HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『エマニュエル・パユ(Fl.)&パンジャマン・アラート(Cemb.)』リサイタル

 表記のリサイタルは、11月下旬に、サントリーホール、フェスティバルホールでの公演が中止となったもので、その後地方公演は実施されると聞き、関東地区の現地チケット販売所に問合せても、殆どが売り切れで当日券販売も無いとのことでした。ただ一カ所、千葉県の浦安公演だけが可能だというので、慌てて手配したものです。今回が最終の演奏会だそうです。

f:id:hukkats:20211203004321j:plain

プログラムの概要は、次の通りです。

【日時】2021.12.4.(土)15:00~

【会場】浦安音楽ホール

【出演】エマニュエル・パユ(Fl.)

               バンジャマン・アラール(Cemb.)

【Profile】

〇Emmanuel Pahud

 1970年ジュネーブ生まれ。5歳でリコーダーを、6歳でフルートを始め、フィピップ・ビネとフランソワ・ビネに学んだ。バーゼルでグラーフに、パリ音楽院でフルートをアラン・マリオン、ミシェル・デボストに、室内楽をピエール=イヴ・アルトー、クリスチャン・ラデルに学び、1990年に首席で卒業した。その後もバーゼルでニコレに師事した。

1989年から1992年までバーゼル放送交響楽団首席奏者を務めた。1991年10月にミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の入団試験を受けて合格し、1992年12月から首席奏者として演奏する契約であったが、1992年10月にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の入団試験を受けて合格したため、ミュンヘン・フィルでは一度も演奏していない。ベルリン・フィルでは1993年9月から首席奏者として演奏を開始した。2000年、抱える仕事の多さからオーケストラに休暇願を出そうとしたが認められなかったため、6月に一時退団したが、2002年4月に復帰した。

〇Benjamin Alard

1985年フランス生まれ。 7歳でピアノを始める。
ルーアン・コンセルヴァトリウムでルイス・サリー、フランソワ・メニシエの下オルガンを学び、エリザベス・ジョイエの下チェンバロを学んだ。彼の特別な古楽への関心は、バーゼルのスコラカントルムへと彼を導いた。そこでジャン=クロード・ツェンダーにオルガンを、アンドレア・マルコンにチェンバロを師事。 彼の卒業証書は、グスタフ・レオンハルトの下で授与された。
2004年にチャイコフスキー・コンクールやショパン・コンクールに匹敵する、権威あるブルージュ国際古楽コンクールに優勝、聴衆賞を同時に獲得して注目を集めて以来、ソリスト、ラ・プティット・バンドやヴェニス・バロック・オーケストラ等のチェンバリスト、パリの教会のオルガニストとして活動、世界各地で演奏を行う。
2005年より、パリのサン・ルイムーティエ=アン=リルのオルガニストである。

古楽を中心としたハイセンスなCDをリリースしているハルモニア・ムンディ・レーベルが、彼一人によるバッハのチェンバロとオルガン作品の全曲録音という壮大なプロジェクトをスタート。ツェンダーやレオンハルトらに代表されるヨーロッパの正統的古楽のDNAを受け継ぎながらも、唯一無二の魅力をもった演奏をする。

 

【曲目】

①クープラン『王宮のコンセール第2番 ニ長調』

②ラモー『コンセール用クラヴサン曲集より 第5コンセール「フォルクレ」「キュピ」「マレ」』

③ルクレール『フルート・ソナタ Op.1-2 ハ長調』

 

*****《休憩》******

 

④J.S.バッハ『無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調BWV1013』 ★フルート・ソロ

⑤J.S.バッハ『フランス組曲第5番 ト長調 BWV816』★チェンバロ・ソロ

⑥J.S.バッハ『フルート・ソナタ ロ短調 BWV1030』

 

【演奏の模様】

会場の「浦安音楽ホール」には、東京駅から京葉線で新浦安駅まで行きました。京葉線に乗ったのは、何十年ぶりです。途中長が~い動く歩道があるのですね。それに乗って幕張メッセまで、展示会を見に行った昔のことを、思い出しました。あの頃はビックサイトが無かったので、大きな展示会は、大体遠い幕張で開催されていた。さて京葉線に乗って車窓の風景を見ると、昔とは大違いです。びっしりとビルが建ち並び、その間隙から僅かに海が望めます。更に驚くのは、林というか森というか緑(寒い時期なので、黒ずんではいますが)に覆われた所が、随分多く見えました。途中駅の看板には、「・・・公園」とあります。きっと都民の憩いの場になっているのでしょう。新浦安駅は初めて降りました。小奇麗で改札を出ると、JRが各地駅に展開している「Atle」商店街がすぐ目の前でした。今回のホールは改札口職員に訊いたら、突き当りを右折して真直ぐ行くとすぐです。という言葉を信じその通りに進んだら、大きなスーパーのビルとショッピングモールに取り囲まれた広場に出ました。イルミネーションが綺麗なので写真に収め、モール沿いに ❛ホール❜ ❛ホール❜ と探しましたがそれらしいものは書いてありません。変だなと思いコーヒー店の人に訊いたら、今来た道を戻って左折して暫く行くとビルの外側にエスカレーターが見えるのでそこを六階分乗って降りるとそこがホールですと教え得て呉れました。駅で聞いたのとはまるで違います。何なのだあの駅の案内は?と先日、みなとみらいで親切に教えてくれた青年を思い出してしまいました。

 確かに長く続く直線のエスカレータがあって、同様なものに二回乗ると小さなホールがありました。もうすでにかなりの観客が入場手続きをしていました。

ホールの正式名称は「JCOM浦安音楽ホール」。2005年のジェイコム株大量誤発注事件とは関係ない会社の様です。

 開演時間が近づくと会場はほぼ一杯。圧倒的に(九割方)女性が多い。登壇したパユは勘緑十分の映画俳優と言っても良い位の端正なマスク。自信満々に見えます。一方のアラールは眼鏡を付けた髭面の真面目そうでやや気の弱そうな背が高い男性でした、噂によると若い頃のパユ(現在51歳)は追っかけが出る程のいい男だったそうです。女性観客が多いのもうなづけます。

 さて演奏の方は、前半が、バッハとほぼ同じ時代(17世紀後半から8世紀前半)のフランスの作曲家の曲。何れも名の通った有名な作曲家です。後半はオールバッハ。

 最初のクープランの曲は、最初ゆったりした太いフルートの良い音が響いて来ました。気負いは感じられず自然と音が流れ出る様です。チェンバロとの掛け合いも絶妙。二楽章の鳥のさえずりの如き速いパッセージが、次楽章のゆっくりした短調の調べの柔らかさを先取りし、息を長がーく伸ばす箇所、その後の息継ぎは、無理なく、自然に任せているみたいにスムーズでした。まさにベルサイユ宮殿のロココ演奏を彷彿とさせる二人の息の合った演奏でした。想像していたよりもパユの音質は柔らかい、ランパルより柔らかい、ニコレに近いかな?

 次のラモーの曲は、パッと派手な華やかさは無い曲でしたが、ラモーらしいテンポの変化や2楽章でのFlのユックリしたメロディ、素早いテンポの旋律を2回続けて組み込み、それの繰り返しを含めると4回出て来るところの面白さ、及び最終楽章でのCembが割りと華やかな演奏が印象的でした。もともとチェンバロや通奏低音のための楽曲で、VnパートをFlで演奏しているので、ヴァイオリン程の華やかさは見られないのかも知れません。Fl. Cemb.ともに完璧な演奏で、フルートは益々上昇気流に乗って舞い上がり、チェンバロはしっかりとした安定感のある演奏でした。

 次曲のルクレールは、音の装飾を含む相当華やかさを組み込んだ曲で、如何にもルクレールらしさが溢れた曲でした。

当初Flは高音で朗々とゆっくり旋律を奏で、Cembは伴奏に徹している。途中短調に転じ、この辺りから速い修飾音が目に付き始めました。次楽章ではFlの速いテンポの高音が冴え、Cembも華やかににぎにぎしく音を立てている。最終楽章の速いジーグでは、メロディ自体が修飾的に構築、パユは時折足で拍子をとりながら、低音から高音まで縦横無尽に音を立てていました。

 前半を聴いただけでも、パユのフルート演奏は思っていた何倍も素晴らしい円熟した演奏でした。チェンバロのアラールは非常に安定した着実な演奏の中にきらびやかさを秘めたやはり超一流のものと感じました。

 休憩を挟んで後半は。いよいよバッハです。

 休憩中に確かめたのですが、チェンバロは1700年代のチェンバロを1995年に再現したジャーマン式二段鍵盤のチェンバロだそうです。仲々しかりした本格的な音のする楽器でした。

 

《休憩》

 

 後半の最初はバッハの無伴奏ソナタ。何回これまで聴いたか分からない程好きな曲です。この演奏がこの日の圧巻でした。第一楽章の旋律に低音の跳躍音が組み込まれているパッセッジ、第二楽章の速いテンポの切れの良いリズム、三楽章の有名なゆっくりとしたメロディ、最終楽章の大図目の弾きこなし、何れをとっても、パユの表現豊かな(強中弱あり、速い中に遅あり)表現力は流石でした。かなり息継ぎもせわしく必至さも窺えましたが、二楽章での繰返し部は相当なテンポで飛ばし、修飾音がかなり組み込まれていました。三楽章は麗しく非常に美しい表現は驚く程、斯くの如く個性的なパユの無伴奏ソナタはこれまで聴いたことの無い程の感動ものでした。この曲はニコレの録音(LPです)を好んで聴いていましたが、パユはそれとも違う(確かニコレにも師事したのでしたね)またランパルとも異なる自分の世界を曲に実現している将に「パユの無伴奏ソナタ」でした。今日の二人の演奏は息のぴったりあった近年稀れに聴く名演でした。

 次の演奏は、アラートによるチェンバロ独奏です。フランス組曲には沢山の曲があって全部で六つの「フランス組曲」から成ります。ここの第五番は、親しみやすい旋律が多く、アラートの最初の音を聴いただけで、あーあれかと思い出す知っている曲でした。アラールは、寸部の誤差も無いと思われる正確なタッチで、非常に安心感のある演奏をしました。決して出過ぎずかといって自己主張する処はしっかりと音を立てていました。これだけ弾けるチェンバロ演奏者は日本にもいるのでしょうか?今回、パユのフルートを目当てに聴ききTのですG、アラートの実に端正な演奏に遭遇し、収穫が大きかった。

 最後のバッハ、ロ短調ソナタはバッハの1番~6番までのソナタの中でも別格の横綱の存在です。手元にランパルの全曲演奏(チェンバロはピノック、チェロはピドゥ)のCDを置いておき、いつでも聴きたい時はちょくちょく出して聴いています(。ニコレの演奏の方が好きなのですが、LPなのでレコードを掛けるのが、針の関係も有りCDより面倒くさくて、聴くことが少ない。)自分は演奏家では無いですが、耳かじりで曲の細部まで全部頭に入っています。一つ一つ繰り出すパユの調べは、勿論完璧で素晴らしいのですが、若干精彩に欠けるかなといった感じもしました。無伴奏ソナタに全力を傾け、やや疲れが出たのかなと思いました。この曲は、バッハの種々様々な曲の中でも神に近づいている曲の一つだと思います。余りに神々しくて聴いた後はいつも精神がすっきり気持ちが晴れる様な気がします。それ故身近な人間味は感じられない遠い高い存在なのです。六つのソナタの中では、次の2番変ホ長調のソナタの方が好きですね。バッハの人間味溢れた親しみやすい曲なので。

 尚、本演奏終了後、アンコール演奏が二曲ありました。

①バッハ『フルートと通奏低音(今日はチェンバロ伴奏でしたが)のためのソナタ ホ短調BWV1034』より第3楽章Andante

②『アヴェ・マリア』

 今日は、横浜からはるばる千葉県まで聴きに来た甲斐がありました。新たなコロナ変異株の出現も有り、暫くは海外の演奏家を聴く機会はより少なくなるかと思いますが、パユさん、まだ50歳ですから(因みに上記CD録音時のランパルは60歳台)まだまだ今後活躍されて巨匠となり、来日若しくは機会があれば海外ででも再度聴く機会があればいいななどと夢想する今夜でした。きっといい夢を見れるでしょう。