【演目】 ロッシーニ作曲オペラ『ウィリアムテル』
全4幕〈フランス語上演/日本語及び英語字幕付〉
【予定上演時間】約4時間45分(第1幕80分 休憩30分 第2幕55分 休憩30分 第3・4幕90分)
【主催者言】
2017年『ルチア』で新国立劇場に初登場したベルカントのスター、オルガ・ペレチャッコが『ウィリアム・テル』オーストリア側の皇女マティルド役で帰ってきます。
高音の美しさだけでなく、中低音の響きも求められるこの役。ロッシーニの音楽の美しさ、そして前衛性について語っていただきました。〖下記プロモート映像参照〗
【公演日程】2024年
11月20日(水)16:00
11月23日(土・祝)14:00
11月26日(火)14:00
11月28日(木)14:00
11月30日(土)14:00
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【合 唱】新国立劇場合唱団
【指 揮】大野和士
【演出・美術・衣裳】ヤニス・コッコス
【アーティスティック・コラボレーター】アンヌ・ブランカール
【照 明】ヴィニチオ・ケリ
【映 像】エリック・デュラント
【振 付】ナタリー・ヴァン・パリス
【舞台監督】髙橋尚史
【NNTTプロモート映像】
【出演】
〇ギヨーム・テル(ウィリアム・テル):ゲジム・ミシュケタ
<Profile>
アテネ生まれ。ストラスブールの演劇高等学院で舞台美術を学ぶ。舞台美術家としてコメディ・フランセーズ、アヴィニヨン演劇祭、ミラノ・ピッコロ座などでアントワーヌ・ヴィテーズ演出の多くの作品を手掛けた。主なオペラの美術に、パリ・オペラ座『マクベス』、ミラノ・スカラ座『ペレアスとメリザンド』、ウィーン国立歌劇場『魔笛』、ボローニャ歌劇場『ドン・カルロ』、ジュネーヴ大劇場『エレクトラ』などがある。87年から演出家としてボローニャ歌劇場、シャトレ座、オランジュ音楽祭、英国ロイヤルオペラ、パリ・オペラ座、ウィーン国立歌劇場、マリインスキー劇場などで『ボリス・ゴドゥノフ』『ファウストの劫罰』『ヴェニスに死す』『ジュリオ・チェーザレ』『カルメン』『ドン・ジョヴァンニ』『トリスタンとイゾルデ』『ペレアスとメリザンド』などを演出。スカラ座98/99シーズン開幕公演『神々の黄昏』、02/03シーズン開幕公演『オーリードのイフィジェニー』も手がける。最近ではギリシャ国立歌劇場『エレクトラ』、パルマ王立歌劇場(22年)、ボローニャ歌劇場(23年)『運命の力』、ミラノ・スカラ座『ルチア』(23年)を演出。批評家協会賞、二度のモリエール賞、プラハ・カドリエンナーレ金賞、フランス芸術文化勲章など受賞多数。98年、ウェルシュ・ナショナル・オペラ『皇帝ティートの慈悲』がオリヴィエ賞最優秀オペラ作品賞を、シャトレ座の『トロイ人』の演出で04年批評家賞を受賞。新国立劇場では19年オペラ研修所試演会『イオランタ』、21年『夜鳴きうぐいす/イオランタ』を演出した。
〇マティルド:オルガ・ペレチャッコ
<Profile>
サンクトペテルブルク音楽院、ハンス・アイスラー音楽大学、ハンブルク州立歌劇場オペラスタジオ、アカデミア・ロッシニアーナで学ぶ。オペラリア・コンクールに優勝して国際舞台に躍り出し、説得力ある声と抜群の存在感によってメトロポリタン歌劇場、英国ロイヤルオペラ、ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場、ベルリン州立歌劇場、テアトロ・レアル、リセウ大劇場、パリ・オペラ座、ザルツブルク音楽祭、エクサン・プロヴァンス音楽祭など世界の主要歌劇場、音楽祭で活躍。ルパージュ演出『夜鳴きうぐいす』、ヴェンダース演出『真珠採り』など話題作へ多数出演。出演作の録音・録画も数多く世界的に発売されている。オーパス・クラシック賞、エコー・クラシック賞、アッビアーティ賞受賞。最近では、ベルリン州立歌劇場『イドメネオ』エレットラ、『トゥーランドット』リュー、『真珠採り』レイラ、ハンブルク州立歌劇場『ファウスト』マルグリート、トリノ王立歌劇場『つばめ』マグダ、ハンブルク州立歌劇場で『ノルマ』(ロールデビュー)、ボローニャ歌劇場『ドン・ジョヴァンニ』ドンナ・アンナなどに出演。新国立劇場へは17年『ルチア』でデビューし大評判となった。
〇アルノルド・メルクタール:ルネ・バルベラ
<Profile>
アメリカのテノール。2011年オペラリア・コンクール3部門を単独で受賞。最もエキサイティングなアーティストに急成長し、伸びやかな声と豊かな音楽性で活躍。これまでに、バイエルン州立歌劇場、サンフランシスコ・オペラ、シアトル・オペラ、ロサンゼルス・オペラ『チェネレントラ』ドン・ラミーロ、ミラノ・スカラ座、ダラス・オペラ、パレルモ・マッシモ劇場『椿姫』アルフレード、またウィーン国立歌劇場、サンフランシスコ・オペラ、パリ・オペラ座、オランダ国立オペラ、ローマ歌劇場、ロサンゼルス・オペラで『愛の妙薬』ネモリーノ、『ドン・パスクワーレ』エルネスト、『セビリアの理髪師』アルマヴィーヴァ伯爵、ロッシーニ・オペラ・フェスティバル『新聞』ジャンネット、『イタリアのトルコ人』ナルシスコなどに出演。23/24シーズンはパレルモ・マッシモ劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ『アンナ・ボレーナ』リッカルド・ベルシー卿、パリ・オペラ座『ドン・パスクワーレ』エルネスト、『椿姫』アルフレード、ボローニャ歌劇場『ドンジョヴァンニ』ドン・オッターヴィオ、ヴェローナ野外音楽祭『セビリアの理髪師』アルマヴィーヴァ伯爵に出演。新国立劇場には20年『セビリアの理髪師』アルマヴィーヴァ伯爵でデビュー、21年には『チェネレントラ』ドン・ラミーロで熱狂を巻き起こした。
【声域】
役柄 |
ギヨーム・テル |
エドヴィージュ(テルの妻) |
ジェミ(テルの息子) |
アルノルド・メルクタール |
メルクタール(アルノルドの父) |
|
声域 |
ソプラノ |
ジェスレル(ウーリ州とシュヴィーツ州を |
治めるオーストリア人総督) |
リュオディ(漁師) |
ルートルド(羊飼い) |
ロドルフ(ジェスレルの警備隊長) |
狩人 |
農民、羊飼い、騎士、小姓、貴婦人、兵士 |
|
バス |
バス |
テノール |
バス |
テノール |
バリトン |
【人物相関】
【概要】
フリードリヒ・フォン・シラーによる戯曲『ヴィルヘルム・テル(英語版)』を原作としている。リブレットはフランス語で書かれているため、『ギヨーム・テル』と表記されるべきだが、日本では『ウィリアム・テル』と表記することが多い。この作品をフランス・オペラに適合させるため、いつもは速筆のロッシーニが5ヵ月もかかって作曲した。初演は1829年8月3日、王立音楽アカデミー劇場で行われた。このオペラを作曲したのを最後にロッシーニは30年以上にわたる引退生活に入った。
【粗筋】
舞台 - スイス 時代 - 14世紀
オペラの冒頭以前の出来事として、スイスの指導者メルクタールの息子アルノールは、オーストリアのハプスブルク家の皇女マティルドが溺れそうなところを助けたことがあった。政治情勢にもかかわらず、アルノールとマティルドは身分の差を超えて愛し合う秘密の間柄となった。父のメルクタールはこのことを知らない。
第1幕 ルツェルン湖畔
5月、羊飼いの祭の日、 ルツェルン湖近くの弓の名人テルの家の前。長老のメルクタールは祝賀の場で3組の合同結婚式を伝統に基づいて執り行うことになっている。漁師のリュオディが愛の歌「早く僕の船においで!」(Accours dans ma nacelle)を歌っている。しかし、アルノルド自身はその3組の中に入っていない。彼はオーストリアの守備隊員だが、故国(スイス)に対する愛とマティルドに対する愛の間で板挟みになっているのである。メルクタールは結婚する素振りを全く見せない息子アルノルドを嘆くのだった。一方、オーストリアによる圧制が強まっていることを憂慮するギヨーム・テルはおめでたな気分に浸ることができない。神聖ローマ帝国の影響が薄れて以来、オーストリアはスイスの伝統的儀式に対する弾圧を強めているのだった。テルがアルノルドにスイス人の抵抗運動とその正当性を訴え、二重唱「どこへ行く? ああ、我が憧れの人」(Où vas-tu? Ah! Mathilde, idole de mon âme!)となり、アルノルドの内心の葛藤が明白になる。メルクタールが3組のカップルを祝福すると祝いの踊りが始まり「牧人よ!あなた方の声が一つになって」(Pasteurs, que nos accents s'unissent)が合唱される。弓術大会も行われ、テルの息子ジェミが優勝する。村人たちの結婚の祝宴はさらに続く。しかし、牧歌的光景は長く続かず、ホルンのファンファーレで祭りが中断され、オーストリア人総督ジェスレルの到着が告げられる。スイス人は彼を憎んでいる。次いで、ジェスレルの軍隊に追われた牧人のルートルドが助けを求めて駆け込んでくる。ルートルドはジェスレルの兵士の一人が、ルートルドの娘を襲おうとしたので、ルートルドは娘を守ろうとして兵士を殺してしまったのだ。彼の逃げ道は湖だけであった
で反対岸に渡れば助かることは分かっているのだが、荒れ模様の天候に漁師たちは船を出す勇気がでないのだった。そこにテルが勇敢にも援助を申し出る。テルは妻子が制止するのも聞かず、ルートルドを乗せて小舟を出す。人々はテルたちの無事を祈る。小舟はなんとか対岸に到着し、村人たちは神に感謝する「慈悲深き神よ!」(Dieu de bonté)。ロドルフの先導でジェスレルの護衛隊が到着する。ロドルフは「誰が犯罪者に手を貸したのか」と問うが、メルクタールは「ここには誰も仲間を裏切る者はおらん」と言い切る。村人たちも反抗の意を表し「彼のようにせねばならぬ」(Nous l'aurions dû faire)と五重唱で応える。ジェスレルの護衛隊は報復として謀反人メルクタールを人質として、乱暴に連れ去るのだった。
第2幕 ルツェルン湖と近隣の州を見下ろすリュトリの丘の上
忠誠の誓いの合唱
ジェスレルの狩りの一団がいる。夕暮れが近く、スイスの狩人たちが家路を急ぎ、村人は夕べの祈りを捧げている。ハプスブルク家の皇女マティルドが密かに現れ、アルノルドへの想いをロマンス「暗い森、荒れ果て悲しい野よ」(Sombre forêt, désert triste et sauvage)で歌う。そこにアルノルドが現れるが、彼はマティルドとの身分の違いに失望している。オーストリアの兵士として手柄を立てて認められなければならないと考え躊躇するアルノルドだが、マティルドの愛を確かめ、二重唱「ここにいらして!あなたは私の魂から」(Restez. Oui, vous l'arrachez à mon âme)となる。人の気配がするので、マティルドは明日礼拝堂で会うことを約束して、急ぎその場を立ち去る。テルとヴァルテルが到着し、アルノルドとマティルドが一緒にいるところ見てしまい、二人の関係が知られてしまう。テルはアルノルドにオーストリア皇女との恋愛を諌め、今我らの使命は反オーストリア同盟に参加することだと説得する。アルノルドはオーストリアの属国でしかないスイスを見限ってこの国を去るつもりだと言う。しかし、ヴァルテルは冷酷非道なジェスレルがメルクタールを惨殺したとアルノルドに告げる。アルノルドは後悔の念にかられ、三重唱「彼らが奪い取った父の日を」(Ses jours qu'ils ont osé proscrire)となり、復讐を誓う。そこにウンターヴァルデン、シュヴィーツ、ウーリの3州から武装した愛国者が集まってくる。テルは皆の中央に立って「我々の山々の頂から」(L'avalanche roulant du haut de nos montagnes)を歌い決起を促す。すると皆がこれに応え、大規模な忠誠の誓いの合唱「誓おう、我らの危機のために」(Jurons, jurons par nos dangers)となる。山に朝日が昇ると太鼓が連打され「武器をとれ!」(Aux armes!)と連呼され、オーケストラによる圧倒的なコーダとなり、第2幕の幕が下りる。
第3幕
第1場 アルトドルフ宮殿の人目につかない礼拝堂
アルノルドとマティルドが寂れた礼拝堂にいる。父を殺したジェスレルへの復讐を決意したアルノールの話しを聞いたマティルドは「異郷の湖畔で」(Sur la rive étrangère)を歌い、別れを告げる。戦いの騒音が激しさを増してくるので、マティルドはアルノルドを逃がすのだった。
第2場 アルトドルフの町の市場
リンゴに矢を命中させるテル
オーストリアによるスイス統治100周年の記念日。広場の中央にはオーストリア軍の勝利を示す勲章が飾られた杭が打たれている。ジェスレルはスイス人の反感を感じとり、彼らを辱めるようと案じる。ジェスレルは自分の前で膝を折り、帽子を取って敬礼するようスイス人に命ずる。さらに、ジェスレルはスイスの娘たちに好色なオーストリア兵とダンスを踊ることを強要し、村人たちの屈辱感を高揚させる。そこにテルが息子のジェミと通りかかるが、テルはジェスレルへの敬礼を拒絶する。ジェスレルは、テルが服従の意を表さないので、ルートルドを救った男がテルだと理解する。そこでテルとジェミを逮捕することを命じるが、兵士たちはテルの凛とした態度に恐れをなして、近づこうとしない。テルはジェミにスイス人たちに反乱を始める合図を送るよう耳打ちするが、ジェスレルに感づかれ、ジェミも逮捕されてしまう。なんとかしてテルを罰しようとするジェスレルはテルの失敗を期待しつつ、テルに息子を助けたければ、弓の名手の腕前を見せてジェミの頭の上のリンゴを撃つように命じる。テルは「お前には子供はいないのか」と反抗するが、ジェミは恐れに震える父を勇気づけて「僕を縛る必要などはありません」と毅然とした態度をとる。テルはチェロの独奏で始まるアリア「じっと動くな」(Sois immobile)と歌う。テルは見事にリンゴに矢を突き通し、スイス人たちは喝采を送る。ジェスレルはテルがもう一本矢を持っているのを見つける。そのことを詰問されたテルは「もし失敗していたら、次の矢でジェスレルを射ていただろう」と答える。ジェスレルはテル親子の逮捕を命ずる。そこにマティルドが割って入り、ハプスブルク皇帝の名でジェミを引き渡すよう要求し、ジェミを助ける。さらに、テルの釈放も要求するが、ジェスレルはテルを船でキュスナハト砦の地下牢に護送するよう命令する。嵐の中での操船をためらう部下たちに「そこに優れた漕ぎ手がいるではないか」とテルを指差す。連行されるテルは村人に武装蜂起を呼びかける。オーストリア兵がジェスレルを讃える歌(Vive, vive Gesler!)とスイス人たちの「ジェスレルを追い出そう」(Anathème à Gesler!)という合唱が交錯する中で幕となる。
第4幕
第1場 ビュルグレン村近くの老アルノルドの荒れ果てた家の前
アルノルドが住む人がいなくなった思い出の家の前に佇み、アリア「先祖伝来の住処よ」 (Asile héréditaire)を歌う。そこに彼の仲間が駆けつけ、テルが投獄されたと伝える。アルノルドは自分が独立の戦いの先頭に立つ覚悟を決め、この家に別れを告げる。アルノルドは彼の父がいざと言う時のために岩陰に隠していた武器があることを告げ「友よ、復讐に手を貸してくれ」(Amis, amis, secondez ma vengeance)と歌うと仲間は「勝利か、さもなくば死か」(Ou la victoire ou le trépas!)と叫ぶのだった。
第2場 テルの家を遠くに望むルツェルン湖畔
ジェスレルを矢で射抜くテル
ルツェルン湖畔のアクセンベルクの麓で、嵐を呼ぶ雲が行き交っている。テルの妻エドヴィージュが取り乱して、夫と息子を救いに行こうとして周囲の女性たちに制止されている。すると遠くからジェミの声が聞こえて来る。エドヴィージュは走ってきたジェミからマティルドが助けてくれたと聞いてマティルドに感謝し、三重唱「愛するご子息をお返しします」(Je rends à vostre amour un fils digne de vous)となる。エドヴィージュは夫の無事を神に祈る「弱き者をお支え下さる神よ」(Toi, qui du faible est l'espérance)。そこにかつてテルに救われたルートルドが駆け込んで来て、テルを護送する船がこちらの岸に向かっている、そして、嵐の中でも操船できるテルが舵を握っていたと証言する。やがて船は無事に湖岸に到着する。テルは素早く岸に自分だけ降り立つと船を湖の中央へ押し返してしまう。テルはジェミから弓矢を受け取り、テルに迫ってきたジェスレルの一隊を見つけ出すと、ジェスレルの心臓を矢で射抜くとジェスレルは湖底に落下して行く。ジェミが上げた狼煙を見て、スイスの反乱軍が現れ、スイスが勝利を収める。嵐が収まると山々と湖の美しい光景が輝く。アルノルドは天国の父に「スイスが解放されたこの日に何故あなたがいないのですか」と呟く。マティルドはアルノルドと互いの愛を確かめ、ここに残ることを約束する。民衆は美しい自然と自由を与えてくれた神に感謝し「この地の全てが良い方向に変わる」(Tout change et grandit en ces lieux)と歌う。管弦楽による自然と自由への賛歌がひっそりと始まり、「ラン・デ・ヴァッシュ」( Ranz des Vaches)を崇高な美しさを湛えてホルンが穏やかに奏で、物語は大団円を迎える。
〖舞台イメージ・スケッチ〗
【上演の模様】
各幕には、多くの素晴らしいアリアからソロ、重唱、合唱、管弦楽曲が多く詰まったオペラです。その詳細は膨大であり、すべては記録出来ないので、代表的な箇所を各幕一場面(赤字部)に照準を当て以下に記しました。
序曲演奏
Vc.が魅力ある調べをふくよかに謳い上げた後、管の合いの手と弦楽が不安げなメロディーを奏でました。何か嵐を思わす速い弦と金管の掛け合いがひとしきり続いた後、Fl.のソロが入り、Ob.が引き取り再びFl.→Ob.そして両者の掛け合いが続きました。Ob.の旋律奏にFl.のキザミ奏。そして後半かの有名過ぎる旋律が入っている序曲の速くて軽快な演奏が、ピットから溢れ出しました。後半の有名箇所はまるで競争馬にまたがって疾走するが如き速奏。そして第1幕が開くのでした。
第1幕
右手にギヨーム・テルの小屋。左手にシェーヘン谷の渓流、その上に橋が架かっている。岸に小舟がつながれている。農民達が、3組の新婚夫婦のために用意された、木の小屋を取り囲んでいる。その他の者は、いろいろな農作業をしている。ジェミは弓を引く練習をしている。ギヨームは畑の中で、鋤にもたれつつ物思いに耽っている。エドヴィージュは小屋の前に座り、ひとかごのイグサを集め、夫と息子を交互に見ている)
①漁師のリュオディが愛の歌「早く僕の船においで!」(Accours dans ma nacelle)を歌いました。
❝LE PÊCHEUR
(dans sa barque)Accours dans ma nacelle,Timide jouvencelle;Du plaisir qui t'appelle C'est ici le séjour.Je quitte le rivage;Lisbeth, sois du voyage,
Viens; le ciel sans nuage Nous promet un beau jour.
漁師((自分の小舟の中で)ぼくの舟に走っておいで 恥ずかしがり屋のお嬢さん あなたを呼んでいる喜びのありかはここだよ ぼくは岸辺を離れる エリザベス、舟に乗ってよ おいで、雲一つない空が僕達に素敵な一日を約束している)❞
❝GUILLAUME
(à demi-voix)Il chante son ivresse,Ses plaisirs, sa maîtresse;De l'ennui qui m'oppresse Il n'est pas tourmenté Quel fardeau que la vie!Pour nous plus de patrie!Il chante, et l'Helvétie Pleure sa liberté
(ギヨーム(声をひそめて)彼は、彼の陶酔 喜び、恋人を歌っている 私をさいなんでいる悲嘆を 彼は気にもしていない 何たる重荷だ、生きるとは!われらにはもう祖国はない 彼は歌い、ヘルヴェティアは 自由を求めて涙する)❞
❝LE PÊCHEUR
Des fleurs ceignent sa tête;Leur puissance secrète;Conjurant la tempête,Nous répond du retour.Et toi, lac solitaire,Témoin d'un doux mystère,
Ne dis pas à la terre Les secrets de l'amour.
(漁師 花々が彼女の頭をとり巻くその秘密の力が嵐を追い払い僕らの帰航を約束してくれる そして、君、ソリテール湖よ 甘い秘め事の証人よ 地上に愛の秘密を言わずにおいておくれ)❞
❝HEDWIGE et JEMMY
Son imprudent courage,Se jouant de l'orage,à côté du naufrage Ne pense qu'au retour.Vers l'écueil qu'on redoute,S'il dirigeait sa route,Des chants demort, sans doute,Suivraient ses chants d'amour.(Ici l'on entend le ranz des vaches.)
(エドヴィージュとジェミ 彼の軽率な勇気は難船を招くかもしれない嵐に挑んで
帰航のことを考えず誰もが恐れる暗礁に航路を向けたなら一つの死の歌が間違いなく
あまたの愛の歌に続くだろう(ここでラン・デ・ヴァシュが聞こえてくる))❞
漁師のリュオディは、メインキャストではないの(出番は希少)ですが、リュオデイ役の山本さんは、なかなかいいテノール声で歌っていました。セットと衣服の関係で、船→漁→水辺の雰囲気が未だしの感は有りましたが。ここで、タイトルロール、ギョーム・テルの第一声です。最初だからなのかギョーム役ゲジム・ミシュケタは、少し声に張りが足りない様に思われました。でも力のあるバリトンと見ました。 舞台が進むに連れてどうなるのか楽しみに感じました。また彼の息子と奥さんも早くも第一声です。息子ジェミ役安井さんも、妻エドヴィージュ役、齊藤さんも、かなりのキャリアを有するソプラノとメッゾ。前者は、様子も子供らしさを出し、後者は母親らしい歌いぶりでしたが、安井さんの声は、やはり女の子かな?齊藤さんの声は、落ち着いたものでした。
②二重唱「どこへ行く? ああ、我が憧れの人」(Où vas-tu? Ah! Mathilde, idole de mon âme!)
③合唱「牧人よ!あなた方の声が一つになって」(Pasteurs, que nos accents s'unissent)
④村人との合唱「慈悲深き神よ!」(Dieu de bonté)
⑤五重唱「彼のようにせねばならぬ」(Nous l'aurions dû faire)
第2幕
⑥ロマンス「暗い森、荒れ果て悲しい野よ」(Sombre forêt, désert triste et sauvage)
Romance
❝MATHILDE Sombre forêt, désert triste et sauvage,Je vous préfère aux splendeurs des palais:C'est sur les monts, au séjour de l'orage,Que mon cœur peut renaître à la paix;Mais l'écho seulement apprendra mes secrets.Toi, du berger astre doux et timide,Qui, sur mes pas, viens semant tes reflets,Ah! sois aussi mon toile et mon guide!Comme Arnold tes rayons sont discrets,Et l'écho seulement redira mes secrets.(マティルド 暗い森、陰鬱な人里離れた場所宮殿の絢爛より私はおまえ達を好む。それは山々の上、嵐の中だ。私の心が安らかに生まれ変わることができるのは。でも、ただ山びこだけは私の秘密を知るだろう。あなた、やさしく臆病な羊飼いの星よ、私の足跡に来て下さい。あなたの光を撒きながらああ、同じように私の星に、私の導き手になって下さい。アルノルドのように、あなたの光は慎み深いそして、ただ山びこだけが私の秘密を伝えるでしょう。)❞
ここに至るまでの1幕でもマティルド役オルガン・ペルチャッコは、出番があって歌っていたのですが、綺麗なソプラノにもかかわらず、何か聴く者の心を掴む様な高揚感は無かったのです。しかし、この場面に及び、非常に感情の籠もったしかも伸びのあるソプラノで、心からの発露を繰り出す様な歌いぶりでとても良かった。ここまでで彼女の一番の出来だと思いました。歌い終わると会場は大いに沸き、大拍手と歓声が、飛び交いました。
⑦二重唱「ここにいらして!あなたは私の魂から」(Restez. Oui, vous l'arrachez à mon âme)
⑧三重唱「彼らが奪い取った父の日を」(Ses jours qu'ils ont osé proscrire)
⑨「我々の山々の頂から」(L'avalanche roulant du haut de nos montagnes)
第3幕、4幕
⑩マティルドのアリア「異郷の湖畔で」(Sur la rive étrangère)
⑪ギョーム・テルのアリア「じっと動くな」(Sois immobile)
❝ Sois immobile, et vers la terre Incline un genou suppliant.Invoque Dieu: c'est lui seul, mon enfant,Qui dans le fils peut épargner le père.Demeure ainsi, mais regarde les cieux. En menaçant une tête si chère,Cette pointe d'acier peut effrayer tes yeux.Le moindre mouvement… Jemmy, songe à ta mère! Elle nous attend tous les deux!(動くんじゃないぞ、お祈りをしながら地に跪きなさい。神のご加護を祈るのだ、息子よ。神のみが御子の中でその父を救うことができる。そのまま、ただ天を仰ぎなさい。この鋼鉄の矢が、いと愛しきそのこうべを脅かす時、おまえの目を怖がらせるかもしれない。そのわずかな動きでも...ジェミよ、母のことを思い浮かべなさい!彼女は我ら2人を待っている。)❞
この場面は、「ウイリアム・テル」=頭上のリンゴ射抜き と誰にでも知られている、謂わば人口に膾炙した場面で、動画や漫画などで小さい子でも知っていることでしょう。見事リンゴに命中し、子供は、無傷だったのですが、このオペラでは、その場面より、むしろその前後のギョームの心理を如何に表現するかが、歌手の力量が試される処でしょう。その点で、タイトル・ロール役ミシュタケは、ここで本領発揮とばかり、歌は勿論のことその表情、手振り身振り、体の動きなど、まるで歌手+俳優を一人演じているか如き奮闘をしていました。ここでは、会場はこの日一番の盛り上がりとなったのでした。
⑫オーストリア兵がジェスレルを讃える歌(Vive, vive Gesler!)スイス人たちの「ジェスレルを追い出そう(Anathème à Gesler!) 合唱。
⑬アルノルドのアリア「先祖伝来の住処よ」 (Asile héréditaire)
❝ARNOLD
Asile héréditaire,Où mes yeux s'ouvrirent au jour,Hier encor, ton abri utélaire Offrait un père à mon amour.J'appelle en vain, douleur amère!…
J'appelle, il n'entend plus ma voix!Murs chéris qu'habitait mon père,
Je viens vous voir pour la dernière fois!(アリア アルノルド 祖先から受け継いだ安住の家よ それは私が毎朝その目を開いた場所 ほんの昨日まで、おまえの庇護は 私の愛に、父親を与えてくれた私はむなしく呼びかける、苦い痛みよ!呼びかけても、私の声を聞いてくれない 父が住んでいた愛しい家よ 私はおまえを最後に見るために来た)❞
この場面のアルノルド役バルベラは、それ以前の歌いぶりでは考えられない位の、往年の名テノールにも負けない程と思われる素晴らしい声を張り上げて歌ったのです。声に張り・艶があって声量は格段にアップ、声質も紛れもない本物の名テノールのそれ、この歌を聴いただけでも、今日聴きに来た価値は十分と思わせるものでした。
また今回は、NNTTとしては、数少ないフランス語上演でした。(以前のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」以来だと思います。)殊にアルノルド役ルネ・バルベラのフランス語発音がクリアで、鼻濁音もよく出ていて、単語一個一個が明瞭に聞こえました(今回は、フランコニー国出身の歌手は、いなかったのですね。)
又バルベラの詠唱は、このアリアの次の⑭も素晴らしかったです。
⑭アルノルドのアリア「友よ、復讐に手を貸してくれ」(Amis, amis, secondez ma vengeance)
⑮仲間の合唱「勝利か、さもなくば死か」(Ou la victoire ou le trépas!)
⑯三重唱「愛するご子息をお返しします」(Je rends à vostre amour un fils digne de vous)
⑰エドヴィージュのアリア「弱き者をお支え下さる神よ」(Toi, qui du faible est l'espérance)
⑱合唱「この地の全てが良い方向に変わる」(Tout change et grandit en ces lieux)
⑲管弦楽奏「この地の全てが良い方向に変わる」(Tout change et grandit en ces lieux)
以上、最小限の歌の場面を取り上げて、その詳細を記しましたが、上記したそれ以外の場面も、特に合唱は見事なものがあり、各場面を盛り上げるのに、大きな役割を果たしていました。また今回の大きな特徴は、バレエダンサーをかなりの数登場させて、踊ったり演技させたり、歌手の動きだけでなく、物語の雰囲気を表現して、上演の内容発露に寄与させていた事です。本来、18、9 世紀のミラノ・スカラ座をはじめとするイタリア等のグランド・オベラの上演には、バレエは、欠くべからずの付きものであったのです。それは、(幕あいに、バレエを上演するなど)今回とは少し異なったやり方でしたが。
非常に良いことの方が多いと思います。
なお①や最終場面の中で出て来た「ラン・デ・ヴァッシュ( ranz des vaches ) 」とは?
(ドイツ語圏ではキューライエンと呼ばれる ) は、伴奏なしに歌われるスイスの伝統的な牛追い唄です。乳搾りの時間が来ると、牛飼いが牛を牛舎に追い込むために歌いました。つまり、牛追い唄は元来のアルプホルンと同じ役割をもちます。1800年以降、アルプホルンが廃れていったように、牛追い唄も耳にすることが少なくなりました。