HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

ブッフビンダー・ソロリサイタルを聴く

【日時】2025.4.15.(火)19:00~
【会場】東京文化会館小ホール

【出演】ルドルフ・ブッフビンダー(Pf.)

【曲目】

①シューベルト『四つの即興曲D899 第1番~第4番

(曲について)

    それぞれ 4 曲からなる 2 つの即興曲集(D899 と D935)は、シューベルトの死の前年、1827 年の作。D899 は最初の 2 曲が、1827 年 12 月にハスリンガーによって出版
された(残り 2 曲の出版は 1857 年)。「即興曲」という名称はハスリンガーの命名だが、シューベルトも気に入っていたという。ハ短調の第 1 番は、どこかもの悲しさを感じさせる冒頭の素朴な主題が、様々な味付けで自由に変奏される。変ホ長調の第 2 番は、本曲集のなかでも有名なもので、3 連符の軽やかな無窮動。中間部では舞曲風の旋律が現れる。変ト長調の第 3 番は三部形式。内声のアルペジオにのせて、心に染みわたる旋律が歌われる。変イ長調の第 4番は中間部にトリオを持つ三部形式。即興曲らしく訥々と進む主題が繰り返され、トリオでは暗い情熱が顔を覗かせる。

 

②シューベルト『ピアノソナタ第21番変ロ長調D960』

(曲について)

  1828 年 9 月シューベルトの死のわずか 2 カ月前に作曲された、生涯最後のピアノ・ソナタ。

    第 1 楽章モルト・モデラートは、優しく親しみやすい第 1 主題で歩み出し、くぐもるようなトリルの後、変ト長調の印象的なテーマが浮かび上がってくる。続いて穏やかな第 2 主題が始まり、自由な転調を経てヘ長調のコデッタ(小結尾)に至るが、牧歌的な平穏を断ち切るように低音のトリルが現れ、提示部が静かな力強さで反復される。
展開部は嬰ハ短調で開始され、複雑な転調をともなって現れる様々な音型が陰影に満ちた幻想的な世界を形づくる。

    第 2 楽章アンダンテ・ソステヌートは、穏やかな抒情に彩られており、中間部では明るく暖かな響きを聴くことができる。

    第 3 楽章スケルツォは、快活なテンポで優美な主題を奏でながら、トリオでは一転して変ロ短調に転じる。
    第 4 楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポは、提示部を繰り返さないソナタ形式で、冒頭および随所で強奏される G 音が耳に残る。中、少々性急なテンポを保って複雑な転調を重ねながら、最後はプレストで短く締めくくる。長きにわたる模索を経てシューベルト固有の様式というべきものが結晶化した本作は、彼の全ピアノ・ソナタにおける最高傑作と言えよう。

 

 

【演奏の模様】

 今年の東京春祭も終盤に差し掛かりました。今回は、ウィーンのピアニスト大御所、ブッフビンダーがシューベルトを、しかも自分の好きな曲二曲を弾くとあって聴きに行くことに。

ブッフビンダーは2022年、2023年と、新型コロナ禍のため来日中止、そして昨年の春祭で、『ベートーヴェンソナタ全曲演奏会』を開催し、その時は、一回を除き何回も聴きに行きました。第6日目のみ、上さんに行ってもらいました。その時の時の記録を参考まで、文末に再掲して置きます。

   そして今年の春祭は、室内楽も幾つか公演予定がある様ですが、今回のシューベルトのソロ演奏会を聴く事にしたのです。一般的に言って、シューベルトの曲はメロディックで、口遊み易い親しみのあるところが、自分の好みに合っているのかなと思ったりしています。

 

①シューベルト『四つの即興曲D899 第1番~第4番 

 この曲はピアノを習う学徒であれば小学生が弾くのも珍しくない曲です。これを大ピアニストがどの様に弾くのか興味津々でした。

I. Allegro molto moderato

II. Allegro

III. Andante

IV. Allegretto

 

①-Ⅰ.第1番

 ブッフビンダーは最初ジャーンと第一声の後の出だしを、右手のみで丹念に弾き始めました。すぐに両手演奏となり、強弱とテンポに微妙に変化を付け、決して遅くないテンポで進みます。二回目の繰り返しになるとブッフビンダーは少し首が振れる位決然と少し力を入れて強弱交互に、三連符と旋律奏が左右逆転するとテンポも変化、最後のテーマ変奏はかなりスローなテンポから加速、言葉は過ぎますが、少しぞんざいかな?と思われる位速い指使いで強奏していました。最後の単調的変奏音は凄く小さな音でゆっくりと(と言ってもそれまでの速さと比べて)繰り返しを弾いて静まったのでした。

 

①-Ⅱ.第2番

 球を転がす様なコロコロした速い旋律を、ブッフビンダーは鍵盤をすべる様に指を動かして弾いていました。繰り返し部も同様に速いテンポで、高音域でも次々と音を繰り出し、中間部になると、ここでも少しぞんざいかな?と思った程荒々しく、右手で中~高音域を行き交う指の動きは猪突猛進、少し弾き急ぎの感が有りました。

 

①-Ⅲ.第3番

 この曲は右手の調べが中心的に聞こえ、右手と右手の小指が繰り出す調ベは覚え易い人口に膾炙する様な調べです。ブッフビンダーは、小指の調べとかが微かに聞こえる程の弱奏で開始、その後力を入れた演奏⇒再度の弱奏となり、時々うねりを感じる様なパッセッジも有りました。全体としては、しっとりした印象が無いまま、大ピアニストに期待した、もう少し心を込めたしっとり感のある演奏とは、別次元のものでした。(これが誰にも真似できないブッフビンダーらしい表情豊かな個性的な演奏なのでしょう)

 

①-Ⅳ.第4番

 ブッフビンダーは、冒頭からキラキラと煌めく明るい旋律を弱奏で繰り出し、少し高い音域のキラキラ奏も弱く表現、次第にクレッシェンドで上行して高音域に達し、美しい高音を立てていました。その後力を入れたテーマ変奏を下行してから低音域で少し長ーく音を立て、再度キラキラと上行するのでした。ブッフビンダーの指使いはあくまで軽やかで速く、見ていて恰もピアノ内部の張弦をポコポコ叩くハンマーフェルトの素早い機械的動きを想起させるものでした。

 中盤になると曲風が変わり(トリル部)相当に速いンジャジャジャジャジャ、ジャジャジャジャジャという左手の伴奏に伴う右手も、かなりのしっかりした強打鍵で短調のやや憂鬱な調べを繰り出していました。最後は再度最初のキラキラ奏に戻りひとしきり変奏を含めたテーマ奏を繰返したピアニストは、相当速いテンポで変化に富む調べを繰り出し、最後はかなりの強奏で一気に駆け抜けて終了しました。自分の好みとしては、最後のフィナーレを一層力を込めたさらなる迫力ある演奏で聴きたかった気もしました。

 

  《20分の休憩》

 

②シューベルト『ピアノソナタ第21番変ロ長調D960』

 この曲を含めシューベルトの最後の三つのソナタ(D958 D959 D960)はよくピアノリサイタルで演奏されることが少なくないので、これまでも色々なピアニストの演奏会で聴いて来た曲ですし、大好きな曲です。最近ですと、昨年9月に来日公演したポール・ルイスがこの曲を弾きました。

〇全四楽章構成

1. Molto moderato

II. Andante sostenuto

III. Scherzo: Allegro vivace con delicatezza

IV. Allegro ma non troppo

 

②-Ⅰ. この曲は最初のメロディーがいいのです。ブッフビンダーのこの曲の第一声は、非常に素晴らしい調べだと思いましたが、第2フレーズで音を少し伸ばし過ぎかなという気もしました。繰り返し部分は強さもテンポもいい、自分好みのものでした。次のパッセッジでは先頭2音をかなりゆっくりと離して弾いていたのは珍しい。上行箇処には勢いが有りました。すぐにかなりの強奏化し、ブッフビンダーはしっかりした打鍵で、高音部の変奏を心に波状的に迫るが如く、速いテンポで弾きました。次いでテーマ変奏の下行パッセッジはやや弱く遅くなり、高音域のゆっくりとした旋律を繰り返し一層弱く⇒Slow Slowへと。

 後半はそこかしこで麗しい美音が繰り出されピアノの音の良さにしびれましたが、この楽章だけでなく前の曲でも感じたことは、ブッフビンダーはテンポ、強弱の変化が変化自在と言うか、大きなカンバスに速い・遅いを織り交ぜた筆跡を残し、大胆な濃淡の色彩画を描くが如き自分の世界を構築・表現していました。

 

②-Ⅱ.この楽章では、ブッフビンダーの低音部の格好いいメロディーとあちこちに出て来る跳躍1音が美しく決まっていたことが印象的でした。

 

②-Ⅲ.高音の.速い調べをブッフビンダーは相当速いテンポで軽やかに弾いていました。少し前のめりした箇所も感じられましたが、力強くもあり、素晴らしい演奏だと思いました。

 

②-Ⅳ.この楽章には、ペイソスに満ちた少し物悲しくも有り、又活発な勢いの残る雰囲気があるのですが、両者の調和をブッフビンダーは流石、何んとも見事な差配で表現していました。最後強奏で一気に駆け上がる場面は、とても80歳近いピアニストとは思えない力強いものでした。

 演奏が終わってピアニストが手を休めた途端、小ホールの観客から大きな拍手と歓声も上がっていました。

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 尚この日は、アンコール演奏が二曲有り、聴衆も最後はスタンディングで拍手していた人も多く出ました。

 

[Encore Songs]

①Beethoven: Piano Sonata No. 17 in D minor, Op.31-2, 3rd movement from "The Tempest" Allegretto

 この曲は以下に引用した、昨年のベートーヴェンソナタ全曲演奏会(第6夜)でもアンコール演奏された曲です。

今回の演奏も素晴らしいものでした。勢いが有りました。

 

②Alfred Grünfeld: Vienna Soiree - Concert Paraphrase on Johann Strauss's Waltzes, Op.56

 もうこの曲になると、ブッフビンダーの地場産のウィンナーワルツが、溢れる様な勢いで流れ出して留まるを知らず、パラパラ ポロポロ ペラペラといった風にノリに乗った、もうこうなると(シュトラウスの編曲者の曲なのでしょうが、)クラシック演奏と言うよりも、恰もジャズの即興演奏の感もするブッフビンダーの自由自在な演奏でした。バックハウス的な巨匠感は感じませんが、兎に角若い。

 

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////2024.03.22.HUKKATS Roc.(再掲)

東京・春・音楽祭2024『ルドルフ・ブッフビンダー』べートーヴェンを弾く(第6夜) 

    今回は『悲愴』や『ワルトシュタイン』等の名曲が含まれている回なので、チケットは当然ながら取っていたのですが、その後家の上さんと話しているうちに、どういう話の弾みからか、上さんが聴きに行ってもいいという話が出て、本人が行きたいという事は珍しいので、上さんに代わりに行って貰うことにしました。あれはいつだったかな?代わりに行ってもらったのは確かコロナ禍の前ですから、何年振りになるのでしょうか?随分好きな曲みたい。

 

【日時】2024.3.21. [金] 19:00〜

【会場】東京文化会館 小ホール

【出演】ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー

【曲目】
①ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第11番 変ロ長調 op.22』

  1. Allegro con brio
  2. Adagio con molta espressione
  3. Menuetto
  4. Rondo : Allegretto

 

②ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第20番 ト長調 op.49-2』

  1. Allegro ma non troppo
  2. Tempo di menuetto

 

③ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 op.13《悲愴》』

  1. Grave - Allegro di molto e con brio
  2. Adagio cantabile
  3. Rondo : Allegro

 

《20分の休憩》

 

④ピアノ・ソナタ 第25番 ト長調 op.79

  1. Presto alla tedesca
  2. Andante
  3. Vivace

 

⑤ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調 op.53《ワルトシュタイン》』

  1. Allegro con brio
  2. Introduzione : Adagio molto
  3. Rondo : Allegretto moderato - Prestissimo

 

【上さんの感想一言二言】

 時計を見たら21時になったので、演奏会が終わる頃だなと思っていたら、案の定電話がかかって来ました。「先程終わって、カーテンコールの写真を送ったこと」「最初から次の演奏、次々の演奏は、皆最後のワルトシュタインに向けての指慣らしといった感じで、結局ワルトシュタインが一番良かったこと」「その余勢をかってアンコールのテンペスト3楽章もとても良かったこと」「ウィーンの空気が体に滲み込んでいるピアニストでないと、あーいう演奏は出来ないでしょう」とのことでした。

 

 今日3/22(金)のブッフビンダー最終日は、最後の三つのソナタなので、これまで自分が聴いた様々な演奏を、出来るだけ思い出しながら聴いてこようと思います。