HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

藤原歌劇『トスカ』二日目鑑賞

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【演目】プッチーニ:オペラ『トスカ』 

原語上演(イタリア語)・ 日本語字幕付

【日時】2023.1.29.(日)14:00~(二日目)

【会場】東京文化会館

【演奏時間】
第1幕45分、第2幕40分、第3幕25分  合計 約1時間50分

【出演】(二日目)

トスカ:佐田山千恵

カヴァラドッシ:藤田卓也

スカルピア:須藤慎吾

アンジェロッティ:東原貞彦

堂守:泉良平

スポレッタ:井出司

シャルローネ:大塚雄太

看守:別府真也

牧童:中桐かなえ


 
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【合唱】藤原歌劇団合唱部

【児童合唱】多摩ファミリーシンガーズ

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【指揮】鈴木恵里奈
【演出】松本重孝

【時と場所】1800年6月17日、ローマ

【登場人物】
トスカ(S):歌手  カヴァラドッシの愛人
カヴァラドッシ(T):トスカの恋人、画家
スカルピア(Br): ローマの警視総監
アンジェロッティ(Bs): 脱獄犯、共和主義者
ほか

 

【粗筋】

《第1幕》
 ローマは共和制が崩壊していて、王制のもとで恐怖政治が行われていました。王制側の警視総監スカルピアは、共和主義者を次々と投獄していましたが、そのひとりアンジェロッティは脱獄に成功して、聖アンドレア・デッラ・ヴァッレ教会に身を隠します。そこで出会ったのが、この教会でマリアの絵を描いていた画家で、共和主義の同志だったカヴァラドッシです。カヴァラドッシは、脱獄してきたアンジェロッティを自分の隠れ家に案内します。
 一方、アンジェロッティを追ってきて教会を捜索していた警視総監スカルピアは、そこでローマの歌姫トスカを見つけます。彼は、トスカが恋人カヴァラドッシの家に行くようにうまく仕向けて、その後を手下に尾行させることにしました。
このときスカルピアには、王制側の軍が共和制を掲げるナポレオン軍を破ったという知らせが入っていました。
 
【第2幕】
 その夜、ファルネーゼ宮殿の自室にいたスカルピアは、手下からアンジェロッティは見つからなかったが、カヴァラドッシを連れてきたと聞き、彼を拷問にかけて居場所を聞き出そうとします。彼が口を割らないので、スカルピアはトスカを呼びつけ、恋人が拷問されているのを見せます。トスカはそれに耐えられず隠れ家の場所を教えてしまいました。
ちょうどそのときです。王制側の軍が勝ったというのは間違いで、ナポレオン軍が勝利したという一報が入ります。王制による恐怖政治はこれでおしまいだと喜ぶカヴァラドッシを、怒ったスカルピアは死刑にすることとしました。
 トスカは彼の命を助けてほしいとスカルピアに頼みます。スカルピアはトスカが体を自分に捧げるなら助けてやると約束します。そして、スカルピアが彼女の体に手を触れようとした瞬間、トスカはそこにあったナイフでスカルピアを刺し殺してしまいました。
 
【第3幕】
 トスカはその足で、サン・タンジェロ城の牢屋に捕らわれているカヴァラドッシのもとに駆けつけます。彼女は一部始終を彼に話して、銃殺刑は空砲で見せかけのもので、その後いっしょに逃げられることを伝えます。
しかし、処刑が執行されて、トスカがカヴァラドッシに近寄ってみると、彼は死んでいます。スカルピアとの約束が嘘だったことにトスカは初めて気が付きました。ちょうどスカルピア殺害を発見した兵士が追ってきたとき、トスカは城壁から身を投げて自らの命を絶ったのでした。

 

【上演の模様】

 このオペラは、各処にオペラ史上燦然と輝く名曲が散り込められているプッチーニの会心作です。台本はミラノの台本作家ルイージ・イッカリ(hukkats 注)の作。それにプッチーニは曲を付けて1899年に完成、初演は1900年1月ローマのコスタンツィ劇場で行われました。 

〇ルイージ・イッカリ(hukkats 注)

1894年頃からは高名な劇作家ジュゼッペ・ジャコーザ(イッリカより9歳年上)と組み、プッチーニと3人で新作オペラを制作する体制をとった。台本執筆の際の役割分担としては、イッリカが原作からの場面設定、時代考証などを行ない、散文形式で各登場人物の会話を書き起こした後、ジャコーザがその文章を韻文にまとめた。この3者のコラボレーションは『ラ・ボエーム』(初演1896年)、『トスカ』(同1900年)、『蝶々夫人』(同1904年)という3つの傑作に結実した。

 

 藤原歌劇団の公演は、All 日本人歌手。その意味で、外人歌手を招聘するより、変更・代役のリスクは低いので、本番に向けた準備も安定して行えるメリットがあるでしょう。

 しかも当該歌劇団は歌手陣も充実しているので、ダブルキャスト体制を組んでおり、一層充実した上演が期待できました。

 結果は期待通りでした。タイトルロールの佐田山さんは初めて聴きましたが、綺麗なソプラノで歌うのです。しかし第一幕では、まだ調子が出ないのか歌唱全体が伸び伸びせず、小さく纏まっている感じでしたが、次第に上り調子となりました。

 その恋人カヴァラドッシ役の藤田さんも初めて聴きます。声量のある歌手で、相当歌い込んでいると思われるテノールでした。底力を感じました。

 オペラの中の次の有名なアリアの二人の歌い振りをふり返ってみます。

 

①第一幕〈妙なる調和〉カヴァラドッシ独唱

Vincenzo La Scola -Recondita armonia di bellezze diverse!
È bruna Floria, l'ardente amante mia.
E te, beltade ignota, cinta di chiome bionde,
Tu azzurro hai l'occhio,
Tosca ha l'occhio nero!

L'arte nel suo mistero,
le diverse bellezze insiem confonde...
Ma nel ritrar costei,
Il mio solo pensiero,
Il mio sol pensier sei tu,
Tosca, sei tu!

様々な美しさの中に秘められた調和よ!
私の情熱的な恋人フローリアの髪は栗色だ
そして名も知らぬ美しいあなたは
豊かな金色の髪、
そして青い瞳、
トスカは黒い瞳を持っている!

様々な美しさは
芸術の神秘の中に溶け合っている。
だが、私がこの婦人の肖像を描いている間も、私のただ一筋の思いは、
トスカよ、ただ一人、君だけに!

ここでは藤田さんの歌を聴いても失礼ですが何かつまらない歌を聴いている感じがして、もともとの歌がそうなのかな?と思って家に帰ってから二三、録画を見たらとてもいい歌でした。何が違うのかな?その差異が何か明確ではないですが、一つ言えることは朗々とした流れが無かったかも知れません。ややぶっきら棒(的確な言葉では無いですが)だったかも知れない。

②!第二幕〈歌に生き 愛に生き〉トスカ独唱

Vissi d'arte, vissi d'amore,
non feci mai male ad anima viva!
Con man furtiva
quante miserie conobbi aiutai.

私は歌に生き 愛に生き
他人を害することなく
困った人がいれば
そっと手を差し伸べてきました

Sempre con fè sincera
la mia preghiera
ai santi tabernacoli salì.
Sempre con fè sincera
diedi fiori agli altar.

常に誠の信仰をもって
私の祈りは聖なる祭壇へ昇り
常に誠の信仰をもって
祭壇へ花を捧げてきました

Nell'ora del dolore
perché, perché, Signore,
perché me ne rimuneri così?

なのにこの苦難の中
なぜ 何故に 主よ
何故このような報いをお与えになるのですか?

Diedi gioielli della Madonna al manto,
e diedi il canto agli astri, al ciel,
che ne ridean più belli.

聖母様の衣に宝石を捧げ
星々と空に歌を捧げ
いっそう美しく輝いた星々

Nell'ora del dolore,
perché, perché, Signore,
ah, perché me ne rimuneri così?

なのにこの苦難の中
なぜ 何故に 主よ
何故このような報いをお与えになるのですか?

こうした苦渋に満ちた切ない心境を吐露する歌は苦手なのか?懸命に歌っていましたが、心に響いて来ませんでした。

 むしろ佐田山さんには、純真な愛に期待する歌が合っていると、この段階では思いました。例えば第一幕での次の歌唱の処など、

 あの森の私たちの小さな隠れ家に行きたいって思わないの?私たちの秘密の巣、 俗世から離れた場所、神秘と愛に満たされたあそこに?まるで寄り添っているみたいに夜の静寂と星影を感じられるわ
密やかな声が立ち上っているようよ!森や茂みや萌え立つ草や崩れた廃墟の奥からタイムの香りが漂ってくるの夜は呟きからいずるのよ。小さな愛の神々の彼らの不実な誘惑に心はすっかり油断してしまうの。咲き誇る花々、広い野原、胸は躍る。月明かりの中の海風 雨にも睦み合い、時には星空の元で!トスカは愛で燃え上がっているの!(頭をカヴァラドッシの肩にもたせかけながら)

 と、ここは第一幕で恋人に歌の演奏会がすぐ終わるからEntranceで落合い別荘に行って楽しみましょうと、カヴァラドッシに持ちかけて歌う箇所です。 いい歌唱でした。

 ところが幕が進むにつれ、歌声も晴々としてよくホールに透り、勢いも強さも出て来て、上記〈歌に生き 愛に生き〉の後の箇所など、自分を篭絡しようとする総監スカルピア(須藤慎吾)にどうしようもないくやしさをぶつける歌を生き生きと歌っていました。演技も含め仲々迫真に迫る歌でした。対する須藤さんは、もともと力のある歌手ですから、しつこく卑劣なスカルピアを見事に表現する歌唱でした。

 

③第三幕〈星は光ぬ〉カヴァラドッシ独唱

 E lucevan le stelle
ed olezzava la terra,
stridea l'uscio dell'orto,
e un passo sfiorava la rena,
entrava ella, fragrante,
mi cadea fra le braccia. 

輝く星々 香る大地
きしむ庭の戸
砂を踏む足音
現れた彼女は
花のごとく香り
私の腕の中へ

Oh! dolci baci, o languide carezze,
mentr'io fremente le belle
forme disciogliea dai veli!
Svanì per sempre
il sogno mio d'amore.
L'ora é fuggita, e muoio disperato,
e non ho amato mai tanto la vita !

ああ 甘い口づけ
とめどない愛撫
僕は震えながら
まぶしい女体を露わにしていく

永遠に消え去った僕の愛の夢
時は過ぎ 絶望の中で僕は死んでいく
これほど命を惜しんだことはない

 藤田さんはこの有名な箇所、これまで数多くの世界の名だたる歌手達が名演を重ねて来たこのアリアを、びっくりする程の素晴らしさで歌ったのです。最初から最後まで力強く朗々と美声を張り上げました。会場からは、大きな拍手、自分も思わず、両手が痛い位強く叩いていました。第一幕では少し足踏みする様なすっきり進行しない歌い振りでしたが、二幕、三幕と進むに連れ、登り調子となった様です。

 普通立ち上がりはまだ喉が潤っていないのか、筋肉がこなれていないのか、歌が進むにつれて調子が上がってくるケースが多いですね。

 その他の歌手の皆さんも個性的な演技と歌唱を披露していましたが、何分出番が多くは無かったので印象が薄いです。

スカルビア(須藤)が時間的には一番長く、次いでトスカ、そしてカヴァラドッシの順でしょうか。スカルピアの副官(密偵、スパイ)であるスポレッタの出番も時間的には長い様ですが、役が役だけに井出さんの印象は余り覚えていなく、総監の指示を忠実にこなす実直なテノールだったと思います。視覚的には第一幕冒頭から出て来るその演技が印象深いのですが歌は大袈裟でした。牧童の中桐さんは舞台の影の歌でしたが、カウベル共々いい雰囲気の音が出ていました。偶然にも昨日見たタンホイザーでも牧童役として女性歌手が出ていました。矢張りカウベルの音が良かった。

 それから藤原歌劇団合唱部はさすが、プロ歌手の集団なのでしょう、男声も女声も、特にアカペラのバックコーラスが、聴いていて静かに心に響いて来て、場面の効果Upに抜群の作用を果たしていました。

 今回の『トスカ』は第一日目が新国立劇場の『タンホイーザ―』と被ってしまっていたので、第二日目の『トスカ』を観ました。

 なお、今年何月だったかな?ローマ歌劇場の来日公演が決まった様でして、確か『トスカ』もやると耳にしました。聴きたいけどすごく高いチケットになるのでしょうね、きっと。