HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

北とぴあ国際音楽祭2022 /リュリ作曲 『オペラ《アルミード》』鑑賞

 このオペラは一週間前に観たのですが、いろいろ忙しかったこともあり、記録に残すのが遅くなってしまいました(遅いと日にちの経過とともに記憶が薄められてしまう恐れがあります)。

 

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【鑑賞日】2022.12.14.(日)14:00~

【演目】オペラ《アルミード》[セミ・ステージ形式全五幕/フランス語上演・日本語字幕付]

【作曲】 ジャン=バティスト・リュリ

〈Profile〉

ジャン=バティスト・リュリ(Jean-Baptiste [de] Lully', 1632年~1687年)は、フランス王国盛期のバロック音楽作曲家。ルイ14世の宮廷楽長および寵臣として、フランス貴族社会で権勢をほしいままにした。元はジョヴァンニ・バッティスタ・ルッリ(Giovanni Battista Lulli)という名でイタリア人だったが、1661年にフランス国籍を取得した。


【台本】 フィリップ・キノー


【原作】 トルクァート・タッソー:叙事詩『解放されたエルサレム』)

〈Profile〉

ソレントに生まれる。父ベルナルド・タッソも詩人であった。パドヴァ大学で法律を学んだが、やがてこれを断念し、1562年に叙事詩『リナルド』(Rinardo)を出版した。

フェラーラの枢機卿ルイージ・デステに仕え、1573年に牧歌劇『アミンタ』(Aminta)および叙事詩の傑作『解放されたエルサレム(La Gerusalemme liberata, 1575年)を書いた。ルイージに従い1571年にフランスに赴き、詩人ロンサールに会う。

帰国後デステ家のフェラーラ公アルフォンソ2世に仕え厚遇される。

 

【演出・振付】ピエール=フランソワ・ドレ


【演出】 ロマナ・アニエル

 

【合唱・管弦楽】レ・ボレアード(オリジナル楽器使用)

 

【指揮・ヴァイオリン】寺神戸亮

【出演歌手】

クレール・ルフィリアートル、

フィリップ・タルボ、

与那城敬、波多野睦美、湯川亜也子、中嶋克彦、谷口洋介、山本悠尋、ほか

【バロックダンス】ピエール=フランソワ・ドレ、ニコレタ・ジャンカーキ、ダリウス・ブロジェク、松本更紗

 

【登場人物】

人物名 原語 声域 キャスト
アルミード Armide ソプラノ ダマスカスの王女
魔女
クレール・ルフィリアートル
ルノー Renaud テノール
オート・コントル
高名な十字軍の兵士 フィリップ・タルボ
イドラオ Hidraot バリトン ダマスカスの王
アルミードの伯父・魔法使い
与那城敬
憎悪の神 La Haine コントラルト マドレーヌ=セレスト・デュランシー
Madeleine-Céleste Durancy
ユバルド Ubalde バリトン 十字軍兵士 山本悠尋
デンマークの騎士 Le chevalier danois バリトン 十字軍兵士 谷口洋介
フェニース Phenice ソプラノ アルミードの侍従 湯川亜也子
シドニー Sidonie ソプラノ アルミードの侍従 波多野睦美
リュサンドに変身した悪魔 Le diable1
Lucinde
ソプラノ

リュ

 

 

鈴木真衣

快楽の精
Un Plaisir 鈴木美紀子
ソプラノ
合唱:ダマスカスの人々、精霊、悪魔、民衆など

【主催者言】

フランス・バロック・オペラの最高峰を日本で初めて全編本格上演!
バロックダンスのスペシャリストがこの傑作に魔法をかける
己の使命と恋心に揺れる魔女アルミードのものがたり
2度の延期を経てついに今年上演します

リュリのオペラにおいて非常に重要な要素で欠かせないものがダンス(バレエ)です。フランスからバロックダンスの第一人者ピエール=フランソワ・ドレを招き、全体の演出と振付、そして華麗なダンスも披露します。
また、彼と共同制作も多く行っているポーランドのバロックダンスカンパニーからも最高のダンサーと共同演出家を招きます。ヴェルサイユ宮殿を作った時の国王ルイ14世も愛したバレエをたっぷりと堪能していただけます。また、歌手陣も充実しており、タイトルロールのアルミード役にはフランスの古楽グループ ル・ポエム・アルモニークの看板歌手として名高いクレール・ルフィリアートル、相手役ルノーにはいまヨーロッパの歌劇場で引く手あまたのテノール、フィリップ・タルボを迎えるなど、国内外からフランス・バロック音楽を得意とする精鋭が集まり、日本における最初のリュリオペラの上演に華をそえます。

 

【粗筋(赤字:主要な歌唱)

第1幕ダマスカスの中央広場

十字軍に勝利し凱旋したばかりの王女のアルミードを、侍従であるフェニースとシドニーが祝っている。しかし最も勇猛であると名高い十字軍兵士であるルノーをまだ倒していないことで、アルミードの心境は複雑だった。そんなアルミードの気を紛らわせようと、フェニースとシドニーはもっと勝利の喜びに浸ってはと言葉を掛ける。するとアルミードはもう一つ懸念すべきことがあると、2人にその詳細を語り始めた。それは夢の中に敵の戦士ルノーが現れて、彼が自分に剣を突き刺そうとした正にその瞬間に彼への愛情が芽生えてしまったのだと語る。そこへアルミードの伯父でダマスカス王のイドラオが従者たちを引き連れてやって来て、アルミードの勝利を称賛し、続けて早くいい相手を見つけて、結婚するようにとおどけた調子で言い出す。アルミードは〈アリエット〉「結婚の束縛に心が揺さぶられる」(La chaine de l’hymen m’étonne,)と複雑な心境を歌う。そして、結婚するなら、十字軍の戦士ルノーを打ち破るような戦士でなければ考えられないと言い返した。祝賀会も盛り上がり、ダマスカスの民衆がアルミードの勝利を讃える歌や踊りに興じているところへ、突然、牢獄の看守のアロントが駆け込んで来る。ルノーの奇襲により、十字軍の捕虜が全員逃亡してしまったと言う。ダマスカスの兵士たちは怒りに燃え、ルノーへの「復讐を誓う」(À notre vengeance)合唱で、第1幕を終える。

 

第2幕ダマスカス郊外の田園地帯

敵の捕虜となっていた十字軍戦士を救い出したルノーは、その内の一人アルテミドールに、自分をおいて自軍の野営地に戻るよう言う。ルノー本人は、十字軍の総指揮官であるゴドフロワに追放された身なので、野営地には戻れないのであった。アルテミドールはルノーにアルミードに注意するように助言するが、ルノーは軍楽風の〈アリア〉「私は自由を愛する。何ものも私を束縛することはできない」(J’aime la liberté, rien n’a pu me contraindre)と歌い、アルミードがもたらすような危険は恐れないと強がる。二人が退場すると、アルミードとダマスカス王のイドラオが現れ、魔力を使ってルノーを倒そうと黄泉の国から悪霊たちを呼び寄せる〈二重唱〉「憎しみと怒りの聖霊よ」(Esprits de haine et de rage)。すると、美しい田園風景を眺めてルノーが〈アリア〉「この風景を見れば見るほど、この風景が大好きになる」(Plus j’observe ces lieux et plus je les admire)を歌う。ここではソロのフルートが小鳥のさえずりを表し、弱音器をつけたヴァイオリンの絶えまない8分音符の動きが静かに流れる小川の流れを表現する。すると、羊飼いや水の精などの精霊に扮した悪霊が現れ、歌や踊りでルノーを眠りへと誘う。そこへアルミードがやって来る。アルミードは眠りについた無抵抗の状態のルノーを刺し殺そうとするが、口をついて出て来る復讐の言葉とは裏腹に、何故かどうしてもルノーを殺害できない。彼女の躊躇をオーケストラによる感情のこもった官能的な音楽が彼女の本当の気持ちを的確に表現される。アルミードの心は、既にルノーに対する愛情で満たされていたのだった。アルミードは復讐できない自分を恥じたが、ルノーを殺せないのならば、彼が自分を愛するよう魔法をかけて戦場から遠ざけようと考え、「来たれ、助けよ、我が願いを」(Venez, secondez mes désirs)と歌って、悪魔たちを呼ぶと「私とルノーを世界の果てへ運んでくれ」(Volez, conduisez-nous au bout de l’Univers !)と頼んだ。(魔力による飛行はフルートとヴァイオリンが素早く演奏する16分音符の三連音に分割されたヴィオラのシンコペーションの伴奏、そして、とりわけアルミードの声をさらに高音へと導く独奏オーボエによる高音域の滑らかではない旋律線によって巧みに描写される。)

第3幕 荒野

アルミードはルノーに自分を愛するよう仕向けたものの、自分のルノーへの愛情を抑制できない気持ちを〈アリア〉「ああ!もし自由を奪われねばならぬとしたら」(Ah ! Si la liberté me doit être ravie)と歌う。アルミードの侍従のフェニースやシドニーは、今のところルノーがアルミードに捕えられている状況に満足しているのだが、アルミードは国のために十字軍を倒さねばならない立場なので、いつまでもルノーを保護することはできない。アルミードは意を決して、自分の心からルノーへの愛を消し去ろうと、〈アリア〉「来たれ!冷酷なる憎悪の神よ」(Venez, venez, Haine implacable !)を歌い、憎悪の神の力を借りることにする。悪魔たちと共に憎悪の神が現れる。合唱付きの3つのアリアが2つの踊りと交替するうちにアルミードの心から愛を消す儀式が始まる。すると突然アルミードが儀式を中断させ「やはり、あなたの恐ろしい助けはいらない!」(Laisse-moi, je renonce à ton secours horrible !)と叫ぶ。アルミードの声が突如として孤立し、他の声部の動きから切り離され、クレッシェンドして高く上行し、自分の中からルノーへの愛を奪われたなら、胸が張り裂けるだろうと明言する。憎悪の神はもし愛を選ぶのなら、お前は見捨てられ、罰せられるだろうと予言すると「お前がそれを望むなら、愛に身を委ねればよい」(Suis l'amour, puisque tu le veux)と彼女を嘲笑いながら、自分の運命に慄きながらも愛の神を信じることにしたアルミードを残して去っていく]。

 

第4幕 荒野

十字軍の総指揮官はルノーを救出するために、ユバルドという兵士とデンマークの騎士1名をダマスカスの宮殿に派遣した。2人が宮殿に赴く間、アルミードの手下である魔物たちが行く手を阻んだが、2人は味方の魔法使いから渡されていた金の笏とダイヤモンドの盾で応戦し、魔物たちを打ち負かし、前進した。しばらく進むと急に辺りの荒野が美しい田園風景に変わり、そこへユバルドの恋人リュサンドと、デンマークの騎士の恋人メリスが現れた。彼女たちはアルミードの魔法で変身していた魔物たちであった。こちらを見つめて微笑みかける恋人たちの姿に、2人は一瞬心を奪われるが、こんな祖国から遠く離れた所に彼女たちがいるわけがない。必死で正気に戻り、金の笏で恋人たちに化けた悪魔を追い払うと、勇猛な決意の〈二重唱〉「危険な快楽から逃れよう」(Fuyons les douceurs dangereuses!)と歌い歩き出し、宮殿へと向かう。

第5幕 アルミードの魔法をかけられた宮殿の内部

今やアルミードはルノーへの愛にのめり込んでいるが、憎悪の神が予言したようにいつこの愛が失われてしまうのではないかと暗い予感に苛まれながら過ごしている。冒頭のルノーの物憂い溜息のようなフレーズは長い〈愛の二重唱〉「愛し合おう、邪魔するものはない」(Aimons-nous, tout nous y convie !)となる。そこでアルミードは何とか不安を取り除きたいと、悪霊たちのもとへ知恵を授かりに行くことにした。アルミードが留守の間、従者たちが快楽の精となり、ディヴェルティスマンに合わせて歌い踊って、ルノーを楽しませようとする。その初めと終わりはシャコンヌで、中間には合唱付きのアリアと他の舞踊音楽が挿入される。しかし、魔法をかけられたルノーの心は今やアルミードなしでは楽しむことも出来ず、従者たちは部屋から出ていくよう言われた。 そこへルノーを助けにユバルドとデンマークの騎士が現れる。2人がダイヤモンドの盾を見せると、ルノーに掛けられていた呪縛の魔法はすっかり解け、正気に戻ったルノーは十字軍から逃げた事実を思い出し、ユバルドたちと共に宮殿から出ていこうとする。するとちょうどそこへアルミードが戻り、彼女は恐れていたことが現実になってしまったと体を震わせ〈レシタティフ〉「ルノー!何ということ!苦しくて死にそう!」(Renaud ! Ciel ! Ô mortelle peine !)と言い、彼女はルノーが自分を裏切るのではないかという危惧が現実のものになった恐怖を表す。(ルノーの音楽はそれまでの半音階的な恋に悩むフレーズから慣習的で単純なレシタティフに取って代わられる。)ルノーはそんなアルミードに向かい「ああ、あまりに不幸なアルミード! 貴女の運命は何と哀れなものだろう」(Trop malheureuse Armide, helas! Que ton destin est deplorable)と歌い去っていく。 独り残されたアルミードの心中は、愛を失った悲嘆と、あの時なぜルノーを殺してしまわなかったのかという悔恨、そして激しい復讐の気持ちが交錯し、気も狂わんばかりだった。この場面はルノーの最後の言葉「貴女の運命は何と哀れなものだろう」を繰り返すところから発展する〈アリオーソ〉となっており、この〈アリオーソ〉はグルックの最良の音楽の一つである。(アルミードが想像の中で、ルノーを刺殺するのをオーケストラは鮮明に描いている。)アルミードは魔法のかかった自分の宮殿を悪魔たちに破壊させると、ルノーへの復讐をするために二輪戦車に乗り飛び去っていくのだった。

 

【感想】
  このホールには、初めて行きました。横浜からは、東京では最遠距離ホールの一つでしょう。今回は、バロックオペラだし、、しかもかなり古い時代、ルイ14世の時代のフランス作曲家、リュリが作曲したもので、非常にレアーなオペラを休みの日に上演するということだったので、遠路電車にのって聴きに行きました。
最寄り駅は京浜東北線の王子駅、駅から割と近く、徒歩10分もかからない処にあります。北区役所関係のホールの模様。座席数1400位でしょうか。ホール内に入ると、既にかなりの観客が入っていました。オケピットはなく、そう広くない舞台の奥は、少し高くなっていて、そこでオケが古楽器を弾く模様。幾つかの楽器が置いてありました。その前面の舞台で、歌手やダンサーが、セミステージ方式で、歌ったり踊ったりするのです。

時間となり、指揮兼コンマスの寺神戸さんが登場、間もなくオペラが開始しました。(幕がないので、開始時などは、照明で切替え)

これまで観たバロックオペラに比し、今回の上演の特筆すべき特徴は、

(1)全幕バロック・バレエで、彩られていたことです。それも単なる修飾効果だけでなく、物語の表現に深く関わっていて、例えば、魔女とも云えるアルミードが、敵に対抗するために、地獄の手下を呼び出す場面では、ダンサーが激しい手ぶり身振りも激しく踊り魔性の恨みつらみを表現するといった具合。現代バレエとは異なる自然の身振り足の動きで、どちらかというと民族舞踊的なもの。服装も場面場面の内容にマッチしたものに度々着替え、帽子、髪飾りも変えていた。演出家でバロック・バレエ振付師のピエール=フランソワ・ドレ自らが、三人のダンサーに加わっ四人で踊っていました。

 

(2)タイトルロールのアルミード役クレール・ルフィリアートルは力強いソプラノですが、バロックの歌い手ですから、普通のクラシック・ソプラノとはかなり違った歌い振りで、例えば、ヴィブラートは付けないか付いていても目立たなく、声質は良く謂えば、現代ソプラノよりもストレートで素朴な感じ、悪く言うと粗野な感じに聞こえました。今日のアルミド・ソプラノは歌い込むに連れ、尻上がりになめらかな歌唱になり、例えば、第五幕1場では、赤いドレスを纏って登場したアルミードは(赤は勝負服なのでしょうか?)、ルノーとの愛を確かめる様に「愛の二重唱」を、高らかに歌っていました。其程の悪性の魔性は感じられないアルミードでした。

(3)アルミードの相方、ルノー役フィリップ・タルボは、通常のテノール歌手の印象、テノールの本道を歩むいい歌声の感が強い。例えば、第二幕3場で彼が歌った「田園風景を見れば見る程好きになる、ここにいつまでもいたい。」と歌うアリアは、今回の彼の歌の中でも最高に美しくうっとりする程の魅力ある歌声でした。

(4)コーラスは四声各四人(アルトのみ三人)でしたが、オケの音にも負けない分厚い歌声を張り上げていて、特に(3)のルノーが美しい風景にほれ込んでいるうちにニンフや羊飼いに変装した手下たちに眠らされてしまい、その後(4場)で歌う合唱はアカペラでした。この合唱が各声部の響きがとても良くハモっていて、少人数ながら合唱の魅力を十分出していたこと。

(5)これらの歌手たちを下支えし、又牽引役もした管弦楽団はバロック楽器を擁した一管で弦楽は四部構成、そのほかヴィオラ・ダ・ガンバ、バス・ド・ヴィオロン、ヴィオローネ、テオルボ(リュートの仲間)の演奏は切れ間なく休みなく面々と現代オーケストラと全く異なった響きを醸成、歌、バレエと共に、非日常性の雰囲気を醸成することに成功していたと言えるでしょう。