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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

日フィル/第380回横浜定期演奏会

【日時】2022.9.22.(木)19:00~

【会場】神奈川県民ホール

【管弦楽】日本フィルハーモニー管弦楽団

  

【指揮】小林研一郎

【独奏】周防亮介(ヴァイオリン)

   周防亮介

<Profile>

東京音楽大学特別特待奨学生としてアーティスト・ディプロマコース修了。これまでに小栗まち絵、大谷康子、原田幸一郎、神尾真由子、マキシム・ヴェンゲーロフ、ルノー・カプソンらに師事。現在はメニューイン国際音楽アカデミーにて研鑽を積む。
2016年ヘンリク・ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクール入賞、審査員特別賞受賞。そのほか日本音楽コンクールや東京音楽コンクール、ダヴィッド・オイストラフ国際ヴァイオリンコンクールなど数々のコンクールで優勝、入賞。日本の主要オーケストラのほか、パリ管弦楽団、フランス国立管弦楽団、シュトゥットガルト室内管弦楽団など海外のオーケストラとも多数共演している。
第25回出光音楽賞、第25回青山音楽賞新人賞受賞。17年にファーストアルバム「Souvenir」をリリース。今年5月には、飯森範親指揮/日本センチュリー交響楽団とのチャイコフスキーおよびメンデルスゾーンの《ヴァイオリン協奏曲》をリリースした(いずれもオクタヴィア・レコード)。使用楽器はNPO法人イエローエンジェルより貸与の1678年製ニコロ・アマティ。
トッパンホールでは21年、パガニーニとシャリーノの《カプリース》を組み合わせたプログラムによるコンサートで聴衆を魅了。その見事さは、朝日新聞の年間回顧(2021)でも言及された.。

 

【曲目】

①チャイコフスキー『ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35』

 

②チャイコフスキー『交響曲第6番《悲愴》 ロ短調 op.74』

 

 

【演奏の模様】

①ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35

第1楽章 アレグロ・モデラート − モデラート・アッサイ ニ長調

第2楽章 カンツォネッタ アンダンテ ト短調

第3楽章 アレグロ・ヴィヴァチッシモ

 コバケンさんと共に登壇した周防さんは、優雅に挨拶してからヴァイオリンを構え、Vn.を中心とした短い序奏の後すぐに弾き出しました。滔々とした最初のパッセージ、低音から高音域まで、いい音が響き出ます。その音質と時々両膝を折りボウイングして発音する調べの演奏スタイルは、どちらかというと以前何回か聴いたことのある神尾さんタイプかな?プロフィールを見ると師事者に名を連ねているので、何等かの影響を受けているのでしょう。重音部も調和的に良く出ていました。ひとしきりヴァイオリンを鳴らして休止に入るとコバ研日フィルは、弦楽を中心として力一杯これも有名な旋律を響かせました。ヴァイオリンが再度アンサンブルの合いの手から入り重音を強いボウイングから出し、すぐ高音へ再び低音へと変わる高音域のまとまりがやや散漫の気配を感じました。

 すぐにカデンツァ演奏となり、かなり難しそうな低音と高音への急速な遷移や連続音の変化を周防さんは高度なテクニックで弾き切りましたが、最初の方のハーモニクス音が僅かに下がり気味。   続いて弦楽アンサンブルが雰囲気を少し変えた調べを合図するかの様に流すと周防さんは、曲調を変えて滔々とこれまた有名な主題の一つを弾くのでした。ほとんど完璧に近いですね。

 弾いている間周防さんは一貫して目をつぶって集中して弾いていました。

第二楽章のロシア的な調べも、背景のCl.とFl.の伴奏的合いの手と相まって、哀愁的な風情を醸し出すのに十分な演奏でした。悲しいことがあった時、この場面を聴くとてき面に涙が出ますね。華やかな高音部の旋律もどこか切々たる響きを伴っています。

場面は一転してオケの管と弦の速いテンポの強奏に変わり、周防さんもそれに応じて猛スピードで愛車を運転するようにエンジンを吹かしています。続く低音の速い舞曲的旋律も堂々と弾き、最後のオケとの力強いジャブの応酬では周防さんはオケに負けることなく力強く孤軍奮闘、見事に乗り切ってつつましい笑顔を見せたのでした。

 相当力を込めて弾いた個所もあるのですね、休止の時周防さんは切れて垂れた弓の糸を手で取り除いていました。

 今回周防さんを初めて聞いたので、最初シャナリシャナリと優雅に登壇した時には、果してどれだけチャイコ・コンチェを弾きこなせるのか少し心配になりましたが、それも杞憂、総じて立派なチャイコフスキーの演奏だったと思います。コバ研さんはほとんど周防さんが弾きたい様に弾けばよいといった感じで、オケを誘導していました。従ってその分一層ソリストの腕前がモロに聴衆に晒されましたが、周防さんはハイテクニックでそれを乗り越え、大きな拍手を浴びていました。

 なおソリストアンコールが有り、曲はギターの名曲、タレガ『アルハンブラの思い出』のヴァイオリン演奏版でした。恐らく米国の名ヴァイオリニストRuggiero Ricci(1918~2012)が、タレガ作曲の悲しくも美しいギター瞑想曲《アルハンブラの思い出》をソロヴァイオリン用に編曲したものだと思います。ギターのトレモロ奏法を模倣するため、「リコシェ」(弓を跳ねさせながらダウン弓でスラーさせて音を短くつなげて弾く)奏法によって表現したものです。

 短い曲ですが、相当な高度なテクニックを要する演奏だと思いました。でもはっきり言って、この曲はやはりギター演奏の方がアルハンブラをイメージするのにピッタリだと思います。その旋律の一つの音から別の音に移る際の連続変化はギター音が素晴らしく素敵に聞こえます。かって見たことのある夕闇に映し出されたアルハンブラ宮殿の幻想的な思い出に浸るには。

 

《20分の休憩》

 後半も一曲だけ、かなり長い大曲です。「悲愴」はチャイコフスキーが作った中でも名曲中の名曲ですね。大好きな曲です。構成がっしりしていてしかも柔軟性のある、例えれば免振構造の大建築物のよう。

②交響曲第6番《悲愴》 ロ短調 op.74

 ①の時の編成に、Fl.(1piccl持ち替え) 、Trob.(1)、Bas Trob.(1)、Tub.(1)の管群と、大太鼓、シンバル、銅鑼の打楽器が補充されました。

 4楽章構成。ただその配列は原則とは異なり「急 - 舞 - 舞 - 緩」という独創的な構成。

第1楽章  Adagio - Allegro non troppo 

第2楽章  Allegro con grazia

第3楽章  Allegro molto vivace

第4楽章  Finale. Adagio lamentoso - Andante - Andante non tanto

 どこの楽団が演奏しても何時聞いても所謂名曲は名曲に聴こえてくるものです。些細な事には目もくれず、おおらかな河の流れ、即ち中には急流有り、瀧有り、深い淵をゆったりと下る流れ有り、延々と続く命の脈々とした連なりを連想してしまう。日フィルもこれまで楽団員の入れ替わりはあったにしても何回となく演奏してきた曲でしょう。コバ研さんも何回指揮したか分からない程多く演奏してきたのだと思います。演奏終了後に、コバ研さんは、❝体調がとても悪く十分皆さんに納得して頂けない指揮だったかも知れませんが、日フィルの皆さんに助けてもらいました。感謝します❞といった趣旨の挨拶をされていましたが、そんな事は有りません。これ程の曲になると曲が独り歩きするので、観客は名曲を聴いた感動・感激で胸が一杯になった事でしょう。自分もチャイコフスキーが、この曲を作って間もなく亡くなったことを考えながら聴いていると心の中では涙せざるを得ませんでした。あたかもチャイコフスキ―は自分へのRequiemと考えていたかも知れないと思うと。

 演奏が終わって大きな拍手の中、コバ研さんはマイクを持ち、最後にアンコールとして、ウクライナその他の多くの亡くなられた方などへささげる曲として『Danny boy』を演奏します、と話しました。

 オーケストラ版で演奏されると、この曲はあたかも上記の将に川の流れの様に、滔々とした幾重もの感情を飲み込んだ旋律のうねりが迫って来る、これもコバ研日フイルの名演奏でした。

アイルランドに伝わるメロディ『ロンドンデリーの歌(Londonderry Air)』に歌詞をつけた楽曲です。第一次世界大戦の前年である1913年に発表されました。歌詞では、出兵する子供を想う親の切ない心境が語られています。歌詞冒頭のパイプは兵召集のバグパイプを意味しています。

 

<参考・歌詞>

Oh Danny Boy 
the pipes, the pipes are calling
From glen to glen 
and  down the mountain side
The summer's gone 
and  all the roses falling
It’s you, it’s you 
must go and  I must bide

 

But come ye back 
when summer's in the meadow
Or when the valley's hushed 
and  white with snow
It’s  I'll be here 
in sunshine or  in shadow
Oh Danny Boy, Oh  Danny Boy, 
I love you so

 

But if ye come and all the flowers are dying
If I am dead, as dead I well may be,
You'll come and find the place where I am lying
And kneel and say an Ave there for me

 

And I shall hear, though soft, your tread above me
And all my grave shall warmer, sweeter be
For you will bend and tell me that you love me
And I will sleep in peace until you come to me

 

これも涙なしには聴けないですね。