【主催者言】
日本でも極めて高い人気を誇る名門オーケストラロンドン・フィルがやって来る! 指揮者はサイモン・ラトルの後継とも評され、若くして欧米の一流オーケストラに引っ張りだこの 人気指揮者ロビン・ティチアーティ! BBCプロムスにも登場し、イギリスでも高い人気を誇るピアニスト辻井伸行がベートーヴェンの協奏曲で共演!
【日時】2024.9.11.(水)19:00〜
【会場】サントリーホール
【管弦楽】ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
【指揮】ロビン・ティチアーティ(Robin ticciati)
〈Profile〉
2017年よりベルリン・ドイツ交響楽団の音楽監督、2014年よりグラインドボーン音楽祭の音楽監督を務める。2009年から18年までスコットランド室内管弦楽団の首席指揮者を務めた。
これまでにバイエルン放送響、ロンドン・フィル、ヨーロッパ室内管等に定期的に客演しているほか、近年では、ウィーン・フィル、ロンドン響、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、フランス国立管、フィラデルフィア管等と共演している。録音も数多く、スコットランド室内管、バンベルク響、ベルリン・ドイツ響等との各ディスクは高く評価されている。今シーズンは、ベルリン・フィルとオスロ・フィルにデビューするほか、ベルリン国立歌劇場でもデビュー予定。
ロンドン生まれ。ヴァイオリン、ピアノ、パーカッションを学び、15歳で指揮者に転向。サー・コリン・デイヴィスとサー・サイモン・ラトルに師事した。英国王立音楽院の「サー・コリン・デイヴィス指揮フェロー」の地位に就いている。2019年、音楽界での貢献が認められ、英国王室より大英帝国勲章(OBE)を授与された。
【出演】辻井伸之(Pf)
【曲目】
①ベートーヴェン『ピアノ協奏曲第5番《皇帝》』
(曲について)
いわゆる「傑作の森」と評される時期に生み出された作品の一つであり、ナポレオン率いるフランス軍によってウィーンが占領される前後に手がけられている。ベートーヴェンが生涯に完成させたオリジナルのピアノ協奏曲全5曲の中では最後となる作品であり、かつ初演に於いて他のピアニストに独奏ピアノを委ねた唯一の作品でもある。
1808年12月末頃にスケッチ着手。同月22日にアン・デア・ウィーン劇場に於いて『ピアノ協奏曲第4番ト長調』や『交響曲第5番「運命」』、『同第6番「田園」』などの新作の初演を兼ねた4時間に及ぶ長大な演奏会を開いていることから、当該演奏会の直後に当楽曲のスケッチに取りかかったものとみられている。この演奏会ではベートーヴェンが自身によるピアノ即興演奏や、自身の新曲の一つとして発表され、後に『交響曲第9番「合唱付」』のルーツ的存在の一つとして知られることになる『合唱幻想曲』の初演のピアノ独奏を務めたりもしていたことから、この演奏会が当楽曲の創作に向けて刺激を与えたとの指摘も存在する。
翌年1809年の4月頃までにスケッチを完了させ、同年夏頃までに総譜スケッチを書き上げたものとみられるが、出版に漕ぎ着けるには更に1年程度の期間を要している。
折しも、当楽曲のスケッチおよび作曲に取り組んでいる最中にあった1809年、ナポレオン率いるフランス軍がベートーヴェンが居を構えていたウィーンを完全包囲し、その挙げ句にシェーンブルン宮殿を占拠した。これに対しカール大公率いるオーストリア軍は奮戦するもフランス軍の勢いを止める事は出来ず、遂にウィーン中心部を砲撃され、フランス軍によるウィーン入城を許してしまった。その後フランス・オーストリア両軍の間で休戦協定が結ばれるも、当時のオーストリア皇帝フランツを初め、ベートーヴェンを支援してきたルドルフ大公を初めとする貴族たちもこぞって疎開、ウィーンに於ける音楽活動は途絶えてしまう。
ちなみにこの頃のベートーヴェンはというと、彼の住居近くにも砲弾が落ちたことから弟カール宅の地下室に避難、不自由な生活の下でも作曲を続けていたものの、たまりかねてウィーンの街中を我が物顔で歩くフランス軍将校とすれ違った際に将校に向かって拳を上げながら「もし対位法と同じぐらい戦術に精通していたら、目に物を見せてくれように」と叫ぶこともあったといわれている。
当楽曲は、前記総譜スケッチを終えてから1年余りを経て、1810年11月に先ずロンドンのクレメンティ社から、更に翌1811年3月から4月にかけてはドイツのブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から、それぞれ出版されている。
②マーラー『交響曲第5番』
(曲について)
グスタフ・マーラーが1902年に完成した5番目の交響曲。5楽章からなる。マーラーの作曲活動の中期を代表する作品に位置づけられるとともに、作曲された時期は、ウィーン時代の「絶頂期」とも見られる期間に当たっている。
1970年代後半から起こったマーラー・ブーム以降、マーラーの交響曲のなかで人気が高い作品となっている。その理由としては、大編成の管弦楽が充実した書法で効果的に扱われ、非常に聴き映えがすること、音楽の進行が「暗→明」というベートーヴェン以来の伝統的図式によっており曲想もメロディアスで、マーラーの音楽としては比較的明快で親しみやすいことが挙げられる。とりわけ、ハープと弦楽器による第4楽章アダージェットは、ルキノ・ヴィスコンティ監督による1971年の映画『ベニスに死す』(トーマス・マン原作)で使われ、ブームの火付け役を果たしただけでなく、マーラーの音楽の代名詞的存在ともなっている。
第2番から第4番までの3作が「角笛交響曲」と呼ばれ、声楽入りであるのに対し、第5番、第6番、第7番の3作は声楽を含まない純器楽のための交響曲群となっている。第5番で声楽を廃し、純器楽による音楽展開を追求するなかで、一連の音型を異なる楽器で受け継いで音色を変化させたり、対位法を駆使した多声的な書法が顕著に表れている。このような書法は、音楽の重層的な展開を助長し、多義性を強める要素ともなっており、以降につづく交響曲を含めたマーラーの音楽の特徴となっていく。
また、第5番には同時期に作曲された「少年鼓手」(『少年の魔法の角笛』に基づく)や、リュッケルトの詩に基づく『亡き子をしのぶ歌』、『リュッケルトの詩による5つの歌曲』と相互に共通した動機や曲調が認められ、声楽を含まないとはいえ、マーラーの歌曲との関連は失われていない[5]。さらに第4番以降しばしば指摘される「古典回帰」の傾向についても、後述するようにそれほど単純ではなく、書法同様の多義性をはらんでいる。
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○ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
(London philharmonic orchestra)について
自分としては、このオーケストラは、サーゲオルグ・ショルティの独特の指揮スタイルと共に記憶に残っています。
1932年にサー・トーマス・ビーチャムにより創設。以来、世界有数のオーケストラとして称賛されている。ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールを拠点とし、イギリス国内外へのツアーも行うなど世界中の観客を前に演奏している。
毎年夏にはグラインドボーン音楽祭のレジデントとしてオペラ公演を行っており、その模様はオンライン配信やTV放送等で視聴されている。ライヴ、スタジオ録音を独自レーベルからリリース。オンラインでは毎月1,500万回以上再生されており、世界で最もストリーミングされているオーケストラである。
これまでの首席指揮者には、ベルナルト・ハイティンク、サー・ゲオルク・ショルティ、クラウス・テンシュテット、フランツ・ウェルザー=メスト、クルト・マズアといった歴史的な名指揮者たちが名を連ねている。2021年には、エドワード・ガードナーが第13代首席指揮者に就任。2007年から21年まで首席指揮者を務めたウラディーミル・ユロフスキは名誉指揮者となった。現在、首席客演指揮者はカリーナ・カネラキス、コンポーザー・イン・レジデンスはタニア・レオン
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今回のロンドンフィルは、指揮者ロビン・ティチアーティを擁して来日しましたが、彼はもともとラトルの直弟子で、将来を嘱望されていた人でして、ベルリン・ドイツ交響楽団の首席指揮者を務めていた昨年12月に、ベルリン・フィルにデヴュー演奏をしました、その時の演奏を、ベルリンフィル・デジタルコンサートホールのライヴ配信で聴いていますので、その記録を文末に(抜粋再掲)しておきます。この時はマーラーの4番の演奏でした。今回はベートーヴェンの5番コンチェルトとマーラーの5番交響曲、と番号を揃えた演奏会です。
【演奏の模様】
①ベートーヴェン『ピアノ協奏曲第5番《皇帝》』
楽器編成:フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦楽五部
12型(12-10-8-6-6)、独奏ピアノ
尚、舞台右方上段席に見慣れない長い縦笛を擁する男女奏者が一人づつ配されていたので、確認した処、「バロックトランペット」との事。
全三楽章構成
第1楽章 Allegro
第2楽章 Adagio un poco mosso
第3楽章 Rondo Allegro-Piu allegro
ティチアーティは辻井君をいざなって登場し、挨拶をしてピアニスが着席すると、すぐにタクトを振り始めました。第1楽章冒頭のジャーンというオケの導入音、それに応じるソリストのソロ演奏、カデンツア的演奏です。ベートーヴェンが作曲した当時、最先端のピアノ(クラヴィール)が、音域が6オクターヴに広がり、強い音を出せるようになったことも、ベートーヴェンを大いに刺激したことでしょう。冒頭に独奏楽器の華麗なソロを持ってきたのは、ベートーヴェンの独創性の現われです。この箇所のピアニスト藤井のソロ演奏は、想像に違わずいつものスムーズな指運びで、上行下行音、トリル等難なく表現、伴う全オケも熟れた出音で再度鳴らし、ジャーンジャラララジャンジャンジャンジャーンと大音での演奏、管楽器と弦楽器が掛け合いました。ロンドンフィルの第一声は特に強奏という程でもないのですが、力強さを感じました。この辺りが普通であればコンチェルトの序奏部に相当する筈、Hrn.の調べと繰り返される弦楽奏のテーマ奏へと進むと、継いで入るソロPf.の上行パッセッジで始まるPf.のカデンツア風パッセッジが、とても綺麗に表現されていました。ただ全オケ全強奏に入った後のPf.とオケに瞬時のずれを感じたのもつかの間、その後の再三の弱音Pf.ソロは天上の園を感じる様な美的な演奏でした。
第2楽章のVn.のソロ音の伸びやかな序奏の後に、やはり優雅な調べを奏でるソロPf.、ロンドン響のHrn.奏者の合いの手はタイミング抜群、この2楽章では辻井君のソロ演奏にティチアーティがオケを差配して、特に合わせている感も無きにしも非ずでした。それにしても、彼とオーケストラとのリハーサルは一体どういう風に進めたのでしょう。指揮者はピアニストに好きなように演奏させてから、いろいろ注文するのでしょうか?団員に注文したら、ソリストにもこうして欲しいという事が多々あると思うのです。勿論言葉は音楽専門の通訳がいるのかも知れませんが、辻井君に注文して別な表現を求めることは出来るのでしょうか?何か解決策が有って、この天才ピアニストは、オーケストラとのマッチング策を瞬時に飲み込んでしまうのかも知れません。2楽章はやはりホッと気持ちが安らぐ場面、素晴らしい楽章で、ソリストの演奏も完璧でした。
第3楽章は2楽章の最後の音を引きずって、謂わば一呼吸置いたアッタカ的に入って行きました。この楽章のロンドンフィルの力奏もソリストの盛り上がりも、あくまで美しいこのベートーヴェンの曲の底流の上にさらに上乗せした表現を加えていた様に思えます。ホボ満点に近いソリストに、この上ない技量と経験を有するロンドン響とそれを牽引するティチアーティの合同建築物は斯くして完成したのでした。ベートーヴェンも聴いていたら「ホー見事な建物ジャノー」と喜んだことでしょう。
演奏が終わって会場からは盛大な拍手・喝采が起こりました。ティチアーティは何回も挨拶しては袖に帰る辻井君を支えながら行き来していました。
尚、ソリストアンコールがありました。
《アンコール曲》
カプースチン『八つの演奏会用エチュード』からプレリュード
辻井君は、ティチアーティにいざなわれて再登壇してビアノの前に座るやいなや、勢いよく弾き始めました。かなり現代的響きで、ジャズのリズムっぽい処もある速い旋律の曲。奏者は勢いに乗って一気に弾き終わった感がありました。
確かに勢いと高度な技術は感じますが、ピアノ演奏はそれだけではないと思うのです。演奏しながら心の襞を覗かせる様な旋律の揺らめき、間の取り方等々、表現の多様さ、これらは将に他から教わったり吸収したりする手合いのものでは無く、自から編み出すというか、多くの苦労、喜び失敗、成功などの様々な経験から体得する物なのでしょう、きっと。今度この天才ピアニストがモーツァルトの15番のコンチェルトを弾く機会が有れば、是非聴きに行きたいと思います。
②マーラー『交響曲第5番』
楽器編成:フルート4(3,4はピッコロへの持ち替えあり)、オーボエ3(3番はコーラングレ持替え)、クラリネット3(3番はバスクラリネット、小クラリネット(但しニ調のものを指定)持ち替え)、ファゴット3(3番はコントラファゴット持ち替え)ホルン6(第3楽章のみホルン 4 +独奏ホルン(Corno Obbligato)1)、トランペット4、トロンボーン3、チューバ ティンパニ、グロッケンシュピール、シンバル、大太鼓、小太鼓、タムタム、トライアングル、ホルツクラッパー(スラップスティック)ハープ 弦楽五部16型
全五楽章構成
第1楽章In gemessenem Schritt. Streng. Wie ein Kondukt.
第2楽章Stürmisch bewegt. Mit grösster Vehemenz.
第3楽章Kräftig, nicht zu schnell.
第4楽章Adagietto. Sehr langsam
第5楽章Rondo-Finale. Allegro giocoso
今回はこのマーラーの曲が一番聞きたくてチケットを購入しました。それにしても購入・支払い完了から何か月も対価物を手に出来なく実演の一週間前に届くというのは、いくら購入時の「転売防止条項」をチェックしたとは言え、何か気持ちが収まらない様に思います。チケットを知り合いに何かのプレゼント(例えば、成人を祝ったり、卒業プレゼントなど可能性は多く有ります)に使いたい人とか、サントリーホールから遠距離の人(や海外勤務の人など)で事情が有って、一か月位前にはチケットを手にしないと、間に合わない人とか色々なケースが有ると思うのです。そういう人は買えなくなりますね。噂によると、某大手の音楽事務所が入るとこうした転売防止の縛りがきつくなるというのですが、万一半年間も商品を顧客に渡たさないで倒産してしまったらどうする気なのでしょう。絶対倒産しないと考えているのでしょうか。ビジネスに絶対安全な会社など有る訳が有りません。
まー愚痴はこの位にして、ロンドンフィルの第1楽章を振返りますと、Trmp.の高らかな第一声からのスタート、何と力強いファンファーレ(このテーマ旋律は後にも繰り返し鳴らされました)でしょう。シンバルとTimp.が決然と鳴り響き、続く弦楽音とHrn.の響きは、ファンファーレの明るさに対し何と不気味な音なのでしょう。さらに静かに奏されたVn.中心の弦楽アンサンブルのしめやかな響きは、心に何かグッとせまるものがありました。
1楽章中盤から全楽全強奏に至る過程は迫力満点、ここでも、Trmp.のテーマ奏が鳴らされ、→Cl.→Fi.と引き継がれると金管楽器が一斉蜂起、続く管楽器によるシットリとした調べは、Va.のソロ音に引き継がれました。短いパッセッジですが、これは終盤の弦楽アンサンブルの前振れだったのか、終盤の低音弦の音域の調べは、冒頭のしめやかな弦楽の響きに回帰するが如きもので、その後の1楽章最終管弦楽奏の強奏に繋がるのでした。
マーラーは、この5番の交響曲を作曲した時期は、アルマとの関係がルンルンの時期らしく、そんな幸福絶頂の時に、よく1楽章全体の底流を流れる様な、下手すると暗い印象を与えかねない雰囲気の曲を作れたものだと思いきや、配布されたプログラムノートを見ると、アルマとの運命的出会いが、作曲に取り掛かっていた1901年11月、結婚は翌1902年3月、出会いの前の夏(と言いますから7~9月頃か?)には第1楽章と第2楽章は完成していて第3楽章を書いていたと言いますから。アルマに会う前の何か塞ぐような事情が第1楽章に影響しているのでしょう。でもそれらを考慮しても、全体としてはマーラーらしい美しさに満ちた楽章で、ティチアーティ・ロンドンフィルは、余す処なくそれを表現出来ていたと思います。
第2楽章は、中間部の穏やかな秀麗な調べも有りますが、全体としてはStürmisch bewegt. Mit grösster Vehemenzの記号が示す様に、激しい嵐の如き猛烈な力の籠った演奏で、何か弦楽奏の低音域の演奏が、分厚い弦楽アンサンブルを呈していて、終盤の金管楽器の一斉斉奏も最後のTrmp.Hrn.のユニゾーンも一体感の強い演奏でした。金管部門の高い技量の表れでした。
第3楽章はScherzo楽章、Hrn.の初っ端の響きは、弦楽奏各種木管楽器(Cl.→Fg.→弦楽→Fl.→Ob.)を目醒めさせてフガート的に伝播し、森の小鳥たちの鳴き声が広がって行くようなイメージが抱けました。この箇所のロンドン響の管楽器奏者達は、大変研ぎ澄まされた斉奏から発する軽やかな音を立てて弦楽アンサンブルに合いの手を入れていました。 トライアングルやシロフォンの金属音も効果的。軽快なリズムにピリとしたアクセントを加えていました。適度な箇所でのHrn.やTrmp.の鳴りは結構長い楽章に締まりを加え、Hrn.は6名でしたが、左後段の4名で吹くことが多く(1名休止)、楽章前半末ではソロ演奏が、Hrn.第一奏者によりやや中央寄りの位置で立奏されるのが見えました。
この楽章は恐らくアルマとの邂逅後に完成した可能性もあり、この楽章には寂しい中にも一縷の木漏れびの光が差し込んで来る中で、さえずる小鳥の喜びの声が聞こえる様な幻想さえ感じられます。白秋の『カラマツ』の詩を思い出してしまいます。
(紙面の都合上、詩三~詩五は割愛です。左上から詩一、詩二、詩六、詩七、詩八)
尚、第3楽章後半で打楽器奏者が、両手で木片の様な物を持って拍子木の様に叩いていました。調べると「ホルツクラッパー」という楽器でこの5番の交響曲で32回(8小節)叩かれるのみの物の様です。マーラーはハンマーとかルーテとか変わり種の打楽器が好きなのですね(その効果は如何?)。大太鼓上にもシンバルが付いていて、一人の奏者が同時に鳴らすそうですが、見えなかった(気が付かなかった)。
次の第4楽章は有名過ぎる位名の通った(曲も知られた)アダージェット。映画で見た時は、それ程場面にフィットしているとは思えませんでしたが、オーケストラ演奏、とりわけ今日のロンドンフィルの演奏は素晴らしく良く聞こえました。この楽章が一番とも思えました。
アタッカ的に入った最終の第5楽章。5楽章制の交響曲は、すぐ思い着くのは、ベト6、ベルリオーズ幻想交響曲、バーンスタイン交響曲第2番くらいかな。詳しくは知りませんが、そう多くはないのでは?
冒頭Hrn.の音が先頭を切って響き→Fg.→Ob.→Fg.と続く調べは、何か英国の牧場の羊飼いでも連想する様な素朴なものです。再度Hrn.に戻り→Cl.→Ob.と次々と合の手が入りました。次のHrn.の合図でこれ等木管楽器のアンサンブルが開始です。何重奏になるのでしょう?総譜を見ないと分かりませんが、それぞれ三管、四管ですからロンドンフィルの十人以上の木管奏者のアンサンブルは見ものでした。音のうねりも凄いし、一つ一つの管自体が良く共鳴していました。そしてVc.アンサンブルが猛烈に参画して、この辺りからズート各種弦楽器のフーガや管も織り交ぜたフガートの連続になるのです。もう各楽器部門対抗のリレー競走の様子を呈しているかも知れません。リズミカルなテーマの連奏はまずます力を増してテンポも速まり、トライアングルの音も決まり、全オケは終末に向かって掛け登るのです。勿論ゴール前の坂下では一呼吸休息で歩みをゆるめ、体に力を貯めてから、最後の勝負坂を一気に登りきるのでした。
演奏が終って割りと早くタクトを降ろしたティチアーティ・ロンドンフィルに対して物凄い拍手・歓声が浴びせられました。笑顔で挨拶する指揮者、満足そうなオケ団員、(満員の座席ではなく、一階席はかなり空席が目立っていましたが)売り切れ御礼のチケットを購入して入場した観客たちも大満足(少なくとも自分としては)の様子、いつまでも拍手は続くのでした。
ソリストアンコールやマーラーの長い曲の演奏で時間がかかり、既に21時を大きく回っていたので、これで終了かなと思って席を立とうとしたら、何とオーケストラアンコール演奏が有ったのです。
《アンコール曲》エルガー『エグニマ変奏曲』より〈ニムロッド〉
前半から殆ど弦楽奏が中心で、しっとりとした流れの演奏でした。終盤になって管楽器も入りましたが、弦楽アンサンブルを遮らない様、極弱音で合いの手と伴奏をしていました。中々好い曲でした。観客席からは、再び大きな拍手と歓声が沸き起こり、暫くはその余韻が、会場を満たしました。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////2023-12-11 HUKKATS Roc.(抜粋再掲)
【主催者言】
ベルリン・ドイツ交響楽団の首席指揮 者、ロビン・ティチアーティがベルリ ン・フィルに初登場します。デビュー 公演のメインに選ばれたのは、マーラ 一にしては珍しく晴れやかな交響曲第 4番。ティチアーティの第4番は、「こ れほど自然な流れで、マンネリ化して おらず、魅惑的な美しいピアニッシモ による演奏は滅多に聴くことができな い」と「ベルリン・モルゲンポスト」 紙に評されています。前半には、ドヴ ォルザーク 《真昼の魔女》とオンドレ イ・アダメク 《シニュアス・ヴォイシズ》というチェコ音楽が演奏されます。
【日時】2023.12.10.03:00~
【会場】ベルリンフィル/デジタルコンサートホール
【管弦楽】ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
【指揮】ロビンティチアーテ(Robin Ticciati)
〈Profile〉
1983年ロンドン生まれ。 ティチアーティはヴァイオリン、ピアノ、パーカッション等を学びナショナル・ユース・オーケストラ・オブ・グレート・ブリテンに所属していたが、15歳で指揮者に転向しスコットランド室内管弦楽団の首席指揮者として3年目のシーズンに入り、バンベルク交響楽団の首席客演指揮者としても活躍している。
客演で招かれているオーケストラはクリーヴランド管、ロサンジェルス・フィル、スウェーデン放送響、ロッテルダム・フィル、ミラノ・スカラ座フィル等、ハイライトとしてはロイヤル・コンセルトヘボウ、ウィーン響、ロンドン響、ライプチッヒ・ゲヴァントハウス管、フィラデルフィア管、また上記にもあるクリーヴランド、ロサンジェルス等は再度の招聘も決定している。また、バイエルン放送響、ブダペスト祝祭管やチューリッヒ・トーンハレ管等でもデビューが決まっている。
また、オペラも多く、グラインドボーン音楽祭で「ドン・ジョヴァンニ」、ザルツブルク音楽祭では「フィガロの結婚」、メトロポリタン歌劇場で「ヘンゼルとグレーテル」、ロイヤル・コヴェントガーデン歌劇場で「エフゲニー・オネーギン」、ミラノ・スカラ座で「ピーター・グライムズ」等世界の主要歌劇場から招かれている。
イギリス・ナショナル・ユース管弦楽団で15歳の時から指揮している。サー・コリン・デイヴィス、サイモン・ラトル等に学び、ハイティンク、デュトワ等にも引き立てられている。
昨年、マリア・ジョアン・ピリスをソリストに迎えたスコティッシュ・チェンバー・オーケストラとのヨーロッパ・ツアーは各地で大好評を博し、同じ組み合わせで2014年にはオーストリアと日本に、2015年には再度ヨーロッパ縦断ツアーが予定されている。
ティチアーティはオペラ指揮者としても多くの期待を寄せられている。今シーズンではロイヤル・コヴェントガーデン歌劇場で新プロダクションの「エフゲニー・オネーギン」、チューリッヒ歌劇場では「ドン・ジョヴァンニ」を振る。昨シーズンはミラノ・スカラ座で「ピーター・グライムズ」、ザルツブルグ音楽祭の「フィガロの結婚」、またメトロポリタン歌劇場での「ヘンゼルとグレーテル」等は大変高く評価され、ただちに再度招かれることになった。
来年からは 77年の歴史を持つグラインドボーン音楽祭の7代目の音楽監督に就任する。
録音はスコティッシュ・チェンバー・オーケストラとのベルリオーズ「幻想交響曲」、バンベルク交響楽団とはハイドンの主題による変奏曲、セレナード第1番等ブラームス作品のアルバムを出していて高い評価を得ている。
ティチアーティはヴァイオリン、ピアノ、パーカッション等を学びナショナル・ユース・オーケストラ・オブ・グレート・ブリテンに所属していたが、15歳で指揮者に転向し、サー・コリン・デイヴィスとサー・サイモン・ラトルに師事した。
【曲目】
①アントン・ドヴォルザーク『交響詩〈真昼の魔女〉Op.108』
②オンドレイ・アダメク『シニュアス・ヴォイシズ』
③グスタフ・マーラー『交響曲第4番ト長調』
【演奏の模様】
今回は、「マーラーの4番」に焦点を当てて見ます。
③グスタフ・マーラー『交響曲第4番ト長調』
この曲は1900年に完成した交響曲です。4つの楽章から成り、第4楽章で声楽としてソプラノ独唱を導入しているのが大きな特徴です。
マーラーの全交響曲中もっとも規模が小さく、曲想も軽快で親密さをもっているため、比較的早くから演奏機会が多かった。マーラーの弟子で指揮者のブルーノ・ワルターは、この曲を「天上の愛を夢見る牧歌である」と語っています。
歌詞に『少年の魔法の角笛』を用いていることから、同様の歌詞を持つ交響曲第2番、交響曲第3番とともに、「角笛三部作」として括られます。しかし後述する作曲の経緯を含めて、第3番とは密接に関連しているものの、第2番とは直接の関連は認められず、むしろ音楽的には第5番との関連の方が深いのです。古典的な4楽章構成をとっており、純器楽編成による第5番以降の交響曲群を予見出来るとともに、一見擬古的な書法の随所に古典的形式を外れた要素が持ち込まれており、音楽が多義性を帯びてきている点で、マーラーの音楽上の大きな転換点の曲とも言えるでしょう。
〈楽器構成〉
木管はほぼ3管編成に準じる大編成です。フルート4(第3・第4奏者はピッコロ持ち替え)、オーボエ3(第3奏者はコーラングレ持ち替え)、クラリネット3(第2奏者は小クラリネットに、第3奏者はバスクラリネットに持ち替え)、ファゴット3(第3奏者はコントラファゴット持ち替え)ホルン4、トランペット3
ティンパニ、バスドラム、トライアングル、鈴、グロッケンシュピール、シンバル、銅鑼
ハープ 弦五部
〈楽曲構成〉第2番(5楽章)、第3番(6楽章)と楽章増加の傾向から一転して、古典的な4楽章構成に戻っています。
全四楽章構成
第1楽章 Bedächtig. Nicht eilen
第2楽章 In gemächlicher Bewegung. Ohne Hast
第3楽章 Ruhevoll (poco adagio)
第4楽章 Sehr behaglich
確かに晴れやかな印象の曲でした。ホルンのシュテハン・ドール、フルートのパユ、女性コンマスのフォルクナー等々、各パートに華やかな奏者が、ずらりと並ぶ陣容からは、例え様がない得も言われぬアンサンブルが迸り出て、今回初登場ロビン・ティチアーテのベルリンフィルデビューを祝するが如き明るさがありました。以下にそれら奏者、及び彼らから精一杯の力を引き出そうと、懸命にタクトを振るティチアーテの様子を、順を追って収めた画像により示します。なお4楽章で独唱するソプラノは、エノサ・ブノワです。