今回のNNTTの演目『カルメン』は、コロナ禍の2021年7月に行われた不評だった上演と、同じ演出家の新制作版を練り直した、謂わばリベンジ作品だとばかりに宣伝しています。その新制作オペラが、如何に問題点があったかを、その時観た記録に記していますので、文末に(抜粋再掲)しました。自分としては、単に歌と音楽が同じだけで、歴史的に有名なオペラ『カルメン』の名称を付すのは、これまでの歴史を築いてこられた音楽家及びそのステークホルダーに対する一種の冒瀆ではなかろうかとさえ思いました。そうした場合は、別なタイトルを付ければ、何も問題無いのに。例えば『カルメンもどきフルオペラ』とか『オペラ:カルーメン』とか。従って、「新制作」を練り直したと謳っていても、期待が裏切られる可能性大なので、聴きに行かないと考えたのです。しかし、いや待てよ!若し聴きに行かないばかりに、何か新機軸で価値のある内容がある場合には、それを見逃すかも知れない。それに、指揮者も、主要キャストも新しい人達だし、その音楽を聴くだけでも価値が有るかも知れない、と思い直して後日聴きに行くことにしました。その上演の模様は、観に行った後で記します。
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/////2021-07-03.オペラ速報/ビゼー『カルメン』at NNTT (HUKKATS Roc.抜粋再掲)
表記のオペラは、7月3日(土)から7月19日(月)の間、五日間に渡って新国立劇場で催行されるもので、その初日を観ましたので、以下に記録します。
【日時】2021.7.3.(土)14:00~
【会場】NNTT オペラパレス
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指揮】大野和士
【合唱】NNTT合唱団、
びわ湖H声楽アンサンブル
(児童合唱)TOKYO FM少年合唱団
【合唱指揮】冨平恭平
【演出】アレックス・オリエ
【美術】アルフォンス・フローレス
【衣装】リュック・カステーイス
【照明】マルコ・フェリベック
【舞台監督】高橋尚史
【出演】
(カルメン)ステファニー・ドゥストラ ック
(ドン・ホセ)村上敏明 急遽、村上公太が歌うことに変更(初日開演直後に発表)
(エスカミーリョ)アレクサンドル・ドゥハメル
(ミカエラ)砂川涼子
(スニガ)妻屋秀和
(モラレス)吉川健一
(ダンカイロ)町 英和
(レメンダード)糸賀修平
(フラスキータ)森谷真理
(メルセデス)金子美香
【上演の模様】
『カルメン』は世界中で愛されているオペラで、恐らく上演回数は一、二を争う位多いのではないかと思われます。今年の2月下旬に「METライブ・ヴューイング」と「スカラ座公演配信」で行われた「カルメン」を観て記録していますので、参考まで、先に以下に再掲します。
《再掲 割愛》
【上演の模様】
今日の国立劇場新制作『カルメン』は冒頭からカルメンシータが現れ歌う場面が、演出家アレックス・オリエの手によって古典的な「たばこ工場」でなく、何か訳の分からない舞台装置に囲まれた場面だったことは、やり過ぎ、歌の重々しさを損なうものと、大きな失望を禁じ得ませんでした。まるで、鉄骨足場に囲まれた工事現場の如し。舞台の中の舞台は、ロック演奏用のパーカッション等の楽器が置いてあるだけ、そこにカルメン一人が立って歌う場面は、意味不明の全くのお門違いの演出です。カルメン役のステファニー・ドゥストラック(以下Ouと略記)の冒頭の歌も決して褒められたものではありませんでした。非常に遅いテンポで、遅いというよりもおたおたして歌っている様子。あがっているのでしょうか?オケも合わせずらそう。歌い終わるなり大野さんはテンポを元に戻して速めた指揮をしていた。
Ouの略歴を調べてみると、
Stephanie d'Oustrac (ステファニー・ドゥストラック)。フランスの女性オペラ歌手。1974年6月27日生まれ。メゾソプラノ。フランシス・プーランクとジャック・ドゥ・ラ・プレルの姪。リヨン国立高等音楽・舞踊学校で学び、1998年に声楽で一等賞で卒業。オペラ歌手になる前は女優を目指していた。
というものでした。
大野監督は、オリエ氏インタヴューの映像の中で、”有名なフランスのソプラノ歌手”といった様なことを言っていたので、パリを中心として大活躍しているのかと思ったのですが、そうしたことは、聞いたこともありません。あの程度の歌い振りでは、失礼ながら、大活躍は未だしでしょう。女優という位ですから容貌とスタイルは相当なものでしたが。さらに失望したことは、準主役とも言える重要な役、ドン・ホセ役が、コロナ禍でだいぶ前に来日出来なくなり、村上敏明氏に変更になったことは、周知の事実だったのですが、その村上さんが体調不良で急に歌えなくなり、代役の代役として、NNTTオペラ研修所出身の若手テノールが、歌うことになった旨の大野さんの説明が、舞台冒頭にあったことでした。村上公太さんと言うらしい。その後、ドン・ホセに会いに来たミカエラ役の砂川涼子さんが、歌い出しましたが、砂川さんは流石です、舞台慣れした貫禄で、その先にも後にもない位のいい歌いぶりでした。衛兵交替後登場したホセ役の歌を歌った村上公太さんの第一声は綺麗なテノールなのですが、如何せん小さい声なので、あの大ホール一杯に鳴り響きません。大舞台で歌った経験が少ない感じ。そうしているうちに、カルメンがホセに近づき花を投げつけるのでした。
この花は、「キンゴウカン」の花で、本来の色は赤ではなく黄色で、花言葉は「秘密の愛」です。オリエ氏が、何故赤花を使ったかは不明?この花は、香りが強いので、たばこ塗れになって働く女工さん達が、仕事を終えるとこの花で香りを付けた水で沐浴するのです。今回の演出ではその場面は有りませんでした。物語では二重に重要な意味を持つ花なのですが演出家はそれを分かっていないか、無視している。また今回の配役の殆ど全員が現代の衣装、即ち衛兵は、ガードマンスタイル、ホセ他は、背広姿、ミカエラも同様現代風、カルメンは、赤い派手なドレスで白水玉模様がついている、唯一の例外は闘牛士のエスカミーリョ、伝統的な服を着ていました。エスカミーリョ役のアレクサンドル・ドゥハメルの最初の歌は、力強さは感じるのですが、安定感がなく声量は、出し切っていない感じ。だんだんと舞台に慣れてきたのか、最後の歌は大きな声が出てある程度上手でしたが。
スニガ役の妻屋さんはいつもの低いいい声を響かせていました。でも世界の声と比較すると小じんまりしています。
先の大野さんのインタヴューでは、”聴く人が、古典的視点から観ると、ちょっとびっくりする演出かも知れないが、①ソリスト②衣装③舞台設備④(合唱)を含む歌手を観て貰えば、満足するでしょう”といった趣旨の発言がありましたが、これは、十分効果が上がったかというと、甚だ疑問です。むしろ失敗では?①甚だ不十分②現代的衣装のオペラは、他にも時々ありますが、それが物語りを表現する上で、十分機能しているならいいのですが、今回は?③建築現場の足場の異様さ、舞台中のロック舞台の無意味、奇をてらっているのでは?コストの節約にはなるかもしれませんが。④の部分は、唯一成功した分野と言えます。合唱が全体を通してうまく機能し、物語を盛り上げていた。それに追加するに大野・東フィルの概ね立派な演奏、これらは以上の不成功分野を補っていたと思いますが、オケが時として大音響を張り上げる等、そうした分野と不釣り合いな位膨らみ過ぎ、空回りしたケースも見られました。
これまで多くのオペラ、勿論大野さん主宰のオペラも聴いてきていますが、今回の様な記録を書かざるを得ないのは初めてです。非常に残念です。日本を代表する国立のオペラ劇場の上演です。今後二回目、三回目と舞台が進むにつれて、世界に恥じることのないオペラになることを、切に祈る次第です