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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『〈上野deクラシックVol.80〉藤平ピアノリサイタル』を聴く

 今日(4/20)の夜は、先に記した様に『テレマン協会第回定期演奏会』が夜に文化会館であり、午前中は、ある病院にがん治療で入院している知人を早い時間帯に見舞ったので、その間のmatine時間帯を(決してついでにという意味ではなく)このリサイタルを聴くのに当てました。



【日時】2023.4.20.(木)11:00~

【会場】東京文化会館小ホール

【出演】藤平実来

〈Profile〉

2018年3月、東京音楽大学付属高等学校卒業
2022年3月、東京音楽大学卒業
2022年、東京音楽大学大学院音楽研究科修士課程鍵盤楽器研究領域(ピアノ)在学中

2017年
第71回全日本学生音楽コンクールピアノ部門東京大会入選
2021年
第90回日本音楽コンクールピアノ部門入選
2022年
第20回東京音楽コンクールピアノ部門第2位

【演奏曲目】
〇Aショパン『24の前奏曲 Op.28より 第1番〜13番』

〇Bブラームス『ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ Op.24』

〇Cスクリャービン『ピアノ・ソナタ第4番 嬰ヘ長調 Op.30』

 

【演奏の模様】

 藤平さんの演奏は、昨年8月の『東京音楽コンクール(ピアノ部門)本選』の時聴きました。また今年3月には、同じコンクールの管楽器部門で優勝したオーボエ奏者とDuo演奏会を開いた時に聴きに行きました。

 本選の時は、30分位の演時間でしたが、Duoの時は、Ob.の伴奏的演奏とソロ演奏と合わせて1時間以上は弾いていたでしょうか。演奏が終わると最後の挨拶で草臥れた様子で「疲れました」と言っていた。その時、この少年は、スタミナは大丈夫かしらと思いました。ところが今日のプログラムは、結構長い曲が多く、その間マイクを握ってトークまでこなし、挙げ句にアンコール曲まで演奏したのでした。これは、進歩した兆候でしょう。一事が万事です。予定の曲を弾き始めるのを聴いてそれは確信に変わりました。

〇Aショパン『24の前奏曲』

この曲を、藤平さんもトークで話していた様に、ショパンは、バッハの平均律クラヴィール曲集『24の前奏曲』に触発されて、作曲しました。只両者の大きな違いは、バッハが、「同主調」の順に作曲したのに対し、ショパンは、『平行調』の順に作曲したのです。要するにショパンは、ハ長調から始まって、次に同じ調号のイ短調、次は五度上のト長調、ハ短調と次つぎに五度づつずらした調とその平行調とで、24曲作曲したのでした。この曲は、ショパンが療養のためジョルジュ・サンド達とマジョルカ島に行っていた1839年に作られました。かなり起伏の大きな曲達から成り立っています。静かな曲から感情が爆発する様な激しい曲、長い曲もあれば、超短のものも。このことは、その時のショパンの気持ちが如何に不安定であったかを物語っています。病気の懸念ばかりでなく、サンドの家族との人間関係にも悩んでいた模様。この24曲一つ一つには、フランスの往年の名ピアニスト、コルトーが表題を付けていて、なる程と思わす物が多いので、以下に参考までそれらを記しました。但し藤平さんが弾いたのは第13曲までなので、それだけに留めます。

①第1番 ハ長調: いとしい人を待つ
②第2番 イ短調: 悲しい想い、郷愁の先に、遠く開けた海のような。
③第3番 ト長調: 小川のうた
④第4番 ホ短調: 墓の傍らで
⑤第5番 ニ長調:心一杯の歌 

⑥第6番 ロ短調: 郷愁
⑦第7番 イ長調: すてきな思い出が香水のように香しい
⑧第8番 嬰ヘ短調: 雪が降り風が吹き嵐が吹き荒れる。しかし私の悲しい心の中の 嵐はもっとすさまじい
⑨第9番 ホ長調: 予言の声
⑩第10番 嬰ハ短調: 降りてくる花火
⑪第11番 ロ長調: 乙女のあこがれ
⑫第12番 嬰ト短調: 夜の騎行
⑬第13番 嬰ヘ長調: 異郷での星の多い夜、遠くにいる恋人を思う

コルトーの想像力はかなりショパンの曲の的を射ていると思います。

藤平さんの演奏は全体的に的確な解釈が多く素直な演奏だったと思います。細部は次の様に感じました。                             

 ①左右のバランス感がやや?②最後の終始部は悲しく寂しくとても良く聴こえた③右手の細やかな動きの音が流れる波を連想しがたい④まずまず良く聴こえた⑤やや速すぎた感⑥左手の単調なテンポが郷愁を呼ぶ⑦この有名な曲はまずまず⑧表現がいい、最後さらに激しいところが欲しい⑨断言的強い予言に聞こえます ⑩花火だったら線香花火かな?スケールがやや小さい⑪右手旋律をもっともっと優しく乙女ティックに!⑫慌てて急ぎ掛けつけるイメージは十分でていた⑬この曲もしっとりした相当有名なの曲なので、これで今日は締めたかったのでしょう。

長短2曲でセットですから6セット都合12曲で半分なのですが、一つ余計に13番目で終わりました。これは全曲演奏する時間が無かったので半分だけ演奏したのでしょうけれど、12番の曲はコルトーのイメージによると戦いに負けて騎行(この言葉はワーグナーの楽劇ワルキューレ」でも有名)する位切羽詰まった緊迫感の曲ですから後味が良くない。そこで13番を最後にして後味の良い終わり方にしたのでは?と勝手に思ったり。

「24の前奏曲」の演奏は全体的には「目出度さも中くらいなりオラが春」といった具合でした。春爛漫は遠くはないが未だしの感ですね。

〇Bブラームスのヘンデル変奏曲

ブラームスが1861年28歳の若かりし日の作品です。30分にも及び大曲でクララ・シューマンが初演したそうです。バッハの『ゴルトベルク変奏曲』ベートーヴェンの『ディアベリ変奏曲』等と並び称される名曲です。第1~第25変奏曲とフーガから構成され、基本的にはヘンデルのクラヴィール曲集第2巻第1曲(HWV434)の第3楽章「Air」~取られた旋律を使っているのですが、調性、装飾音、バロック的形式、民族調などの取り入れや工夫が多くなされかなりの技術を要する曲です。特にフーガ部分は超絶技巧的演奏部が散りばめられていると言って良いでしょう。難しそうな曲です。この大曲、難曲を藤平さんは相当なエネルギッシュさで最初から最後まで弾き通したのでした。最も藤平さんのトークによれば、コンクールでも弾いて予選を勝ち抜いてきた曲だと言いますから、練習量も多くかなり自信のある曲なのでしょう。失礼ながら藤平さん見かけはまだ可愛い少年っぽさが残る若者なのですが、ピアノ演奏は何の何のかなり力強い男性的な演奏をする人でした。この曲は一旦終わりかけたかなと思うと次ぎ次ぎに変奏が繰り返され、それが延々と続く、ブラームスのその後のねちっこい性状の曲の片鱗が見られました。聴く方はかなり疲れましたが、藤平さん前回のDuo演奏会とは打って変わって疲れを見せず元気にトークをしていました。

 次の曲のスクリャービンはモスクワで大成した後の作曲で何と不倫旅行が切っ掛けで出来た曲らしいのです。そのトークも藤平さんはユーモラスな語り口で聴衆の笑いも誘いながら話し、会場を和ませていました。

 

〇Cスクリャービン『ピアノ・ソナタ』

この曲は前回のDUO 演奏会の時も聴きました。藤平さんのその時の話では藤平さんの話では、スクリャービンのこの曲は、ソナタといっても謂わゆるソナタ形式からはかけ離れていて、単一楽章といっても良いとのこと(実際はⅠ、Ⅱの二楽章構成ですが二つがアッタカ的に連続して演奏されるため)。また非常に短い曲だとも言っていました。確かに短い演奏時間でした。(8分程度)今回のトークでは「愛人との楽しい旅行のワクワクという様子が出ている曲」とも語っていて確かにそんな響きも有りました。藤平さんがそう思って弾いたので余計にそう聞こえたのかも知れません。後半はかなりジャズっぽかった。スクリャービンにはもっともっといいピアノ曲があると思うので、こんど機会があったら演奏してもらいたいものです。

 コンクールの受賞者インタヴューで、以下の様に語る藤平さん、又他の若いピアニスト達の大いなる挑戦気概にも期待大です。

 

<将来に向けて(藤平インターヴュ)>
今年は東京音楽コンクールで2位、日本音楽コンクールで3位をいただけて、次は国際コンクールに挑戦したいと思っています。「ここ数年ががんばり時だよ」と岡田敦子先生に言われているのですが、自分自身も休みたいという気持ちはあまりなく、気持ちは既に次のステップに向かっています。周囲からの応援がすごく力になっていて、これからも期待を裏切らないようにがんばっていきたいと思います。

 

 なお本演奏後アンコール演奏がありました。シューベルト作曲『三つのピア曲D946』より第3番ハ長調でした。速いパッセッジもゆっくりとした箇所もいかにもシューベルトらしいい曲でした。欲を言えば第2番も聴きたかった気がします。とても綺麗な曲ですから。