クールベは、100点以上の「海の風景画」を描きましたが、そのうち40点ほどは、単に波のみに焦点を絞って描いたものです。しかもそのほとんどは、英仏海峡近くのエトルタに滞在した1869年~1870年にかけての作品で、彼は海峡の波の激しさにこれまで経験したことのない驚きと感動を抱いたに違いありません。
『秋の海』では、少し高い目線から連続して押し寄せる波を描き、その上の空の空間を大きく取って雲を夕焼け色に描くことにより、秋の様子を表現しています。
一方『波(ふくやま美術館所蔵)』では視線はやはり少し高い位置から遠くまで見える波を切り取っていますが、こちらの波は少しうねり模様で、その上の空の色からも天候が余り良くないことを示唆しています。右方遠方には小さな船を描き波の荒らあらしさを表現している。
これらに対し『波(愛媛県美術館所蔵)』は。低い目線から大波を見上げる構図で、画面の上半分は空の雲と雲間の青空をサラッと描き、波の克明な表現を浮き立たせています。特に黒い大波に弾けるしぶきの白さのコントラストが波のダイナミックな動きを、見事に表現しています。
『波、夕暮れにうねる海(ヤマザキマザック美術館所蔵)』も同じ低い位置から大波を捕らえたもので、遠景はほとんど見えないか見えても帆船の帆なのかどうかわからない位の描き方をしています。特筆すべきは、この波の構図のみならず、水平線上の空の夕焼け表現に、日本の北斎他の浮世絵の影響を感じられることです。
(ヤマザキマザック美術館所蔵)』