【日時】2025.2.23.(日・祝)14:00〜
【演目】モーツァルト『フィガロの結婚』全四幕
【上演時間】休憩含み3時間35分 (第1幕+第2幕:105分、休憩:25分、第3幕+第4幕:85分)
【会場】新国立劇場 中劇場 (東京都)
【管弦楽】ザ・オペラ・バンド
[合唱]武蔵野音楽大学
[指揮]佐藤正浩
[演出]デイヴィッド・エドワーズ
[出演]オペラストゥディオ オペラ歌手
【キャスト】
○アルマヴィーヴァ伯爵 尾圭吾
○伯爵夫人 吉田珠代(賛助)
○フィガロ 小野田佳祐
○スザンナ 富永はるな
○ケルビーノ 大城みなみ (賛助)
○マルチェッリーナ 小林紗季子(賛助)
○バルトロ 松中 哲平(賛助)
○バジリオ 矢澤 遼
○ドン・クルツィオ 永尾渓一郎
○アントニオ 的場正剛(賛助)
○バルバリー 渡邊美沙季
○二人の花娘 有吉琴美 島袋萌香
【粗筋】
フィガロは伯爵が下さるというベッドが部屋に入るかどうかをみるため部屋の寸法を測っている。伯爵がこの部屋をフィガロ達にくださるというのだ。スザンナがそれを聞いて伯爵の下心に気づく。
フィガロは最近伯爵が奥方に飽きて、スザンナに色気を示しているばかりか、夫人との結婚を機に廃止を宣言した初夜権を復活させたいと画策していることを聞き大いに憤慨する。それならこちらにも手があるぞと計略をめぐらすフィガロ(原作はこのあたりで貴族階級を批判する有名なモノローグがあるが、ダ・ポンテの台本では、自分の婚約者を狙う伯爵個人への対抗心に置き換えている)。
マルチェリーナとバルトロ登場。フィガロに一泡吹かせようと相談する。彼女はかつてフィガロから「借金を返せなければ結婚する」という証文を取っている。それを見たバルトロは「俺の結婚を妨害した奴に俺の昔の女を押し付けるのは面白いぞ。フィガロ(「セビリアの理髪師」で伯爵夫人ロジーナとの結婚を妨害した)に復讐する良いチャンスではないか」とほくそ笑む。
スザンナが登場し、マルチェリーナと口論したあと一人になると、小姓のケルビーノ登場。せんだって庭師アントニオの娘バルバリーナと一緒にいたところを伯爵に見つかって追放されそうなので、伯爵夫人にとりなしてほしいと懇願する。「あら最近彼女に恋しているの」とスザンナがからかう。彼は目下女性なら誰でもときめいてしまう年頃なのである。ここでケルビーノが「自分で自分が分からない」を歌う。
ところが、そこへ伯爵がスザンナを口説きにやって来る。慌ててケルビーノは椅子の後ろに隠れる。伯爵が口説き始めるとすぐに、今度は音楽教師のバジリオがやってくるので伯爵はあわてて椅子の後ろに隠れ、ケルビーノはすかさず椅子の前に回り込み、布をまとい隠れる。バジリオはケルビーノと伯爵が隠れているとは夢にも思わず、ケルビーノと伯爵夫人の間の話題を持ち出す。
「ケルビーノが奥様に使う色目をみたかい?」これを聴いた伯爵は思わす姿を現し、「今のは何のことだ?」と迫る。慌てたバジリオは打ち消すが、伯爵は続けて「昨日庭師アントニオの所にいったら、娘のバルバリーナの様子が何となくおかしい。そこでそばにあった布をふと持ち上げると...(と、さきほどケルビーノが隠れた椅子の上の布をはがす)おお、これは何としたこと」。「最悪だわ」とスザンナ。バジリオは「おお、重ね重ねお見事な」。
ここで三人がそれぞれの気持ちを歌うが、バジリオの歌う「女はみなこうしたもの(Cosi fan tutte le belle)。何も珍しいことではありません」という一節はモーツァルトの後のオペラ・ブッファ「コジ・ファン・トゥッテ」の主題となる。
さて、ケルビーノは伯爵夫人を通じてのとりなしを頼みにきていたのだという事実を何とか納得した伯爵ではあるが、「自分の連隊に空きポストがあるから配属する、直ちに任地に向かえ」と命令する。
そこへフィガロが村の娘たちを連れて登場。「私たちは殿様が廃止なさった、忌まわしい習慣(初夜権)から逃れられる初めてのカップルです。村の皆の衆と一緒にお礼を言わせてください」という。大勢の証人を頼んで初夜権廃止を再確認させようというフィガロ。「図ったな」と困惑する伯爵。しかし、ここは慌てず騒がす「皆の者、あのような人権侵害行為はわしの領地内では二度と行われないであろう」と廃止を改めて宣言した。
万歳!と叫ぶ村人。しかし、「盛大に式を挙げさせてやりたいからもう少し時間が欲しい」と村人を帰してしまう。がっかりするフィガロたち。ケルビーノが浮かない顔をしているのに気づいたフィガロは事情を聞くと「あとで話がある」とこっそり耳打ちし、ケルビーノの出征を励ますための豪快なアリア「もう飛ぶまいぞこの蝶々」を歌ったところで幕。
【上演の模様】
中劇場での上演を観るのは昨年3月3日の『カルメル会修道女の対話』以来です。会場に入って意外だったのは、1000人程の座席が超満員でした。空席を探すのが大変な位。三連休のなか日で天気晴朗、珍しくもないタイトルで演奏者はオペラ舞台の初心者にも関わらず、です。何がこの公演を魅力的にしたか?は、恐らく前日にも別キャストで同演目を上演して好評だったから、ではないでしょう。だって大多数の人はかなり前にチケットを買っていた筈ですから。ボックス・オフィスの販売状況は売り切れだったのでしょう。
このオペラは、原作者ポールマルシェの三部作の一つ第2部「フィガロの結婚」に基づいています。(第一部は「セヴィリアの理髪師」第三部「罪ある母」)第一部はロッシーニと第二部にはモーツアルトが曲を作りオペラ化されました。したがって「フィガロの結婚」の登場人物と同じ名前が「セビリアの理髪師」でも使用されているのです。
今回のキャストの皆さんは、これから本格的にオペラの舞台にデヴューしようと頑張っておられる謂わばオペラ歌手の卵、それも孵卵時期が近付いている寸前の歌手達と考えて良いでしょう。その証拠に今回の皆さんの歌唱、演技振りは、初めて見る人達ですから(配役と顔との対応がすぐには分らず)誰がどうという個別の評価的なことは言えないのですが、実に堂に入ったもので、特に女性歌手は、皆聴いていて素晴らしい美声の持ち主が多く、すぐにでもNNTTのカヴァーくらいは出来そうな人が多くいました。勿論これからの研鑽とキャリアの積み重ねの不断の努力は必要欠くべからずの条件なのでしょうが。アリアでも堂々と滔々と歌った歌手があちこちで見られ、会場から大きな賞賛の拍手を浴びていました。ただ気が付いた点を二三記すれば、キャストの歌(詠唱)は立派でも、朗唱における仕草、演技が十分とは言えない場合が多く見かけました。特にこの「フィガロの結婚」はタイトルロールの役割の重要な一つに喜劇性を如何に聴衆に伝えるかという難しい側面があるのですが、それが成功していたとは言い難い。他のキャストでも喜劇役者の醸し出す雰囲気で、いやな場面、気まずい場面、ハラスメント的な場面を、深刻化させないでサラッと切り抜ける表現が、他の様々な実演、映像、録画を見ると笑って飛ばされる場面が、多く含まれています。勿論今回の上演でも、自分もつい声をウフッ!と上げてしまった処は有りましたが、会場一体を笑わせる場面は少なかった様な気がしました。
このオペラは、NNTTの演目としては過去に何回も上演されていますが、ここ数年は無かったし、今期もないので、今回が非常に貴重な公演となりました。結構面白く楽しめた公演でした。会場からは、度々大きな拍手がおこりました。
尚NNTTの演目としてはロッシーニの『セビリアの理髪師』が5月にあるのですね。また10月には、ウィーン国立歌劇場の来日公演で『フィガロの結婚』が上演されます。歴史的に見るとこの演目や『薔薇の騎士』はこの歌劇場の得意演目と言っても良い程の実績を積み重ねています。シュワルツコップの元帥夫人や1980年来日公演の「フィガロの結婚」ではカール・ベーム指揮下、キャストがヘルマン・プライ、ルチア・ポップ、アグネス・ヴァルツァ、グンドラ・ヤノヴィッツといったオペラ史に名を刻んでいる歌手達が総出の上演だったらしく(実演は見ていません。録画のみ)、そうした伝統は今も引き継がれているのではと期待するのですが。何れにせよ楽しみです。