〇プレシャス 1 pm Vol. 2 東欧エモーショナル
2022年ミュンヘン国際コンクール第2位&聴衆賞を受賞をした若手を代表するカルテットの旗手クァルテット・インテグラが登場、生誕200年のメモリアルを迎えるスメタナが波乱万丈の生涯を振り返った名曲をお楽しみいただけます。
【日時】2024.6.6.(木)13:00〜
【会場】サントリーホール ブルーローズ
【出演】
〇弦楽四重奏団:クァルテット・インテグラ
ヴァイオリン:三澤響果
ヴァイオリン:菊野凜太郎
ヴィオラ :山本一輝
チェロ :パク・イェウン
〇弦楽四重奏団:カルテット・プリマヴェーラ
ヴァイオリン:石川未央
ヴァイオリン:岡祐佳里
ヴィオラ :多湖桃子
チェロ :大江慧
【曲目】
①スメタナ『弦楽四重奏曲第1番 ホ短調〈わが生涯〉より』
(曲について)
今年生誕200周年を迎えるチェコ国民楽派の祖ベドジフ・スメタナ(1824~84)は生涯に 弦楽四重奏曲を2曲書いているが、第1番は連作交響詩『わが祖国」とほぼ同時期の1876 年の作品。
タイトルにある通り、本作は自叙伝としての性格を持つ。ベルリオーズやリストの標題 音楽からの影響は明らかだが、より直接的には作曲家自身の梅毒の発症と聴覚の喪失が 作品の構想にかかわっている。以下、彼が知人に送った手紙も参考にしながら、作品の 内容を確認しておこう。
第1楽章はホ短調。冒頭の主要主題は「人生の戦いに身を投じよという運命の声」を表 す。転調を経て「若かりし頃の芸術への愛」、ないし「はっきりと名付けられないものへの あこがれ」を表す副次主題が登場。その後はおおむねソナタ形式の枠組みを守りつつ展開 していく。第2楽章はへ長調、ABAB形式。ポルカを書いて暮した青春時代を描く。庶民 的な主部(A)ではラッパの模倣を聞ける。第3楽章は変イ長調、3部形式。「[やがて最初 の妻となる] 少女への初恋」を描く。第4楽章はホ長調、ソナタ形式。「[作曲家としての] 自身の成果に対するよろこび」が最高潮に達したところで一転、「鋭い耳鳴り」、および第1 楽章の「運命の声」が響き渡る。第1楽章副次主題、第4楽章副次主題の回想とともに、曲 は静かに閉じられる。(大田峰夫)
②エネスク『弦楽八重奏曲 ハ長調 作品7 』より 第3楽章、第4楽章
(曲について)
弦楽八重奏曲はルーマニアの作曲家ジョルジェ・エネスク (1881~1955)が18歳から19歳 にかけての時期に書いた作品である。リストやフランクの循環主題の技法を取り込んだ この本作について彼自身は晩年に以下のように述べている。「『弦楽八重奏曲』でわたしは 構成の問題とたたかった。4つの楽章をつなげることで、各楽章の自律性を重んじつつ、 総体としては非常に拡大された、一つの大きなソナタ楽章をなすようなものを書きたかっ た。[・・・]はじめて川に吊り橋をかける技師でも、自分が[本作を] 五線譜に書きつけたとき ほどの恐ろしさを感じなかっただろう。」
全曲は中断なしに演奏するように書かれているが、本日は後半にあたる第3、4 演奏する。第3楽章は3拍子の緩徐楽章。声部が絡み合い、クライマックスに達した後、 付点音形の第1楽章主要主題が回想される。やがてトレモロを背景に、半音階で上行する 主題が奏でられるが、これは第2楽章に由来している。第4楽章はワルツ楽章だが、作品 全体の「再現部」の役目も兼ねている。前述の第2楽章の主題、第1楽章主要主題、同副次 主題が次々とあらわれ、折り重なるように展開。第3楽章の主題の回想を経て、最後はハ 長調で力強く閉じられる。(大田峰夫)
カルテット・プリマベーラ
【演奏の模様】
①スメタナ『弦楽四重奏曲第1番 ホ短調〈わが生涯〉より』
全四楽章構成
第1楽章Allegro vivo appassionato
第2楽章Allegro moderato
第3楽章Largo sostenuto
第4楽章Vivace
先頭楽章では冒頭からVa.の山本さんが先導を切って活発に活動、民族的響きを有したテーマを中・高音域で奏で始めました。かなり荒ら荒らしい響き、他はトレモト的単純音で伴奏しています。二回繰り返した後、1Vn.の三澤さんが同テーマを引き取って高々とVn.にしては低い音で歌い上げますが、テーマ自体が地味な暗さを有する印象なので、華々しさは感じません。むしろ叫びに近いか?四者のアンサンブルの息はかなり合っている。各パートの幾つかのやり取り・掛け合いがあった後、1Vn.の力強い高音旋律が主導する場面に展開、Vc.がソロ音の合いの手を入れるも短く、終盤ではやや曲想が軟化、1Vn.主導のテーマ変奏が各楽器でもクネクネクネと続き、最後は短いpizzicatoの音で終了です。出来ればもう少し曲の味わいを噛みしめながら演奏するアンサンブルを聞きたかった気もします。若手のアンサンブルが故に勢いに任せた演奏のきらいがありました。 この楽章の曲の響きが象徴するように、スメタナは自分の晩年の難聴と精神疾患の悩みを音楽自伝的な曲にしたという次の様な曲の解説を添えた手紙を友人に送ったそうです。
(第1楽章)「私の青春時代の芸術への強い情熱と愛情。ロマンティックな雰囲気。言葉 では表し難い憧れ。そして不幸の知らせをも描いた」と述べている。冒頭の ヴィオラによる慟哭のような主題は「不幸の知らせ」である。続くヴァイオリ ンによる優美な主題は「芸術への情熱・愛情」であり、2つの主題が交錯し ながら進み、苦しい葛藤を吐露していく。
(第2楽章)「ポルカ風の音楽で楽しかった青春時代がよみがえる。当時私は舞曲の作 曲に熱狂していた。」舞踏会の華やかな風景が眼前に広がるようだ。そして ヴィオラから奏でる「トランペット風のソロ」と書かれた主題がユーモアさと 朗らかさを添える。
(第3楽章)「後に私の忠実な妻となった少女との初恋を回想させてくれる」。死別した先 妻である。その哀しみがチェロによって語られた後、先妻との優しい時間が 描かれる。
(第4楽章)「自国の民俗音楽を基本とした作曲の手法を見出し、創作活動が軌道に 乗った矢先に失聴が襲いかかり、失望と挫折を描く」。チェコの舞曲を基調 とした音楽が自信に満ちて邁進する。クライマックスの後、終結部に突入! かと思えば突然の休止。そして再開は不吉な気分を広げ、その上を第1ヴァイ オリンが失聴の始まりを告げる耳鳴りのような音を奏でる。その後、第1楽 章の「不幸の知らせ」が回想され、続いて「悲惨な先の見通し、一抹の回復へ の望みを描いたが、やるせない無念さが胸にこみあげてくる」という思いが 虚しく響き幕を閉じる。
第1楽章でもVa.の活躍は目立ちましたが、次楽章でもVa.は目立った動きをします。軽快な四者の斉奏を交えた間の合いの手の軽快な調べはまさに民族舞踊調で、上記スメタナの解説にあるトランペット風のソロは、Va.がトランペットの金切り音類似のソロをするのではなく、Va.領域の低い旋律奏をその後Vn.奏により高々と鳴らされる同テーマの事を言っているのでしょう。
第3楽章は、Vc.やその後の長い1Vn.のゆったりした旋律奏がとても美しかった。この曲全体を聴き通して見ても一番の白眉の箇所だと思います。このカルテットはやはり三澤さんが主導権を発揮しているところに強みがあるのでしょう。上記解説では死別した妻との生前の愛情生活を意味するらしい。
最終楽章では、1Vn.が随分高いハーモニックス音を立てるなと聴いていて気になりましたが、後で上記解説をみると、難聴の為の耳鳴りのキーンと言う音を模擬したかったという事が分かり腑に落ちました。
全体として、経験豊かな我が国の第一に実績と経験を積むカルテットの手慣れた演奏ですから素晴らしいことに変わり有りませんでした。しかし出来ればもう少し曲スメタナの気持ちを十分理解しての味わいを噛みしめながら演奏するアンサンブルを聞きたかった気もします。若手のアンサンブルが故に勢いに任せた演奏のきらいがありました。
②エネスク『弦楽八重奏曲 ハ長調 作品7 』より 第3楽章、第4楽章
この曲は、Qua.インテグラとQua.プリマベーラとの合同演奏でした。
カルテットインテグラがサントリーアカデミー現役生から成るカルテット・プリマベーラと合同八重奏団チームを結成、舞台では下手から1Vn.(2) 2Vn(2) Va(2) Vc(2)の混合チームで演奏しました。
全体的にやはり1Vn.の謂わばコンミスに相当する三澤さんが、いい音をたてて主導権を発揮し皆を牽引、八重奏団は同じ経歴(桐朋音大)で同じ釜の飯で育った強みを出して、力強くこの聴き慣れない作曲家の曲の後半半分楽章を、恙なく弾き切りました。迫力満点!!
午後一番と言う早い時間帯にも関わらず参集した多くの聴衆からは大きな拍手と一部掛け声、ブラボーの横断幕を掲げる人もいました。8人一致した凄い迫力が出ていたので会場も盛り上がったのです。