【鑑賞日時】2022.4.23.(土)17:00~
【会場】Bunkamura オーチャードホール
【演目】エドガール全3幕セミステージ形式(イタリア語上演、日本語字幕付き
【原作】アルフレッド・ド・ミュッセ『杯と唇』
【台本】フェルディナンド・フォンターナ
【作曲】ジャコモ・プッチーニ
【公演日】2022.4.23.(土)~4.24.(日)
【予定時間】約2時間(20分休憩1回含む)
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指揮】アンドレア・バッティストーニ
【合唱】二期会合唱団、TOKYO FM 少年合唱団
【合唱指導】粂原裕介
【舞台構成】飯塚励生
【映像】栗山聡之
【照明】八木麻紀
【舞台監督】幸泉浩司
【公演監督補】佐々木典子
【キャスト】
配役 |
4月23日(土) |
4月24日(日) |
||||
エドガール |
|
|
||||
グァルティエーロ |
|
|
||||
フランク |
|
|
||||
フィデーリア |
|
|
||||
ティグラーナ |
|
|
【粗筋】
第一幕
主人公エドガールとティグラーナの愛の逃亡
舞台は14世紀のオランダ・フランダース地方。のどかな田園風景広がる村で主人公エドガールと恋人フィデーリアは仲睦まじいカップル。そこに登場するのがティグラーナという娘。ティグラーナはエドガールを我が物にしようと誘惑。ところが彼女はミサで挑発的な歌を歌い、村人の怒りを買い一触即発に。エドガールはティグラーナを庇い自分の家に火をつけ、村人から呪いの言葉を浴びせられながら彼女と逃げる。
第二幕
倦怠期の関係に辟易し、祖国のために戦争に行くエドガール
場所は豪華な屋敷のテラス。ティグラーナとの愛欲生活にすっかり飽きてしまったエドガール。捨てた恋人フィデーリアへの思慕は募るばかり。そこに兵隊を引き連れ隊長となったフィデーリアの兄、フランクと偶然に再会。過去の過ちを謝罪するエドガールは、祖国のためにともに戦いたいと願い出る。ティグラーナはエドガールを引き留めるが、願い虚しく結局兵士として、祖国への忠誠を誓い出兵していく。
第三幕
エドガールは謎の修道士に姿を変えて……
エドガールは戦死し、まさに葬儀が執り行われようとしている(このシーンで歌われるレクイエムは、プッチーニの葬儀でも使われた)。ここで(エドガールが扮した)謎の修道士が登場。棺にすがり嘆くティグラーナ、修道士は快楽と虚栄に満ちた正体を暴いてやろうとフランクに持ちかける。二人はティグラーナに高価な宝石をちらつかせ、エドガールの悪行を述べよ、と嘘の証言をするようにそそのかす。
エドガールの策略にはまるティグラーナそして悲しい結末へ。
最初は拒んでいたティグラーナも、結局は宝石の誘惑に負け「エドガールは金のために祖国を裏切った」と証言。そこでエドガールは修道士の衣裳を脱ぎ「エドガールは生きてここにいる」と叫ぶ。証言を信じた村人や兵士たちとも別れを告げフィデーリアとこの地を去ろうとするが、騙されたティグラーナは怒り心頭。怒った彼女はフィデーリアの胸を短剣で突き刺し、フィデーリアは息絶えてしまう。エドガールはその亡骸を抱き、嘆き悲しむのだった。
【上演の模様(第一幕)】
1889年4月にミラノ・スカラ座で4幕物として初演が行われたが不評。改訂の要請が来たため、その後4幕を3幕に改訂し、1892年にFerraraで3幕版を上演しました。
その後幾つかの改訂が行われ、1905年に現在の形の三幕物のオペラとして「コロン劇場」で上演されました。
第一幕
舞台には、奥寄りにバッティストーニ指揮・東フィルが陣取り、その前面、即ち座席に面した舞台前面には若干の演技台のセットが置かれています。さらにオーケストラの奥には、中間幕が下ろされその幕が半透明で様々な風景を映し出すスクリーンの役割もしていて、幕の裏側には、合唱団が整列しているのが、シルエットの様に見えます。上段には、男声8人女声7人位、計15人程度、その下の段にも同じくらい、合計30人台規模の合唱団が勢揃いしていました。
冒頭、ゆっくりした管の調べ、ハープの清らかな音に従い、スクリーン奥の合唱団が、「遠くからのお告げ(、即ち遠くから教会の鐘の音が聞こえ、)最後の星も輝きを失った!(即ち朝が来た)」と歌います。舞台では、酒瓶を手にしたエドガールが登場、寝転んで居眠りしてしまいます(本格オペラでは、居酒屋での事なのでしょう)。
そこに可憐な村娘フィデーリアが登場し「晴れやかな夜明け!四月の夜明け!」と明るく歌いながら眠っているエドガールに声をかけます。フィデーリアは無邪気に見た夢の中身を歌って、エドガールにアーモンドの小枝を投げて走り去ります。フィデーリア役の高橋絵理さんは、熟成した声ではありませんが、良く響く初々しいソプラノで、力強くこのアリアを歌いました。やや声が堅いかな?
ここで歌われる昼間の花は昼顔でしょうか。合唱が「昼顔よ、おはよう・・・」とも歌っています。最も歌の中に「アーモンドの木(花)」も出て来て、場面と季節が今一つはっきりしません。フランドルではアーモンドは今も当時もなかったはず。スペインとか南イタリアは一大産地ですが。
恋人へ返歌的にエドガールも歌い出します。エドガール役の福井さんは、予想していた以上の声量のある歌唱で、さすがベテランだけあって、歌う力の入れ処を心得ているというか、ツボを押さえた歌い振りでした。舞台裏の合唱は、ここで、オーケストラは、バッティストーニの指揮にピッタリと完璧についていって、その指揮一下、急に曲想をがらりと変化させ、おどろおどろしいメロディーを、不気味なくらいに響かせました。これはここで妖しい美女ティグラーナが登場したからです。エドガールが、フィデーリアから投げられたアーモンドの小枝を、愛おしそうに見つめていると、ディグラーナが嘲笑いながら現れ「小鳩ちゃん(即ちフィデーリア)がお気に召したの?昔は、炎のような快楽を求めていたくせに」と挑発する歌を歌い、からかうのでした。ディグラーナ役の中嶋さんは、さすが歌い慣れた大ベテランのメッゾの歌声を、会場に大きく響かせていました。
エドガールは「悪魔!黙れ!」と吐き捨て、去ってしまう。仕方なく(本格オペラでは、一人酒場に向かう)去ろうとするディグラーナの前に、フィデーリアの兄フランクが立ちはだかって「昨晩はどこにいた!」と詰め寄る歌を歌います。実はフランクはティグラーナに片想いをしているのです。フランク役の清水さんは、かなり深味のあるバリトンを迫力を持って発声していました。この中規模ホール(オーチャード)には十分すぎる声量でした。やや粗削りの所があるかな?ボローニャでも研鑽を積み彼の地で歌ったり、国内でも出演が目白押しの若手歌手の様です。これから益々活躍が期待できます。フランクの歌を聞いたディグラーナは、うんざりした様子で「私は子供の頃ジプシーの一団に捨てられた。私と一緒の所を見られないようにしなさいよ!」と悪びれてみせるのでした。フランクは涙声でアリア「この恋を、俺の恥を」「お前の凄まじい魅惑を断ち切りたくても出来ない!」と歌い去って行くのでした。この辺りのアリアは演奏会でもバリトン歌手に好まれてよく歌われるアリアです。
(本格オペラでは、その頃人々は慌ただしく教会に集まり、朝の祈りを捧げて歌います。)合唱団が、「神は恵みを垂れ給わず、この世にて慎ましき者の他は」と歌い、暗にディグラーナに諭すのですが、(本格オペラでは教会に姿を見せた)ディグラーナは「禿鷹に向かって鳴いた、死にかけた子羊(即ち神の迷える子羊=人々)さん!」と邪悪な歌で祈りの邪魔をするのです。憤慨した人々が「立ち去れ、卑しい遊び女!娼婦!」とまで言って合唱して威嚇すると、エドガールが割って入り「下がれ、馬鹿が大勢で!いじめるでない」と叫んでディグラーナをかばって、手にしていた松明で自分の家に火を放つのでした。こうした時の火事の表現は、スクリーンと映像で充分表現出来ていました。赤赤と燃え盛る炎の下で合唱団は歌い相乗効果を上げていた。呆気にとられている人々を尻目にエドガールはディグラーナを抱きよせ「新しい生活のくれる快楽よ!」と歌い立ち去ろうとするも、騒ぎを聞きつけて現れたフランクと決闘になってしまいます。人々は騒然となり、(教会から出て来たフランクの父グアルティエーロとフィデーリアが必死に二人を止めましたが、フランクは傷を負い、エドガールとディグラーナは人々の罵倒を背に逃亡するのでした。
この一幕最後の場面は、演技上も見ごたえがり、またアリアの五重唱、四重唱と合唱が相まって、しかもそれを囃し立てるバッティストーニ・東フィルの大迫力のオーケストレーションも相乗的に轟音を轟かせ、第一幕の最後を飾るのに誠に相応しい、プチーニの見事な堂々としたフィーナーレ術を感じることが出来ました。
(続く)
尚、参考まで第一幕の主なアリアを以下にリストアップしました。
1遠くからのお告げのこえみたいに(合唱、民衆)
2昼間の花、お日様だわ(フィデーリア、エドガール)
3昼間の花、おてんとうさまよ(合唱、民衆)
4はっはっはっ!君がこんなところに(ティグラーナ、エドガール)
5昨日の夜どこにいた?(フランク、ティグラーナ)
6この恋を、俺の恥を(フランク)
7神は恵みを垂れ給わず、この世にて慎ましき者の他(合唱、民衆)
8貴女は私の心をさいなみ(ティグラーナ+合唱、民衆)
9汚れの権化のようなお前(合唱+エドガール)
10五重唱、待て!(フランク、エドガール、グアルティエーロ、フィデーリア、ティグラーナ+合唱)
11四重唱、それではここでおさらばだ(エドガール、フランク グアルティエーロ、フィデーリア+合唱)