【放送日時】2023.1.8.(日)21:00~
【放映チャンネル】NHKEテレ(地上3チャンネル)「クラシック音楽館」
【会場】東京・日生劇場
【演目】オッフェンバック・喜歌劇『天国と地獄』
【出演】東京二期会
【合唱】二期会合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指揮】原田啓太楼
【感想】
この喜歌劇は昨年11月下旬に日生劇場で上演された、二期会による日本語上演です。
当日、劇場のビル横には、大きなトラックやアンテナ車両らしきものが何台も停まっていて、NHKと書いてあったので収録があるなと思いました。スタッフに訊くと、放送日は来年になるだろうとの返答でした。会場内に入るとやはりNHKのカメラが入っていました。場内放送でもその旨の放送が有りました。
今日の新聞のテレビ番組には、❝22年11月に行われた東京二期会公演▽日本語による上演で親しみやすい!▽風刺と笑いに満ちた楽しい喜歌劇で一年をスタート❞と書いてあります。確かにその通りですが、「風刺」という処がどの様に視聴者に受け止められたか気になります。原作では、神々の上に君臨する「ジュピター」が本人が❝これは暴動か?❞と驚くほど、自分のそれまでやってきたことを周囲から非難・風刺され、但し喜歌劇ですから最後は笑い飛ばされる訳です。一説によると、オッフェンバッハは当時のフランス第二帝政のナポレオン三世(ナポレオン1世の甥で、1851年にクーデターで政権を執った)の様々な失政を風刺したとも謂われています。
今日の放送を観ると、初日に見に行った時、見過ごした処や不明だった点がはっきりと分かり、しかも歌手の皆さんが、当日の大きなホールの座席に聴こえる声よりも鮮明で、歌が上手に聴こえたのには少し驚きました。声を拾うマイクや録音技術が、余程卓越しているのでしょう。
オペラ公演は数日間行なわれることが多いのですが、自分の方針として、余程の理由がない限り1回だけと決めているので、今日の様な収録・放送があることは非常にうれしい事です。
オーケストラ演奏は度々テレビやラジオで放送されることが多いので助かります。
生演奏だけでなく、こうした録音による放送も音楽を深く理解し、広める役割が大きいものが有り、今後とも積極的に利用させて頂こうと考えています。
なお、本上演の初日を見に行った時の記録は、参考まで以下に(再掲)して置きました。
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【演目】オッフェンバック/オペレッタ『地獄のオルフェ』全二幕
【台本】エクトル・クレミュー及びルドヴィック・アレヴィ
【日時】2022.11.23.(水・祝)17:00~
【会場】日生劇場
【出演】()内はギリシャ神話の呼称(本公演ではローマ神話の呼称となっている)
多くの歌手が出演するので、歌手経歴は、タイトル・ロールのオルフェ役の市川さんと、その妻ユリディス役の湯浅さんの二人に限りました。
配役 |
11月23日(水・祝) |
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プルート(プリュトン)地獄の大王 |
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ジュピター(ゼウス)最高神 |
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オルフェ(オルフェウス) |
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ジョン・スティクス |
髙梨英次郎 |
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マーキュリー(ヘルメス)商人・旅人の守護神 |
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バッカス(ディオニソス) 酒の神 |
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マルス(アレス) 軍神 |
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ユリディス(エウリチディーチェ)オルフェの妻 |
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ダイアナ(アルテミス)狩りの女神 |
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世論 |
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ヴィーナス(アフロディーテ)美と愛の女神 |
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キューピッド(エロース)愛の神 |
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ジュノー(ヘラ)女神の最高神、ゼウスの妻 |
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ミネルヴァ(アテナイ)知恵の女神 |
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〈Profile〉
〇市川浩平
静岡県藤枝市出身。
東京芸術大学音楽学部声楽科卒業。卒業時に松田トシ賞、アカンサス音楽賞、同声会新人賞受賞。読売新人演奏会に出演。同大学院オペラ科修了。
2012年より1年間イタリア・ミラノに留学し研鑽を積む。第25回奏楽堂日本歌曲コンクール第3位入賞。第51回日伊声楽コンコルソ第3位入賞。第39回イタリア声楽コンコルソ入選。第15回コンセール・マロニエ21入選。オペラでは「コシ ファン トゥッテ」「魔笛」「こうもり」「イル・カンピエッロ」「椿姫」で主要な役を演じるほか、第59回芸大メサイア、第九、モーツァルトのレクイエム、楽園とペリ、四季等宗教曲でのソリストも務める。
〇湯浅桃子
東京都出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業、同大学院音楽研究科オペラ専攻修士課程修了。二期会オペラ研修所修了時に最優秀者賞および川崎静子賞受賞。これまでに声楽を、平野忠彦、佐藤ひさら、山本ひで子、ドンナ・ロール、ロバート・ハニーサッカーの各氏に師事。第55回全日本学生音楽コンクール声楽部門大学・一般の部第1位。日本放送協会賞ならびに都築音楽賞受賞。また、平成21年度文化庁新進芸術家海外派遣研修員として、2009年9月より一年間アメリカ合衆国ボストンにて研鑽を積み、ピーター・エルヴィンス・ヴォーカル・コンペティション第2位、ロンジー音楽院コンペティション・オーナーズ賞受賞。2010年10月、第79回日本音楽コンクール声楽部門にて第3位受賞。2011年第9回東京音楽コンクール本選、声楽部門入選。オペラでは、藝大オペラ定期『コシ・ファン・トゥッテ』(H.M.シュナイト指揮)デスピーナ、『奥様女中』(宮本益光訳)セルピーナ、『フィガロの結婚』スザンナ、『魔笛』夜の女王、東京のオペラの森『タンホイザー』(小澤征爾指揮)牧童などを好演。最近では、オペラ・デル・ウェスト(ボストン)『愛の妙薬』アディーナ役をオーデションで射とめ、華のある演技と歌唱で観客を魅了した。二期会には2012年二期会ニューウェーブオペラ『子どもと魔法』お姫様、2014年『ドン・カルロ』天の声、2014年『チャールダーシュの女王』シュターズィ、2016年日生劇場『後宮からの逃走』ブロンデも高い評価を得ている。二期会会員
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指揮】原田慶太楼
【合唱】二期会合唱団
【合唱指揮】松本卓也
【演出】鵜山仁
【演出補】上原真希
【公演監督】大野徹也
【公演監督補】永井和子
【装置】乗峯雅寛
【衣装】原まさみ
【照明】古宮俊昭
【振付】新海絵理子
【概説】
これはジャック・オフェンバック(1819-1888)が、パリにある自分の劇場、ブッフ・パリジャン座で1858年に初演した全二幕から成るオペレッタです。もともとはギリシャ神話の「オルペウスの悲劇」を題材としたオペレッタで、このテーマは複数の作曲家たちが題材にして作曲をしており、中でもグルック(1714-1787)のオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』は有名です。ただグルックのオペラは登場人物の主役夫婦の悲劇として表しているのに対し、オフェンバックは、このオペレッタをパロディとして表現、悲劇から喜劇に近い風刺的作品に衣替えしたのでした。
【粗筋】
ヴァイオリン教師オルフェと妻のユリディスは倦怠期の夫婦。オルフェはユリディスの愛人で羊飼いのアリステ(実は地獄の王プルート)をやっつけようと罠を仕掛けるが、毒蛇に咬まれて死んだのは妻ユリディス。予想外の結果に喜んでしまうオルフェ。しかし、それを見ていた「世論」はオルフェに対し、妻を取り戻すべきだと主張する。オルフェはしぶしぶ「世論」といっしょに神々の世界へと赴き、天国にいる神々の王ジュピターの前で、嫌々ながら妻を返してほしいと頼む。そこで、地獄の王プルートの仕業と知った一行は、今度は皆で地獄地獄で退屈しているユリディス。なぜなら、地獄の大王プルートが、神々の王ジュピターに彼女を取られないよう、一室に鍵を掛けて閉じこめていたのだ。ジュピターは大の女好き。ユリディスをひそかにものにしようと企んでいたのだ。彼はハエに姿を変えて、退屈するユリディスの部屋に忍びこむ…。そこへオルフェも到着…。ハエに姿を変えてユリディスを誘惑するジュピターに怒るプルート。天国と地獄の面々入り乱れての乱痴気騒ぎ。さて、どうなることやら…。
【上演の詳細】
今回の上演は同劇場が同歌劇団で2019年に上演した時と、配役の違い舞台構成の若干の違いの他はほぼ同じで、基本、1858年の初版版を中心とし、拡大された1874年版を加味して構成され、日本語台詞の日本語歌唱で行われました。最初、公演チラシに、「日本語訳詞上演(歌唱部分のみ日本語字幕付き)」と書いてあったのを見て、歌唱は原語のフランス語で歌うのかと思ってしまいましたが、そうではなくてすべて日本語上演でした。でもどうして字幕までつけたのかな?恐らく歌手の歌う日本語がはっきり聴衆に聞き分けられないからかな?
尚、1858年版の1874年版との同・異を纏めると、以下の通りです。下線部は同じで、下線が無い部分が異なっています。特に最初の場面が異なる位でほぼ差異は小さいと言えます。
第1幕
1場-テーバイの野原
導入Introduction
前置きのシーンEinleitungs-Scene
1 :歌曲Strophengesang
2 :二重唱Duett (オルフェ Orpheus、ユリデイ-ス Eurydice)
3 :羊飼いの歌 Hir tengesang (Chanson pastrale) (アリステAristeus)
3bis
4 :クープレCouplets (ユリデイ-スEurydice)
4bis :メロドラマMelodram
5 :二重唱Duet (世論Die offentliche Meinung、オルフェOrpheus)
2場-オリンボス山
6 :間奏曲と重唱Entr'Acteund Ensemble
(右オペラ・フェリー版のNo.8、 9、 11、およびデイアーヌ のクープレCoupletde Dianeが含まれる)
6bis :プリュトンと復讐の女神のアントレAuftritt Pluto's und der Furien
7 :合唱Chor
8 :クープレCouplets (ミネルヴァMinerva、ダイアナDiana、 キューピットCu ido、ヴィーナスVenus)
9 :フィナーレFinale
第2幕
1場一地獄
10 :間奏曲Entr'Acte
11クープレCouplets (ハンス・ステイクスHans Styx)
12 :二重唱Due仕(ユリデイ-スEurydice、ジュピテール Jupiter)
13:大詰めシーンSchluss-Scene (オペラ・フェリー版にも似たモチーフが入っている)
2場一地獄
14 :地獄の合唱Hollischer Chor
14bis:バッカス讃歌(四重唱+合唱) H ne an Bacchus
15 :メヌエットMenuett、地獄のギャロップと合唱(Hollischer Galopp und Chor )
15bis :ヴァイオリンソロViolinsolo (オルフェ0rheus、グ ルックのパロディ)
16:フィナーレFinale
2時間半に渡って繰り広げられた歌、演奏、演技、舞台の印象深い箇所の詳細は、次の様でした。
オケのCl.やOb.の音が響き短い序曲の後、〔世論〕役(竹本さん)が登場、「主人を裏切ろうとしているご婦人方は、私(即ち世論、世間の噂)に注意してください!」と前置き口上を語り幕が上がりました。
オルフェ夫婦は、仲が悪い!
舞台となる場所は、ギリシヤのテーベ郊外の野原。オルフェと
ユリディス(オルフェの妻)は、倦怠期もあってか夫婦仲がよくありません。今回の舞台には、右方に、「アリステはちみつ製造所(注:要するに牧場内養蜂)」と書かれた小屋、左方には、オルフェの音楽学校の建物が見えます。
ユリディスは浮気相手、アリステ(羊飼い)のために花を摘み、彼の小屋へ投げ入れています。
そこに夫のオルフェ(音楽家)が現れ、誰かがいるのですが姿の見えないので、自分の浮気相手と間違えてヴァイオリンを奏で始めます。間違えが発覚し、二人は夫婦喧嘩となります。舞台での喧嘩を見ていると、夫はそれ程過激には見えませんが、妻のユリディスの方が、夫が大嫌いになっていて、今にも別れたいと言った風。この辺りの舞台演技は、例えば、Natalie Dessay が妻役で出演した仏リヨン歌劇場での公演映像を見ると、夫婦とも椅子を持ちあげ、かなり険悪な激しい力づく寸前の喧嘩を大げさな表情と演技でしていました。今回の市川さん(夫)と湯浅さん(妻)の演技を見ると、言葉程険悪なものでなく、どこか二人共やさしさまで、感じられた演技でした。市川さんのアリアの歌声は典型的なテノールの常道を行く様な聞き心地のいい安定した歌唱でした。若々しく感じる歌声です。市川さんの声は、元気もパワーもあって良く透る声なのですがやや金切り声が耳に着くことが有りました。特に高音域で。喧嘩越しの二人の二重唱は、ソフトで、少し興奮した調子になっても全体優しいトーン、聴きやすいうまく合っていた歌唱でした。バックに子羊のぐるみを着た4人(4匹)が踊っていました。その場面からはメルヘンティックな子供っぽい学芸会を連想することも可能でしょう。
オルフェが「麦畑に、アリステ(妻の浮気相手)への罠を仕掛けた」と言うので、これは大変と思ったユリディスはアリステを助けに向かいます。 この辺りは、ギリシャ神話からは随分かけ離れた内容になっています。音楽家とか夫婦不仲とか浮気とかすべて台本作家の創作です。次も大きなパロディなのですが、実は、アリステ(偽羊飼い)の正体は、「地獄の大王プリュトン」だというのです。オルフェの「罠を仕掛けた」というセリフは、アリステ(=プリュトン)がオルフェに吹き込んだものでした。
ユリディスが現れると、アリステ(羊飼い、地獄の大王)はわざと麦畑に入っていきます。そしてユリディスが愛人である彼を追って麦畑に入ると、彼女は毒蛇に噛まれて死んでしまいました。蛇毒によって死んだというところは、原典のギリシャ神話に忠実です。死んでしまったユリディスは、地獄へ向かうのです。麦畑を小さなセットで表現していたのですがちょっと小ちゃすぎるのでは?
ユリディスは夫から離れることが出来て喜ぶのですから驚きです。何んで一緒になったの?死ぬほど嫌いだったらすぐ別れれば良かったのに、その気持ちが分からない。 そして地獄の大王の姿に戻ったプリュトンに連れられて地獄へ向かうのでした。ここでの演出の一つに、妻が嫌味たっぷりの「書き置き」を夫に残すのです。それもホワイトボードに書いたものを。❝私は生き(行き?)ます。死んじまっただ。アリステはプルート、びっくりしたよ。羊飼いったら地獄の王様、お早いおこしを待つじゃない。妻❞とふざけた調子で。
プリュトンは好きなユリディスを手に入れるために、彼女をわざと死なせたのでした。
一方オルフェの方も妻の死をよろこびました。しかしまた「世論」が現れ「世論には逆らえません。妻を追いなさい!」と正論を吐くので、仕方なく妻のいる地獄に向かうことにするオルフェ。「世論」役の竹本さんは少し太めで低めの声で(確かメゾソプラノですね)かなりの声量で歌っていました。少し硬いですが決然とした調子で堂々と。オルフェは「世論」と一緒に妻の後を追い地獄に向かったのです。
第一幕
2場
「ユリディスの事件」は神々の世界にまで届いている(神にはお見通し、監視カメラでもあるのでしょう?)
オリンポス(天国)の山上の
神々が「ダイアナ(狩猟の女神)の角笛」で目を覚まします。
舞台は白い絹のカーテンが垂れ下がった寝室内で神々が白いネグリジェ風の衣装をまとい、起き始めています。如何にも神々しい雰囲気を出そうとしている。と、その外で、ダイアナは「恋人がいなくなった!」と嘆いています。ジュピター(神々の王)が「お前の名誉を守るために鹿に変えたよ。」と答えます。
神々は暴君ぶりを非難し、「では下界の女性失踪事件(ユリディスのこと)も、あなたの仕業ですか?」と問います。
ジュピターはそれを否定し、「怪しいやつが思い当たるから、それをマーキュリー(もともとは水星の意味)に調べさせているところだ。」と答えます。
ここでは、ダイアナやジュノー(ジュピターの奥さん)やミネルバ、キューピッド等女神中心に次々とソプラノで歌うのですが皆さん、相当な経歴と経験を積んだ歌手ばかりですから、個性の違いはあってもそれぞれすばらしい歌唱を披露していました。
調査を終えたマーキュリーは、キックボードで❝そこのけそこのけ・・・❞と歌いキックボードで登場、「プリュトン(地獄の大王)がユリディスと一緒に地獄に帰ってきました。」と報告します。
プリュトンは「ユリディスを地獄に連れて来ていない」と嘘をつく
ジュピテールはプリュトンを呼び出し「お前は妻を殺して夫から奪ったな!」と問い詰めますが、プリュトンはしらを切ります。
そしてプリュトンが「ジュピテールの素行の悪さ(女癖など)」を非難すると、神々もそれに続き一斉にジュピテールを非難し始めます。ここは、ジュピターを弾劾する取り巻き神達という構図で、ジュピター役の又吉さんも「これは革命か?」と叫んで大声で歌っていました。背景には当時のナポレオン三世下の政治状況に対する皮肉が込められていそう。フランス革命旗と思しきのぼりがはためき、神々は白布をジュピーターの首に巻いたり縛り上げたり、はたまたオーケストラは「ラ・マルセーズ」の断片やモーツァルトのジュピーターの断片を入れて演奏するなど一幕の大きな山場でした。ジュピター役の又吉さんは、力強いバリトンで、堂々と威厳あるアリアを披露、さすがと思わせる歌い振りでした。ただ個人的に感じたのは、声質がやや硬いかな?と思いました。前回の公演ではオルフェ役でテノールで歌っていたそうですから(前回公演は見ていません)二刀流でしょうかね?
この場に居合わせたオルフェが(「世論」にせかされ仕方なく)「妻を返して!」と訴え、ジュピテールが調査方々、プリュトンの治める地獄へ向かうのです。
ここがまた喜劇を盛り上げる演技で、ジュピターが運転する大型車に神々他画同乗して向かうという設定には大笑いでした。
<オリンポス様ご一行>
第2幕1場
ユリディスは「プリュトンの部屋」で退屈している
プリュトン(地獄の大王)の部屋に匿われているユリディスは部屋で暇を持て余しています。そこにスティクス(プリュトンの召使)が現れます。
❝ユリディス・・・オルフェの妻。蛇に噛まれて死に、プリュトン(地獄の大王)に地獄に連れてこられた。”等と少しも悲しくない様子で、ただ退屈している様子でソファーベッドに寝転び歌っています。
スティクスは「今はプリュトンの召使だが、かつては一国の国王だった」などと歌うのでした。
スティクスはユリディスに「私が今国王なら、君は女王だ…」と愛を告白します。(Quand j'étais roi de Béotie)しかしユリディスは全く相手にしません。
❝Quand j'étais roi de Béotie Quand j'étais roi de Béotie,j'avais des sujets, des soldats, mais un jour, en perdant la vie, j'ai perdu tous ces biens, hélas! Et pourtant, point ne les envie: ce que je regrette en ce jour
c'est de ne point t'avoir choisie pour te donner tout mon amour! Quand j'étais roi de Béotie, quand j'étais roi de Béotie! Si j'étais roi de Béotie,
tu serais reine sur ma foi, je ne puis plus qu'en effigie t'offrir ma puissance de roi. La plus belle ombre, ma chérie ne peut donner que ce qu'elle a, accepte donc, je t'en supplie, sous l'enveloppe que voilà
le cœur d'un roi de Béotie,le cœur d'un roi de Béotie❞
ジュピターが「蝿に変身」し、「ユリディスの部屋」に侵入するという悪知恵を働かせる
そこにプリュトンが、ジュピターたちと帰ってきます。
スティクスは、慌ててユリディスを隠します。
ジュピターはユリディスを探しますが、プリュトンは「私は彼女をさらってません!」としらを通します。
しかし勘の働くジュピターは「怪しい部屋(ユリディスがいる部屋)」を見つけます。そしてキューピット(恋の神)によって、ジュピターは「蝿に変身」、「ユリディスの部屋」に鍵穴から侵入しまたのでした。
ジュピターはユリディスを相当気に入り「ユリディスの逃走計画」を立てるのです
蝿に変身したジュピテールが、口説くように「蝿の歌」を歌いだします。
すると退屈していたユリディスは、蝿とじゃれ合いだします。
続いてジュピテールが正体を明かすと、ユリディスは「私をオリンポス(天国)に連れてって!私はあなたのものよ!」と言います。
ジュピターは「変装して宴会に来なさい。そして一緒に逃げよう。」などと答え歌いました。
"Il m'a Semble sur mon Epaule"(蝿の二重唱)Duo de la Mouche
ここは非常に有名な場面で歌も二人の掛け合いが面白く又、ユリディスのコロラテュールの超絶技巧が見事な箇所なので、多くの名歌手がオペラ以外でも切り取って歌ってきました。先日来日したナタリー・デセイがリヨン歌劇場で歌った場面は(映像で見ると)歌だけでなく、ジュピーターとの愛の交歓演技が流石フランスと思えるエロティックなものでした。湯浅さんの歌は相当コロラテュールの技巧を駆使し、大健闘、又吉さんとの掛け合い、二人の重唱も迫力がありました。(ソプラノの最高音が金切り声だったのは若干気になります)絡み合う演技は、二人共かなり控え目、矢張り日本ですから。それに今回の初日にはNHKの収録が入っていたからかも知れません。
❝EURYDICE
Il m'a semblé sur mon épaule sentir un doux frémissement!...
JUPITER
(à part)
Il s'agit de jouer mon rôle plus un mot!Car dès ce moment je n'ai droit qu'au bourdonnement!(Imitant b bourdonnement de la mouche)Zi! Zi!
EURYDICE
Ah! la belle mouche!Le joli frelon
JUPITER
Zi! Ma chanson la touche, chantons, chantons ma chanson!
EURYDICE
La belle mouche!
JUPITER
Ma chanson la touche, chantons ma chanson!
EURYDICE
Ah, la belle mouche!Le joli frelon!Bel insecte à l'aile dorée veux-tu rester mon compagnon?
JUPITER
(imitent la mouche) Zi!
EURYDICE
Ces lieux dont du forças l'entrée,
hélas, me servent de prison.
JUPITER
Zi!
EURYDICE
Ne me quitte pas, je t'en prie,reste, on prendra bien soin de toi!Ah! je t'aimerai, mouche jolie, reste avec moi, reste avec moi!
JUPITER
Quand on veut se faire adorer il faut se laisser désirer…
EURYDICE
(courent à lui) Je la tiens par son aile d'or!
JUPITER
Pas encore! Pas encore!
EURYDICE
Fi, la méchante, la méchante!
JUPITER
J'ai pris des ailes, ma charmante, j'ai bien le droit de m'en servir!
EURYDICE
Elle ne cherche qu'a me fuir!De cette gaze légère,sans l'étouffer, je puis faire
un filet à papillon.(Elle s'approche sur la pointe des pieds.)
JUPITER
Attention! Attention!
EURYDICE
Ah! la voilà prise! plus de résistance!
JUPITER
La plus prise des deux n'est pas celle qu'on pense!
EURYDICE
Chante, chante!
JUPITER
Zi!
ENSEMBLE
Zi! Zi!
EURYDICE
Ah! je la tiens! Ah! c'est charmant!
JUPITER
Ah! je la tiens! Ah! c'est charmant!
EURYDICE
Ah, je savais bien que je t'attraperais,mon joli bijou ailé!Mais voyez donc, qu'elle est gracieuse!Quelles belles couleurs!Et quelle taille fine!
(Jupiter fait des grâces. Elle embrasse.)
JUPITER
(tombant à genoux) Eh bien, tout cela est à toi, si tu le veux, mortelle adoré!
EURYDICE
Ah, grands dieux, elle parle! Au secours!
JUPITER
Tais-toi! J'ai pris ce costume pour tromper les regards jaloux d'un tyran qui ne veut que te torturer…
EURYDICE
Jupiter! Le roi des dieux!
JUPITER
Oui, c'est moi. Ah! si je t'avais connue plus tôt,Pluton ne t'aurait pas enlevée.Je t'aurais emmenée dans l'Olympe.
EURYDICE
Voir! l'Olympe et quitter cet affreux séjour!Oh! fuyons, emmène-moi!
JUPITER
Nous n'avons qu'un moyen pour ne pas éveiller les soupçons il faut que je retourne à la fête que me donne cet idiot de Pluton!
Rejoins-m'y! ❞
第二幕
第2場
最終場面で、原典のギリシャ神話の結末に戻す必要を、オッフェンバックが使った台本では考えたのでしょう。
大宴会騒ぎの中で、ジュピターは、ユリディスを地獄から放免して、夫が彼女を現世に連れ帰えるべし、という決定を下します。但しその際夫は、後に続く妻を振り返って見てはいけない、という原典そのものの条件を付けるのでした。しかし、ジュピターは心で悩んでいたのでしょう。このまま行けば、妻を嫌っている夫は、決して後ろの妻を振り返えることはなく、気に入ってしまったユリディスは、ジュピターのもとを確実に去ってしまうでしょう。そこでジュピターは、お得意の火遁の術で、雷を落としてしまうのでした。びっくりしたオルフェは、振り返って見てしまう。これで一見落着、目出度し目出度し、三方皆丸ーるく収まりましたとさ。
最後の舞台は、皆ハチャメチャの歓喜の声も張り上げ、彼の有名なギャロップ音頭で、踊り狂うのでした。
もうこれは、パリの専売特許の盆踊りと言ってもいいでしょう。ムーランルージュ、リド、クレージ・ホースなどだけでなく、小さなキャバレーでも日常的にカンカン踊りショーが行われています。それどころか世界中に広まりました。あれは何処だったかな?クレージー・ホースだったかなリドだったかな、以前行った時にカンカン踊りの前に、舞台に生きた馬が乗りつけられたのには驚きました。そしてオリンピック競技の馬術の様な技を騎手が見せたのです。もともとギャロップは馬術用語で最も速い走り方、襲歩 (しゅうほ)のことですが、馬が前足を交差するようにして歩いたりする技術に、踊りの脚の動きが似ていることから踊りの曲に付けられたという説もあります。(こうした馬術の技術は、ウィーンの旧王宮にある乗馬学校でも見ることが出来ます)兎に角オフェンバックはこのオペラをシャンゼリゼーにあった自分の所有劇場で、1858年に初演し大成功を収めたと謂われます。彼は作曲家のみならず腕利きのショービジネスマンだったのでしょう、きっと。
(追記)東フィルを指揮した原田さんは、これまで何回もその指揮振りを聴いていますが、いつも安定した自信に満ちた演奏指揮をしています。今回も途中この曲のパロディーたる所以の箇所に来るとユーモアたっぷりの指揮・パフォーマンスをして聴衆を沸かせていました。何せいつも明るい表情で振っているのがいいですね。聴いていて自然と楽しくなってきます。二期会のパンフに書いてあるインターヴュー記事によれば、米国の西海岸に住んでいるらしいですね。日本在住であれば、もっともっと国内演奏会で沢山聴けるのに、等と思ったり、日本は住みにくいのかな等と思ったり、まー世界的に活躍する指揮者ですから、米国が世界にアクセスするには最適な国なのでしょう。