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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

◆藤原歌劇団・NISSAY OPERA 2022 公演第三日目/鑑賞


【演目】モーツァルト『コジ・ファン・トゥッテ』全2幕(原語[イタリア語]上演・日本語字幕付)

【演出】岩田 達宗

【台本】ロレッツォ・ダ・ポンテ

【公演日程】
2022年7月1日(金)・2日(土)・3日(日) 各日14:00開演

【鑑賞日】2022.7.3.(日)14:00~

【キャスト7/3】
フィオルディリージ 迫田 美帆
ドラベッラ     山口 佳子
グリエルモ     岡 昭宏
フェランド     山本 康寛
デスピーナ     向野 由美子
ドン・アルフォンソ 田中 大揮

【管弦楽】新日本フィルハーモニー交響楽団

【指揮】川瀬 賢太郎

【合唱】藤原歌劇団合唱部

 

【粗筋】

〈第1幕〉
舞台は18世紀末のナポリ。青年士官フェルランドとグリエルモは、老哲学者ドン・アルフォンソの「女は必ず心変わりする」との主張に対して、「自分たちの恋人に限ってそんなことはない」と言い争う。ドン・アルフォンソは、自分の主張を証明するために2人と賭けを行なうことを提案し、2人はドン・アルフォンソの指示に従うことを約束する。

フィオルディリージとドラベッラの姉妹が登場、自分たちと恋人の愛を讃える歌を歌う。そこにドン・アルフォンソが現れ、フェルランドとグリエルモが国王の命令で戦場に行くことになったと伝える。フェルランドとグリエルモが現れ、別れを嘆き悲しむふりをする。港に船が着き、兵士たちが出発する。4人の恋人たちが別れを告げ愛を誓う間に、ドン・アルフォンソは「笑いが止まらない」と歌う。兵士たちが出発したあとで、残された三人は航海の無事を祈る。

フィオルディリージとドラベッラの家。女中のデスピーナが愚痴をこぼしながら働いている。姉妹が嘆きながら帰ってくる。ドラベッラは、絶望の歌をコミカルに歌う。デスピーナは、「男はほかにもいるでしょう」と「つまみ食い」を勧め、「男や兵士の貞節なんて」と歌う。

ドン・アルフォンソはデスピーナをまるめこみ、芝居に協力させる。ドン・アルフォンソは「アルバニア人」に変装したフェルランドとグリエルモをデスピーナに紹介する。フィオルディリージとドラベッラが現れ、2人の男を追い出そうとするが、ドン・アルフォンソは彼らは自分の古い友人たちだと偽る。変装した2人は姉妹に求愛するが、フィオルディリージは貞節を誓うアリアを歌う。グリエルモは求愛の歌を歌うが、姉妹は立ち去る。

2人の青年は賭けに勝ったと笑うが、ドン・アルフォンソは芝居を続けろと命じる。フェルランドは愛のアリアを歌い上げる。ドン・アルフォンソはデスピーナと姉妹を陥落させる計画を進める。

姉妹は庭で恋人を想う二重唱を歌う。そこへ変装したフェルランドとグリエルモが現れ、絶望のあまり毒を飲んだふりをする。姉妹は驚き、変装した2人に同情しかかる。医者に変装したデスピーナが現れ、「磁気療法」を2人にほどこす。デスピーナは、のた打ち回る2人を支えるように姉妹に命ずる。意識を取り戻した2人は姉妹にキスを迫り、混乱のうちに幕を閉じる。

 

〈第2幕〉
デスピーナはフィオルディリージとドラベッラに「気晴らし」することを勧め、「女の子は恋の手管を覚えなければなりません」と歌う。姉妹は互いに「どちらを選ぶ?」と尋ね、ドラベッラは「ブルネットの方」(グリエルモ)、フィオルディリージは「ブロンドの方」(フェルランド)と実際の逆の恋人を選んでしまう。

ドン・アルフォンソは姉妹を庭へ誘う。変装したフェルランドとグリエルモが木管の調べに乗って現れる。姉妹と2人の男が打ちとけないので、ドン・アルフォンソとデスピーナが四人をくっつけようとする。フェルランドとフィオルディリージは庭に散歩に出かける。残されたグリエルモがドラベッラを口説くと、ドラベッラは陥落してしまう。一方、フィオルディリージはフェルランドの求愛を拒絶し、揺れ動く心を長大なアリア(ロンド)に歌う。

フェルランドとグリエルモは互いの首尾を報告する。グリエルモはフィオルディリージの貞節を喜ぶが、フェルランドはドラベッラの心変わりにショックを受ける。グリエルモはフェルランドをなぐさめるために「女はたくさんの男と付き合うものだ」と歌う。フェルランドは裏切られたと嘆く。ドン・アルフォンソはさらに実験を続けると宣言する。

苦悩するフィオルディリージに向かって、ドラベッラは恋の楽しさを陽気に歌う。フィオルディリージは貞節を守るために恋人のいる戦場へ行こうと決意し軍服をまとう。しかし、そこに現れたフェルランドの激しい求愛のために、フィオルディリージもついに陥落する。

賭けに勝ったドン・アルフォンソは、互いに認め合いそれぞれの恋人と結婚するよう提案し、「女はみなこうしたもの」と歌う。

結婚式の祝宴の準備が進められる。フィオルディリージとフェルランド、ドラベッラとグリエルモのカップルが登場する。公証人に扮したデスピーナが現れ、2組のカップルは結婚の証書にサインする。そこに兵士たちの歌声が響き、婚約者たちが戻ってきたと知らされ、姉妹は呆然とする。変装を解いたフェルランドとグリエルモが現れる。2人の青年は結婚証書を見つけて激怒し、姉妹は平謝りする。そこですべてが種明かしされ、一同和解して幕となる。

〇役割とグループ分け

分類

役名

声域

役の説明

カップル1

グリエルモ

バリトン

若い士官。フィオルディリージと許婚の仲。

フィオルディリージ

ソプラノ

ドラベッラの姉,グリエルモの恋人。妹より堅物だが好きになったら積極的になる性格

カップル2

フェランド

テノール

若い士官。ドラベッラと許婚の仲。

ドラベッラ

ソプラノor
メゾ・ソプラノ

フィオルディリージの妹,フェルナンドの恋人。姉よりもドライな性格。

策を仕掛ける人たち

デスピーナ

ソプラノ

姉妹の侍女。世間ずれしたわけ知り女。恋の指南役。

ドン・アルフォンソ

バス

老哲学者,グリエルモの友人

その他

その他の登場人物:兵士たち,市民たち,歌手たち,楽師たち,召使たち

 

【上演の模様】

 今日のオケピットには新日フィルが入り、指揮は若さ溢れる川瀬さん。彼の指揮はそう多く聴いているわけでは有りませんが、いつも好感が持てます。楽器構成は基本2管編成弦楽五部6型(ピットの中が良く見えない、特にVnが?)でしょうか。日生劇場のピットは狭い様に感じます。

指揮者が指揮台に飛び乗るとすぐにオーボエの調べが聞こえてきました。如何にもモーツァルトの耳に心地良い調べです。自分なんぞ大した経験では無いですが、経験上、低学年からモーツアルトの曲は良く聴く機会があって、脳が洗脳という程ではないですが、すんなり受け付ける様に刷り込まれているのかも知れません。短い前奏の後、舞台に登場した3人の男子が歌い始めました。

このオペラではほとんどの場合、姉妹のフィオルディリージとドラベッラが、 または彼嬢たちの許婚者グリエルモとフェランドが舞台に出ずっぱりである為、一人で歌うアリアは少なく(recitativoは一人で歌うというか各場面で多く語られます)、一組の二重唱或いは二組集まれば四重唱、それにアルフォンソとデスピーナが加わった五重唱、六重唱まで多くの名曲が出て来ます。その中から印象深い場面の曲などをピックアップして以下に記すことにしました。          

 どの様な国内オペラでも、立ち上がりは歌手の皆さん、完全な本領が発揮出来ない場合が多いですね。勿論例外はあるでしょうが。今回もそれを強く感じました。人間の声と言う楽器は、俄か仕立てでは、良く鳴りません。ストバリが、何年も弾きこなされないと、いい声で応えて呉れないのと同様に。オペラが開演して、何回も歌ううちに、いい声がむっくり起きあがってくるのでしょう。

第一幕

 1場

冒頭の登場人物3人は、グリエルモ(岡 昭宏)フェランド(山本 康寛)ドン・アルフォンソ(田中大揮)です。どうもアルフォンソが二人の士官の許嫁の身持ち良さに一般女性論として、嫌疑がもたれるような話しをしたため二人は怒りだしたのです。 

 

第1曲「僕のドラベッラには出来ない」(三重唱)

FERRANDO
La mia Dorabella Capace non è, Capace non è: O, fuori la spada, O, fuori la spada, Rompiam l'amistà. Fedel quanto bella Il cielo la fé,Fedel quanto bella
Il cielo la fé.

GUGLIELMO
La mia Fiordiligi Tradirmi non sa,Tradirmi non sa:Uguale in lei credo Costanza e beltà,Uguale in lei credo Costanza e beltà.

DON ALFONSO
Ho i crini già grigi,Ex cathedra parlo;Ma tali litigiFiniscano qua.

FERRANDO e GUGLIELMO

No, detto ci aveteChe infide esser ponno;Provar ce'l dovete,Se avete onestà.

DON ALFONSO
Tai prove lasciamo

FERRANDO e GUGLIELMO
No, no, le vogliamo:O, fuori la spada,O, fuori la spada,O, fuori la spada,
Rompiam l'amistà.

 

フェルランド あのドラベルラ がそんなこと、ばかばかしい、あの姿を そのままに、
優しい愛の真心。

グルエルモ
あのフィオルディリージが裏切り、ばかなこと、愛の誓い いつまでも、変わることは
あるものか。

ドン・アルフォンソ
無駄に歳(とし)はとらんつもりだ。この辺りで議論はよそう。

フェルランド、グリエルモ
いや、このままには済まされぬ、聞き捨てならぬ
その言葉。

ドン・アルフォンソ
これはどうも…

 

フェルランド、グリエルモ

証拠を見せろ、でなければ刀を抜け、長いよしみもこれまで。❞

 

といきり立つ二人の士官を言葉巧みに宥めた。これがアルフォンソ先生の作戦の第一歩で、ドン・アルフォンソがこの物語を事実上プロデュースするのでした。

 ここでグリエルモ役の岡さんのバリトンは深い太い声ではありませんが、割と素直に聴けるタイプかな?少し硬いのは緊張しているからでしょうか。一方テノールのフェランド役の山本さんの、将に立ち上がりの歌は耳にすんなり入ってこなかった。言葉は悪いですが、何か調子はずれのところがある様な気がする。特に高音になると声量と強さはあるのですが、やや上ずったような調子に聞えます。そういう声質だと言われればそれまでですが。

 ドン・アルフォンソ役の田中さんの歌を聴くとバスというよりバリトンに近いかな?この最初の歌は短いですがその後の三重唱を聞いても、やや雑な発声に聞こえました。

 

 その後も深慮遠謀(?)を抱くドン・アルフォンソの言葉巧みな議論にたぶらかされた士官二人は、二人の許嫁の節操に対しドンと賭けをすることを決め、三人はその辺りをさらに二つの三重唱で歌うのでした。

 

 2場

 舞台は明るいテラス風の丸テーブルに、白装束の如何にもお嬢さんと言った雰囲気のフィオルディリージ(迫田 美帆)とドラベッラ(山口佳子)姉妹が座り、立ち上がって動き回りながら、自分たちの許婚者の士官二人の姿を褒めそやして歌うのです。

 

第4曲「御覧なさい」(二重唱)

FIORDILIGI Ah, guarda, sorella,Se bocca più bella,Guarda, guarda, se bocca più bella, Se petto più nobile Si può ritrovar,

DORABELLA
Osserva tu un poco,Che fuoco ha ne' sguardi!Se fiamma, se dardi Non sembran scoccar,Se fiamma, se dardi Non sembran scoccar,Non sembran scoccar

FIORDILIGI
Si vede un sembiante Guerriero ed amante.

DORABELLA

Si vede una faccia Che alletta, che alletta, che alletta E minaccia, e minaccia, e minaccia.

FIORDILIGI

Felice son io, Felice son io

DORABELLA
Io sono, io sono felice.

FIORDILIGI E DORABELLA

Se questo mio core Mai cangia desio,Mai cangia, mai cangia desio,

FIORDILIGI

Amore, amore mi faccia Vivendo penar,Mi faccia vivendo penar,Se questo mio core Mai cangia desio,Amore mi faccia vivendo penar,Amore mi faccia vivendo penar,Amore mi faccia vivendo penar,Amore mi faccia vivendo penar,

DORABELLA

Amore, amore mi faccia Vivendo penar.Mi faccia vivendo penar,Amore mi faccia vivendo penar,Amore mi faccia vivendo penar,Se questo mio core Mai cangia desio,Amore mi faccia vivendo penar. Amore mi faccia vivendo penar,

FIORDILIGI E DORABELLA
Vivendo penar, vivendo penar,Mi faccia penar, mi faccia penar,Amore mi faccia vivendo penar.

フィオルディリージ

まぁ見て頂戴よ、この絵姿、ねぇ、ねぇ、この口もと、高い姿 この世にまれなお方。

ドラベルラ
これを見てよ、燃えるような瞳、胸を焦がし焼き尽くす燃える瞳、胸を焦がし
焼き尽くします。

フィオルディリージ
りりしい雄姿、そして恋人なのです。

ドラベルラ
優しい声は甘い蜜のように、そして火のような情熱よ。

フィオルディリージ
私、夢のように幸せです。

ドラベルラ
私もこんなに幸せよ。

フィオルディリージ、ドラベルラ
もしもこの心がいつか変わることがあれば。

フィオルディリージ
あれば、あれば、とんでもないことよ。とんでもないことよ。もしもこの心がいつか変わることがあれば、あたしの命の終わる時、命の終わる時です。もしもそんなことがあれば。

ドラベルラ
わたしの、命の終わる時です。終わる時です、命の終わる時です、もしそんなことがあれば、もしもこの心がいつか変わることがあれば、わたしの命の終わる時です。

フィオルディリージ
そんなことが、そんなことが、あればそんな、ことがあれば、とても生きてはおれません。❞

 ここで初めて今日の主役の内の女性二人のソプラノの歌声を聴きました。こう言って比較するのは失礼なのですが、前日ソプラノ歌手ソニア・ヨンシェヴァの世界最高水準の歌唱を聴いて来たばかりだったので、どうしてもそれが頭にこびりついて、フィオルディリージもドラベルラも全然エンジンがかかっていないのでは?声帯の筋肉がほぐれていないのでは?と思われる程、スーッと入って来ませんでした。幕が進むに連れてどのような歌唱振りになるか期待する気持ちが強かったです。

 その後アルフォンソ先生の奸計に乗った士官二人は、戦地に赴くこととされ、許婚者に伝えられます。さらに士官がアルバニア系の二人に変装して、許婚者の前に現れ士官の相手をクロスして(つまり別の許婚者を)ナンパしようとする。愛の告発やらそれが高じて毒を飲んで瀕死になったふりをしたりして、二人の女性の操を試すのでした。

 

 第一幕での悪ふざけの計画は、ドン・アルフォンソがそれを立て、それを手伝ったというか、その手先になった許婚達の小間使い、デスピーナ抜きにはこの物語は語れません。デスピーナ役のメッゾの向野さんは、床掃除をテキパキしたり、主人様である二人の許婚者の食事を用意したり、活発に動き回って歌うのですが、極めつけはショコラを用意しながら❝一生懸命働いても、どうせ自分の口には入らない❞と愚痴をこぼして、舞台中央のオケの前から、スプーンでショコラをオケ目掛けて振り投げると、指揮者の川瀬さんはそれに応じて「甘いよ」とか何とか叫んで、この寸劇に観衆は大笑いでした。いつのオペラだったかはっきり覚えていないですが、川瀬さん、オペラの寸劇に指揮台から声を出して参加していたことがありました。こういう自在さを好む団員と嫌う団員がいるのでしょう、きっと。でも見る方としては面白さ、楽しさが増えるのでいいことだと思います。ツンと澄ましたカラヤン大先生が若しやったら大爆笑でしょうね。  

 又彼女の歌うデスピーナのアリア、第12曲「男に真心を期待するですって?」は仲々しっかりとした歌唱で、声は研ぎ澄まされていませんが、音楽性(音楽のセンス)はいいと思いました。次の第二幕の初めに歌うアリア第19曲「女も15になれば」の歌い振りと考え合わせると、今後大いに飛躍出来る素地は十分ある歌手だと思いました。

 

第二幕

 アルフォンソとドラベラの策にひっかかりそうになっている、フィオルディリージはすんでの処で良心を取り戻し、戦場に行っている(と吹き込まれた)いいなずけに対して裏切り行為をまさに為さんとしていることを反省して歌うのでした。           

第25曲「お願い、許して」(ロンド)

FIORDILIGI
Per pietà, ben mio, perdona All'error di un'alma amante; Fra quest'ombre e queste piante Sempre ascoso,oh Dio, sarà! Sempre ascoso, ascoso, oh Dio, sarà! Svenerà quest'empia voglia L'ardir mio, la mia costanza;Perderà la rimembranza  Che vergogna e orror mi fa.  Che vergogna, che vergognae orror mi fa. A chi mai mancò di fede  Questo vano ingrato cor! Si dovea miglior mercede,Caro bene, al tuo candor,Caro bene, al tuo candor.Per pietà, ben mio, perdona All'error di un'alma amante; Svenerà quest'empia voglia L'ardir mio, la mia costanza; Perderà la rimembranza Che vergogna e orror mi fa.A chi mai mancò di fede Questo vano ingrato cor! Si dovea miglior mercede, Caro bene, al tuo candor,Caro bene, al tuo candor. Si dovea miglior mercede, Caro bene, al tuo candor,Caro bene, al tuo candor, Caro bene, caro bene, al tuo candor,Caro bene, al tuo candor, Caro bene, al tuo candor, al tuo candor.

フィオルディリージ
恋人、哀れな 私の過ちを、涙とこの闇に 隠してください。お願いどうぞ神様!心の汚(けが)れも 罪もお許しを。すべてをその御手(みて)に汚れたこの身を、汚れを、汚れたこの身を。愛しい方どうぞお願い私を助けてください、どうぞお力を 貸してください。神よ、お許しを、私の過ちも心の汚れも罪もお許しを。すべてをその御手(みて)に 汚れたこの身を愛しい方どうぞ お願いこの罪 をお許しください、どうぞお力を貸してください。お力を貸して、どうぞお力を、あなたのお力を、あなたのお力を貸して、あなたの力をあなたの力を貸して下さい。❞                                               

次第にエンジンのかかって来たフィオルディリージ役の迫田さんは、オケのホルンの音を背景に、これ以上ないと思われる程持てる力を十分発揮して、この結構長い歌を綺麗なソプラノで見事に歌い切り、大きな拍手を浴びていました。

 尚、本演前に藤原歌劇総監督の折江さんのトークがあり、さすがベルカントの大御所だけあって、的確な分析と指摘をされていました。様々な天才の一人にオルフを挙げ、「カルミナブラーナ」を例に出していたのには少しびっくりしました。五月中旬に見に行って感銘を受けていましたので。

 

 結構長い上演時間のオペラで3時間くらいは、やっていたと思います。でも開演が14:00だったので終わって日生劇場を出た時は5時半位だったでしょうか。まだ外は明るく目の前の日比谷公園は、緑の木々がうっそうと茂っているのが目に留まりました。久し振り(何年か振り)で公園を見て行こうかなと思い日比谷通りを渡りました。信号を渡って振り返ると、左に日生劇場、右手に帝国ホテルが見えます。

公園の目の前には大噴水がありました。

右手には野外音楽堂があります。

左手の古い建物群(図書館、公会堂)も変わっていない感じ。公園内路傍には、「石枡」というものが保存されていました。これまで気が付かなかった。

石桝

説明書きによれば、「江戸時代の上水道の木管の石桝」らしく、江戸市内の大通りの各所に設置され、木管を伝わって導水された水を大名屋敷などに送っていたそうです。

また、「松石」というのもありました。

これは珪化木の一種で、松の木が水没し、腐らないで窒化物などを吸収して石になったものだそうです。

園内には少ないですが、薔薇の花が昔と変わらず咲いていました。

薔薇の生垣の裏には昔はベンチがあったけれどどうなっているかな?と思って中に入ると今でもありました。昔と同じ配置で。

勿論、ベンチそのものは何回か交換されているのでしょうけれど。その内の角のベンチが、気に入っていて、昔、割と近くの職場にいた時の昼休みの定位置でした。

定位置のベンチ

先客がいることも有り、その時は空いている処にしましたが。

 座りながら懐かしく、あれは確か30歳前半の頃だったでしょうか?

 昼休み、仕事で精神的に疲れたり、悩んだりした時は、ベンチに座って、園内の景色をボーと見ていると本当に癒されました。

定位置ベンチからの眺望

 そのベンチに座り、オペラを観終わったこと、日比谷公園の懐かしいベンチに座っていることを、家に電話したら、❝昔お父さんは、そこに座って電話よこして、「自分の苦しみや困難や挫折は、マリーアントワネットのそれと較べたら比較にならない位小さい」と言ってよこしたの覚えている?❞と謂われましたが、すっかり忘れていました。確かその頃、ツバイク作の歴史小説を読んでいてそう言ったのかも知れない。

日比谷公園が出来て120年近く経つのですね。

その間色々変遷があったのでしょうけれど、矢張り戦争中は穏やかな風景ではなかったでしょう。ホントかどうか知りませんが、学徒動員関係の大集会も開かれたとも聞きます。

 少しベンチに座っていたら日が暮れだし、蚊にもさされ出したので席を立って駅めざし帰ろうとしてふと見たら、それも以前からあった、ビアレストランが木立の先に見えました。懐かしくて「ビールでも1杯飲んで帰るか」と思い、踵を返してお店に近づいたら、結構な客が入っていました。

黒ビールを所望したらないとのことでしたので、今日のおすすめビール何でもOKと注文したら、何とハーフ&ハーフが出て来ました。

黒ビールがある筈だけれどなと思いましたが、それを一息、二息と味わいながら飲み下し、少しだけいい気分になって帰路についたのでした。今日もいい日でした。明日は?明後日は??いい日はそうは続かないものでしょう。