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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

東京バレエ団公演『ドン・キホーテ』三日目鑑賞

【演目】ドン・キホーテ全二幕 

【上演】東京バレエ団 協力:東京バレエ学校

【上演期間】6月23日~6月26日 四日間

【鑑賞日時】6月25日(土)第3日目 14時~

【会場】東京文化会館

【振付】ウラジーミル・ワシーリエフ(マリウス・プティパ/アレクサンドル・ゴールスキーによる)

【音楽】レオン・ミンクス

【美術】ヴィクトル・ヴォリスキー

【衣装】ラファイル・ヴォリスキー

【上演時間】約2時間20分(休憩含む)

【管弦楽】東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【指揮】井田勝大

主催者発表のイントロを以下に記します。

南国スペインの陽気で情熱的なムードの中で繰り広げられる若いカップルの恋騒動と、息つく間もないほどの多彩なダンスの洪水。古典バレエの中でも抜群の人気を誇る「ドン・キホーテ」は、観ればかならず 元気になれるバレエです。

今回主演するのは東京バレエ団が誇る3組のペア。まずは本作を当たり役のひとつとしてきた上野水香と柄本弾。ことに上野は2004年に本作で東京バレエ団デビュー以来、大輪の花のような舞台を何度も見せてきました。ともにロシアのバレエ学校でバレエの真髄を徹底的に習得した沖香菜子と秋元康臣は、本作で初めてペアを組みます。いっぽう、すでに「くるみ割り人形」などで息の合ったコンビをみせている秋山瑛と宮川新大も本作で初共演。心境著しい二組の舞台に期待が高まります。

「ドン・キホーテ」はいまこそ観たい、栄養満点の舞台。演じるダンサーが変わるたびに新しいエネルギーがあなたに吹き込まれること請け合いです!

 

【出演(6/25)】

キトリ/ドゥルシネア姫役 秋山瑛

バジル役 宮川新大

〈その他のキャスト〉

ドン・キホーテ:和田康佑
サンチョ・パンサ:海田一成
ガマーシュ:鳥海 創
メルセデス:政本絵美
エスパーダ:柄本 弾
ロレンツォ:岡﨑 司

  《第一幕》

2人のキトリの友人:

      中沢恵理子

      長谷川琴音

  闘牛士:後藤健太朗

      樋口祐輝

      安村圭太

若いジプシーの娘:加藤くるみ
ドリアードの女王:三雲友里加

3人のドリアード:高浦由美子

         上田実歩

         平木菜子

4人のドリアード:足立真里亜

         中島理子

         工桃子

         中川美雪

キューピッド:安西くるみ

 

    《第二幕》

ヴァリエーション1:長谷川琴音

ヴァリエーション2:中沢恵理子

 

 

【粗筋】主催者発表

プロローグ

ドン・キホーテの書斎

床屋のバジルがドン・キホーテの顔をあたっている。キトリは、バジルの仕事が終わるのを待ちきれないようす。騎士物語にとりつかれているドン・キホーテは、キトリを麗しきドゥルシネアだと思い込む。情熱的に愛を告白するも、食べ物をくすねてメイドたちに追われるサンチョ・パンサに邪魔される。騒ぎに紛れて、恋仲のキトリとバジルは逃げ出す。ドン・キホーテはサンチョ・パンサを救ってやり、自分の鎧持ちに任じる。愛に奮い立ち、冒険を求めて、騎士は麗しきドゥルシネアを探しに行く。

第一幕

第1場:祭りでにぎわうバルセロナの広場

小さな町の広場が祭りで賑わっている。キトリはバジルと戯れあっている。彼女の父親─宿屋の主人ロレンツォ―が結婚を認めてくれることを、二人はひそかに願っている。だがロレンツォには別の思惑がある。金持ちだが間抜けな貴族、町中の笑い者ガマーシュに娘を嫁がせたいのだ。キトリは父親の意に反発している。

美青年のエスパーダを先頭に、踊り子メルセデスと闘牛士たちが登場。エスパーダはこのジプシー女を愛しているのだが、彼女のほうには、家族というしがらみに束縛される気などない。この賑わいのさなか、ドン・キホーテとサンチョ・パンサが広場に到着。上機嫌の人々は、腹いっぱい食べることだけを夢見る鎧持ちサンチョ・パンサを笑う。ドン・キホーテは、愛しの君を見つけて喜ぶ。しかしキトリはバジルと一緒に姿を消す。ロレンツォ、ガマーシュ、ドン・キホーテ、サンチョ・パンサの面々が二人を探しに行く。

第2場:ジプシーの野営地

夜。幸せいっぱいのキトリとバジルは眠れない。話もろくにできない。二人の会話はジプシーたちに遮られる。メルセデスとエスパーダも一緒にいる。ガマーシュ、ロレンツォ、ドン・キホーテ、サンチョ・パンサがやってくるのを、全員が気づく。

ジプシーたちは客を舞台の前に座らせ、プリンスとプリンセスの悲恋、プリンセスの無慈悲な父親をめぐる人形劇を披露する。ドン・キホーテは劇を本当のことだと思い込み、悪を懲らしめなくてはと、敵役に飛びかかる。あわてた役者たちの顔から人形の仮面が落ち、観客たちは、キトリ、バジル、メルセデス、エスパーダを見とがめる。彼らはまたも逃げるはめに。

強風がたち、風車の羽根が動き出す。騎士の目に、それはおそろしい怪物に映る──倒さねばならぬ。しかしドン・キホーテは羽根にひっかかり、引き上げられ、たたき落とされる。サンチョ・パンサが助けを呼びに走る

第3場:夢の場面

けがをし、疲れきったドン・キホーテは、眠りに落ちてすてきな夢をみる。やさしい、愛しのキトリ―ドゥルシネアが、妖精、森の妖精、キューピッドにかこまれて、彼のために踊っている。騎士の魂は、善は悪に勝つのだと確信をあらたにする。

目覚めると、幻想は消えてなくなる。だが彼は戻るつもりだ。正義を夢見、彼の助けを待ち望んでいる人々のもとへと。

サンチョ・パンサが、公爵とその従者とともに現われる。高貴なる騎士の“武勇伝”を聞き及んでいた公爵は、彼を館に招く。

ドン・キホーテは招待を恭しく受ける──愛しの君を救い出したのち、参上いたします。

第二幕

第1場:居酒屋

キトリ、バジル、メルセデス、エスパーダは居酒屋に隠れている。楽しんでいたところに、ガマーシュとロレンツォがやってくる。ガマーシュは、キトリとの結婚にロレンツォの承諾を求める。父親はガマーシュとの結婚を祝福するが、バジルが嫉妬の責め苦で死んだふりをする。キトリは涙ながらに、ドン・キホーテに正義の復活を訴える。高貴なる騎士はロレンツォに、哀れな恋人たちを祝福するよう迫る。

バジルが“生き返り”、二人は幸せに包まれる。一同は、居酒屋からキトリとバジルの結婚式へと出かけて行く。

第2場:結婚式

館の庭園に、豪華な祝いの席が準備されている。ガマーシュは皆の気づかいに慰められ、ロレンツォは愛し合う二人を認め、メルセデスとエスパーダの二人も愛を確かめ合う。楽しさに包まれている。だれもがドン・キホーテとその鎧持ちに感謝する──さあ、新たな冒険が二人を待っている。

 

【上演の模様】

 結論的に言えば、このバレエはドン・キホーテの幻想・夢を実現して呉れる夢中劇でした。その劇では、カラフルな世界に色どられ、人々がきびきびと踊り、動き、無言劇の中で、男女の愛、親子の愛憎、損得勘定、そしてドンの正義感等々多くの人間の感情が行き交うのですが、決して暗くなったり深刻化せず、明るく笑い飛ばしても許される雰囲気が流れている。

 実は昨日、『セリーヌとジュリーは舟でゆく』という、少し旧いフランス・ヌヴェルバーク映画を観たのですが、精神性の上で、多くの類似点があることに驚きました。これは、もともと『ドン・キホーテ』という文学作品が有している特性なのかも知れない。それがバレエに引き継がれて表現されているのでしょう。

 原作では、バレエと筋道の詳細は、異なっている点が多々あっても、その同根双生なのかも知れない。参考まで、セルバンテスの文学作品『ドン・キホーテ』の概要をネットから拾って文末に添付しました。

 今日のバジル役宮川新大さんは、跳躍力も有り空中浮遊時間がフワンと長い様に見えたし、踊りのスケールも日本人にしては大きく感じられました。舞台一杯に回転しながら廻る踊りには大きな拍手が湧いていました。キトリとのグラン・パ・ド・ドゥで高々と持ち上げるなどして踊るシーンには、大きな拍手が飛んでいました。

 キトリ役の秋山瑛さんの踊りは美しく、バジルとの踊りもピッタリ呼吸が合い、又クルクル何回転廻ったのでしょうか?グラン・フェッテを見事に決め、これも又会場を大いに沸かせていました。今日は闘牛士エスパーダ役の柄本弾さんは、美人ジプシー娘メルセデス役政本絵美さんと、あちこちの場面で踊る出番が結構多くて、会場のファンは喜んで拍手をしていた様です。その他第一幕で、キトリ或いはバジルとの他のダンサーとの組み合わせ、例えばキトリの友人役(長谷川さん、中沢さん)との、闘牛士(後藤さん、樋口さん、安村さん)との、それからジプシー娘役加藤さん、ドリアードの女王役三雲さんとの、或いは3人のドリアード(高浦さん、上田さん、平木さん)達との、そして4人のドリアード(足立さん、中島さん、工さん、中川さん)との組み合わせの踊りは、カラフルで童話の世界の様な幻想的な舞台を見事現出させていて、観客としても夢の様な気持ちになりました。素晴らしかった。

 尚、忘れてならないのは、複数のかわいらしいキューピッド達を率先引率して踊った、安西さんの子供たちに溶け込んでいた様子です。遠目には天使その物に見えました。

 それから始めから終わりまで、舞台を和ませ決して嫌な大人を演じなかった、キトリの父親ロレンツォ役岡崎さん、ガマーシュ役鳥海さんは、しつこく何回もキトリを説得しようとしますが、全然嫌味を感じなかった。サンチョ・パンサ役岡崎さんもどちらかというと喜劇役者に近い役回りを、小太りの体を一杯に使ってユーモラスに踊っていたのには各場面を和ませました。

 最後に、普通だったら、特にオペラだったら、タイトルロールの一番肝心の主役を務める筈のドン・キホーテは一度も踊りを見せず、ただ手を指し伸ばし、頓珍漢な個所で妄想を抱き、敵と思い込むと突進したり、戦ったり、兎に角マドンナ・ドゥルシネア姫を崇拝する『夢見る乙女』の如き雰囲気を、十二分に醸し出していたのには驚きました。ドン役の和田さんは全然踊らない方がきっと疲れたことでしょう、精神的にも体力的にも。少しでも踊りを入れるバージョンは無いのでしょうか?

 今日は上演三日目、通常だったら初日を見ることが多いのですが(初日は上野水香さんの受賞記念公演できっと華やかなことだったでしょう。明日6/26も上野さん、柄本さんが踊りますが、残念ながらサントリーホールに行くので観れません)、今回はいろいろの都合も有り三日目となりましたが、素晴らしい舞台を見れて、バレエのだいご味を十分味わえた一日でした。皆さん、Merci  beaucoup!

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セルバンテス作「ドン・キホーテ」

【登場人物】

〇ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ

本編の主人公。本名をアロンソ・キハーノというラ・マンチャのとある村に住む50歳ほどの郷士だが、騎士道物語の読み過ぎで現実物語の区別がつかなくなってしまい、遍歴の騎士に成り切って、痩馬のロシナンテと共に世の中の不正を正す旅に出る。自分をとりまく全てを騎士道物語的な設定におきかえて認識し次々とトラブルを巻き起こすが、それ以外の点では至って理性的で思慮深い人物。三度の旅の後、病に倒れると共に正気を取り戻すが、間もなく死亡する。

〇サンチョ・パンサ

「パンサ」は「太鼓腹」の意。ドン・キホーテの近所に住んでいる農夫。「将来島を手に入れたあかつきには統治を任せる」というドン・キホーテの約束に魅かれ、彼の従士として旅に同行する。奇行を繰り返すドン・キホーテに何度も現実的な忠告をするが、大抵は聞き入れられず、主人とともにひどい災難に見舞われる。無学ではあるが、様々なをひいたり機智に富んだ言い回しをする。移動にはロバを使用している。

〇ドゥルシネーア・デル・トボーソ (ドルシネア)

近くの村のアルドンサ・ロレンソという百姓娘を元にドン・キホーテが作り上げた空想上の貴婦人。ドゥルシネーアの美しさ・気だてのよさ・その他の美点を世界中の人々に認めさせるのがドン・キホーテの遍歴の目的のひとつである。

〇ペロ・ペレス

ドン・キホーテと同じ村の司祭。

〇ニコラス親方

ドン・キホーテと同じ村の床屋。

〇ヒネス・デ・パサモンテ

泥棒の罪で囚人となり、ガレー船送りにするため連行されていたところをドン・キホーテに助けられるが、他の囚人とともにドン・キホーテを袋叩きにして去る。後編で、人形遣いの旅芸人ペドロ親方として正体を隠して登場する。

〇公爵夫妻

後編より登場。本名は不明。すでに出版されていた『ドン・キホーテ』前編のファンで、ドン・キホーテ主従を厚く歓待しつつ、様々な方法で彼らに悪戯を仕掛ける。

〇サンソン・カラスコ

後編より登場。ドン・キホーテと同じ村の住人で、サラマンカ大学の予科学士。ドン・キホーテに村で静養する約束を取り付けるべく、自ら「鏡の騎士」なる遍歴の武芸者に扮して決闘を挑むも、あえなく返り討ちに遭う。その後「銀月の騎士」として再度挑み、今度は勝利をおさめたため、ドン・キホーテは村に帰還することになる。

〇シデ・ハメーテ・ベネンヘーリ

モーロ人(アラビア人)の歴史家であり、『ドン・キホーテ』の原作者とされる。作中に直接登場することはない。『ドン・キホーテ』はシデ・ハメーテの記録をセルバンテスが編纂したものであると作中では説明されているが、実際にはシデ・ハメーテは架空の人物であり、『ドン・キホーテ』

 

 

[前編]

ラ・マンチャのとある村に貧しい暮らしの郷士が住んでいた。この郷士は騎士道小説が大好きで、村の司祭と床屋を相手に騎士道物語の話ばかりしていた。やがて彼の騎士道熱は、本を買うために田畑を売り払うほどになり、昼夜を問わず騎士道小説ばかり読んだあげくに正気を失ってしまった。狂気にとらわれた彼は、みずからが遍歴の騎士となって世の中の不正を正す旅に出るべきだと考え、そのための準備を始めた。古い鎧を引っぱり出して磨き上げ、所有していた痩せた老馬をロシナンテと名付け、自らもドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャと名乗ることにした。最後に彼は、騎士である以上思い姫が必要だと考え、エル・トボーソに住むアルドンサ・ロレンソという田舎娘を貴婦人ドゥルシネーア・デル・トボーソとして思い慕うことに決めた。

用意がととのうと、彼はひそかに出発した。冒険を期待する彼の思いと裏腹に、その日は何も起こることなく宿屋に到着した。宿屋を城と思いこみ、亭主を城主だと思いこんでしまっていたドン・キホーテは、亭主にみずからを正式な騎士として叙任してほしいと願い出る。亭主はドン・キホーテがいささか気の触れた男であることを見抜き、叙任式を摸して彼をからかうが、事情を知らない馬方二人が彼の槍に叩きのめされてしまい、あわてて偽の叙任式を済ませた。

翌日ドン・キホーテは、遍歴の旅にも路銀や従士が必要だという宿屋の亭主の忠告に従い、みずからの村に引き返すことにした。だが途中で出会ったトレドの商人たちに、ドゥルシネーアの美しさを認めないという理由で襲いかかり、逆に叩きのめされてしまう。そこを村で近所に住んでいた百姓に発見され、ドン・キホーテは倒れたまま村に帰ることになった。

打ちのめされたドン・キホーテの様子を見た彼の家政婦と姪は、この事態の原因となった書物を残さず処分するべきだと主張し、司祭と床屋の詮議の上でいくつか残されたものの、ほとんどの書物が焼却され、書斎の壁は塗りこめられることになった。やがてドン・キホーテが回復すると、書斎は魔法使いによって消し去られたと告げられ、ドン・キホーテもそれに納得した。遍歴の旅をあきらめないドン・キホーテは近所に住む、教養の無い農夫サンチョ・パンサを、手柄を立てて島を手にいれ、その領主にしてやるという約束のもと、従士として連れていくことにした。ドン・キホーテは路銀をそろえ、甲冑の手直しをして二度目の旅に出た。

やがてドン・キホーテとサンチョは3〜40基の風車に出くわした。ドン・キホーテはそれを巨人だと思いこみ、全速力で突撃し、衝突時の衝撃で跳ね返されて野原を転がった。サンチョの現実的な指摘に対し、ドン・キホーテは自分を妬む魔法使いが、巨人退治の手柄を奪うため巨人を風車に変えてしまったのだと言い張り、なおも旅を続けるのだった…

[後編]

遍歴の旅から戻ったドン・キホーテはしばらくラ・マンチャで静養していた。その間目立った奇行も見られなかったのだが、一月ほど後に司祭と床屋が訪れると、やはり狂気は治癒していないことが判明した。そんな中、ドン・キホーテの家にサンソン・カラスコという学士が訪れる。カラスコが言うには、ドン・キホーテの伝記が出版され(すなわち『ドン・キホーテ 前編』)、広く世の中に出回っているのだという。ドン・キホーテ主従とカラスコは、伝記に書かれた冒険について、また記述の矛盾についてひとしきり語り合うのだった。

やがてドン・キホーテとサンチョは三度目の旅立ちの用意をかため、出発する。ドン・キホーテの姪や家政婦は引き止めようとするが、カラスコはむしろ彼の出発を祝福して送り出した。

旅立ちを果たした主従が最初に向かった先は、エル・トボーソの村であった。ドン・キホーテが三度目の出発にドゥルシネーアの祝福を受けたいと考えたためであった。彼はサンチョに、ドゥルシネーアを呼んでくるように頼むが、サンチョは困惑する。ドゥルシネーアは架空の人物であるし、モデルとなったアルドンサ・ロレンソのこともよくは知らなかったためである。

結局サンチョは、エル・トボーソの街から出てきた三人の田舎女を、ドゥルシネーアと侍女だと言い張ることにした。その結果、ドン・キホーテは田舎娘をドゥルシネーアと見間違えることはなかったが、自分を憎む魔法使いの手によってドゥルシネーアを田舎女の姿に見せる魔法をかけられているものだと考え、彼女らの前にひざまずき、忠誠を誓ったがまったく相手にされなかった。ドン・キホーテは、心の支えであったドゥルシネーアにかくも残酷な魔法がかけられたことを繰り返し嘆いた。

やがて主従は、「鏡の騎士」と名乗る、恋に悩む遍歴の騎士と出会う。ドン・キホーテは鏡の騎士と意気投合し、騎士道についてさかんに語り合うが、鏡の騎士が「かつてドン・キホーテを倒した」と語ったのを聞くと、自らがドン・キホーテであると名乗り、彼の発言を撤回させるために決闘を挑む。勝負はドン・キホーテが勝利した。鏡の騎士の乗っていた馬が駄馬であったためである。落馬した鏡の騎士の兜を取ってみると、正体は学士のサンソン・カラスコであった。カラスコはドン・キホーテを決闘で打ち負かすことによって村に留まらせることを目論んでいた。騎士らしい決闘によればドン・キホーテに言うことを聞かせられるだろうと考えたからである。しかしドン・キホーテの勝利により企ては失敗に終わった。当のドン・キホーテはと言うと、目の前のカラスコは魔法使いが化けた偽者ということにして片づけてしまった。

やがて、ドン・キホーテ一行のところに国王への献上品のライオンをのせた馬車が通りがかり、これを冒険とみたドン・キホーテは、ライオン使いに対して、ライオンと決闘したいと願い出る。その場にいたものすべてがドン・キホーテを止めようとするが、ドン・キホーテは聞く耳を持たず、さかんにライオン使いを脅すので、やむなくライオン使いは檻の鉄柵を開け放つ。何度もライオンを大声で挑発するドン・キホーテだが、ライオンはドン・キホーテを相手にせずに寝ころんだままだったので、ドン・キホーテは不戦勝だとして納得し、これから二つ名を「ライオンの騎士」とあらためることにした。

やがて主従は、立ち寄った先でカマーチョという富豪の結婚式に居合わせる。カマーチョは金にものを言わせてキテリアという女性と結婚しようとしていたが、結婚式の場にキテリアの恋人であるバシリオが現れ、狂言自殺をしてキテリアとカマーチョの婚姻を破棄させる。その場にいた大勢の客がもめて大騒ぎになろうとしたところを、ドン・キホーテが仲裁に入り、事なきを得た。バシリオとキテリアはドン・キホーテに感謝し、彼を住まいに招いた。彼はそこに三日滞在したが、その間に二人に思慮深い二三の助言を残した。

なおも旅を続けた二人は、鷹狩りの一団の中にいた公爵夫人に出会う。彼女はドン・キホーテとサンチョを見るやいなや、すぐに自分の城に招待した。というのも、公爵も夫人も『ドン・キホーテ』前編をすでに読んでおり、ひとつこの滑稽な主従をからかってやろうと思ったからである。そんな企みには全く気づかないドン・キホーテは、公爵夫妻の城で遍歴の騎士にふさわしい壮大な歓待を受け感動するが…。