【日時】2024.11.1.(金)19:00〜
【出演】クァルテット・エクセルシオ
(この四重奏団について)
年間通して80公演ほどを行う常設の弦楽四重奏団。 1994年 に結成。第5回パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクール(イタリア)最高位などのコンクール受賞歴をもつ。
2001年に定期演奏会と「ラボ・エクセルシオ」シリーズを開始。2008年に第19回新日鉄音楽賞フレッシュアーティスト賞を受賞(団体の受賞はこの賞の歴史で唯一)。2010年に発足したサントリーホール室内楽アカデミーではコーチング・ファカルティに就任、2011年には「クァルテット・プラス」シリーズを始め、また、北米の室内楽シリーズ(ホノルル)に招聘され成功を収めるなど、名実ともに日本の室内楽シーンを代表する存在となっている。
2014年に結成20周年を迎え、同年4月より翌2015年3月までの自主公演を結成20周年記念シリーズとして行った。2014年12月に、クァルテット・エクセルシオでの活動が評価され、チェロ大友肇が、第13回斎藤秀雄メモリアル基金賞を受賞した。また、2015年3月には、クァルテット・エクセルシオとして、第16回ホテルオークラ音楽賞を受賞した。
その活動は、ベートーヴェン演奏を中心とする定期演奏会(東京で年2回、京都・札幌で年1回ずつ) 現代音楽など弦楽四重奏のレパートリーの開拓、意欲的なアウトリーチ活動を3つの柱とし、近年では、ソリストの室内楽演奏のパートナーをつとめるなど、大編成室内楽の核となる演奏活動にも多く取り組んでいる。
メンバーは、第2ヴァイオリンが、2003年と2019年に代わり、以下の現在の構成になっている。
◯西野ゆか(Vn.)
《Profile》
桐朋学園大学音楽学部を経て、同大学研究科修了。第66回読売新聞社主催新人演奏会に出演。桐朋学園の推薦によりスカラシップを得て、タングルウッド音楽祭に参加。サイトウ・キネン・オーケストラ他、数々の音楽祭に参加。大学在学中にクァルテット・エクセルシオを結成し、第2回大阪国際室内楽コンクール弦楽四重奏部門第2位、イタリアで開催された第5回パオロ・ボルチアーニ国際 弦楽四重奏コンクールにおいて最高位、併せてサルバトーレ・シャリーノ特別賞など受賞。また第19回新日鐵音楽賞フレッシュアーティスト賞、第16回ホテルオークラ音楽賞を弦楽四重奏団として初めて受賞する
◯北見春菜(Vn.)
〈Profile〉
桐朋学園大学音楽学部卒業、同大学研究生及び桐朋オーケストラ・アカデミー研修課程生修了。
第20回かながわ音楽コンクール高校生の部特選(ファイナリスト)。日本クラシック音楽コンクール第14回・第15回高校の部、第17回大学の部全国大会入選。
第98回横浜市緑区ふれあいコンサートオーディションにて優秀賞受賞、「未来に輝け新人演奏会」出演。
2009年、小澤征爾音楽塾「オーケストラ・プロジェクトⅠ」「オペラ・プロジェクトⅩ」参加。2008年、2009年サイトウ・キネン・フェスティバル 松本「子どものための音楽会」、2009年、2012年「青少年のためのオペラ」、2012年「20周年記念スペシャル・コンサート」出演。
「とやま室内楽フェスティバル2010」室内楽セミナー(弦楽四重奏)受講、堤剛氏の公開特別レッスンを受講。
認定NPO法人 トリトン・アーツ・ネットワーク「2012年度 室内楽アウトリーチセミナー」受講、「第一生命ホール ロビーコンサート」出演。室内楽アウトリーチセミナー修了生として認定NPO法人 トリトン・アーツ・ネットワーク主催「第一生命ホール・ロビーでよちよちコンサート」、「第一生命ホール・オープンハウス2016」、第一生命ホール15周年記念「子育て支援コンサート『ぴっぽのたび』」出演。
サントリーホール室内楽アカデミー第1期生、第2期生修了。サントリーホール室内楽アカデミー生として「オープンハウス~サントリーホールで遊ぼう!」、「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン」などに出演。
◯吉田有紀子(Va.)
《Profile》
桐朋学園大学音楽学部を経て同大学研究科修了。これまでにヴァイオリンを天満敦子、鷲見健彰、ヴィオラを岡田伸夫の各氏に師事。第1回淡路島しづかホールヴィオラコンクール第3位入賞。1994年クァルテット・エクセルシオを結成。第2回大阪国際室内楽コンクール弦楽四重奏部門第2位、第5回パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクール最高位、併せてS・シャリーノ特別賞、第19回新日鉄音楽賞(現・日本製鉄音楽賞)フレッシュアーティスト賞、第16回ホテルオークラ音楽賞、青山音楽奨励賞(現・バロックザール賞)など受賞。クァルテット・エクセルシオを中心に、幅広い分野で活動している。浦安音楽ホール レジデンシャル・アーティスト。東京藝術大学音楽学部非常勤講師。クァルテット・エクセルシオ ヴィオラ奏者。
◯大友肇 (Vc.)
《Profile》
桐朋学園大学卒業。在学中より活動開始した弦楽四重奏団クァルテット・エクセルシオが今年で結成28年目。主に室内楽奏者として活躍している。東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の客員首席奏者、紀尾井室内管弦楽団メンバー。大阪国際室内楽コンクール弦楽四重奏部門第2位。第5回パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクール最高位。
第19回新日鉄音楽賞フレッシュアーティスト賞、第13回齊藤秀雄メモリアル基金賞、第16回ホテルオークラ音楽賞、青山音楽賞奨励賞(現バロックザール賞)、マイカル音楽賞、緑の風音楽賞などの受賞歴がある。弦楽四重奏での録音のほか、バッハの無伴奏組曲や小品を収めた『バッハ&フォーレ』『バッハ&カサド』をナミレコードよりリリースしている。
財団法人日本チェロ協会評議員。シティフィル第一チェロ奏者。
【曲目】
①モーツァルト : 弦楽四重奏曲第16番 変ホ長調 K428
(曲について)
モーツァルトが自作の作品目録を作る前に書かれたものであるため正確な完成時期はわかっていないが、前作の第15番(K. 421)とほぼ同時期の1783年の6月から7月にかけて作曲されたと考えられている。
『ハイドン・セット』の中では3番目に完成した(ただし、アラン・タイソン(英語版)による用紙研究では第15番よりも前に作曲されたと推測されている)作品であるが、自筆譜とケッヘルによる初版の作品全集では第4番と表記されており、これを踏まえて新モーツァルト全集でも3曲目に第17番『狩』(K. 458)を置き、本作を4曲目に配置している。
②酒井省吾:弦楽四重奏曲 結成30周年記念委嘱作品(世界初演)
(酒井省吾とは?)
作曲家。1960年9月23日神奈川県生まれ。中学1年生の時に音楽担任より作曲を勧められ、自 作合奏曲を作曲し、川崎市の大会で演奏。高校時代より、グループを組み(ギター担 当)音楽活動を開始、大学まで続ける。大学4年の時に縁あってTBS『ザ・ベストテン』の 生放送現場に通い始める。毎週の現場で見聞きした「初見で、生放送の緊張の中、一 流の演奏をするプロの仕事」に感銘とショックを受ける。自分の進むべき道は、“演奏” ではないと見切りをつけ、「譜面書き”で、と考える。作曲家デビューは1986年、日本青年館で行われたミュージカル「ヤマトタケル」への共同参加から。ゲーム黎明期に音楽 制作の職を見つけ、1987年からデータイースト株式会社、1996年から株式会社ハル 研究所に所属。社員として27年間、ゲーム音楽作曲に携わる。ゲームのハード性能向 上とともに、オーケストラについて学ぶ必要性が生じ、スイス・ロマンド管弦楽団「春 の祭典」(1991年来日時)を聴く。クラシック音楽との関わりは、春の祭典からスタート し、以後、クラシックにどっぷりとハマる。と同時に、仕事を通じて室内楽、オーケスト ラ、ビッグバンドの譜面を書く機会を得て、研鑽を積む。2023年より個人事業主として 独立。ゲーム音楽に閉じない活動を展開中。
代表作品:「スマッシュブラザーズ」シリーズ、「星のカービィ」シリーズ、「MOTHER3
(曲について)
クァルテット・エクセルシオ結成30周年記念演奏会のための四重奏曲を、酒井省吾に作曲依頼して完成された委嘱曲。
③ベートーヴェン 『弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 Op.130』
(曲について)
ベートーヴェンが作曲した弦楽四重奏曲である。1825年11月に完成された。伝統的に出版順に番号付けされているが、作曲順では本作が14番目に相当し、第15番の次に作曲された。1826年3月にシュパンツィヒ四重奏団によって初演され、1827年の出版時にロシア貴族ニコライ・ガリツィンに献呈された。6楽章からなる。
初演時は終楽章に『大フーガ』が置かれ、50分前後に及ぶ作品だった。ベートーヴェンは後期においてしばしばフーガを好んでおり、本作だけでなくピアノソナタ第29番『ハンマークラヴィーア』、交響曲第9番、ピアノソナタ第31番で用いている。しかし『大フーガ』は大変難解で、初演後にも評価が二分した。結局ベートーヴェンは、友人の助言や出版社からの要請もあって『大フーガ』を切り離し(独立して作品133として出版された)、これとは別の、もっと軽快で小型の終楽章を新たに書き直して出版した。
現代では『大フーガ』に対する理解も進み、ベートーヴェンの当初の意図通りこのフーガを本来の形で終楽章として演奏したり、あるいは新旧のフィナーレを両方取り上げるといった演奏もしばしば行われている。
【演奏の模様】
①モーツァルト『弦楽四重奏曲第16番 変ホ長調 K428』
全4楽章構成 (演奏時間約25~28分)
第1楽章 Allegro non troppo
第2楽章 Andante con moto
第3楽章 Menuet:Allegretto
第4楽章 Allegro vivace
このモーツァルトの四重奏曲を聴くと、どういう訳か、ベートーヴェンの四重奏曲を連想してしまいます。勿論、両者には相当な違いがあるにもかかわらず。モーツァルトの遺伝子が、後者に何らかの作用を及ばしているのでしょうか?
このカルテットの演奏は、第一楽章からして、互いの息使いを感じ取りながら演奏しているかと思われる程、四人の息がピッタリ合ったもので、アンサンブルの溶け具合いも十分なものでした。第二楽章冒頭、四者の重厚なアンサンブルが、ゆったりと流れ出て、その後1Vn.が牽引役となり引っ張って行くと、アンチテーゼの様にVa.がうごめき、テーマの繰り返しも心地良く響きました。
第三楽章も第四楽章も1Vn.主導で演奏は進み、曲全体でも1Vn.の音が優勢で、2Vn.は目立たず、もともとそういう曲なのでしょうか?聴いていてもう少し2Vn.の活躍があってもいいなと思いました。
第三楽章のリズム・テンポの動きが面白かった。
②酒井省吾:弦楽四重奏曲 結成30周年記念委嘱作品
全四楽章構成
第1楽章Andante
第2楽章Allegro
第3楽章Adagio
第4楽章Vivace
演奏開始前に、この曲の作曲者である酒井氏とNPO法人エク・プロジェクト理事長の勝村氏の対談が有り、今回の演奏会の為に委嘱された曲を作った経緯等を語り合いました。詳細は割愛しますが、酒井さんは、クラシックの四重奏曲を作るのは初めてで、委嘱された最初はどうしようと思ったが、その後割とスムーズに作曲出来たと話していました。
実際この曲の演奏を聴いてみると、一楽章から極めて古典的な調べが出て来て、あれ、これって現代の作曲家によるものだよね、ベートーヴェンの時代の誰かが作曲したのかと聞き紛ごう程、しかも1Vnの調べが大変美しい。また四者のアンサンブルの融合度も高いし、各パートの掛け合い、合の手入れもかなり本格的カルテット奏に表される物と言って良いと思いました。
第二楽章 は全四者に依る強斉奏からスタート、Vc.のPizzicato 奏あり、1Vn.の速いテンポの強奏あり、と全体的に力強い調べが支配的でした。
三楽章、四楽章はリズミカルさも有る楽しそうな曲ですが、何んとなくアニメや映画音楽的響きの混じったややクラシックのカルテット向きではないなと思って聴いていました。従って前半までの流れが一貫すれば、弦楽四重奏曲と呼べるでしょうけれど、このままでは??が残りました。
《20分の休憩》の後は、今回の曲目の中では一番期待出来る曲です。
③ベートーヴェン『弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 Op.130』
全六楽章構成
終楽章改作後のものは、6楽章で構成されている点で異例の弦楽四重奏曲です。5楽章で構成された第15番の次に作曲されており、さらに規模が拡大しました。『大フーガ』が差し替えられた改訂後も42分前後と、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の中では最も演奏時間が長いのです。中間楽章において通例とは逆の舞踊楽章、緩徐楽章という並べ方をするのは交響曲第9番などでも見られたのですが、本作では中間2楽章の並びがもう一度くり返され、1.開始楽章、2.舞踊楽章、3.緩徐楽章、4.舞踊楽章、5.緩徐楽章、6..終楽となっています。
第1楽章 Adagio, ma non troppo - Allegro
第2楽章 Presto
第3楽章 Andante con moto, ma non troppo. Poco scherzoso
第4楽章 Alla danza tedesca. Allegro assai
第5楽章 Cavatina. Adagio molto espressivo
第6楽章 Allegro
この曲は毎年サントリーホール主催のCMG(Chamber Music Garden)で演奏される『ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会』で聴いた事が有りますが、その時は上記(曲について)又は下記《補足・参考》に記した事情によってベートーヴェンが改訂した版で演奏されました。今回も普通の演奏版(上記第6楽章がAllegroの曲)なのかなと思っていましたが、ところが演奏会場に来て配布されたプログラム&ノートを見て若干驚きました。改訂前の大フーガを最終楽章の六楽章として(即ちベートーヴェンの原版で)演奏するらしいのです。これには一層興味深く期待が持てます。
実際演奏を聴いてみると1から5楽章は何回か聴いた海外からのカルテットに引けを取らない様な力強さとメリ張りの聴いた13番の演奏でした。さて件(くだん)の六楽章に入ると、巷間よく言われる、五楽章までと様相がガラッと変わる複雑かつ奇異な響きを有するフーガ、不協的響きのフーガ等と言った悪評は、自分にとっては、全く感じられず、バッハの感触は残しているものの、ベートーヴェンによりさらに深化された、万華鏡の様に色どり百変化の、色彩豊かな構築物を想像出来るような、素晴らしいパッセジ展開の曲で、この日一番力を込めて必死となって演奏する四人の手元から繰り出される調べは、この上なく心地良く面白い響きを有したものでした。とても良かった、感動しました。この13番は大フーガがあってこそ、その存在価値が有る、それを省いたり過少化改変しては、ベートーヴェンの最初意図した物とは価値が大きく減殺されると痛感した次第です。 要するに換言すれば、1から5楽章は現世の中で様々にベートーヴェンが体験したもろもろ(喜び悲しみ苦しみ、愛憎憧憬失望etc.)、それらを克服して高く舞い上がるのが6楽章の大フーガで、かの国(天国或いは奈落?)のもろもろ(安寧安堵安心、平和安らぎ満足他)を音楽で具象化したのではなかろうかと思いました。
今度又別のベートーヴェンの曲や別の作曲家(例えば、メンデルスゾーン、ハイドン他)の演奏会が催されれば、都合の付く限り聴きに行きたいなと思って岐路に着きました。
《補足・参考》
〇ベートーヴェン「大フーガ 」について
上記した(曲について)にある様にこの長大な曲は、弦楽四重奏曲第13番の終楽章として存在したものが、(この部分が不評だったということで)13番から切り離されてOp.133として単独で演奏されるようになりました。
曲は短い《序奏部》と長大な《フーガ》から成っており、フーガは当然バッハの技法から学んだと思われる、様々なフーガの技法(単純フーガ、反行フーガ、対称形フーガ、pizzicato huga、単純カノンetc.)が駆使されていますが、それでは説明つかない、謂わばベートーヴェン発のフーガの技法も多く入っているのではなかろうかと推測されました。何か耳当たりが余り良くないフーガ、テンポがズレたり変わったりするフーガ、そうしたフーガも含まれており、短い序奏部の後、様々なフーガが延々と続き、四人のアンサンブル奏者は難しそうな箇所もピッタリ息の合った演奏をしていました。もうこれでフィナーレかなと思うと別なフーガが頭を擡げ、しばらく続くと今度は繰返しのフーガが再度奏されたりと、仲々終わらないのでその響きが心地良いものであれば、エンドレスでも飽きないのですが、不協和音的響きや狂気とも思える響きや不気味な響き、不穏な響き等も多くて、若干辟易しました。それでも曲全体は(かなりの部分演奏に依るものでしょうが)力強く、人知を超えた何者かを予感させる様な、エネルギッシュな熱量溢れる演奏でした。結論的にはこの曲に尋常の良さとは違う何か大きい物に触れる様な感覚印象を受けました。 第13番が初演された1826年頃の常識を超えたフーガの響きを有していた先進性のため、当時の時代の人には仲々受け入れられない「大フーガ」だったのかも知れません。