【日時】2025.3.25.(火)19:00〜
【会場】東京文化会館小ホール
【出演】
・金川真弓(Vn.)
<Profile>
ドイツ生まれ。4歳から日本でヴァイオリンを始め、その後ニューヨークを経て12歳でロサンゼルスに移る。現在はベルリンを拠点に演奏活動を展開。ハンス・アイスラー音楽大学でコリヤ・ブラッハーに、また名倉淑子、川崎雅夫、ロバート・リプセットらに師事。2019年チャイコフスキー国際コンクール第4位、18年ロン=ティボー国際音楽コンクール第2位入賞および最優秀協奏曲賞を受賞し、一躍注目を集める。
これまでに、セバスティアン・ヴァイグレ、ユーリ・シモノフ、パスカル・ロフェ、アレクサンダー・シェリー、尾高忠明、秋山和慶、小泉和裕、井上道義らの指揮のもと、プラハ放送交響楽団、マリインスキー劇場管弦楽団、ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団、ベルギー国立管弦楽団、NHK交響楽団、読売日本交響楽団、東京都交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団等と共演。22年にはロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団やベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団にデビューした。
使用楽器は日本音楽財団貸与のストラディヴァリウス「ウィルへルミ」(1725年製)。
・ベン・ゴールドシャイダー(Hrn.)
<Profile>
ベン・ゴールドシャイダーは、1997年生れの28歳、ブーレーズ・アンサンブルのメンバーであり、ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団(?)の首席ホルン奏者でもある。アントワープ王立音楽院で教鞭を執っている。2003年、スイス・ルツェルン音楽祭にデヴュー、今回は春音楽祭初登場。 ...
・ジュゼッペ・グァレーラ(Pf.)
<Profile>
2017年モントリオール国際音楽コンクールで第2位および聴衆賞を含む5つの賞を受賞したほか、2015年ジェイムズ・モットラム国際ピアノ・コンクール第2位、2010年プレミオ・ヴェネツィア・コンクール優勝等、優秀な成績を収める。
近年は各地でソロ・リサイタルを開催し、ピエール・ブーレーズ・ザール、ミュンヘンのヘラクレス・ザール、ウィグモア・ホール、ノッティンガムのロイヤル・コンサートホール、ルール・ピアノ・フェスティバル、アンデルマット音楽祭のほか、マドリード、ミラノ、ローマ、パドヴァ、トリノに登場した。また、2020年にはジュリアン・ラクリンとウィーン・コンチェルトハウスでデュオ・リサイタルを開催した。
【曲目】
①J. ヴィトマン『エア』(Hrn.独奏)
クラリネット奏者・指揮者としても活動するイェルク・ヴィトマンは、ドイツの現代音楽作曲家。ホルン独奏のための本曲は2005年、ARDミュンヘン国際音楽コンクールの課題曲として作曲された。エア(エール)には、文字通り音の振動を伝える「空気」、そして音楽では伝統的に「歌謡」「メロディ」といった意味がある。
②ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ 第26番 変ホ長調 op.81a《告別》』(Pf.独奏)
ベートーヴェンの32曲のピアノ・ソナタの多くには副題が付けられているが、作曲者自身が命名したのは第8番《悲愴》、第13番《幻想曲風》、そしてこの《告別》の3曲のみ。ベートーヴェンの弟子で、パトロンでもあったルドルフ大公がナポレオン戦争を避けてウィーンを去った1809年に書かれ、別れを惜しんだベートーヴェンがこのソナタの第1楽章に「告別」と書いたのだ。序奏つきのソナタで、冒頭主題3つの下行音型には”Lebewohl (さようなら) “の言葉が記されている。寂しく、哀しげな第2楽章は「不在」の題を持つ。切れ目なく奏される第3楽章は「再会」と名付けられ、喜びと感動を表すように急速な音型が終始鍵盤を駆け巡る。
③リゲティ『ホルン三重奏曲《ブラームスへのオマージュ》(Hrn.+Vn.+Pf.)
ヴァイオリン、ホルン、ピアノのための本曲は、1982年の作。傑作として名高いブラームスのホルン三重奏曲を意識したオマージュ作品である。とはいえ、原作とはだいぶ様相が異なり、十二音技法を用いた高難度の曲となっている。全4楽章構成で最終楽章には「ラメント(哀歌)」が置かれ、ヴァイオリンの哀切な響きがブラームスのホルン三重奏曲にある「アダージョ・メスト」を想起させる。
④G.クルターグ『《サイン、ゲームとメッセージ》より J.S.B.へのオマージュ』(Vn.独奏)
ハンガリーのジェルジュ・クルターグは100歳近い今なお現役の作曲家・ピアニスト。本曲は、50年以上にわたって書き継がれている様々な楽器のための作品集《サイン、ゲームとメッセージ》に含まれるJ.S.バッハに捧げられた1分強の掌篇。
⑤J.S.バッハ『無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番 ホ長調 BWV1006』 より 〈 ルール〉(Vn.独奏)」
J.S.バッハの《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ》(全3曲)は1720年以前、ケーテン宮廷楽長時代前半の所産とされる。パルティータ第3番には軽快で明るい舞曲が並び、第2楽章ルールでは抒情的な旋律が美しく歌う。
⑥ブラーム『ホルン三重奏曲 変ホ長調 op.40』 (Hrn.+Vn.+Pf.)
作曲当時はすでにバルブ付きの近代ホルンが主流であったが、ブラームスは旧式のナチュラル・ホルンに愛着を寄せていた。少年の頃、母に吹いて聴かせていたという挿話もあり、本作もナチュラル・ホルンの懐古的で柔らかな響きを念頭に書かれている。1865年5月、広大なシュヴァルツヴァルト(黒い森)に隣接した保養地バーデン=バーデンで書き上げられた。同年2月には母が他界しており、深い憂愁に閉ざされた第3楽章は亡母への哀悼だろうか、アダージョ・メスト(ゆるやかに、悲しみにみちて)との指示がある。
【演奏の模様】
①J. ヴィトマン『エア』
トップバッターで登場したのは見た目好感が持てる若々しい青年でした。しかしこの曲は、通常の旋律・リズムに特徴がある曲ではなく、Hrn.の発音(出音)の技巧的なテクニックを駆使するところに妙味のある作品の様でして、蓋を開けたPf.に近寄り、楽器の先端部(ベル)をピアノの響板内に向けて共鳴させているのか?様々な音質(弱音器ような音とか震える様な音とか掠れた様な音、急激に落差のある大音とかテンポの一定しない変化音や、かと思うと狩りのファンファーレみたいな音etc.)持てるテクニックを駆使している様子の演奏でした。最後は極低音を長ーく息を吐き出して吹いて了となりました。ヴィットマンらしい個性的で革新的とも言える曲で、面白みはあるけれど、いい曲だなという好ましさは感じませんでした。
②ジュゼッペ・グァレーラのベートーヴェンの<告別>のソナタ独奏でした。
○全三楽章構成
第1楽章"Das Lebewohl"Adagio-Allegro
第2楽章"Die Abwesenheit" Andante espressivo
第3楽章"Das Wiedersehen"Vivacissima- mente
ここで第1楽章の"Das Lebewohl"は、「告別」は別れの意味ですが、永遠の別れの意味が有ります。即ち告別式の様に死の影が付きまとっている。ベートーヴェンがこの曲を作った1809年は、ナポレオンの侵攻(侵略)により、オーストリアは降伏、ベートヴェンのパトロンであったルドルフ大公がウィ-ンから逃亡した時なのです。いつ会えるか分からない、これが今生の別れかも知れないと思って書いたのでしょう、(実際は翌年仏軍撤退後に公はウィーンに帰還出来ました)
さて第1楽章では、かなりゆっくりと演奏が進み、時には声を潜めた様な弱音のパッセッジは美しいが、前半の音質にはズッシリした重みが感じられません。後半の跳躍音を含む速いパッセッジでの軽やかなピアノタッチと運指は、十分な軽快感があり、好感が持てました。ただベートーヴェンらしさはどうかな?と言った感じ。
第2楽章の開始では、ややせっかちに聞こえました。1楽章の余韻を味わい単調でしっとりと始まる2楽章へとつなぐ心の変化と余裕を持って弾き始めて欲しい。この楽章の副題は"Die Abwesenheit"、「不在」の意味です。即ちパトロンがいないという意味でしょう。転調後の右手のリズミカルなゆっくりとしたテンポからテンポアップし、少し留まりゆっくりと弱音で進み、又弾き急ぐ高音域の弱音奏の調べは美しかった。アタッカ的に速いパッセッジで続く第3楽章では、副題の"Das Wiedersehen"が示す様に、ルドルフ大公に又会えたのですね。勇んで大公に合いたいと逸る心を表現したのかも知れない。グァレーラの演奏は、この猛テンポで弾いても良さそうな箇所もややスピード感、キラキラ感に欠けたきらいが有るように思われました。一旦主旋律演奏が終わり、最後の余韻のゆっりとしたパッセッジの弱奏演奏は、残り香が漂う様で良かったと思います。
③リゲッティ『ホルン三重奏曲《ブラームスへのオマージュ》』
○全三楽章構成。これは後半のブラームスの「ホルン三重唱」へのオマージュとして作った曲だそうです。聴いていてかなり前衛的な近代の響きが殆どで、Vn.奏が中心となったアンサンブル、Pf.は伴奏的存在、Hrnの目立った活躍の箇所は少なく、三者が音を立てても、アンサンブルと言うよりは、異音の重なりといった風に聞こえ、余り面白ろ味は無く、感動的な演奏からは程遠いものでした。曲全体を通して多くの箇所で出て来たVn.のハーモニックス音が印象的でした。第三楽章終盤でのHrn.の強音が、それまでのPf.とVn.の途切れ途切れの一定した重奏に割り入った強さはかなり印象に残りましたが、それ以外では全般的にHrn.の活躍は目立たなかったのが意外でした。何が「ブラームスへのオマージュ」なのかも???でした。
《20分の休憩》
④G.クルターグ『《サイン、ゲームとメッセージ》より J.S.B.へのオマージュ』(Vn.独奏)
G.クルターグ『《サイン、ゲームとメッセージ》より J.S.B.へのオマージュ』(Vn.独奏)
かなり現代的な調べが続きました。
この曲を作ったクルタークは、ルーマニア出身のハンガリー人作曲家で、リスト音楽院で教鞭を執り、アンドラーシュ・シフなども師事したといわれます。バルトークや、マリンシュティン、ウェーンベルン らの影響を受けており、ウェーベルンの表現主義の後継者と言われている様です。自分としては、この時代の曲には興味がないので、どの様なものかは分かりませんが、金川さんが弾いたこの曲は非常に短くて、現代音楽が鳴り響いたとしか記憶に残っていないのです。
⑤
J.S.バッハ『無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番 ホ長調 BWV1006』 より 〈 ルール〉(Vn.独奏)
最近バッハのピアノ協奏曲六曲の全演奏をアンドラーシュ・シフの演奏で聴いたばかりで、バッハらしさとは何かを身をもって体験しました。その意味において、今回の金川さんのVn.無伴奏演奏は。全体的に音は綺麗に出ていたのだけれど、この第2楽章<ルール>の流れの滔々とした感が余り感じられず、重音奏も含めもう少しゆったりと弾いた方が良いのではと思いました。むしろ第1楽章<プレリュード>或いは第3楽章<ガボット>を弾いた方が良かったのでは?(勿論全曲を聴きたいですが、時間が無いのでしょうから)❝バッハはすべての道に通じる❞とまで言う人がいるくらいですから、バッハの表現は大いに研究する価値があると思います。
⑥ブラーム『ホルン三重奏曲 変ホ長調 op.40』 (Hrn.+Vn.+Pf.)
○全四楽章構成
第1楽章Andante-Poco piu animato
第2楽章Scherzo.Allegro-Moito meno -Alllegro
第3楽章Adagio mesto
第4楽章Finale.Allegro con brio
実はこの曲は、今月中旬にホルンの代わりにユーフォニアムを使った三重奏演奏会があり、聴いたばかりです。その時の感想としては、楽器としてユーフォニアムの音はホルンより劣勢ではなかろうかということでした。
今回は気鋭のHrn.奏者が混じっていることだから期待は大きいものが有りました。
ところが、第1楽章の最初からHrn.のソロ的箇所は先ず先ずなのですが、三者のアンサンブルになると、少しくぐもった音のHrn.は他の二者特に金川さんのVn.の調べに隠れてしまい弱々しい感じを受けました。明確な自己主張が出来ていない=発音がクリアでない、ことを意味していると思います。第2楽章後半でのHrn.とVn.の斉奏はなK中アウンが一致しHrn,も負けずに仲々の出来でHしたが、この楽章全体としては、Hr.の発音は弱い、くぐもったものでした。
第3楽章では、Pf.が短調のゆったりした調べを立て、Vn.とHrn.が斉奏で加わるのですがやはりここでもHrn.は目立たなく冴えない印象の音でした。Vn.の調べは美しく目立っていました。(Pf.は伴奏に徹していた)少し経ってHrn.がソロ音を立てると先ず先ずのいい音に聞えました。そこにVn.とPf.がが入り、さらにHrn.のソロと掛け合いになり、ソロHrn.は結構良く聞こえます。従って以上からアンサンブルにおけるHrn.の調べが最適化されていないことは明らかで、恐らくこの曲のアンサンブルの経験が余りないのでは?と思いたくなりました。
最終第四楽章でも冒頭Vn.の速いキザミ奏にPf.は合の手を入れ、そこにHrn.Hが入るのですがここでも依然としてHrn.が目立たないというかクリアに聞えないどうしてもVn.の調べが目立っていて、この辺りで、Pf.のブラームスらしい活躍音も」聴いてみたかった気がしてきました。そういう意味で今回のトリオは三重奏の妙味、特にブラームスの素晴らしいシックな音楽の展開を満喫したとはとても言えない結果となりました。
<参考2>
https://www.youtube.com/watch?v=elimy-t4yuM&t=435s
でも演奏後は、小ホールの会場からは、大きな拍手とブラボーの声も再三入り、沢山の曲を演奏して呉れた三人の新鋭奏者に、歓呼の声で答えた聴衆でした。
尚アンコール演奏が有りました。
《アンコール曲》
ドヴォルザーク作ハイフェッツ編『ユモレスク』の三重奏版でした。