HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

二期会オペラ研修所/第65期マスタークラス修了試演会

Ⅰ.大野徹也クラス

【日時】2022.2.23.(水・祝)12:00~

【会場】白寿ホール

以前何の音楽会だったか?行ったことがありますが、渋谷区富ヶ谷(とみがや)にあるビルの上階の小さなホール(座席数300)です。

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 オペラを上演する二期会には研修所があって複数の教育課程が用意されており、今回は「マスタークラス(二クラス)」のいわば修了演奏会と言って良いものでした。

【出演】大野クラス研修生

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◆大野徹也クラス
出演:
【ソプラノ】 金 理愛、指出麻琴、佐藤新菜、白石 愛、
鈴木香栞、鈴木遥佳、高橋 梢、谷 真里映、
根岸茉由、松浦友香、山本夏子
【メゾソプラノ】 桂 萌、須藤歩希
【テノール】

田中 翔、東原佑弥

【バリトン】 宮下嘉彦
【バス】 倍田大生
   
指揮:北原幸男
演技指導:澤田康子
声楽指導:《主任》大野徹也、《副主任》押見朋子
     《講師》北原瑠美、佐竹由美、与那城 敬
ピアノ:鈴木啓太、髙木由雅、朴 令鈴

【上演曲目】

〈予定プログラム〉
◆大野徹也クラス 12:00開演
① ドニゼッティ作曲『愛の妙薬』第2幕より
   ネモリーノ、ベルコーレ
② ドニゼッティ作曲『愛の妙薬』第2幕より
   アディーナ、ドゥルカマーラ
③. R.シュトラウス作曲『ナクソス島のアリアドネ』プロローグより
   ツェルビネッタ、作曲家
④ マスネ作曲『ウェルテル』第3幕より
   シャルロッテ、ウェルテル
⑤. ヴェルディ作曲『イル・トロヴァトーレ』第4幕より
   レオノーラ、ルーナ伯爵
   《休憩》
⑥レオンカヴァッロ作曲『道化師』第1幕より
   ネッダ、トニオ、シルヴィオ
⑦フンパーディンク作曲『ヘンゼルとグレーテル』第2幕より
   グレーテル、ヘンゼル
⑧ ベッリーニ作曲『カプレーティ家とモンテッキ家』第2幕より
   ロメオ、テバルド
⑨ベッリーニ作曲『清教徒』第1幕より
   エルヴィーラ、ジョルジョ
⑩ヴェルディ作曲『ルイザ・ミラー』第3幕より
   ルイザ、ミラー
   《休憩》
⑪ドニゼッティ作曲『ドン・パスクワーレ』第1幕より
   ノリーナ、マラテスタ
⑫ ドニゼッティ作曲『ドン・パスクワーレ』第3幕より
   ノリーナ、ドン・パスクワーレ
トマ作曲『ハムレット』第1幕より
   オフェリ(オフィーリア)、アムレ(ハムレット)        

ヴェルディ作曲『シモン・ボッカネグラ』第1幕より
   アメーリア、シモン

 

【試演会の模様】

 12:00~という丁度昼時にぶつかる開演時間は、土曜日とは言え、聴く方にとってはめったにない時間帯で、昼食時も重なり、すごく聴きに行きずらいものでした。自宅から遠いせいもあり、案の定時間通りに到達出来ず遅刻してしまった。

 受付に訊くともう4番目の人たちの上演が始まったばかりなのでそれが終わるのを待って会場の席に案内しますとのことでした。その間ロビーのモニターテレビを見ましたが、舞台では研修生二人がペアーとなってオペラの抜粋場面を演じていて、舞台全面で盛んに手を振って指揮をしている人がいます。ピアノ伴奏は舞台右奥で伴奏者がピアノに隠れた位置で弾いています。舞台は中央部に大きな透明板が配置され、ペアーの二人が離れて歌を歌っています。舞台正面壁には映像で字幕(日本語)が写し出されていました。普通聴いているオペラ歌手たちの歌よりは、まだ出来上がっていない音が響いてきます。マスネの『ウェルテル』ですから原作はドイツ語ですが、オペラはフランス語のはず、でもモニターテレビを見ていてそれらしく聞こえません。

 一組5~10分の演技なのですぐ終わり、ホールの中に入れて呉れました。普通の演奏会形式のオペラかと思っていたらホール内は真っ暗、係の人が座座席まで案内して呉れました。暗くて良く見えませんが、かなりの乗客が入っている様子。一瞬来なければ良かったかなと思いましたが、❛オペラの新人予備軍の歌いぶりはどうか?大型新人の兆しは?❜と言った興味が先に立ち、係員に促されるままに着席しました。感染対策呼吸法(自分の馬鹿ばかしい程の我流で、出来るだけ息を弱く速くして呼吸器側にウィルスを少しでも運ばない様に口吸気・鼻呼気、口に多くの唾を溜めて。全然対策になっていないかも知れないけれども、何もしないよりは自分の気休めと納得が得られるので。)をして息を潜めて見始めました。

 ⑤の<ヴェルディ作曲『イル・トロヴァトーレ』第4幕より>が演じられています。四幕の最後の第2場、最後の場面。主役レオノーラと恋人の恋敵ルーナ伯爵のやり取りです。恋人マンリーコを救う最後の手段として自分の身をその恋敵ルーナ伯爵に任せるという約束をして、獄中の恋人マンリーコに最後の別れの逢瀬に向かうレオノーラでした。ひそかに毒薬を飲みながら。

【レオノーラ】伯爵!  

【伯爵】まだ諦めぬか? 

【レオノーラ】お慈悲を!

【伯爵】いかなる代償を払おうとも得ることはできぬ どけ!

【レオノーラ】ひとつだけあります...ただひとつ!私はそれを差し上げましょう

【伯爵】話せ その代償とは何だ?  【レオノーラ】私自身です

【伯爵】何?何と言った?  

【レオノーラ】必ずお約束します。

【伯爵】私は夢を見ているのだろうか?  【レオノーラ】通して下さい、あの城壁の間の道を。あの方に私の話を聞かせ、囚われの囚人が逃げれば、私はあなたのものになるのです。

【伯爵】誓うのだな。   

【レオノーラ】神に誓っても!私の魂を何時もご覧になっておられる神様に誓っても。

                         

 レオノーラ役の鈴木(遙)さんは、力一杯感情をこめて歌っているのですが、さらに声を研ぎ澄ます(tuningする)余地はある様に思われました。

 ルーナ伯爵役の宮下さんは概ね良かったのですが、デュエットがもっと綺麗に聴かせて欲しかった。

 ここで休憩です。この公演は休憩を二回とり三時間はかかりそうだと受付では言っていました。12時からですから終演15時頃。実は同じ日の17時から別なクラスの同様な修了試演会があり、そちらも聴く予定にしていたので、それまで時間が2時間ほど空きます。でもこの辺りのどこかを見る準備はして来なかったし、友人に会う時間としては足りないし、結局富ケ谷通りを渋谷近くまでウォ-キングして、喫茶店で軽食(サンドイッチ)を食べ時間をつぶしました(家を出る前に急いでカレーをかき込んで来ましたが、おなかが少し減りました)。この道をさらに進むと東急本店の方に出れるようですが、白寿ホールまでの戻りの時間を考えて引き返しました。

 

後半は⑥レオン・カッヴァロ『道化師』第1幕より。

このオペラは昨年の12月クリスマス・イヴの晩に大手町で観ました。(2021.12.25.hukkats Roc オペラ『パリアッチ(道化師)』at日経ホール 参照)

 タイトルから言えば、座長で道化師を兼ねるカニオが主人公なのでしょうが、背の曲がった「道化師」のトニオの歌と演技の活躍は主人公クラスです。しかし物語の中心には常にカニオの奥さんネッダがいて、彼女が主人公とも思えぬことはないのです。彼女の歌う、かごの中の鳥の様な人生の悲哀、もっと自由に飛びたいという歌、『鳥の歌』は有名なアリアです。この上演ではネッダ(谷さん)トニオ(倍田さん)、シルヴィオ(応援:野村さん)の三人が出演、愛をめぐる三角関係、座長の留守時に密かにネッダに思いを寄せているトニオが愛を告白して、その気が全然ないネッダに逆上され鞭でたたかれてしまう。ほうほうの手で逃げた後、ネッダの恋人シルヴィオがやって来て二人は翌日駆け落ちをする約束をするのでした。

 ネッダ役の谷さんはもなかなか好演なのですが、上記引用の時の田 月仙のヴィヴラートを効かせた歌いぶりを思い出してしまい、またトニオ役の倍田さんは声量もあり上手なのですが、上記引用のオペラで歌ったバリトンの今井俊輔の強いインパクトの歌が耳に残っていて、どうにもならない位のプロとの差を感じてしまいました。

 ここまで聴くと今回の試演会の実施要領が掴めてきました。入場した時暗かったのは(勿論次の舞台準備のためもあるのでしょうが)、実際のオペラ上演時の歌の合間に照明を付けない予行演習と演技が始まるとパッと舞台を明るくするのも「試演」の言葉通りだと思います。また舞台中央の前面真下の座席付近で指揮者を立てて振らせたのも、オペラの予行でしょう。残念ながらコロナのため、舞台中央部をプラスチック板で、左右に仕切らざるを得なかったのは、やや演技に影響が出たかも知れません。三時間にわたる上演なので、ピアの伴奏は三人交代で行った模様ですが、一人の指揮者が左右二人の歌手に向かって、また伴奏者を見ながら腕と手を的確に振りながら、最初から最後まで指揮をやり通したことは称賛に値いします。

 オケの指揮、合唱指揮は当然ありますが、演奏会方式の指揮は余り見かけません。ムーティのレクチャー付きマスタークラス演奏会では、時によってムーティが応募歌手が歌うのとピアノを指揮・指導することはある様ですが。今回は修了者が実際オペラ舞台に立った時に、指揮者の動きも良く把握して歌う様に、やはり試演の一つだったのでしょう。

 それからクラスのメンバー表を見ると、圧倒的にソプラノが多くて、男性修了生が少ない。そのため男女組み合わせたオペラの抜粋試演は、どうしても男性パートが不足するので「助演」の助けを求め、また同じ男性修了者に二役(三役の人もいたかな?)出演してもらうことにしたのでしょう。中々の工夫が見られます。それに感心したのは、配布された資料にはプログラムの他にプログラムノーとが別にあり、内容を見ると試演される場面を的確に説明し、しかもそのオペラの全体像も少しは理解できるように書いていたことは素晴らしいことだと思いました。出来たら一枚の資料で、演目(曲目)、出演者、声域、役柄、演目解説、が一目で分る様に一枚に纏められたらもっと理解し易くなったと思います。三枚の資料をあちこち見比べながら聴いていましたが少し煩わしかった。

 この後4試演があって再休憩、そしてその後4つのオペラの一節が試演されました。総じて男声も女声も声量に重きを置き練習を重ねたのか、大ホールにも通じるような大きな声量を多くの修習生が披露しましたが、声が大きくて(小ホールなので)耳にビンビン響いて来ても必ずしも心地良く聞こえる声質の持ち主ばかりとは言えませんでした。むしろ耳障りなケースもありました。やはり歌の基本は声の良さ、如何にいい声で歌を届けられるか、そして声量が有れば申し分ないですね。歌手になって最前線で活躍のオペラ歌手の皆さんも如何にいい声で歌うかには腐心している様です。何時だったかNHKテレビでやっていましたが、30、40になって再び先生に付き歌う訓練を受けることも珍しくな世の中です。ひと昔前、二昔前と比べたらはるかに日本人オペラ歌手の水準は上がったと断言出来ます。外国の歌手との差は縮んでいることは確かです。でもそれに追いつき追い抜いたとは言えません。そういう日が早く来ることを、そしてコロナが終息しても、外人歌手に頼らず日本人だけで集客できるオペラ公演がなされ、外国遠征(今でも一部で試みはされている様ですが)公演により国内国外を意識せず、どこでも高水準の上演を聴衆が楽しめる日が来るといいと夢見ております。そのために欠かせない条件は言語の習得でしょう。日本語、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語(出来たらスペイン語も)の読み書き話し、がある程度すらすらできる様だといいな、そうなりたいなと思う今日この頃です。

 それから今回のオペラ試演会にはヴェルディーを選んだ組が多かったことは理解出来ますが、プチーニが全然ありませんでした。それにモーツアルトも。ドニゼッティは人気なのですね。4組も選んでいます。全体としての傾向は最近実際に日本のオペラハウスで上演された演目が多い様です。愛の妙薬然り、イル・トロヴァトーレ然り、ヘンゼルとグレーテル、清教徒、シモン・ボッカネグラetc. 最近上演されたものも多くここ1~2年以内にほとんどが上演されたものでしょう。これは別に悪い事ではないですが、その他にオペラの名曲は沢山あるのですから、オペラ歌手で活躍したい人達であれば、もっともっと幅広い演目が出てきてもいいような気がしました。

 皆さんそれぞれ自分らしいいい処を出して歌っていましたが、一つ一つ記するのは時間の関係と字数が多くなり過ぎるので申し訳ないですが割愛します。全体として助演の上手な歌に引っ張られ(触発され)てソプラノも良くなっているケースが多々ありましたさん。例えば清水さんが助演した⑨『清教徒』での根岸さん。細部に問題が残るものの、概ね良い歌い振りだと思いました。また男声で何回も出演したケース、例えば宮下さんは3回も競演し見事なバリトンで、ソプラノの相手方を引き立たせていました。⑩『ルイザ・ミラー』での松浦さん。高音も出ていたし安定した歌い方でした。それに最後の⑭『シモン・ボッカネグラ』での鈴木さん。安定感も声量もあり、声が頭のてっぺんから出ていました。余程発声の鍛錬をして来たのでしょうね。と言っても、宮下さん、鈴木さんお二人とも一流オペラ歌手と比べたらまだまだ向上の必要性と余地はありますが(当然かな?

以上、雑駁になりましたが試演会前半の印象を記しました。

 

<参考>

二期会オペラ研修所の研修課程は以下のように分かれ自由に選択できます
3年コース 2年コース 1年コース
予科入学      
     
予科(1年間)      
 
進級
 
進級
本科入学  
 
本科(1年間)  
 
本科修了  
 
進級
   
進級
  マスタークラス入学
   
マスタークラス(1年間)
   
マスタークラス修了