❝これまでに道義が訪れた国の楽しい音楽と刺激的な経験のお話だ!!❞
2004~2009年に大人気を博した夏の恒例「みちよし先生」ふたたび!
2023年1月に世界初演を行った井上道義の自伝的ミュージカルオペラ『降福からの道』のオーケストラ曲の一部を演奏
すみだトリフォニーホールのパイプオルガンも聴けます。
井上道義が描いたイラストをあしらったTシャツを演奏会当日、ホールロビーで販売します。
【日程】2024年6月15日(土)14:00〜
【会場】すみだトリフォニーホール大ホール
【管弦楽】新日本フィルハーモニー交響楽団
【指揮】井上道義、トーク付き
【特別出演(含む団員)】
○オルガン演奏者
室住 素子 Motoko Murozumi, organ
東京大学文学部美学芸術学科を経て、東京藝術大学音楽学部オルガン科卒業。同大学院修士課程修了。 秋元道雄、高濱知左、H、ピュイグニロジェ、Z.サットマリーの各氏に師事。安宅賞受賞。1989年から97年ま で水戸芸術館音楽部門主任学芸員を務め、「市民のためのオルガン講座」 「ワークショップ:パイプオルガン をつくろう」などを企画。93年には故吉田秀和・水戸芸術館館長賞を受賞。新日本フィルハーモニー交響 楽団をはじめ、NHK交響楽団、東京都交響楽団など数多くのオーケストラと共演。絶大な信頼を得ている。 2010年には、小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラとニューヨーク・カーネギーホールで共演するなど、 多方面で活躍中。日本オルガニスト協会会員。
○ヴァイオリン奏者
崔文洙Munsu Choi, violin
東京生まれ。桐朋学園大学ディプロマコースを経て1988年モスクワ音楽院でワレリー・クリモフ、セルゲイ・
ギルシェンコの両氏に師事。1997年小澤征爾氏に認められ新日本フィルコンサートマスターに就任。2000年 同楽団ソロ・コンサートマスター。独自のリサイタルで各方面から注目を集める一方、ソリストとしても小澤征爾、 井上道義、クリスティアン・アルミンク、ダニエル・ハーディング、小泉和裕、レオン・フライシャー、ゲルハルト・ ボッセ各氏等と共演。2016年第17回ホテル・オークラ音楽賞受賞。
○ヴァイオリン奏者
西江辰郎 Tatsuo Nishie, violin
新日本フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター及び、久石譲Future Bandパンドマスター。幼少期より 辰巳明子氏に師事し、桐朋学園ソリストディプロマコース修了。スイスに留学しティボール・ヴァルガ氏に師事。 メソッドを継承する。室内楽を安永徹、市野あゆみ各氏に師事。2001年、仙台フィルのコンサートマスター に抜擢されSPC大賞、セレーノ弦楽四重奏団にて緑の風音楽賞、松尾音楽助成などを受賞。05年より新日 本フィルコンサートマスターに就任し、ソリストとしてもクリスティアン・アルミンク、ギュンター・ピヒラー、外山 雄三、ダグラス・ボストーク、佐渡裕らの指揮のもと国内外のオーケストラと共演。ミッシャ・マイスキー、ジュゼッ ペ・アンダローロらとの室内楽や各地の音楽祭にも招かれている。マレーシア・フィルやNHK交響楽団にゲ スト・コンサートマスターとして出演。16年「題名のない音楽会」にピアノの上原ひろみとゲスト出演。6位 エレクトリック・ヴァイオリンにて久石譲の「室内交響曲」のソリストを務め、世界初演。20年、21年には Hiromi Piano Quintetのメンバーとしてブルーノート東京にて "Save Live Music Returns”に出演。Fuji Rock Festivalへの出演や全国ツアーを行った。ディスコグラフィーも多く、いずれも好評を博している。
http://tatsuo-nishie.world.coocan.jp
○イングリッシュホルン奏者
森明子 Akiko Mori
englishhorn
三重県立津高等学校を経て東京藝術大学卒業。藝大在学中に東京文化会館推薦新人音楽会に出演。小 鳥葉子、小畑善昭の両氏に師事
○トランペット
山川 永太郎 Eitaro Yamakawa,
trumpet
青森県青森市出身。9歳よりトランペットを始める。青森商業高等学校、尚美学園大学音楽表現学科卒業。 桐朋オーケストラ・アカデミー研修課程修了。第38回青森県新人演奏会、第34回ヤマハ管楽器新人演奏 会金管部門に出演。「小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXVI」、「セイジ・オザワ松本フェスティバル子 供のための音楽会」、PMF 2021に参加。第24回コンセール・マロニエ21金管部門第3位。ソリストとして、 アルチュニアンのトランペット協奏曲を仙台フィルと、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番を新日本フィル・ 小曽根真氏と共演。トランペットを内藤知裕、長谷川潤、ヒロ・ノグチ、亀島克敏の各氏に、室内楽を後藤 文夫氏に師事。アニメやドラマ等の劇伴収録も多数参加。現在、新日本フィルハーモニー交響楽団首席トラ シペット奏者。劇団四季「アナと雪の女王」 オーケストラメンバー。「AOMORI TRUMPET FIVE」主宰
【曲目】
①チャイコフスキー:バレエ音楽『眠れる森の美女』よりワルツ〈ロシア〉
②アオテアロア<ニューイイランド>
③ワーグナー:『ローエングリン』第一幕への前奏曲〈ドイツ〉
④バルトーク:ルーマニア民族舞曲(弦楽合奏版)〈ルーマニア〉
⑤マスネ:タイスの瞑想曲〈フランス〉
⑥マルケス:ダンソン・ヌメロ・ドス(DanzónNo.2)〈メキシコ〉
《15分の休憩》
⑦マスカーニ:『カヴァレリア・ルスティカーナ』より間奏曲〈イタリア〉※オルガン付き
⑧コープランド:クワイエット・シティ〈アメリカ〉
イングリッシュホルン:森明子(NJPオーボエ&イングリッシュホルン奏者)
⑨井上道義:ミュージカルオペラ『降福からの道』二幕より「降伏は幸福だ」〈日本>
⑩エルガー:「威風堂々」〈イギリス〉※オルガン付きほか
【プログラムノート】
①チャイコフスキー:バレエ音楽「眠りの森の美女」よりワルツ<ロシア>
ロシアを代表する作曲家チャイコフスキー (1840-93) ですが、創作のルーツは育っ た帝都ペテルスブルクのバリやウィーンとの深いつながり。19世紀前半までフランスを中 心に発展したバレエ音楽を頂点まで高めました。旋律をモチーフのように扱い、並ぶ曲 の関係を理論的にすることで、舞踏のリズムに拠る長大な交響詩のような音楽を創り出したのです。ペローの眠り姫の物語を壮大華麗な舞台としたバレエ作品の中でも際 立って有名なこのワルツは、悲劇が始まる直前、成人した姫の誕生日を祝い村人が 躍る音楽です。
②D.リルバーン:アオテアロア <ニュージーランド>
人類文明の遙か地の果てに思える島国ニュージーランド北島の羊農場の息子リルー バーン (1915-2001)は、ロンドンに留学しヴォーン=ウィリアムスに学び、後半生は前 衛音楽や電子音楽も手掛けました。故郷にも戦火が及びそうな1940年に書かれたこの 演奏会用序曲の題名は、マオリ族がニュージーランド北島を呼んだ名称。英国に留学 するニュージーランド青年が、遙か故郷の自然風景を20世紀前半の英国管弦楽伝統 に落とし込んだニュージーランド版 (フィンランディア〉や〈モルダウ)とも呼ぶべき祖 国讃歌で、キウイの国では最も頻繁に演奏される管弦楽曲とのこと。
③ワーグナー:歌劇『ローエングリン』第一幕への前奏曲〈ドイツ〉
19世紀後半から1世紀ほどのヨーロッパの文化思想全般、はては21世紀初頭のポップカルチャーにまで影響を与えているワーグナー(1813-83)は、国境を越えた浪漫 主義の怪物でした。小国に分裂したドイツの統一機運を背景に、スペインの聖盃守護者の息子が白鳥にひかれアントワープに至り、秘密を隠したままブラバンド王女と結婚する悲劇の幕を開ける演奏曲では、8分割された弦楽器の響きが高揚し、天使の群れが聖盃グラールを天から地上へと降臨させる様を繊細に描きます。
④バルトーク:ルーマニア民俗舞曲より (弦楽合奏版) より 第1、4、5、6、7曲〈ルーマニア〉
かつて東ヨーロッパの広大な地域を支配したハンガリー帝国が終焉する頃に生まれ たバルトーク (1881-1945)は、民俗音楽を研究し本格的な芸術作品へと変容させ た20世紀の重要人物。第一次大戦中に作曲したこの曲は、ドラキュラ伝説で知られる 旧ハンガリー領トランシルヴァニア地方の舞踏を素材に短い舞踏を並べたピアノ小品 集。本日は弦楽合奏への編曲版で、「棒踊り」、「角笛の踊り」、「ルーマニアのポルカ」、 2曲の「速い踊り」が続けて演奏されます。
⑤マスネ:タイスの瞑想曲〈フランス〉
ワーグナーの影響はフランスにも及び、マスネ (1842-1912)のようなオペラ作家を 生みます。1890年にパリ・オペラ座で初演された歌劇『タイス』で、第2幕1場と2場の 間に奏される宗教的アンダンテと記された間奏曲は、神の栄光を讃えるニ長調で書か れ、修道士に諭された娼婦タイスが肉欲か信仰かの選択に苦悩する姿を描きます。ピッ トでコンサートマスターが立って演奏する演出もある、事実上の三部形式の超小型ヴァ イオリン協奏曲です。
⑥マルケス:ダンソン・ヌメロ・ドス(Danzón No. 2) 〈メキシコ〉
ダンソンとは19世紀末にキューバで生まれたゆっくりした4分の2拍子の舞曲。今世 紀に入りメキシコでポピュラー社交ダンスとして大流行、定着しました。20世紀の終わ りには一昔前のレトロなヒットとなっていましたが、メキシコ人作曲家マルケス (1950-) が各地に伝わるダンソンの音楽様式を研究、オーケストラ作品として蘇らせます。とりわ け1994年に発表された第2番は人気作品となり、瞬く間に中南米を代表する管弦楽作 品として知られることになりました。クラベスを筆頭に多数のラテン系打楽器が乱舞し、 ピアノまで音程のある打楽器として活躍します。
⑦マスカーニ:『カヴァレリア・ルスティカーナ』より間奏曲《オルガン付》〈イタリア〉
庶民もオペラを楽しむようになった19世紀末になると、王様や神様の世界を背負った苦悩ではなく、巷の現実を描く写実主義文学運動が歌劇場にも進出しました。オペ ラの本場イタリアのマスカーニ (1863-1945)は、そんな新傾向の代表者。直訳すれ ば「田舎仁義」となるこの作品は、荒くれ者だらけのシチリア島で起きる不倫殺人事件 を描いた短編オペラ。惨劇を前に血のたぎりを冷やすかのような透明な響きの間奏曲は、素朴で真摯なイタリア庶民の宗教的感情を音にだします。
⑧コープランド: クワイエット・シティ(静かな街) 〈アメリカ〉
19世紀最後の年にニューヨークのブルックリンで生まれたロシア移民の息子コープ ランド(1900-90)は、大戦間パリに学びモダンな空気に触れ、帰国後は北米に流れ る民謡も創作に取り込みます。第2次大戦が迫る1939年に大都会に生きる人々の哀愁 を描く『静かな都市』という劇の小編成の伴奏楽譜を求められ、登場人物のジャズ・ト ランペット奏者を念頭に曲を提供しました。翌年、その楽譜を基に弦楽合奏にトランペッ トとイングリッシュホルンを独奏とするオーケストラ曲とします。画家エドワード・ホッパー の描くニューヨークの夜の孤独を音にしたよう。
⑨井上道義:ミュージカルオペラ 『A Way from Surrender ~降福からの道~」
二幕より「降伏は幸福だ」〈日本〉
アジアの東隅っこにノンビリ浮かぶ島国日本ですが、過去80年弱のアジアやアメリカ との関係は複雑で微妙。そんな国を拠点に世界で活動を続けた音楽家井上道義 (1946-)は、「戦後ニッポン」の一筋縄ではいかなさを具現化したようなアーティスト です。
引退を表明した井上が2024年に新日本フィルで世界初演した舞台は、井上個人だ
けでなく現代日本の有り様を舞台に詰め込んだような自伝的作品。「戦争は過去のもの とされた時代に私は生きてきました。しかし現実の過去、例えば2幕のマニラ舞台での 虐殺、マニラ湾攻撃も想像を絶する酷さで、このオペラの様なものではなく、音楽にも 絵画にも物語にさえすることが憚られる出来事でした。この僕の生きた時代の醸し出す 様な軽さを装った作品であっても、書き込むときには激しい痛みを憶えました。) 去から学べないと感じさせる昨今ですが、私は自分を育てた両親、時代、ま 描きおかざるを得ない愛と命の有限さを舞台作品にしました。(井上)。日露され るのは、マーラーやバーンスタインなど20世紀の指揮者作曲家の伝統を正面から 引き継いだ才気煥発な舞台から、米軍マニラ上陸から戦争の終わりと北乱を描く 音楽。
⑩エルガー:『威風堂々』第1番《オルガン付》〈イギリス〉
ヴィクトリア女王が君臨する大英帝国の最盛期から帝国終焉の時代を生きた英国人 エルガー (1857-1934)は、祖国の魂をマーチに託しました。20世紀最初の年に発 表されるやロンドン初演では聴衆が熱狂し、混乱を収めるために2度もアンコールせざ るを得なかったと伝えられます。中間の荘厳なメロディには、臨席し感動した国王エド このアドヴァイスで歌詞が付けられ、第2の英国国家として広く愛唱されるよう になりました。
【演奏の模様】
今回はマエストロ井上の、世界を股にかけた活躍の総決算と、それを自分とファンの記憶に永遠にとどめようとした、記念碑的演奏会だと思いました。
曲目のプログラムは、ロシアから始まり最後の英国まで全10か国を巡り、その国の代表的曲と言うか井上さんの心に最も残っている曲がリストアップされ、一曲一曲ごとに、その国に(指揮しに)行った時の様々なエピソード、思い出などをマイクを通して話しながら、曲を演奏しました。
管弦楽の規模は、曲によって調節され増減しましたが、最大で三管編成、弦楽五部14型でした。
①「眠りの森の美女…ワルツ」の弦楽奏の何と麗しき響きを有している事でしょう。Ob.と鉄琴の音も夢物語のイメージを増幅、バレエダンサーの群舞姿が目に見えるよう。
Fl.で始まる②の曲も滔々とした弦楽アンサンブルの流れが、ゆったりとした落ち着きをもたらし、Ob.のソロ音も美しい。
③の「ローエングリン前奏曲」は、「タンホイザー序曲」や「ニュルン…マイスター前奏曲」と比し、ドラマティックさは少ないかも知れませんが(決して劣っているという意味では有りません)、如何にもワーグナー節らしさを感じる素晴らしく美しく、迫力も有るアンサンブルの演奏でした。ワーグナーの魅力は、歌唱、アリア、合唱の箇所のみならず。序曲、前奏曲、間奏曲が大変優れていること。以上の前奏曲をおさらいして聴いていたら「リエンツィ序曲」という名も出て来ました。オペラ『リエンツイ』という作品を書いている模様。知りませんでした。一度観てみたい。 ④バルトークでは第4曲「角笛の踊り」を弾いたコンマスの崔 文洙さんのソロ演奏が綺麗な音でした。
次の⑤「タイスの冥想曲」もヴァイオリンのソロ音が美しい曲ですが、ソリストは、もう一人のコンマス西江辰郎さんが勤めました。流石にうまい!
今回は色々と演奏曲が多くて、また井上さんのトークも噛みしめる様に思い出しながらゆっくり話すので、前半終了まで一時間半位経ってしまいました。
休憩は15分と短く、その後に演奏された四曲の内、意外と印象的だった曲は⑧コープランド「クワイエット・シティ<静かな街>アメリカ」でした。これはオケの演奏を背景にTrmp.(山川栄太郎)とEng.-Hrn.(森明子)の二人の奏者が舞台左右から楽器を吹きながらゆっくりと舞台に登場し、互いに掛け合い演奏するといった趣向。二人の掛け合いの間の取り具合も演奏音の様子も、仲々いいものが有りました。特にEng.-Hrn.の調べは切々たる哀愁を帯びたOb.の哀愁さとはまた別の、何と言うか夕暮れ時の寂しさ、切なさを静かに吐き出す様な感じがしました。プログラムノートによれば❝画家エドワード・ホッパーの描くニューヨークの夜の孤独を音にしたよう。❞だそうです。
《参考》ホッパー作『オートマット』(ホイットニー美術館)
その後演奏された二曲の一つは井上さん自身作のミュージカルオペラ『降福からの道二幕より「降伏は幸福だ」』。井上さんの身の上の事情も関係しているのか、仲々洗練された響きを有する曲で、最後は「幸福感」に十二分に満ちている風、マーラー張りの大きなハンマーを打ち下ろす場面を入れていたのも面白かった。
最終曲『威風堂々』はオルガン演奏も付いていました。オルガン奏者は室角素子さん。Profile を見ると旧帝大から東京藝大に転学した様です。音楽家の中には、たまに昔から音楽が好きで楽器を学んでいたけれど、大学は音大に進学せず、別な進路を取ったものの、音楽が忘れられずその後精進して音楽家になった人、或いは途中から音大に入り直しした人などを見かけます。「好きこそものの上手なれ」ですから、本格的に音楽の修練を始めたのが遅くなってからでも、音楽家になって名を成した人は結構います。勿論楽器によっては3歳、4歳から修練した方が、能力を発揮出来る様になる確率は高まるのでしょうが。
オルガンの音が入るとより一層堂々感がアップした響きが有りました。[ついでに連想したことは、ブルックナーの(交響曲のオルガン編曲版でなくて)交響曲でオルガン付きの曲は無いのでしょうかね?]
演奏後は、いつまでも井上さんを讃える拍手喝采が鳴り止みませんでした。