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東京交響楽団第84回定期演奏会(川崎)

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【日時】2021.12.5.(日) 14:00~
【会場】ミューザ川崎
【管弦楽】東京管弦楽団

【指揮】ジョナサン・ノット

【独奏】ゲルハルト・オピッツ(Pf)※
 ※当初の出演予定のピアニスト、ニコラ・アンゲリッシュが、来日出来ず変更になりました。彼は、2004年の来日公演で弾いた難曲で知られるブラームス「ピアノ協奏曲 第2番」が当時話題となりました。それを来日中のオピッツが、急遽代役として演奏します。ブラームスから曲目変更しないで弾くのは流石ドイツピアノの巨匠です。

 オピッツの演奏は、昨年末に聴いています。その時はベートーヴェンの最後の三つのソナタでした。参考までその時の記録を文末に再掲して置きます。

【曲目】
①ブラームス『ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op.83』


②ルトスワフスキ『管弦楽のための協奏曲』

 

 

曲目解説】

①ブラームス『協奏曲第2番 変ロ長調 op.83』

 初期の作品であるピアノ協奏曲第1番より、22年後に書かれたピアノ協奏曲。交響曲第2番やヴァイオリン協奏曲と並ぶ、ブラームスの成熟期・全盛期の代表作であり、最も有名な作品のひとつでもある。

初めてのイタリア旅行にインスピレーションを得て1878年に作曲が開始され、ウィーン近郊のプレスバウムに滞在中の1881年に完成された。この間にヴァイオリン協奏曲の作曲に集中していたため、2回目のイタリア旅行から帰国後一気に書き上げた。イタリアで受けた印象を基に書かれているためブラームスにしては明るい基調で貫かれている。楽曲構成上はピアノ・ソロが単独で自由に奏するカデンツァ的な部分は無いとも言え、ソリストの超絶技巧の見せびらかしとしての協奏曲という従来の協奏曲観からは意図的に距離をとった作品であるが、それにもかかわらず、この作品が現実に要求する桁外れの難技巧は、多くのピアノ奏者や教師をして「最も難しいピアノ曲の一つ」と呼ばせてもいる(ちなみに記録によればブラームスはこの曲を自らの独奏で初演しており、ブラームス自身のピアノ演奏の技術の高さがうかがえる)。

ピアノ協奏曲第2番の一般初演は、1881年11月9日、ブラームス本人の独奏、アレクサンダー・エルケルの指揮によりブダペストで行われた。不評だったピアノ協奏曲第1番と異なり、この作品は即座に、各地で大成功を収めた。ブラームスはその後、ドイツ、オーストリア、オランダでこの作品の演奏会を繰り返し開き、そのうちの幾つかはハンス・フォン・ビューローによって指揮された。

 一般的に古典派、ロマン派以降の協奏曲は3楽章から構成されるが、この作品は交響曲のようにスケルツォ楽章を備えた4楽章からなる。

第1楽章 Allegro non troppo
変ロ長調、4/4拍子、ソナタ形式。        

第2楽章 Allegro appassionato
ニ短調、3/4拍子のスケルツォ、複合三部形式。スケルツォ入りの協奏曲としては、アンリ・リトルフの5曲の「交響的協奏曲」、フランツ・リストのピアノ協奏曲第1番という先例がある。

第3楽章 Andante
変ロ長調、6/4拍子、複合三部形式。この楽章からトランペットとティンパニは使用されない。 ヴァイオリン協奏曲第2楽章のオーボエのように、主題提示をピアノではなくチェロ独奏が行う。

第4楽章 Allegretto grazioso - un poco piu presto
変ロ長調、2/4拍子、ロンド形式。

②ルトスワフスキ『管弦楽のための協奏曲』

 ポーランドの作曲家ルトスワフスキによって、1950年から54年にかけて作曲された管弦楽曲。ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者ヴィトルト・ロヴィツキに献呈された。

初演:1954年11月26日、ワルシャワにて。
この作品の成功により、ルトスワフスキの西側諸国での知名度が上がった。

種々の楽器のために民俗音楽的な小品を作曲した経験を生かし、ルトスワフスキはポーランド民族音楽によるより大規模な作品の作曲をしようと考えた。しかし、この作品はその規模が大きくなったというだけでなく、この作品においては民族音楽は旋律の主題にのみ残されたという点で特徴的である。ルトスワフスキは、これらの民謡に原曲とは異なる和声法をほどこし、さらに無調の対位法などを施して、これらを新バロック様式に生まれ変わらせている。

第1楽章:Intrada. Allegro maestoso (導入曲)2つの主題による序曲。

第2楽章:Capriccio notturno e arioso. Vivace (夜の奇想曲とアリオーゾ)
軽やかなカプリチオ。とくに優れたスケルツォである。主要主題はヴァイオリンで歌われる。その後金管楽器がアリオーソを奏でる。

第3楽章:Passacaglia, toccata e corale. Andante con moto (パッサカリア、トッカータとコラール)
3つの部分からなる。まず、コントラバスによってパッサカリアのテーマが示され、それが変奏される。次に、快活なトッカータが続き、最後に器楽コラールになる。

 

【演奏の模様】

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①ブラームスコンチェルト

器楽構成は、

フルート2(ピッコロ持ち替え1)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2(第2楽章まで)、ティンパニ1対(第2楽章まで)、弦五部16型。

この曲は、ベートーヴェンの5番「皇帝」、シューマンのイ長調と並んで三大ピアノコンチェルトに挙げる人もいます。その他ショパン、ラフマニノフ、グリーグ、モーツアルトのコンチェルトと組み合わされ並び称されることも有ります。ただ交響曲1番と同様、少し分かり難い所があるかも知れません。でも聞けば聞く程、噛めば噛むほど味が出て来る名曲に変わりは有りません。

 演奏者にとっては、上記曲目解説にもある様に、かなりのテクニックを要する難曲であることも確かです。演奏者が変更になって代役が選ばれ、演奏会まで余り日数が無い場合には、曲目変更がなされることは珍しくありません。オピッツが同じ曲を引き受けるということは、如何に自分の演奏に自信があるかを示しています。

 如何にもドイツ人の風貌と体躯のオピッツが登壇し、挨拶が終わりピアノに着くなり、ジョナサン・ノットはタクトを振り始めました。オピッツの演奏は、第一楽章こそ、いつもよりやや力強さが弱いかなと思われる弾き振りでしたが、相変わらずあの太い指でどの様にしたらこの様な綺麗な音が出るのか、と不思議な位繊細な音を出していました。 この曲ではオケはほとんどの箇所で弦楽アンサンブルが前面に出て、今日のノット指揮東響は弦の響きが大変良く、特に低音弦が最初から最後までずっしりと重しを成していました。確かコントラバスは8艇揃えていたと思います。かなり大時代的なシンフォニー的終了でした。

 第二楽章は、普通ピアノ協奏曲にはないスケルツォ的存在を加えたもので、シンフォニーに従ずる様式です。オピッツはエンジンがかかって来たのか、一楽章よりもさらに力強いタッチで、オケの音を打ち消す様な箇所も有り、かなりの充実した演奏を見せて呉れました。中盤の短いカデンツア的Pfソロに、Hrのメロディが合いの手を入れ再びPfソロが強奏し、分散和音の美しい流れがObによってささえられて、この楽章のピアノの活躍度はアップしていました。 最後はテーマが繰り返され(その時の非常に高音の跳躍音が三回ぐらい入りアクセントとなっていた)ここの最後もあたかもシンフォニー的な終わり方でした。

 第三楽章はチェロの流れる様な優雅なソロ音で開始、かなり長いと感じられる前奏です。穏やかにオケが同じテーマで続き、Obの音も聞こえます。ピアノが静かに入って来て、矢張り優雅な素敵な曲を弾き始めました。次第に力が入るオピッツ、静かなCl音とPfの語り掛けの後再度Vcのソロが復活、オピッツは、むしろ伴奏と思える程Obに寄り添っていました。この楽章は静かに終了。 

 第四楽章はピアノの清明な軽やかな旋律からスタート、次第にオピッツもジョナサンオケも力が入って行き全力投球に入ました。変奏テーマをピアノが弾くと一呼吸おいてオケが同奏、交互に力一杯全力で演奏しています。最後はかなり速いパッセッジでオピツとオーケストラが音を次々と繰り出し、最後は力は入っていますが、割りと淡白な終了となりました。                                いつも感心するのは、オピッツの泰然とした様子で最初から最後まで冷静に弾き切るところです。

 ブラームスの旋律は、左右を駆使した多重和音による音の遷移なので、深味のある重厚さを感じるメロディがずっしりと響いて来ました。

 聴きに行く前に、時間的余裕は余り無かったのですが、ブラームスの作品は、U-Tubeで多くの組合せ録音の中から、『バックハウス+ベーム指揮ウィーンフィル』と『フィッシャー+フルトベングラー指揮ベルリンフィル(高音質リマスター版)』を選んで聴きました。何れもドイツ風の解釈のピアノ演奏で、流石と思われるものでした。特にフルトベングラーのベルリンフィルの演奏は戦時中の1942年のライヴですが、ピアノに寄り添ってオーケストラの移ろいゆく動きと言うかうねりというか、素晴らしいダイナミズムを感じるものでした。

 

 今回はオピッツのピアノ演奏を主として聴きに行ったので、ルストフスキーの演奏に関しては、時間の関係も有り、後日時間をとって記するつもりです。

 

《追記稿》

②ルトスワフスキーの『管弦楽のための協奏曲』

器楽構成は、①の時より管、打楽器が補充されました。         

フルート3(うち2本はピッコロ持ち替え)、オーボエ3(うち1本はコーラングレ持ち替え)、クラリネット3(うち1本はバスクラリネット持ち替え)、ファゴット3(うち1本はコントラファゴット持ち替え)、ホルン4、トランペット4、トロンボーン4、チューバ、ティンパニ、スネアドラム、テナードラム、バスドラム、シンバル(大,小-クラッシュ)、タンブリン、タムタム、シロフォン、鐘、チェレスタ、ピアノ、ハープ2、弦五部16型。

この作曲家も作品も初めて聴きます。ぶっつけ本番です。家に戻ってから作曲家と作品について調べたところ次の通りでした。

Profile】

1913年1月ポーランドのワルシャワに生まれた。1937年ワルシャワ音楽院

を卒業。1954年に代表作、管弦楽のための協奏曲を作曲した。UNESCO国際作曲家会議で第一位受賞、頭角を現す。1959年~1965年は、国際現代音楽協会ISCMのポーランド支部委員に選出。1963年からは、ヨーロッパ全土で活躍。各地で絶賛される。1983年からは、伝統的なスタイル「交響曲」、「協奏曲」、「ファンファーレ」、「パルティータ」といった楽曲を作曲する事が優勢になった。ポーランド初のISCM名誉会員へ選出。

1994年2月、作曲中に急逝。81歳没。妻も同年に没した。

【曲目解説】

『管弦楽のための協奏曲』は1950~54年にかけて作曲された管弦楽曲。ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者、ヴィトルト・ロヴィツキに献呈された。

 この作品の成功により、ルトスワフスキの西側諸国での知名度が上がった。

種々の楽器のために民族音楽的な小品を作曲した経験を生かし、ルトスワフスキはポーランド民族音楽によるより大規模な作品の作曲をしようと考えた。しかし、この作品はその規模が大きくなったというだけでなく、この作品において民族音楽は旋律の主題にのみ残されたという点で特徴的である。ルトスワフスキは、これらの民謡に原曲とは異なる和声法をほどこし、さらに無調の対位法などを施して、これらを新バロック様式に生まれ変わらせている。

第1楽章:Intrada. Allegro maestoso (導入曲)

     2つの主題による序曲。

第2楽章:Capriccio notturno e arioso. Vivace (夜の奇想曲とアリオーゾ)

    軽やかなカプリチオ。とくに優れたスケルツォである。主要主題はヴァイオリンで歌われる。その後、金管楽器がアリオーソを奏でる。

第3楽章:Passacaglia, toccata e corale. Andante con moto (パッサカリア、トッカータとコラール) 

 三つの部分からなる。まずコントラバスによって パッサカリアのテーマが示され、それが変奏される。次に、快活なトッカータが続き、最後に器楽コラール。

の三楽章構成。

【演奏の模様】

    あの決して狭くはないミューザのステージ一が、楽器で一杯埋め尽くされています。グランドピアノもある、ハープは2台揃って、それから打楽器群が大から小まで、様々な物が置いてあります。マーラーの交響曲でも大編成の曲がありますが、そこまでは行かないまでも、これはかなりの迫力を期待出来そうです。 

〇第一楽章                                           Timpのダンダンダンに合わせて、低音弦(Vc+Cb)が静かに響き、ついで弦楽アンサンブル、ObやFtの管がタラッタというテーマを繰返す中、相変わらずダンダンダンは同じテンポで拍子をとっています。突然高音金管のメロディが流れ曲想転換が起こる。続く機関車の様な疾走リズムが走るとTimpはこの間大活躍、気を抜く暇もないといった感じ。

〇第二楽章                                               非常に速いVnの調べが、起伏のあるトレモロ風に聴こえます。次第にFtとObが加わりテーマを繰返す。Ftが一貫して先導、引張っています。弦楽アンサンブルは1Vnに2Vn、Va、Vc、Cbもフーガ的に参加、せわしなく響きが広がりました。フルート持ち替えピッコロが高い速い音で鳴き騒いでいます。Trpのファンファーレが聞こえました。太鼓の音もしてシンバルが鳴らされ、管弦楽は既に強奏の世界、すごい迫力です。マエストロ・ノットは体一杯を使って、猛獣が獲物を狙い撃ちするような様子で、次々と各楽器に指示をあたえています。各パートも必死に指揮者に食い下がっていました。

〇第三楽章                            

 ハープ、ピアノの低い音が聴こえ始めました。Cbがボンボンボンと鳴っている。続いてOb、Ftと続き、各楽器フーガ的に同じメロディを繰返していました。次第に音は強まり、管はそれぞれ全力に向かっている感じ。弦は最初ピッツィから強奏に変わり、管弦は轟音を立てて喧騒の真っただ中に突入、この辺りピアニストも弾いていますが、ピアノ音は聞こえません。物凄いエネルギーを指揮者が発散させていて、それがオーケストラ全体に広がっていく様子は、聴いていても見ていても、これぞ大編成オーケストラの醍醐味だぁ!!と叫びたくなる程でした。いつも思うのですが、この様な大編成で特に管楽器や様々な打楽器が加わったオーケストラでは、聞く楽しみプラス見る楽しみ、どの楽器が音を立てているか指揮者と演奏者の関係などキョロキョロして見て、納得する楽しみが加わります。そうした楽しみはマーラーの交響曲でも十分味わえるのですが、今回の様なモダン派の音楽だと、特にそれが意識されて曲が出来ている場合が多いので、いい機会でした。まさに各パート楽器による『協奏曲』の競演でしたね。

 自分にとっては久し振りの大熱演を、ノット指揮東響オケに聴かせて貰って、大いにスカットした満足な気持ちで家路につくことが出来ました。

《追記了12/7》

 

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『ゲルハルト・オピッツ ピアノリサイタル』を聴いてきました。

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 1953年ドイツバイエルン州生まれのオピッツは今年67歳、長年ミュンヘン音楽大学で教鞭をとりました。今では数少ないウィルヘルム・ケンプの弟子です。ケンプは誰もが認める「ベートーヴェン弾き」、ケンプの弾く32番のソナタのCDが家にあったので事前に聴いておきました(普段はアラウのベートーヴェンソナタを聴いています。)

 今回ベートーヴェン生誕250年を記念して各地で来日公演をしたのです。近場の横浜でも11月8日に演奏会があったのですが、曲目が別なものだったので行きませんでした。 今回はベートーヴェンの「最後の三つのソナタ」を弾くというので行ったのでした。なぜならば11月16日に「藝大奏楽堂」でソナタ32番を渡邊健二教授が弾き、それを聴いて感銘を受けたことと、最近30番、31番、32番の三つの曲が連番で入っているアラウが演奏するCDを、家で聴くことが多いことが、聴きに行きたいと思った大きな要因でした。

 

【日時】2020.12.11. (金)19:00~

【会 場】東京オペラシティコンサートホール

【演奏曲目】

①ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調 op.109

②ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 op.110

③6つのバガテル op.126
④ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 op.111

 

【演奏の模様】

 開演となり登壇したオピッツは、白い短髪と短い白鬚に覆われその柔和さは如何にもドイツ人といった風貌で、今の時期、赤色のガウンと、毛糸の三角帽を被れば、立派なサンタクロース(🎅)そのものです(失礼)。

①挨拶の後すぐにピアノに向かい30番のソナタを弾き始めました。がっしりした体躯から伸びた腕も太くて頑丈そうです。しかし平たく構えた太い指から紡ぎ出される音は、ビアノとは、こんなに繊細できれいな音が出るのだと感動すらする響き、録音では決して味わえない音です。

 オピッツは、終始落ち着き払って不動の姿勢でかなりゆったりしたテンポで弾いています。二楽章でも三楽章でも、右手の小指から出る高音のきれいな音、鍵盤を撫でる様にして弾いている。三楽章の終盤の速いパッセージも指をやや丸めて、あくまでソフトにタッチしていました。ソフト感が目立った演奏でした。 

 

②この31番の曲は、30番、32番程深い精神性を感じるものではありませんが、メロディが親しみやすさがある曲なので、若い人にも人気がある様です。何故か世に売り出した初期の頃のソナタの初々しさも感じる曲です。

 一楽章のModeratoでは、①の冒頭よりもさらに落ち着いた様子で、右手のしっかりしたタッチから、この世にこんなにも奇麗な澄んだピアノの高音が出るのかと思われる程の素晴らしい調べを奏でていました。録音では、何故この様な繊細さが出ないのでしょう。カットされている周波数の音のせいでしょうか?これはピアノの打鍵でなく、まるで鍵盤の愛撫ですね。

 第二楽章の速いパッセージも不動の姿勢で演奏、軽快に歯切れの良い演奏でした。

 三楽章のAdagioでは、ややせっないとも感じる主題をゆっくりと、しかし遅からず速からず絶妙のテンポで歌い上げていく、これはもう鍵盤に歌を歌わせているに等しいですね。低音のff部はズッシリとした重量感溢れる調べですが、やはり不動の姿勢で指を少し高くして、少し強く振り下ろす程度で音を出していました。如何に長い年月を演奏して、身に付いている音を軽々と繰り出しているかが分かりました。

長いフーガの最後は、相当力を込めて弾いていました。でもかなりゆっくりしたフーガでした。

 

《15分間の休憩》

 今日の演奏会でもホール放送は、感染症防止対策とその注意点を繰り返し放送していました。一階席は市松模様ではなく、連番でチケットを販売した様なので、前の方の席はかなり入っていましたが、後部席になる程空席が目立ちました。コロナの急速な拡大で来れなかった人も多くいるのではないでしょうか。自分の席は、ピアノリサイタルの場合鍵盤の見え二階のⅬ席を選ぶ場合がほとんどなのですが、どういう訳か両隣とも誰も来ませんでした。幸運にも密を避けることが出来たので安心して鑑賞出来ました。

③『バガテル』とは、フランス語の“Bagatelle”が語源で、もともと“つまらぬもの”の意味ですが、いい意味で使う場合は  “小さくて愛らしいもの” 位の意味です。有名な用法はパリ16区にある『La Roseraie de Bagatelle(バガテル薔薇園)』です。

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パリ・バガテル薔薇園

広大なパリのブローニュの森(約850万㎡)にある“Parc de Bagatelle(バガテル公園)”の一画にある薔薇園です。語源は“バガテル城(1777年建造)”から来ているみたい。

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バガテル城

 確かにお城というより‘小さな館’ですね。フォーレやドュビッシーやラベルが活躍していた時代にもあった薔薇園です。ベートーヴェンはこの薔薇園は知らなかったでしょうが、バガテル城の事、特にその建造期間についてマリー・アントワネットが義理の弟のアルトワ伯に賭けで負けたエピソードはきっと知っていたことでしょう。

    ベートーヴェンのピアノ作品『6つのバカデル作品126』はピアノ・ソナタという程ではないけれど、6つの愛らしい小作品の意味です。その他にもバガテルをベートーヴェンは書き残していますが内容的にも纏まりから言っても、この126番が一番有名です。一連のソナタ全曲を書き終わった後の最晩年のピアノ曲です。何れも数分の短い曲で全体でも約20分です。  第1曲は初期のピアノ・ソナタを思わす様な優雅な響きがあり、時々左右少しずれる様な音があるリズムの処も面白い。第2曲はバッハ的対位法の様な左右の指から繰り出す音の掛け合いが見事 第3曲は心に染み入るゆったりした落着いた旋律で長いトリルが美しい。 第4曲は軽快で力強いリズミカルなくるくる回って踊っている場面を連想してしまいそう。聴いていてさみしさが募る第5曲、最後の6曲は結構激しくて速い導入の後、スローなどこかショパンを思わすようなメロディ、これ等をオピッツは前半の二つのソナタで見せた優美さとしっかりとした指使いで見事な一連の絵巻として描いて見せたのでした。

          

④32番のソナタは、ベート-ヴェンのソナタの中では少数派の二楽章構成(19、20、21、22、24、27、そしてこの32番)ですが、二楽章構成のソナタには、いい曲が綺羅星の様に輝いています。 21番『ワルトシュタイン(27分)』、24番『テレーゼ(10分)』の名称付きは勿論のこと、20番(9分)もなかなかいい曲なので好きです。最後のソナタ32番(30分)に至るとこれはもう、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの集大成・最高傑作と言って良いでしょう。二楽章構成の曲達の中でも異例の長い曲で、如何にベートーヴェンが力を尽くしてこの32番を作曲したかが伺えます。       

さて一楽章の冒頭で、左手⇒右手⇒左手⇒右手でババーン、ババーン、ジャジャ、タララララララララ というかなりドラマティックな音が立ちましたが、オピッツは今日の演奏の中でも最大と思われる大きい音量で、力を込めて演奏していました。それを二回繰り返した後の不気味な低音も、強い調子でリズミカルに表現、そして速いパッセージに移ると「忙中閑あり」というより「急中緩あり」の微妙な速度の変化で以て表現性豊かに弾き、その匙加減は見事と言う他無かったですね。最終音は随分と長くペダルを踏んだまま伸ばして消え入る様に終了しました。    

 二楽章は長い楽章ですが、最初のAdagioの主題は随分とゆっくりしたテンポで始まり、丹念に音を紡ぎ出しています。兎に角音が綺麗。主題が次々と変奏され、速く小さな音の部分でドンと足がステージを踏みつける音が二三回聞こえましたが、これはペダルを踏んでいた足を離して床に戻す時音がしたのでしょうか? 

 最終場面で、右小指でメロディの音を飛び飛びに出し、両手を揃えながら他の指は伴奏的に弾いていく箇所では、最高音が何と素晴らしく響いた事でしょう。兎に角、格が違う感じです。 将にもう巨匠の域にいると言っても良いのでしょう。

 ケンプやゼルキンやアラウより、旋律表現も演奏法も随分淡々としたものでした。 でもこの3人の名人の中ではケンプに一番近い奏法かな?

 まだ60歳後半ですから、これからズーッと世界のピアノ界をけん引して、末永く我々音楽愛好者を楽しませて下さい。