HUKKATS hyoro Roc

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バッハ『フーガの技法』(Ⅲ)オルガン&チェンバロ弾き比べ

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 表記のコンサートは三回に渡って、バッハのフーガの技法について、専門家が説明する試みです。今回の最終回、三回目のみ楽器演奏を交えての説明となりました。第一回目と第二回目は、講義のみでしたが、人気が高くチケットはすぐ売り切れでした。三回目は、コロナ禍で延期されていて、ユリウス暦3月21日はバッハの誕生日で、その日に開催出来て感慨深いと、奏者は語っていました。

【日時】2022.3.21.(月・祝)14:00~

【会場】神奈川県民H小ホール

【解説曲】フーガの技法(独Die Kunst der Fuge、英The Art of Fugue)ニ短調BVW1080】 

【演奏曲目(演奏者)】

今回は「フーガの技法」でバッハの作曲したフーガの基本構造を説明するとともに、その例として挙げられた以下の曲たちが、前半はパイプオルガンとチエンバロの双方により同じ曲を演奏、後半はオルガンのみで演奏されました。(以下でコントラプンクトゥスは Contrapunctusのことで、「対位法」のこと。)

①コントラプンクトゥスⅠ    (荻野)           

②コントラプンクトゥスIII  (荻野) 

③コントラプンクトゥス V  (早川)

④コントラプンクトゥスIX  (早川) 

⑤コントラプンクトゥスVI  (柳澤) 

《休憩》

⑥コントラプンクトゥスⅪ    (柳澤)

⑦コントラプンクトゥスXIII (早川・柳澤) 

⑧未完のフーガ        (荻野)     

⑨われら悩みの極みにありて  (早川)

 

曲目解説】 

 この曲は、ヨハン・セバスチャン・バッハが1740年代前半に作曲を開始、最晩年となる1740年代後半に作曲と並行して出版が準備されたが、その途中で作曲者自身の視力が急激に低下してしまい、「コントラプンクトゥス14 3つの主題による4声のフーガ」が未完成の段階で作曲が中断されてしまった。何人かの音楽学者によって「最初の12曲が1742年にチェンバロ独奏を想定して作曲された」ことが判明しているが、残りのフーガを書き始めた経緯は今もなお不明である。曲集はバッハの死後、未完成のまま出版された。

様々な様式・技法による14曲のフーガと4曲のカノンが現行の多くの版に収録されている。彼は卓越した対位法の技術を駆使し、単純な主題を入念に組み合わせることによって究極の構築性を具現化した。

「フーガの技法」という作品は、作品固有の緊密な構築性と内在する創造性によって、クラシック音楽の最高傑作の1つに数えられている。 

 

【出演】荻野由美子、早川幸子、柳沢文子(何れも音大関係オルガニスト、教会オルガニスト)

【曲目(演奏者)】

今回は「フーガの技法」でバッハの作曲したフーガの基本構造を説明するとともに、その例として挙げられた以下の曲たちが、前半はパイプオルガンとチエンバロの双方により同じ曲を演奏、後半はオルガンのみで演奏されました。(以下でコントラプンクトゥスは Contrapunctusのことで、「対位法」のこと。)

①コントラプンクトゥスⅠ. (荻野)           

②コントラプンクトゥスIII (荻野) 

③コントラプンクトゥス V (早川)

コントラプンクトゥスIX  (早川) 

⑤コントラプンクトゥスVI (柳澤) 

《休憩》

⑥コントラプンクトゥスⅪ  (柳澤)

⑦コントラプンクトゥスXIII (早川・柳澤) 

⑧未完のフーガ       (荻野)     

⑨我れら悩みの極みにありて (早川)

 

【演奏の模様】

先ず萩野さんからフーガの基本型の説明があり、以下の各種の構造を基本形から組み合わせて、複雑な構造に組み立てていくのが、技法の根本だという事が話されました。

①コントラプンクトゥスⅠ.  単一主題による4声のフーガ

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②コントラプンクトゥス III: 主題の反行形による4声のフーガ

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③コントラプンクトゥス V: 多くの密接進行を含む。これは第6曲及び第7曲においても同じである

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④コントラプンクトゥスIX:新主題と基本主題による12度の転回対位法による二重フーガ

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⑤コントラプンクトゥスVI:主題の縮小を含む、フランス風の4声のフーガ。この曲中に用いられているような付点のリズムは、バッハの時代にはフランス風として知られていた。

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《休憩》

⑥コントラプンクトゥスXⅠ:4声の3重フーガ

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⑦コントラプンクトゥスXIII:3声。鏡像フーガであり、また反行フーガでもある。倒置形・正置形。変形された主題とその反行形による鏡像。

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⑧未完のフーガ(コントラプンクトゥスXIV)

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第14コントラプンクトゥスは、3つ目の主題が導入された後の239小節で突然中断されています。

自筆譜には、バッハの息子の C.P.E.バッハにより「作曲者は、"BACH"の名に基く新たな主題をこのフーガに挿入したところで死に至った ("Über dieser Fuge, wo der Nahme B A C H im Contrasubject angebracht worden, ist der Verfasser gestorben.")」と記されているそうです。現代学者たちはこの記述について強く疑問を抱いているという。なぜなら、自筆譜の音符は疑いなくバッハ自身の手によって書かれているものであり、視力の悪化のために筆跡が乱れるより前の1748年から1749年の間に書かれたと思われるからです。

また、この記述の下、5線7段が空白のまま残されていて、その最下段右側に僅に音符が書き込まれているのです。この音符は、同じ譜面に書かれた他の音符よりも符頭が小さく、別の時期に書き込まれたものと推定されていて、これが本曲と関係があるのかは不明なのです。

更に、自筆譜5枚目の裏面には「und einen andern Grund Plan(そしてもう1つの基本計画)」との記述もあり、未完成のフーガに関わるものなのか、或いは単なるメモなのかは全く不明です。バッハ本人の手による書き込みではなく、誰の手によるものかも未だもって解明されていません。

この様に「フーガの技法」は、バッハの作品の最後を飾る謎めいた部分はあるにせよ、しっかりとした構造性を持ち、その演奏を聴いても何も違和感や不協和的な調べは微塵も感じず、こうした技法を駆使して超自然な世界を構築している作品群を厖大な数残した超人間的なバッハという巨人の解析の一助となる作品です。

 なお前半の演奏で、同じ曲をチェンバロとpipeオルガンとで聴き比べると、まったく別な作品かと思われる程違って聞こえたのには驚きました。概してチェンバロが軽やかでフーガの流れ、旋律間の紡ぎ合う動きが良く明瞭にきこえたのに対し、pipeオルガンの方は壮大で力強さを感じる曲に感じ、時には粗野な感じにもなりました。チェンバロはあくまで優雅。

 このように異なった楽器で弾き比べしてあれこれ議論できるのも、バッハは楽譜に楽器指定を書いていないからだそうです。

 最後のコラールをベースとしたという⑨「我らの悩みの極みにありて」の演奏を聴くと、これ程不気味で苦しくて切ない、まるで地獄からのため息の様な旋律はこれまで聞いたことありません。バッハにはこうした凄い表現もあるのですね。