、少女マルガレーテ(MARGUERITE)が、木春菊(la Marguerite)の花を摘み、花びらを千切って 「彼(ファウスト)は私を愛しているー愛していないー愛しているー愛していない(Il m'aime! – Il ne m'aime pas! –Il m'aime! – pas! – Il m'aime! – pas. –Il m'aime)」を繰り返し、最後「愛している」の結論に達して、目の前のファウストと抱き合う場面が、設定されています。

 ジゼルは、ヒラリオンからプレゼントされた花束から、恐らくマーガレットの花を1本抜き取り、占ったのだと思いますが、王子は、ジゼルが、占い終わるのを待たず、自ら花弁をむしり取って、散らしてしまうのでした。この場面は色々複雑な心理を表現していると思う。ジゼルは、これまで村の森番ヒラリオンが自分に好意を寄せていて、自分としても愛に近い感情を有していたのだと思いますが、突如得体の知れないロイスなる立派な青年が登場し、自分に愛を告白しようとしている、一体本当にこの青年は自分を愛し、それに値するのだろうか?やはり占ってみようという気になったのでしょう。 王子としては、万が一占いで「愛していない」と出たら、どうしようもなくなるので、ごまかしたのかも知れません。しかし王子はこれまで身分を胡麻化しているばかりでなく(これは余りにジゼルをびっくりさせる事実なので伏せていたとも見なせますが)、それ以上に罪深いのは、王子は婚約者バチルド姫までいて、間もなく結婚するという時期にジゼルを好きになり、こうしたことを一切隠していたからです。それを暴いたのがヒラリオン、真実が明らかになった段階で、きっぱり王子を切り捨てて、ヒラリオンに気持ちが戻れば、ジゼルは、何もショックを受けずに済んだかも知れません。それが出来ない程、王子を愛し始めていたから、自分の気持ちの中は錯乱するばかり、結局心臓に問題があるジゼルは、ショック死してしまう他無かったのでしょう。

 次の第二幕はジゼルが死んだ後も王子は諦めきれず(と言うことは当然バチルド姫との婚約は解消でしょう)冥界にまで会いに行きたいと思った王子は、ジゼルが埋葬された墓地にやって来ます。

  死んでしまった愛する女性に、男性が会いに行くジゼルの物語は、17世紀にモンテヴェルディによって作られたオペラ『オルフェオとエウリデイーチェ』に類似しています。オルフェオの結婚相手の女性が突然と亡くなり(毒蛇にかまれて)、彼は冥界に会いにいくのです。このオペラはギリシャ神話が基となっていますから、こうした愛のテーマは、時代が変わっても変わらない人間の普遍的テーマであると言って良いでしょう。

オペラ「オルフェオ・・・」が今でも素晴らしいと思われる理由は、一人の人間として「オルフェオ」の心の動きを表している音楽に、深く共感することができるからです。それこそがオルフェオの真の魅力。

 と同じ様に、このバレエ『ジゼル』も、第二幕での死せる者、生きとし生きる者、冥界の番人たちの織り成す見事な踊りが、その心の動きを表して余りあるあるから、魅力が失せないのでしょう。

 この幕での見せ場の一つは、何と言っても若いダンサーたちの群舞です。ウィリ(婚礼前に亡くなった若い女性の霊)役のダンサーたちの白い衣装もさることながら、ゆっくりと踊るコールドバレエの帯列の変化、ダンサーたちの一糸乱れぬ一体的動き、すべて冥界の幽玄さを表現するのに十分な出来だったと思いました。又ウィリーを束ね統率する頭と言うか(女性ですから)女王とでも呼びましょうか、ミルタ役の吉田朱里さんは、ダンスとしてはソロで少し踊っただけですが、厳しい顔つきで、ウィリー達に命令を下すばかりでなく、ジゼルをも霊界から呼び起こし、ウィリに加えようとします。またジゼルに合いに来たヒラリオンと王子をも、配下に置こうとするのですが、ヒラリオンには復讐の念があるということで、舞台奥の(多分高台から)から落としてしまい、一方王子の方は、ジゼルの必死の訴え(踊りで表現)の甲斐もあってか、ウィリに落とすこともなく、王子と会えること、踊ることを(多分ジゼルが懇願したのでしょう)一貫してミルタはそっぽを向いて、知らんふりをしていましたが、これは慈悲で見て見ぬふりをしていたのだと考えられますけれど、違うかな? 結果、ジゼルとアルブレヒト王子は束の間の逢瀬を涙で邂逅し、二人でパ・ド・ドゥを踊るのでした。この場面のジゼル役米沢さんの踊りは、如何にも死霊らしく力なく、王子役井澤さんのリフトにも、落下せんばかりの空中姿勢で、ソロも元気なく、将にウィリ予備軍ピッタリのはまり役でした。これは演技と言うよりも、米沢さんの体調が全盛期のような万全なものではなく、自然と霊魂の踊りとして、上手く表現出来たのだと思います。最後永遠の別れを惜しみながら、墓の中に戻るジゼルと、悲嘆の涙にくれる王子の場面は、つい落涙してしまう程でした。(ただ一点、ジゼルのお墓が、舞台下手(左サイド)の奥まった処にあり、墓標も刻字も見えず、この最後の場面のハイライトである、ジゼルと王子の動きとお墓の関係にやや曖昧感があったことが気になりました。最後は、聴衆全員が注視出来る舞台中央付近にある方が印象的なのでは?)

 幕が下りると、終演までには満席に近くなった大入りの会場(チケット売り切れ)からは盛大な拍手と歓声が飛び交い、何回も何回もカーテンコールと出演者の挨拶が続くのでした。

 これだけレヴェルが高いバレエ上演であれば、海外での上演も上手く行くこと必定だと確信しました。


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【フォト・ギャラリー】

 
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新国劇バレエ『ジゼル・初日』を観る

【日時】2022.10.21.(金)19:00~

【会場】NNTTオペラパレス

【演目】ジゼル全二幕

【公演】新国立バレエ団

【出演】

〇ジゼル:小野絢子

 

<Profile>

東京都出身。小林紀子、パトリック·アルモン、牧阿佐美に師事。小林紀子バレエアカデミー、新国立劇場バレエ研修所(第3期修了生)を経て、2007年新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。入団直後に、ビントレー『アラジン』の主役に抜擢され成功を収めた。その後、『眠れる森の美女』『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『ラ·バヤデール』『ジゼル』、アシュトン『シンデレラ』、ビントレー『カルミナ·ブラーナ』『パゴダの王子』『シルヴィア』、プティ『こうもり』『コッペリア』、フォーキン『火の鳥』、ウィールドン『不思議の国のアリス』ほか数多くの作品で主役を踊っている。 11年プリンシパルに昇格。主な受賞歴に04年アデリン·ジェニー国際バレエコンクール金賞、11年芸術選奨文部科学大臣新人賞および舞踊批評家協会新人賞、14年服部智恵子賞、16年橘秋子賞優秀賞、19年芸術選奨文部科学大臣賞などがある。プリンシパル。

〇アルブレヒト:奥村康祐

  

<Profile>

奥村康祐

大阪府出身。地主薫に師事。2003年、地主薫バレエ団に入団。07年全日本バレエコンクールシニアの部第1位、09年モスクワ国際バレエコンクールシニア部門銀賞、10年ジャクソン国際バレエコンクールシニア部門銀賞、12年新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。13年『ドン·キホーテ』で主役デビューを果たした。『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』『パゴダの王子』『アラジン』『シンデレラ』『ペトルーシュカ』などで主役を踊っている。14年ファースト·ソリスト、16年よりプリンシパルに昇格。10年文化庁芸術祭新人賞、12年大阪文化祭賞奨励賞、14年舞踊批評家協会新人賞、16年中川鋭之助賞、22年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。プリンシパル。

〇ヒラリオン:福田圭吾

〇ミルタ:寺田亜沙子

〇ウィルフリード:清水裕三郎

〇ベルタ:楠元郁子

〇クールランド公爵:夏山周久

〇バチルド:益田裕子

〇ペザント パ・ド・ドゥ:池田理沙子/速水渉悟

〇モイナ:廣川みくり

〇ズルマ:飯野萌子

〇他ペザント達、ウィリ達多数。

【芸術監督・演出】吉田都

【振付】ジャン・コラリ / ジュール・ペロー/
マリウス・プティパ

【改訂振付】アラスター・マリオット

【音楽】アドルフ・アダン

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【指揮】アレケセイ・バクラン

  

<Profile>

 アレケセイ・バクラン

ウクライナ国立歌劇場指揮者。1987年、キーウ国立音楽院を卒業後、ウクライナ国立歌劇場にて指揮者を務める。95年、キーウ市アカデミー・オペラ・バレエ劇場首席指揮者に就任。ウクライナ芸術功労活動家の称号を授与される。ウクライナ国立歌劇場では『マーメイド』『コッペリア』『ウィンナー・ワルツ』『海賊』、また、キエフ市アカデミー・オペラ・バレエ劇場では『リゴレット』『ロメオとジュリエット』『ラ・バヤデール』『ジゼル』『白鳥の湖』『不死身のカシェイ』(リムスキー=コルサコフ)、『森の詩』(スコルリスキー)などのオペラ、バレエに指揮者・音楽監督として参加。ベートーヴェン『交響曲第9番』、ロッシーニ『スターバト・マーテル』、オルフ『カルミナ・ブラーナ』などを手がける。2003年、06年にはメキシコで、世界のバレエ界のスターたちを集めて行なわれたガラ・コンサート《バレエティッシモ》で指揮を務めた。06年にザグレブ国立歌劇場に招かれたほか、メキシコシティ国立バレエ団に度々招かれ、『ロメオとジュリエット』などの指揮を務める。また、ウクライナ国立歌劇場のドイツ、フランス、スペイン、スロベニア、ポルトガル、韓国、南アフリカ、メキシコ公演、およびキーウ市アカデミー・オペラ・バレエ劇場イギリス公演(05、06、07年)に参加。新国立劇場バレエ団では08年以降、『ラ・バヤデール』『白鳥の湖』『ドン・キホーテ』『シンフォニー・イン・スリー・ムーヴメンツ』『大フーガ』『テーマとヴァリエーション』『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』『ジゼル』などで指揮を務めている。

 

【美術・衣裳】ディック・バード

【照明】リック・フィッシャー

【粗筋】

第一幕

 村娘ジゼルと農民に変装したアルブレヒト、ジゼルは、身体は弱いが笑顔を絶やさない踊り好きな娘だった。ジゼルにはロイスという恋人がいた。しかし、農民であるロイスは偽りの姿。
 二人は想いを通わせるが、ジゼルに恋する村の青年ヒラリオンには面白くない。彼はアルブレヒトが普段の衣装や剣をしまう小屋を見つけ、村の青年ではないことを暴く。

 ある時、ジゼルの村にアルブレヒトの婚約者バチルダを連れた貴族が村に立ち寄った。ヒラリオンはアルブレヒトの剣を持ち出し、ジゼルの前に婚約者バチルダと公爵を連れて、その身分を暴いてしまう。

 身分を暴かれたアルブレヒトは、バチルダの手にキスをする。それを見たジゼルは気が動転し、髪を振り乱して錯乱し、母の腕の中で息絶えてしまう。

第二幕

森の精霊ウィリーの女王ミルタ。森の沼のほとりの墓場は、結婚を前に亡くなった処女の精霊・ウィリーたちが集まる場所。そのウィリーたちは毎晩墓場から抜け出して踊り狂い、通りかかった若い男を死ぬまでおどらせていた。その伝説の通り亡くなったジゼルもウィリーとなっていた。

ある日、ジゼルの墓に許しを請いにやってきたヒラリオンはウィリーに追い立てられる。
そして、自責の念を感じるアルブレヒトも深夜にジゼルの墓を訪れた。ウィリーたちがヒラリオンを追う間、ジゼルを失った悲しみと悔恨にくれるアルブレヒトが彼女の墓を訪れ、亡霊となったジゼルと再会する。

 ヒラリオンはウィリーたちに捕らえられ命乞いをするが、女王ミルタは冷たく突き放し死の沼に突き落とす。

 精霊ウィリーに捕らえられるアルブレヒト
ミルタはアルブレヒトをも捕らえ死に追いやろうとする。アルブレヒトが最後の力を振り絞り踊るとき、朝の鐘が鳴り、ウィリーたちは墓に戻っていきアルブレヒトは助かった。

 ジゼルも朝の光を浴び、アルブレヒトに別れをつげて消えていくのでした。

 

 

【上演の模様】

≪第一幕≫

 冒頭、フルートがハープの伴奏で、綺麗な音を奏でて幕が開くと、舞台は田舎の風景、奥中央には白樺の木でしょうか、林があって手前の広場左右には、左に二階建ての農家、右手に大き目の物置風の建物があります。農民たちが二十人もいましょうか、忙しなく動いたり踊ったり、ジゼルは左の家にいる様です。暫くすると出て来て、農民の服装をして農民を装ったアルブレヒト(実は、彼は貴族の王子なのです)と仲良く踊ったり、何やら話したり、村民に混じり踊ったりしていました。

 タイトルロール役の小野さんは、随分と手足の動きもしなやかに、優雅な踊り振りでしたし、その相手役の奥村さんの踊りは、全体的に跳躍、回転も、フィギュアスケートの様なスピード感よりも、フワッとしたこれまた優雅な大きく見える立派なものでした。

 ジゼルは、この第一幕前半が一番元気があって幸せそうに見え、踊りも生き生きとしたものだったので、大きな拍手浴びていました。またこの二人によるパ・ド・ドウは息がピッタリあっっていて、例えればペアフィギュアの如く、滑る様ななめらかな動きでした。 更にこの二人は、踊り以外の演技も上手なものでした。

 一幕後半で、ホルンの響きとともに、兵士を伴った公爵(アルブレヒトの叔父)が狩りの途中、村広場に登場し、一緒に富豪の娘、バチルドを伴っています。彼女はアルブレヒトの許嫁で、村人に扮したアルブレヒトの正体を、ジゼルに恋心を抱くヒラリオン(きこり)が、ばらしてしまいました。仕方なくアルブリヒトは許嫁バチルドにひざまづいて挨拶、これを見たジゼルは大ショックを受けるのでした。その後の小野さんの踊りは、いかにもショックを受けた娘を表現した纏まりの付かない様子で、さらには狂乱状態に陥ったジゼルの踊りや演技により、ジゼルの受けた心の打撃が如何に大きかったかを見事に表現していました。そしてジゼルは倒れて死んでしまうのです。

 又前後しますが、公爵たちの前で、踊りを披露する村人たちの群舞も、リズミカルな民族舞踊風で大変見ごたえがありました。

《第二幕》

 亡くなったジゼルの魂が存する黄泉の世界の話です。幕が開くと場面は暗い正面遠くに墓標がいくつも見えてその夜空には丸い月が掛かっています。 しかも舞台両サイドには不気味な太い木や根っこが配された如何にもこの世から隔絶した世界を上手にセットで表現していました。ここには、若くして死んだ生娘たちの魂が、夜毎にお墓から抜け出して、ウィリとなって踊るのでした。そのコールド・バレエの踊りは他の演目でもいつもそうなのですが、白いロマンティック・チュチュを羽織り、特にこの演目では、黄泉のウィリ達ですからベールも被り、全体として死に装束に見える多くのウィリ達の踊りは、特に清潔さに満ちた美しい群舞でした。幕が上がって最初はウィリ達のお頭と言うか夜の女王的ダンサーであるミルタ役をソロで踊った寺田さんは、見事に爪先立ちで猛スピードで舞台を横切り、又もう一度戻って行くその速さには少しびっくり、相当なテクニックを身に着けたバレリーナーだと思いました。その後のソロの踊りも立派なものでした。また表現力というか演技もうまい。アルブレヒトやジゼルが懇願のポーズをとっても無視する様子は、見るだけで何を語っているか聴衆に伝わってくる説得力が有るものでした。

 それにしても最後、結局アルブレヒトはジゼルに黄泉の世界まで会いに行って、しばし再会したものの、ミルタ率いるウィリ達に阻まれ、二人は結ばれず、永遠の別れとなってしまうのは、余りに可哀そうな結末ですね。他の演目やオペラでも、死んでしまった恋する人に会いに行って、遂にはその思いが達成されるハッピーエンドの物語は多いのですが、ジゼルの様に悲劇が悲劇で終結するのは、もう少しどうにかならなかったものかと思ったりします。が、それが実際の世の中の厳しさを的確に反映したストーリーなのかも知れません。余りにも酷な人生が世の中には何と多い事でしょう。