HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

ハーディング・都響『ベルク&マーラー』を聴く

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東京都交響楽団第1006回定期演奏会

【日時】2024.8.9.(木)19:00〜

【会場】サントリーホール

【管弦楽】東京都交響楽団
【指揮】ダニエル・ハーディング

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  <Profile>

 音楽高校在学中の1993年から1994年にかけてサイモン・ラトルのアシスタントを務め、1994年にバーミンガム市交響楽団を指揮してデビューする。このデビュー演奏会がロイヤル・フィルハーモニック協会の「ベスト・デビュー賞」を受賞、クラウディオ・アバドに認められ、1996年のベルリン芸術週間においてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮する。同年には、最年少指揮者としてBBCプロムスにもデビューした。

初来日は、1999年のエクサン・プロヴァンス音楽祭の引っ越し公演であった。

2002年、シュヴァリエ勲章を受賞した。

2003年にザルツブルク音楽祭にデビューし、2004年にはマーラー交響曲第10番を指揮してウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と初共演した。

ベートーヴェンの序曲集、ブラームスの交響曲第3番第4番モーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』など、録音も多い。

2008年から、ドイツ・グラモフォンと専属契約を結び、録音第1弾としてウィーン・フィルを指揮してマーラーの交響曲第10番のCDを出した。

2010年新日本フィルハーモニー交響楽団のミュージック・パートナーに就任

2012年2月22日軽井沢大賀ホール初代芸術監督の就任が決まる。着任は、2012年4月1日から

2016年から2019年まで、パーヴォ・ヤルヴィの後任としてパリ管弦楽団音楽監督に就任。

2018年10月、スウェーデン放送交響楽団が2023年まで首席指揮者の契約を延長し、また新たに芸術監督の就任を発表した。

2019年8月26日指揮者としての仕事は休止し、パイロットとしてエールフランスに就職することを発表した


【独奏】ニカ・ゴリッチ(Sop.)

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  <Profile>

 スロヴェニア出身。マリボルのバレエ音楽学校、グラーツ音楽舞台芸術大学、ロンドンの王立音楽アカデミーで学び、リリアン・ワトソンとジョナサン・パップに師事。2017年、その年の最優秀オールラウンド学生に贈られる女王の優秀賞を受賞した。2019年王立音楽アカデミーのアソシエイト(音楽界に多大な貢献をした元学生に贈られる)を授与された。最近では、メクレンブルク=フォアポンメルン音楽祭で聴衆賞を受賞した。
 2022/2023年シーズンには、ジルダ役(リゴレット)、アディーナ役(愛の妙薬)、エウリディーチェ役(地獄のオルフェ)、フィオルディリージ役(コジ・ファン・トゥッテ)、コンサート版ジネヴラ役(アリオダンテ)、フランクフルト・オペラ座で世界初演されるオペラ『ブリュヘン』にアンナ役で出演する。


【曲目】

①ベルク:7つの初期の歌 

(曲について)

『7つの初期の歌』(ななつのしょきのうた、ドイツ語: Sieben frühe Lieder)は、アルバン・ベルクの歌曲集である。ベルクがまだアルノルト・シェーンベルクの弟子だった期間の1905年ごろから1908年にかけて作曲された。

ベルクが作曲した歌曲は83曲に及ぶが、生前に出版したのはこの曲集と『4つの歌曲』作品2だけであり、その他の作品は死後出版された

ベルクの作曲家としてのデビューとなった1907年11月7日のウィーン商業組合ホールでの《シェーンベルクの弟子たちの作品発表会の夕べ》において後の第3・4・6曲が演奏された(ベルクによれば、『疑いもなく最もよくできた』第4曲は不評で、『最も脆弱な』第3曲が大衆受けしたという)。その後、改訂された1928年に全曲が初演された。

シェーンベルクの影響力は濃厚で否定しがたいものの、それとシェーンベルク以前のドイツ・リートの遺産とが結合されており、リヒャルト・ワーグナーの情感豊かな表現や「新しい展望」を介して、とりわけリヒャルト・シュトラウスの書法に非常に影響されている。ソプラノとピアノ伴奏のために作曲されている。今回は、その管弦楽伴奏版。

 


②マーラー:交響曲第1番 ニ長調 「巨人」 

(曲について)

グスタフ・マーラーが作曲した最初の交響曲

マーラーの交響曲のなかでは、演奏時間が比較的短いこと、声楽を伴わないこと、曲想が若々しく親しみやすいことなどから、演奏機会や録音がもっとも多い。

1884年から1888年にかけて作曲され、マーラー自身は当初からその書簡などに記しているように交響曲として構想、作曲していたが、初演時には「交響詩」として発表され、交響曲として演奏されるようになったのは1896年の改訂による[1][2]。「巨人」という副題が知られるが、これは1893年「交響詩」の上演に際して付けられたものの、後にマーラー自身により削除されている[2]。この標題は、マーラーの愛読書であったジャン・パウルの小説『巨人』(Titan)に由来する。この曲の作曲中に歌曲集『さすらう若者の歌』(1885年完成)が生み出されており、同歌曲集の第2曲と第4曲の旋律が交響曲の主題に直接用いられているなど、両者は精神的にも音楽的にも密接な関係がある。演奏時間約55分(繰り返しを含む)。

 

【演奏の模様】

①ベルク『7つの初期の歌』

楽器編成:フルート2(2番はピッコロ持ち替え)、オーボエ2(2番はイングリュッシュホルン持ち替え)、クラリネット3(うち1はA管)、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット1、トロンボーン2、ティンパニ、大太鼓、小太鼓、トライアングル、タムタム、シンバル、ハープ、チェレスタ(任意)、二管編成弦五部12型(12-12-10-6-4)

 今回の楽器配置は、Vn.左右対向配置、1Vn.奥左手にCb.、中央奥左手にVc.、中央奥右手寄りにVa.その右手にHp.とチェレスター、さらに奥には管楽器と打楽器群が並びました。

 奏者入場の後、指揮者ハーディングとソプラノ歌手ゴリッチが連れだって登場、ハーディングは思ったより小柄で、ゴリッチは、明るい青色のワンショル肩飾りのドレスを身に纏い、スラリとした体形はモデルの様。

 今回の歌は、ベルクが1928年に作曲したピアノ伴奏版を後に管弦楽伴奏用に書き換えたもので、全体としてハーディング・都響の演奏は歌手の声を浮き出させる配慮を感じるものでした。

第一曲の「夜(Nacht)」のゆったりと歌い出した第一声からして、柔らかく温かみのある声で、管楽器とコンマスの音によく合わせた、非常に情緒深い歌い振りでした。どちらかというと歌曲の歌手かな?と思った程繊細。ヴィブラートも適度に効かせています。

第二曲「葦の歌(Schilfied)」の歌を聴いていて、ベルクの曲がこんなに情緒豊かないい歌だと初めて分かりました。と言うのも、これまでこの歌の生演奏は聴いた事が無くて、ピアノ伴奏の録音は聴いていたのですが、例えばダムラウのピアノ伴奏の歌を録音で聴くと、オペラ歌手の強さが目立って、ベルクの詩情豊かな歌の表現が如何なものか?率直に言ってうるさい現代音楽といった感じを受けたものでした。しかし今回のゴリッチの歌を聴いてその歌の良さが初めて分かりました。

 ゴリッチは声量がもっとあればと思う場面も無きにしも非ずでしたが、でも彼女はいざとなれば大きな声も出せる、という事が分かったのは三曲目「小夜鳴鳥(Nachtigall)」の前半で、❝・・・Da sind in Hall und Wiederhall Die Rosen auf- gesprungen.(・・その甘美な声に その響きと木霊に 薔薇の蕾が開いたのだ)❞ を歌った時。 この一節の前半で声を尻上がりに張り上げ、後半のDie Rosen aufu-gesprungenの声はさらに大きくなり、大ホールを充分満たせる力強さがありました。夜鳴き鳥の鳴き声で薔薇の蕾が開いた、という超自然的現象を、対象の娘が何かに開眼したことの寓意をこめて表現したのでしょう。

 また次のリルケの詩の歌の最後一節 ❝Erklang die Nacht.(夜は鳴り響いたので))❞の「 Nacht」をゴリッチは大きな声を随分と長ーく伸ばして歌っていました。呼吸法も大丈夫な様です。総じて管弦楽伴奏版の方が、様々な楽器を使えるので歌の合いの手として表現力が多彩になると思いました。短い歌曲(20分足らず)だったので物足りない感は有りましたが、会場からはハーディング・都響とゴリッチの演奏に大きな拍手が送られました。二人は何回となく退・登場を繰り返しましたが、ソロアンコールは有りませんでした。


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尚、以下に、今回歌われた歌詞(独語)とその対訳を参考まで記して置きます。

《参考》

※歌詞(対訳付)

1.Nacht (Karl Hauptmann)

Dämmern Wolken über Nacht und Tal,
Nebel schweben,Wasser rauschen sacht.
Nun entschleiert sich's mit einemmal:
O gib Acht! Gib Acht!

Weites Wunderland ist aufgetan.
Silbern ragen Berge,traumhaft groß,
Stille Pfade silberlicht talen
Aus verborg'nem Schoß;

Und die hehre Welt so traumhaft rein.
Stummer Buchenbaum am Wege steht
Schattenschwarz,ein Hauch vom fernen Hain
Einsam leise weht.

Und aus tiefen Grundes Düsterheit
Blinken Lichter auf in stummer Nacht.
Trinke Seele! Trinke Einsamkeit!
O gib Acht! Gib Acht!

1.夜 (ハウプトマン)
暮れなずむ雲は夜と谷間の上
霧がただよい、流れは穏やかにざわめく
今こそみなヴェールを脱ぐのだ 一斉に
おお、心せよ! 心せよ!

広大な奇跡の地が開けてくる
銀色に山々はそびえ立つ 夢のように巨大に
静かな小道が銀色に輝きながら伸びている
隠された山の懐より

そしてこの秘められた世界は夢のように純粋だ
一本の沈黙したブナの木が道端に立っている
黒い影となって、遠くの林からのそよ風は
ひっそりと静かに通り過ぎる

そして深い地上の暗闇の中から
灯りが沈黙の夜にまたたく
魂を飲み込め、孤独を飲み込め
おお、心せよ、心せよ!

 

2.Schilflied (Nikolaus Lenau)

Auf geheimem Waldespfade
Schleich' ich gern im Abendschein
An das öde Schilfgestade,
Mädchen,und gedenke dein!

Wenn sich dann der Busch verdüstert,
Rauscht das Rohr geheimnisvoll,
Und es klaget und es flüstert,
Daß ich weinen,weinen soll.

Und ich mein',ich höre wehen
Leise deiner Stimme Klang,
Und im Weiher untergehen
Deinen lieblichen Gesang.

2葦の歌 (ニコラス レーナウ)
秘密の森の小道の上を
私はひっそりと歩いてゆくのが好きだ 夕暮れの中
誰もいない葦原へと
少女よ、そしてお前を思うのだ!

森が暗くなるとき
葦は意味ありげにざわめく
そして嘆き、ささやいている
私は泣くのだ、泣かねばならぬのだ

そして私は思う、私は今聞いているのだと
静かなお前の声の響きを
沼の中に沈んでいく
お前の愛らしい歌声は

 

3.Nachtigall (Hans Theodor Woldsen Storm)

Das macht,es hat die Nachtigall
Die ganze Nacht gesungen;
Da sind von ihrem süßen Schall,
Da sind in Hall und Wiederhall
Die Rosen aufgesprungen.

Sie war doch sonst ein wildes Blut,
Nun geht sie tief in Sinnen,
Trägt in der Hand den Sommerhut
Und duldet still der Sonne Glut
Und weiß nicht,was beginnen.

Das macht,es hat die Nachtigall
Die ganze Nacht gesungen;
Da sind von ihrem süßen Schall,
Da sind in Hall und Wiederhall
Die Rosen aufgesprungen.

3 小夜鳴鳥 (ハンス・テオドル・ウオルデセン・シトルウム)

一晩中鳴いていた
小夜鳴鳥のせいだ
その甘美な声に
その響きと木霊に
薔薇の蕾が開いたのだ

お転婆だったあの娘は
今深い想いに沈む
夏の帽子を手に持ち
じっと燃える陽射しに耐えている
わからないのだ、どうしたらいいのか

一晩中鳴いていた
小夜鳴鳥のせいだ
その甘美な声に
その響きと木霊に
薔薇の蕾が開いたのだ

 

4 Traumgekrönt (Rainer Maria Rilke)

Das war der Tag der weißen Chrysanthemen,
Mir bangte fast vor seiner Pracht...
Und dann,dann kamst du mir die Seele nehmen
Tief in der Nacht.

Mir war so bang,und du kamst lieb und leise,
Ich hatte grad im Traum an dich gedacht.
Du kamst,und leis' wie eine Märchenweise
Erklang die Nacht.

4 夢を戴きて (リルケ)
それは白い菊の花が咲いていた日のこと
私にはその鮮やかさはこわいくらいでした
そしてそのとき、そのときあなたが私から心を奪おうとやってきたのです
深い夜更けに

私はとてもおどおどしてました あなたがやさしく静かにやってきたとき
私はずっと夢の中であなたのことを考えながら
あなたはやってきて、そしてひそやかに まるでメルヘンの調べのように
夜は鳴り響いたのです

 

5.Im Zimmer (Johannes Schlaf)

Herbstsonnenschein.
Der liebe Abend blickt so still herein.
Ein Feuerlein rot Knistert im Ofenloch und loht.
So,mein Kopf auf deinen Knie'n,
So ist mir gut.
Wenn mein Auge so in deinem ruht,
Wie leise die Minuten zieh'n

5 部屋の中で (シュラーフ)

秋の日差し
この愛らしい夕焼けは静かに中へと差し込んでくる
赤い小さな炎が ストーブの中で弾けて燃え上がった
そう!私の頭をあなたの膝に乗せて
私はとても幸せ
私の目があなたの目の中でやすらぐとき
なんて時のたつのは速いのかしら

 

 

6. Liebesode (Otto Erich Hartleben)

Im Arm der Liebe schliefen wir selig ein.
Am offnen Fenster lauschte der Sommerwind,
Und unsrer Atemzüge Frieden
Trug er hinaus in die helle Mondnacht. -

Und aus dem Garten tastete zagend sich
Ein Rosenduft an unserer Liebe Bett
Und gab uns wundervolle Träume,
Träume des Rausches - so reich an Sehnsucht!

6 愛の賛歌 (ハルトレーベン)
愛の腕に抱かれて私たちは幸せに眠りました
開けた窓から夏の風が聞き耳を立て
そして私たちの吐息を解き放ち
明るい月夜へと運び去っていったのです

そして庭からはおずおずと香ってくるのです
バラの香りが私たちの愛のベッドのところまで
そして私たちにすてきな夢をくれました
陶酔に満ちた夢を、憧れでいっぱいの!

 

7.Sommertage (Paul Hohenberg)Nun ziehen Tage über die Welt,
Gesandt aus blauer Ewigkeit,
Im Sommerwind verweht die Zeit.
Nun windet nächtens der Herr
Sternenkränze mit seliger Hand
Über Wander- und Wunderland.

O Herz,was kann in diesen Tagen
Dein hellstes Wanderlied denn sagen
Von deiner tiefen,tiefen Lust:
Im Wiesensang verstummt die Brust,
Nun schweigt das Wort,wo Bild um Bild
Zu dir zieht und dich ganz erfüllt.


7 夏の日々 (ホーエンベルグ)

今 日々はこの世界の上を駆け抜ける
青き永遠より送り出され
夏の風の中を時は過ぎ行く
今 夜ごとに編んでおられるのだ 主は
星の冠を その御手で
さすらいと喜びのこの世の上に

おお心よ この日々に何ができるというのか
お前の陽気なさすらいの歌が語ることで
お前の深い、深い喜びのことを?
牧場の歌の中でこの胸は沈黙する
今言葉は発せられない 姿また姿と
お前のもとへと至り、そしてお前を完全に満たすときに

 

②マーラー交響曲第1番

楽器編成

編成表

木管

金管
Fl. 4 (2、3、4はピッコロ持ち替えあり) Hr. 7 Timp. 2 Vn.1 1
Ob. 4 (3はイングリッシュホルン持ち替えあり) Trp. 4(5は任意 ホルンの補強) バスドラム1、シンバルトライアングルタムタム1 Vn.2 1
Cl. 4(B♭、A、C管) (3はバスクラリネット小クラリネット、4は小クラリネット持ち替えあり。) Trb. 3(4は任意 ホルンの補強) Va. 1
Fg. 3 (3はコントラファゴット持ち替えあり) Tub. 1(バスチューバ) Vc. 1
    Cb. 1
その他 ハープ

全四楽章構成

第1楽章Langsam, Schleppend, wie ein Naturlaut - Im Anfang sehr gemächlich

第2楽章Kräftig bewegt, doch nicht zu schnell

第3楽章Feierlich und gemessen, ohne zu schleppen

第4楽章Stürmisch bewegt

 

マーラーの交響曲は、あちこちの管弦楽団により演奏されているので、随分聴いたような気がしていましたが、1番「巨人」の演奏は東京ではそう多くないのですかね(配布プログラムノートには❝第5番とともに演奏頻度の高い・・・❞と書いてありますけれど?)。でも各楽章とも特徴があるので、頭にはある程度入っていて(という事は主に録音で聴いたのかな?)聴けば、そうそうここはこのアンサンブルのクレッシェンド、この旋律、かしこは管の掛け合いが面白いなどと思える曲です。

 文末に2021年末に聴いた第1番の記録を再掲して置きます。

 (この後、年を越して間もなくコロナウィルス(=小さな巨人)が流行し始め、コロナ禍が世界を席券したことは記憶に新しいです。)

今回の都響のマーラーの演奏が(いつもにも増して)素晴らしかった。指揮者が異なるとこんなにも違って聞こえるかと驚きを持って聴いていました。

 静かに開始する1楽章、カッコーと聞こえる音はCl.です。後の楽章でも度々聞こえますが、どういう意味なのだろうか?次第にテンポを速める弦楽、終盤は誰が聞いても狩では?と思いたくなる金管のファンファーレや弦楽の囃し立てるアンサン、Timp.の囃し打と弦楽奏が掛け合い、急速に終了。将にこの囃し立ての急速感が並みでは無く、まるでポルシェの急発進か空母から急発進する戦闘機の如し。都響のVn.奏者も後の楽章でも同様でしたが、必死になって、大袈裟に言えば、顔色を変えて必死に指揮者に食らいついて急速奏をしていました。終了前のトライアングルの音がチリンチリと、大きな楽器に負けない小さな巨人振りを発揮。飛び立っていたジェット機は空母に急着陸してすぐにストップした感がありました。

第二楽章、ジャ-ンジャ、ジャ-ンジャ、ジャジャジャジャーンのテーマリズムで躍動感ある曲が繰り出され、ここの前半でも急加速、断音の歯切れの良さを見せます。幾ばくかのG.P.の後、緩やかな別テーマがしばし奏されすぐにHrn.の音と共に再びリズミカルな前半のテーマリズムに戻りました。この一定のリズミカルな響きを聞いて、どういう訳かダンスホールでの踊りを見ている「ムーラン・ド・ラ・ギャレット(ルノアール画・オルセー美術館)」の風景が思い起こされました(頭が大分オリンピック化されたかな?)。

 次の楽章では、どこか懐かしいメロディ、いつかどこかで聞いた事のある様な旋律が飛び出してきます。マーラもよく自分の他の作品や、他の音楽を取り入れて作曲しました。これは何もマーラーに限りませんね、ベートーヴェンだってシューベルトだってあのバッハでさえ、普通に行っていた技法(?)ですから。これがFg.で静かにゆっくりと奏され、先の楽章のCl.の鳴き声に似た合の手がここではOb.によって、さらにfl.に輪転し、次はCl.に至りました。矢張りCl.の音が一番自然に近いかな?こうしたこまごました箇所でもハーディングは奏者の歩みに向き直り、合図を出していた。ここまでダイナミックさと繊細さを兼ね揃えたハーディングの指揮でした。 

 木管の後に続くVn.アンサンブルが美しく奏でられ、変奏が木管と共にVa.でソロ演奏、その後のコンマスのソロ音も良し。またまた鳴るCl.の鳴く声、やはりCl.の音が他楽器を凌駕したかな?何かもやもやするうちに了となる楽章です。
 演奏はこのままアタッカ的に最終楽章へ進行、シンバルとTimp.の一撃から開始されるハーディングの激烈な突入命令、管弦は打を多く含みこんなマーラ演奏は聴いたことないといった具合の熱演、その後20分に及び、静かな弦楽奏や管の斉奏、打の合いの手等が延々と(いった感じ)で続いたのでした。前半のVn.アンサンブルの何と美しいことよ。それでなくともいつも美しい都響のVn.アンサンブルが皆、渾身の力を込めて演奏し、それをハーディングは奏者がも抜けの殻になるのではと心配になる程、これまた渾身の力で引き出し吸い出している様子、これはもう両者の戦いですね。 敢えて言えば、ハーディングは都響に大合戦を挑んで、都響の持てるところを白日(実際は夜でしたが)に曝け出そうと、もがいているかの様に見受けられました。しかもそこは「恥も外聞も無く」でなく、非常にスマートに頭脳的に理詰めでキッチリすきなく指揮した感がある演奏会でした。

 当然の如く満員御礼の大ホールからは、嵐の様な拍手喝采と歓声が沸き起り、恰も第4楽章から続く1番の曲のエピローグであるかの様でした。



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//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////『大学オーケストラⅤ』小さな巨人?

 

 今日、川崎で横浜国立大学の113回定期演奏会を聴いて来ました。11月末から12月中旬にかけて、音楽大学オーケストラや私立大学オーケストラの演奏を聴きましたが、今日は、国立の普通大学のオケでした(2019.12/28(土)13:30~)。会場は「カルッツかわさき」。駅から東に1.5km位離れた市役所や裁判所が建ち並ぶ一画に建つ2000人収容規模のホールで、ミューザ川崎と比べるとアクセスが悪いですが、駅から歩いて15分程度です。ミューザ川崎が修復工事中で代替ホールとしていた時に行って以来二度目です。シューボックス型ホールで、自由席なので2階の中央付近の前寄りに座りました。
 演奏曲目は①モーツァルト作曲『魔笛序曲』、②シベリウス作曲『カレリア組曲Op.11』休憩をはさんで③マーラー作曲『交響曲第1番ニ長調、巨人』。
 入口で渡されたプログラムを見て先ず気が付いたことは、巻頭の挨拶が大学から1名、学生から2名となっていること。その学生責任者の挨拶の中で“運営の全てを学生自ら行います”と書いていることから考えると、最終頁を見て分かる様に、各種企業広告を取り、複数の後援機関の援助も取り、資金的な面から演目決定まで学生が決めている(このことは指揮者も言っていました)ことが、音大オーケストラや私大オーケストラのプログラムには見られない大きな特徴だと思いました。要するに音楽専門大学でないので、趣味の領域(或いはそれを超える学生もいるかも知れませんが、)の音楽演奏会を実施しながら、同時にマネジメントの実習も試みている訳ですね。この様な多様な能力を磨くことは、きっと将来役立つことでしょう。
 さて演奏の方はどうだったでしょうか。やはり音大、私大のオケと比べて、弦対管・打の力量比率が少し弦に片寄っているかなー?と思いました。①はモーツアルト最晩年の作品でほとんどミスは無かったと思いました。纏まりある演奏でした。でもやや小じんまりしていたかな。
 ②はシベリウスの良さを感じる曲でした。Hrnの音から始まりTpが続き弦の哀愁を帯びた流れの中に移行、弦楽アンサンブルの中でのコントラバスの重みが心地良く効いている。(通常の再録音再生装置では味わえない響き)こうした音楽会での喜びの一つが、思いがけずいい曲に邂逅する瞬間です。シベリウスはあまり聴かない作曲家ですがいい曲を随分書いているのですね。
 休憩後の③マーラーはまさに録音ソフトでは味わえない「オケを見る楽しみ」が多く味わえる曲です。マーラーは他作曲家の場合よりも管・打の出番が多い曲が少なくないですが、1番もまさにその手合いです。曲のスタート、管弦の合間、何処でもあっ、ホルンだ!、今度はオーボエだ!、ティンパニーもトライアングルも鳴らしている!といった具合に。第1楽章最後にTimpが、ダンダンダダダンダンと大きな響きで終わりを告げるのも、マーラーらしいですね。潔い。
 でも今日感じたというか初めて発見したことは、トライアングルが結構活躍する曲だという事です。弦の流れる様な調べに合わせ、て伴奏的にチリンリンとなっている時も、また各パートが全力演奏をし大合奏で大音量を鳴らしている時でさえも負けていません。はっきりとチリリンリンリンと通る音で聴こえてくる。まさに‘小さな巨人’の感がありました。アンコールのシベリウスの『アンダンテフェスティーボ』は最高に良い弦楽奏の出来でした。