HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

「第39回横浜市招待国際ピアノ演奏会」

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国際ピアノ演奏会

【日時】2021.11.6.(土)16:00~

【会場】神奈川県立音楽堂

【演奏者・曲目】

①ダニエル・チョバヌ(ルーマニア) ※Disklavier(TM)によるリモート出演
 ムソルグスキー:組曲《展覧会の絵》

②桑原志織(日本)
 バッハ(ブゾーニ編曲):《無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 ニ短調》BWV 1004より 第5曲〈シャコンヌ〉
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 作品110

③.ケイト・リウ(アメリカ)
 モーツァルト:ピアノ・ソナタ第8番 イ短調 KV 310
 ショパン:バラード第1番 ト短調 作品23

④ジャン・チャクムル(トルコ)
 シューマン:クライスレリアーナ 作品16

【演奏者略歴】

ダニエル・チョバヌ

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1992年生まれ。2017年のアルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノ・コンクール(イスラエル)第2位及び聴衆賞受賞で一躍、国際的な注目を集める。
 ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメンにはラドゥ・ルプーの代役に抜擢され、以後ライプウツィヒ・ゲヴァントハウス・オーケストラやロイヤル・フィルハーモニー・オーケストラなどと共演。2010年にロイヤル・フェスティヴァル・ホールにデビュー。
 ミュンヘンのガスタイク、ヴィーン・コンツェルトハウス、ザルツブルク・モーツァルテウム、ラジオ・フランス・オーディトリウムなどでリサイタルを行う。
 スコットランド王立音楽院を経て、パリ・エコール・ノルマルでマリアン・リビツキ、ベルリン芸術大学でパスカル・ドゥヴァイヨンおよびマルクス・グローに師事。
 2017年に故郷でネアムツ音楽祭を創設。

 

桑原志織

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1995年東京生まれ。2018年東京藝術大学ピアノ専攻首席卒業、伊藤恵氏に師事。宗次德二特待奨学生第1期生。16歳で東京音楽コンクール2位。福田靖子賞優秀賞。

藝大1年次に日本音楽コンクール2位及び岩谷賞(聴衆賞)。マリア・カナルス国際、G. B. ヴィオッティ国際、ブゾーニ国際にてそれぞれ2位、ブゾーニ作品最優秀演奏賞受賞。2021年第16回ルービンシュタイン国際ピアノコンクール(イスラエル)では、日本人として44年ぶりの上位入賞となる第2位入賞を果たした。
 ドイツ、イタリア、プラハ、ウィーン、ホノルル等、内外のリサイタルや音楽祭に多数出演。 ドヴォルザークホール(プラハ)でのコンチェルト演奏等、主要オーケストラとの共演も多い。
 2018年よりクラウス・ヘルヴィッヒ氏に師事し、ベルリン芸術大学大学院にて研鑽を積んでいる。江副記念リクルート財団奨学生。

 

ケイト・リウ

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 2015年、第17回ショパン国際ピアノ・コンクール第3位、マズルカ賞受賞。 1994年シンガポール生まれ。シカゴ音楽院を経て、カーティス音楽院でロバート・ マクドナルドの指導の下で研鑽を積み、ジュリアード音楽院で同氏およびヨヘベド・ カプリンスキーに師事、修士号およびアーティスト・ディプロマを取得。
 これまでにソリストとしてニューヨークのカーネギー・ホール(ワイル・リサイタル・ホール)、ワシントンDCのケネディ・センターやフィリップス・コレクションなどに出演。
 また、クリーヴランド管弦楽団、モントリオール交響楽団、読売日本交響楽団等と共演している。
 2016年にはポーランド国立ショパン協会のレーベルからショパン作品集をデビュー・アルバムとしてリリースした。

 

ジャン・チャクムル

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 2018年に開催された第10回浜松国際ピアノコンクールに優勝、同時に室内楽賞も受賞。
 2017年にはスコットランド国際ピアノコンクールで優勝。ロンドンのウィグモア・ホールなど世界各地のコンサートホールで、またロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団などとの共演で国際的に活躍している。
 日本では札幌交響楽団、東京交響楽団、東京フィル、名古屋フィルなどと共演した。2020年10月にBISレコードから発売された最新SACD『シューベルト/リスト:白鳥の歌』は国際的な評論家から高い評価を得ている。このアルバムで、2021年1月にICMA賞(国際クラシック音楽賞)でヤング・アーティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞した。1997年トルコの首都アンカラ生まれ。現在ヴァイマル音楽大学のグリゴリー・グルツマン教授のもとで研鑽を積んでいる。

【曲目概要】

①ムソルグスキー:組曲《展覧会の絵》

1874年にロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキーによって作曲されたピアノ組曲である。ロシアの画家であるヴィクトル・ハルトマンの死を悲しみ、絵の展覧会を訪れた際の散歩(プロムナード)の様子を曲にしている。曲ごとに拍子が違うのは歩きながら絵を見ているという、歩調を表しているとも言われている。後世では、多くの作曲家によってオーケストラ(管弦楽)に編曲された。とりわけ、フランスのモーリス・ラヴェルによる、トランペット・ソロで開始される編曲が名高い。
  しかし、ピアノ原版は、展覧会の絵』はムソルグスキーの生前には一度も演奏されず、出版もされないままであった。

幸いにもリムスキー=コルサコフがムソルグスキーの遺稿の整理に当たった。そして、『展覧会の絵』のピアノ譜が1886年に出版され、ついに陽の目を見る。ただしリムスキー=コルサコフの改訂が目立つため、現在は「リムスキー=コルサコフ版」として、原典版とは区別されている。改訂は、現在では独創的で斬新とも評価されるムソルグスキーの原典版が、当時の感覚ではあまりに荒削りで、非常識と捉えられる部分もあったためと言われており、時にはリムスキー=コルサコフがムソルグスキーの音楽を理解していなかったからだとも言われている。しかし、ムソルグスキーの様々な作品の楽譜を世に出した意味は大きく、5人組の中で、リムスキー=コルサコフが最もその音楽の素晴らしさを認識していた証左といってよい。

特に明確な原典版との相違点は、「ビドロ」が弱音で始まって次第に音量が大きくなる点(原典版ではフォルティッシモで始まる)、

 

②-1バッハ/ブゾーニ:《無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 ニ短調》
   BWV 1004より 第5曲〈シャコンヌ〉

フェルッチョ・ブゾーニ(1866~ 1924)は、イタリア出身でドイツを中心に世界中で活躍した作曲家・ピアニスト・指揮者であり、多くの編曲作品を残している。

ブゾーニ作品の多くは過去の音楽、とりわけバッハの作品を基礎とする。ブゾーニはいくつかのバッハ作品をピアノ用に編曲しており、中でもオルガン曲の《トッカータとフーガ ニ短調》や、《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調》からの〈シャコンヌ〉を編曲したものは有名。それゆえブゾーニのことを新古典主義音楽の創始者と見なす向きもある。

②-2 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 作品110

ベートーヴェンの最後のピアノソナタ3作品(第30番、第31番、第32番)は、『ミサ・ソレムニス』や『ディアベリ変奏曲』などの大作の仕事の合間を縫うように並行して進められていった[1]。途中、やがて彼の命を奪うことになる病に伏せることになるが[2]、健康を回復したベートーヴェンは旺盛な創作意欲をもってこの作品を書き上げた[3]。楽譜には1821年12月25日と書き入れられ、これが完成の日付と考えられるものの、その後1822年になってからも終楽章の手直しが行われたとされる。こうして生まれた本作品には前作を超える抒情性に加え[1]、ユーモラスな洒落も盛り込まれており[3]、豊かな情感が表出されている。また、終楽章に記された数々のト書きは、しばしば作曲者を襲った病魔との関連で考察される。

1822年2月18日付の書簡からは、このピアノソナタが続く第32番と共に、ベートーヴェンと親交の深かったアントニー・ブレンターノに献呈される予定であったことがわかる[1]。ところが、出版時には楽譜に献辞は掲げられておらず、献呈者なしとなった理由を決定づける証拠も見つかっていないため不明である。ブレンターノ夫人への献呈が検討される以前には、弟子のフェルディナント・リースへの恩義に報いるために彼に捧げられることになっていたとする説もある。楽譜の出版は1822年7月、シュレジンガー、シュタイナー、ブージーなどから行われた。

作曲者はチェロソナタ第5番にみらるように、後期の作品ではフーガの応用に大きく傾いている。この曲の終楽章は、最後の3曲のピアノソナタの中では最も典型的にフーガを用いたものである。ドナルド・フランシス・トーヴィーは「ベートーヴェンの描くあらゆる幻想と同じく、このフーガは世界を飲み込み、超越するものである」と述べた。

 

③-1モーツァルト:ピアノ・ソナタ第8番 イ短調 KV 310

1777年、モーツァルトはザルツブルクを出て、母アンナと共にパリへ向かったが、パリで思ったような仕事が見つけられず、その上1778年7月に母を亡くしてしまう。悲劇的な曲調を持つこの第8(9)番はこの頃に書かれた作品であり、母親を亡くした悲しみが反映されているといわれている。同様の短調作品ヴァイオリンソナタ第21番 ホ短調 K. 304もこの頃のもの。

 三楽章構成で、緊張感のある悲劇的な主題で曲は始まる。16分音符が絶え間なく並び、速い指づかいが必要である。

 次章では、ゆったりとしたアルペッジョで曲が始まり、表記通り表情豊かに優しく愛らしい音楽が進行する。しかし展開部は両端楽章の悲劇性を意識してか、それに比肩する激情的な音楽となっている。

 三楽章は、無慈悲なまでにとても速く曲が進行する。中間に、同主調であるイ長調の天国的な部分を持っている。

③-2ショパン:バラード第1番 ト短調 作品23

ソナタ形式の変形で書かれた大曲で、ショパンのバラード4曲中、極めて人気の高い作品ですが、 作曲当時、これを聴いたシューマンは「優れた作品ではあるが、彼の作品の中では全く天才的、独創的な ものではない」と批評しています。 いきなり4/4拍子の変イ長調のユニゾンで始まる序奏は6/4拍子・ト短調の第一主題との関連性は薄いですが、この作品の劇的な性格を 象徴しているかのようです。続くト短調の第一主題に入る直前で、左手がD,G,Esという不協和音を 押さえる箇所がありますが、このEsの音は表記ミスではないかと言う人もおり、我が国でもっともメジャーな 全音楽譜出版社ではD,G,Dの表記を採用していますが、ポリーニ、ツィマーマン、アシュケナージ、ルービンシュタイン といった一流ピアニストはみな不協和音の原典版の方を採用しております。
続くト短調の第一主題は陰鬱で捉えどころのない旋律です。単純なようでいて、 心に真っ直ぐに届く旋律ではなくて言いようもなく屈折してためらいがちに途切れ途切れ繰り返される 不思議な趣の、でもやはり単純な旋律。本当に表現のツボを押さえていないと、いくら音色が良くても 歌われていても、何とも様にならないといった、ピアノ演奏者にとってはかなり厄介なもののようです。 続くト短調の技巧的な経過句を経て登場する変ホ長調 の第2主題はすがすがしく爽やかで、聴く人の心に真っ直ぐに入り込んでくる美しい旋律となっています。この第2主題は この作品の後半で大活躍します。この曲がバラード4曲中極めて人気の高い作品なのは、その 華麗な後半部のためだと思います。第2主題がイ長調で大爆発する部分以降は、演奏効果が極めて高く、 技術的にも難しく書かれており、ショパンの粋なピアニズムがふんだんに盛り込まれています。 そして最後を飾るPresto con fuocoの劇的なコーダは、この作品の最大の聴かせどころであります。

④シューマン:クライスレリアーナ 作品16

ロベルト・シューマンが1838年に作曲した8曲からなるピアノ曲集で、ショパンに献呈された。1850年に改訂されている。

題名のクライスレリアーナとは、作家でありすぐれた画家でもあり、また音楽家でもあったE.T.A.ホフマンの書いた音楽評論集の題名(1814年 - 1815年刊)から引用されている。この作品はそれに霊感を得て作曲された。シューマンはその中に登場する、クライスラーという人物(ホフマンその人)を自分自身、さらに恋人(後の妻)クララの姿にも重ね合わせた。

作品は作曲者のピアノ語法がふんだんに使用されており、曲は、急-緩-急-緩……と配置されている。全曲は3部形式を基調とし、それぞれに共通し、全曲を統括するモチーフや曲想が見られる。作曲者を代表する傑作である。

 

 

<この招待国際ピアノ演奏会について>

~主催者発表資料~

横浜市招待国際ピアノ演奏会は、常に新しい文化を取り入れ発信してきた横浜にふさわしく、世界の国際ピアノコンクール入賞者の中から将来を嘱望される才能を発掘し横浜から広く紹介することを目的として、横浜みなとみらいホールで毎年秋に開催されています。                       ピアニストとして、教育者として、また数多くの国際コンクールの審査員として世界的に活躍した故・山岡優子氏とその提唱に賛同する音楽家や支援者の尽力により1982年にスタートした歴史ある公演です。 その第1回は横浜市招待国際ピアノ演奏会実行委員会、横浜市、横浜市教育委員会の主催により神奈川県立音楽堂で開催されました。 その後神奈川県民ホールや横浜市市民文化会館関内ホールでの開催も交えつつ、1998年以降は新たに開館した横浜みなとみらいホールに会場を移し、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団の主催、横浜市の共催により毎年途切れることなく開催され今日に至っています。    これまでに世界28か国から180人を超える新進気鋭のピアニスト達がソロ演奏やオーケストラとの競演で横浜の舞台を彩ってきました。 その多くが世界でもトップクラスのアーティストとして活躍する錚々たる顔ぶれであり、この演奏会に出演することが世界の若きピアニスト達にとってのステイタスともなっています。出演者の選定は、第一線で活躍する演奏家により構成される企画委員会が担います。 35歳以下かつ国際コンクールで2回以上の入賞歴があることを原則として世界から出演者を募るとともに、企画委員会も自ら情報を集め、候補者の中から入念な審査・協議により出演者を決定しています。 第1回開催時以来、山岡氏をはじめ、大野和士氏、加藤伸佳氏、野村光一氏、三宅洋一郎氏、三善晃氏、山田一雄氏(50音順)が企画委員会(当初は実行委員会)に名を連ね、現在の企画委員会は、山岡氏の遺志と企画委員長の任を引き継いだ海老彰子氏、弘中孝氏、堀了介氏、伊藤恵氏、須田眞美子氏により構成されています。開始当初より、数多くの方々からの温かいご支援をいただきながら長年にわたり継続されてきたことも横浜市招待国際ピアノ演奏会の特徴です。 ピアノの練習場所を無償で提供するなど「おもてなし」の心で出演者を迎え入れくださる廣瀬修氏。廣瀬氏は多くの企業と横浜みなとみらいホールを繋ぎ、その協賛によってこの演奏会を経営面でもご支援くださっています。 また、ホテルニューグランドの故 原範行氏の提唱により結成された「横浜市招待国際ピアノ演奏会支援の会」に参加する地元横浜の企業や個人の方々からもご支援をいただきました。 楽器会社各社からもさまざまなサポートをいただきました。 現在は株式会社ヤマハミュージックジャパン様より技術面の全面的サポートとご協賛をいただいています。  横浜市招待国際ピアノ演奏会は、出演者と観客や横浜の方々ならびに関係者のみなさまとの交流も大切にしてきました。 近年ではピアノ演奏会の枠を越え、ピアノ・室内楽のマスタークラスや、調律や演奏法、バロックダンスの特別レクチャー、子どもたちとの交流会など充実した関連企画を実施し、より広がりのあるピアノフェスティバルとして年々発展しています。

【演奏の模様】

 今回は、「ルーマニアのダニエル・チョバヌが来日出来ないので、リモート出演に変更する」という主催者アナウンンスが配信されたので、リモートというからには、映像配信を大きなスクリーンで見せるのかなと思って会場に入りました。ところが舞台には一台のグランドピアノが据えられ、その鍵盤側の奥に縦長の小さなスクリーンらしきものが置いてありました。配布された資料を読むと、「Disklavierによるリモート出演」と有り注意書きに“「Disklavier」とはアコースティックピアノと演奏するだけでなく、ヤマハ独自の高精度デジタル制御システムによって繊細な鍵盤タッチやペダルの動きを極めて正確に再現できる自動演奏機能を搭載したハイブリドピアノ。演奏を解く音再生できるほか、アーティストの演奏を記録したデータを別のDisklavierで再生して,演奏を生音で楽しむことができます。”と書いてありました。

 開演時間となり、ピアノ横のやはりスクリーンでした、そこにチョバヌが映り、演奏開始前の挨拶をして映像に映っているピアノの鍵盤に向かって椅子に座りました。

①ダニエル・チョバヌ                              良く知られたメロディが手前の実在のピアノから流れ出し、映像を見るとチョバヌが映像内の鍵盤に向かってを弾き始めている。要するに遠隔で(多分自国にいる)演奏者が、手元のDisklavierを弾くと日本の神奈川県立音楽堂舞台上のDisklavierが音を出し始めるといったからくりでした。いつだったか川崎のミューザで、パイプオルガンをステージに置いてある小さなオルガン位の大きさの遠隔演奏装置の鍵盤を弾くと高く聳える本物のパイプオルガンが鳴る演奏を見たことがありますが、それと概念は同じですね。今回は楽器がピアノで、遠隔と言っても海外の遠くからの違いはありますが。仕組みテクノロジーは異なっているのでしょうけれど。

 映像のチョバヌの鍵盤を叩くタイミングと舞台上のピアノの出す音のずれは全然無く、ぴったり合っていました。ただ音に関しては、決していいとは言えないところが散見されました。上記の赤字の説明では、ペダルの動きを再現できるといった趣旨の事が書いてありますが、演奏を見ているとチョバヌがペダルを踏んだ時、舞台上のピアノのペダルは動かず、最初から最後までペダルは上下しませんでした。ということは音の長さを伸ばしたり、短く切ったりするピアノ内の構造物の動作は無いことになりますね? 実際演奏音も、特に低い音程の太い弦が音を出す時、次々と続いて鳴り出す連続する低音弦がいつまでも干渉しあってブーンといった小さな異音が響く様に聞こえました。又高音のppの音が余り綺麗に出ていなっかった様に思います。生音即ち舞台上で演奏される音には程遠いのではないでしょうか?そうしたことを抜いて考えれば、チョバヌの演奏は、技術もしっかりしていて、展覧会の絵の雰囲気を良く醸し出していたと思います。特に中音域の力強い大きな音での演奏は迫力がありました。

 今後更に技術革新がなされ、99%方遠隔演奏者の弾くピアノが、再現されるようになれば、これまでの演奏会配信とは異なった新たな演奏会開催の可能性を秘めた発明なので、大いに期待したいと考えます。勿論その前提として、さらにいい音の出るピアノ本体、演奏者が弾きやすく表現し易い

ピアノの改良がなされることが、重要でしょう。

 

②桑原志織

 桑原さんの演奏の圧巻はベートーヴェンのソナタです。この曲は今年2月に桑原さんが弾いたのを聴いた事があります。参考までその演奏会の記録を文末に再掲(抜粋)しました。今回の演奏はその時より完璧でした。何回も弾き込んだ感じがしました。見事な演奏、脱帽です。

 

③ケイト・リウ

③-1最初のモーツアルトのソナタは、モーツアルトがベートーヴェン化したかと思われる程、重量感のある力強い演奏、力演でした。この様なモーツアルトは余り聞いたことが有りません。先日キーシンもモーツアルトを弾きましたが、ゆっくりとしたかなり暗いイメージの曲でした。いかにもモーツアルトらしく演奏していました。

③-2 次のショパン、バラード1番はショパンらしい巧みな指使いを力強く表現していてかなりの力演でした。このピアニストの底力は凄いものを持っていると思いました。

④ジャン・チャクムル

最後の演奏だからという訳ではないと思いますが、シューマンの長い名曲を切々と演奏して、本当に本物のシューマンの曲らしさが出ていました。感動するくらい素晴らしい演奏でした。

 

尚、皆さんそれぞれアンコール演奏がありました。以下の曲目です。

〇ダニエル・チェバヌ(モシュコフスキー『8つの性格的小品Op36』より第6曲)

〇桑原詩織(リスト『パンガニーニによる大練習曲第3番嬰ト短調<ラ・カンパネラ>』)

〇ケイト・リュウ(バッハ[シロティ編曲]プレリュード ロ短調)

〇ジャン・チャクムル(シューマン『ミルテの花Op.25』より第26曲<終わりに>)

 

//////2021-02-24hukkats Roc 再掲

(抜粋)///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 

桑原志織ピアノリサイタル』

 

 緊急事態宣言の後は、大規模オーケストラの演奏を聴きに行かなくなりました。いやその少し前からですね。最後に聴いたのは、昨年11月のウィーンフィル来日公演でした。大晦日のベートーヴェン全曲演奏会は、長時間、密な状態の閉鎖空間で聴くのが怖くて、行きませんでした。ウィーンフォルクスオーパーのニューイアーコンサートは中止になってしまいましたし。

 新規感染者数がかなり減って来た最近でも、聴きに行くのは小規模なリサイタル位です。先々週は『メーリテノールリサイタル』、先週は若手の『ヴァイオリンリサイタル』、そして今日は、やはり若手の『ピアノリサイタル』を聴きました。何れも東京文化会館小ホールです。

 今日のリサイタルは、桑原詩織さんという若手のピアニストでした。

 ベートーヴェンのソナタ31番を弾くというので、聴きに行くことにしました。31番のソナタは、最後のソナタ達(30番、31番、32番)として、 まとめて演奏されることがあり、最近では、昨年12月にオピッツの来日演奏の時聴きました。参考までその時の記録を文末に再掲します。

 今回は若手のピアニストが、どの様に31番を弾くか興味津々でした。

 桑原さんは藝大出身の新進ピアニスト、H.P.で紹介されている経歴を以下に転載しました。

2014年第83回日本音楽コンクール第2位、及び岩谷賞(聴衆賞)受賞。2016年第62回マリア・カナルス・バルセロナ国際音楽コンクール(スペイン)第2位、及び最年少ファイナリスト賞受賞。

2017年第68回ヴィオッティ国際音楽コンクール(イタリア、ヴェルチェッリ)第2位、及び Soroptimist Club賞受賞。

2019年第62回ブゾーニ国際ピアノコンクール(イタリア、ボルツァーノ)第2位、及びブゾーニ作品最優秀演奏賞受賞。

東京都出身。学習院初等科、女子中等科卒業後、東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校に進学。

同高等学校在学中に、PTNA特級銀賞・聴衆賞、王子ホール賞、

ルーマニア国際音楽コンクール第1位・オーディエンス賞、東京音楽コンクール第2位等を受賞。

第6回福田靖子賞優秀賞。

2014年度ヤマハ音楽奨学生。 

2018年3月 東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻を首席で卒業。伊藤恵氏に師事。在学中に、アリアドネ・ムジカ賞受賞。

卒業時に、安宅賞、アカンサス音楽賞、大賀典雄賞、同声会賞、三菱地所賞、平山郁夫文化芸術賞を受賞。

2018年4月より、ベルリン芸術大学大学院(マスターソリスト課程)にて Klaus Hellwig 氏に師事。

 

《プログラム》

【日時】2021.2.24.19:00~

 

【会場】東京文化会館 小ホール

 

【曲目】

①ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ第31番変イ長調Op110

②ラヴェル『ラ・ヴァルス』

③リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S178

 

【演奏の模様】

①Betv..ソナタN31

(第1楽章)

 赤い👗を身に纏い登場した桑原さんは、マイクを手にして、今日は休憩なしで三曲通して演奏する旨告げました。コロナ禍の緊急事態宣言中であることを、考慮してのことだと思います。

 ピアノの前に坐ると、やや遅いテンポで弾き始めましたが、立ち上がりの左手少し不安定に聞こえました。すぐに次の速いパッセージに移り、またゆっくりした手捌きに戻りましたが、歯切れの良い右手メロディに比し、左手の切れが今ひとつといった印象を受けました。

 それにしてもこの第1楽章は、明るく全体的印象は軽快でウキウキした感じがあるのですが、その点で最後の三つのソナタ達の中では異色な存在です。少し言い過ぎですが、あたかもベートーヴェンが名を上げつつあった初期の生き生きしたソナタに舞い戻ったかの如きです。中期から後期にかけての素晴らしい、重厚な、奥の深いソナタの中で何かホッとする側面を感じます。桑原さんの第1楽章も聞きいていて、温もりを感じさせるものでした。 

(第2楽章)

 短い楽章ですが、桑原さんは強弱長短音の粒が揃った演奏で舞曲の様子をうまく表現していました。

(第3楽章)

 桑原さんのトークでは、31番のソナタには、歌う様なメロディがあるということと、2年後に作られた交響曲第9番を引用した説明がありました。

 31番のソナタは1821年に出来上がったのですが、ベートーヴェンはその後も31番を一部書き換えたり、付け足したりして最終的には32番のソナタより後に現在の形に完成したと謂われます。いったいどこをどう直していたのでしょう?書き換えの譜面が無く経過は分からないので、あくまで憶測ですが、第3楽章の歌う様な箇所、それに関係したフーガなどではないでしょうか?間違いかも知れませんけれど。大胆に推理すれば、べートーヴェンの❛不滅の恋人❜に何年か前に(これは8番の交響曲が作曲された1812年より後とする研究者もいる様です)失恋し、その心の傷が仲々癒えない中で、1楽章の春の様な愛を思い出す雰囲気の曲と、3楽章の切ない『嘆きの歌』(Klagender Gesang)で失恋を嘆き、その前後のフーガに嘆きの歌をサンドウィッチすることで、嘆きから立ち直る力を付けて、それ以降の9番シンフォニィー等を作曲する推進力としたという物語ではどうでしょうか? 

    桑原さんの3楽章のイントロ部は非常にスローに弾き始め、嘆きの歌の箇所は嘆いているまずまずの感じは出ていました。最初のフーガ部は弱い音だと左右の指使いのバランスが良くて、バッハのカノンを想起させる綺麗なフーガでしたが、ffになると跳躍する右手の高音がやや不鮮明に聴こえました。左手は強さが右手に負けないで良し。ただもう少しff部は弱めに弾いた方が、後半のフーガとの対比で、恋とか愛とかの感じが出るのではなかろうかと思うのですが。アラウの録音やオピッツのフーガはそうでした。

 前半はバッハのカノンの如く清廉に、後半はベートーヴェン独自の世界をフーガで力強く表し、桑原さんが冒頭のトークで語った❛コロナ禍での未来への希望❜との説明通り、未来に繋ぐ希望を託す演奏となって、31番ソナタはほぼ成功したと言えるでしょう。