HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

オペラ速報『チェネレントラ(全二幕)』at NNTT

一言二言で纏めれば、

Ⅰ.脇園さんの、0.8人舞台!

Ⅱ.粟國演出の以外性!

Ⅲ.カラフルな舞台!

 1人舞台と言ってもいいくらいのチェネレントラの歌声も技倆も安定した活躍ぶりでした。

 演出は、映画撮影所からスタート、チェネレントラ配役の応募と選考です。如何にも映画作成現場の活気溢れる雰囲気を的確に表現していました。しかしそれがその後どう展開するのか、固唾を飲んで見守りましたが、第一幕の通常の場面(姉妹三人が登場の場面)が出て来て、ホッとしました。

f:id:hukkats:20210930165410j:plain  

 このオペラは、日本でも子供たちにもよく読まれている有名な童話『シンデレラ』を元としたロシーニ作曲のオペラです。『シンデレラ』は各国に類似の物語があり、グリム童話(独)やシャルル・ペロー(仏)によるもの、ジャンバティスタ。バジーレ(伊)などなど、その変形物語は世界中にあると言って良いかも知れません。

 今回のオペラ『チェンネレッタ』はイタリアの作曲家ロシーニが1817年に作曲した喜劇ともとられる歌劇です。ただ童話のシンデレラとは違い、魔法使いは登場しません。魔法使いの代わりに、王子の指南役の哲学者がチェネレントラを宮殿に導くのです。ガラスの靴の代わりには腕輪が使われ、継母は継父になっている。また、この時代のオペラ・ブッファらしく「変装」が話の中心になっています。

 ネット情報によると物語は次の様です。

【粗 筋】

〇第1幕

ドン・マニフィコ男爵の屋敷。男爵の今は亡き後妻の連れ子アンジェリーナは"チェネレントラ(灰かぶり)"と呼ばれて使用人のように扱われ、姉となった男爵の娘クロリンダとティーズベを世話している。心優しいアンジェリーナは物乞いの男に水と食べ物を与える。彼は実は王子ラミーロの家庭教師アリドーロで、貧者に身をやつして王子の花嫁を探しているのだ。従者に扮した王子が屋敷に入り込み、アンジェリーナと一目で恋に落ちる。
一方、王子の従者ダンディーニが王子に成りすまして現れ、一家を城の舞踏会に招く。アンジェリーナも行きたがるがマニフィコが拒む。アリドーロはこっそりアンジェリーナを舞踏会に誘う。城の舞踏会では、姉娘2人が偽王子(実はダンディーニ)を取り合うが、突然現れた絶世の美女(アンジェリーナ)に皆が驚く。

〇第2幕

城の中。王子姿のダンディーニが出てきてアンジェリーナに求愛するが、彼女は従者を愛しているのだと語る。その言葉を耳にしたラミーロは、早速出てきて求婚する。すると、彼女は腕輪を差し出し、自分を探すよう告げて姿を消す。屋敷に帰った男爵と姉たちはアンジェリーナに八つ当たりする。外は嵐になり、馬車が転覆、乗っていたダンディーニが屋敷を訪れる。王子も次いで現れ、アンジェリーナの腕にもう片方の腕輪を見つけて再会を果たし、城に連れ帰る。王宮では、幸せを手にしたアンジェリーナが父や姉たちを許し、フィナーレの大アリア「苦しみと涙のうちに生まれ」を歌って幕となる。

 

【出演】

*ドン・ラミーロ(王子)

f:id:hukkats:20210930192545j:plain

ルネ・バルベラ

(テノール)

 

*ダンディーニ(従者)

f:id:hukkats:20210930192606j:plain

上江隼人

 (バリトン)

 

*ドン・マニフィコ(継父)

f:id:hukkats:20210930192629j:plain

アレッサンドロ・コルベッリ

(バッソ・ブッフォ)

 

*アンジェリーナ(チェネレントラ)

f:id:hukkats:20210930192703j:plain

 脇園 彩

(メゾソプラノ)

 

*アリドーロ(家庭教師)

f:id:hukkats:20210930192756j:plain

ガブリエーレ・サゴーナ

 (バス)

 

*クロリンダ(連れ子の姉)

f:id:hukkats:20210930192833j:plain

 髙橋薫子 

(ソプラノ)

 

*ティーズベ(連れ子の姉)

f:id:hukkats:20210930192855j:plain

 齊藤純子

   (メゾ・ソプラノ)

 

【合唱指揮】三澤洋史

【合 唱】新国立劇場合唱団

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【指 揮】城谷正博(マウリツィオ・ベニーニの代役)

【演 出】粟國 淳

【美術・衣裳】アレッサンドロ・チャンマルーギ

【照 明】大島祐夫

【振 付】上田 遙

【舞台監督】髙橋尚史

 

【上演の模様】

第一幕

 ドン・マニフィコの邸宅。粗末な衣服を着たアンジェリーナ(チェネレントラ)は、わがままな二人の姉(クロリンダ、ティスベ)にこき使われながら住んでいるのです。チェネエレントラの第一声はむかし王さまがおりました。一人身でいることに飽き飽きして、探して 探して 見つけました。でも三人とも結婚したかったのです。王さまはどうしたでしょう?華やかさや美しさを軽蔑し、そして最後にご自分で選ばれたのです。素朴で善良な娘をラ ラ ラリ リ リラ ラ ラ。(Una volta c'era un Re,Che a star solo,Che a star solo s'annoiò:Cerca, cerca, ritrovò;Ma il volean sposare in tre.Cosa fa?Sprezza il fasto e la beltà.E alla fin sceglie per sé'innocenza e la bontà.La, la, la,Li, li, li,La, la, la.)>と、しんみりと自分の身に相応しい?「昔あるところに王さまが」のアリアを歌います、でも希望は捨てていないのですね。チェネントラ役の脇園さんは 立ち上がりこそやや元気がいまいちの歌声でしたが、一流のメッゾの歌い振りでした。

 乞食に扮したアリドーロ(王子の先生)が邸宅を訪れる。二人の姉は追い払おうとしますが、チェネレントラはパンとコーヒーを与えるのです。おおやさしいこと!そこへラミーロ王子の使者たちが現れ、<ドン·マニフィコの愛らしきお嬢さま方、ラミーロ王子がもうすぐお見えです。宮殿にあなた方をお連れしましょう。そこで歌い踊りそしてすべての女性のうちで最も美しい方が、王子の最愛の花嫁になるでしょう(O figlie amabili di Don Magnifico Ramiro il Principe or or verrà,Al suo palagio vi condurrà.Si canterà si danzerà:Poi la bellissima fra l'altre femmine Sposa carissima per lui sarà.)> とかなりの早口で歌います。この辺りはロッシーニのオペラの特徴の一つである『早口言葉の歌』の片鱗が出始めています。その後もクロリンダ、ティーズベ、チェネレントラ達の早口歌は続きました。

 そこへ継父ドン・マニフィコが登場。騒ぎのせいで目が覚めたと怒り出し、ロバの夢の歌を歌います。<夢の中で 闇と光の間に完璧なロバがおった。ロバだ。だが荘厳な奴だった。と突然、お何たる奇跡!そいつの背中に何百という数の羽根が生え、そして空へヒューっと 飛んだのだ!それから奴は鐘楼の上に王座のように鎮座した。その下からは鐘が鳴り響くのが聞こえてきた。ディンドン ディンドンと…。
そこへシーシーシューシューと、突然お前たちがわしの目を覚ましに来たのだ。(Mi sognai fra il fosco e il chiaro Un bellissimo somaro.Un somaro, ma solenne.
Quando a un tratto, oh che portento! Su le spalle a cento a cento Gli spuntavano le penne Ed in alto, sen, volò!Ed in cima a un campanile Come in trono si fermò. Si sentiano per di sotto Le campane sdindonar.Din, don, din, don…Col cì cì, ciù ciù di botto Mi faceste risvegliar.)>

何と荒唐無稽な夢なのでしょう。 マニフィコ役のコルベッリは、文字通りバッソ・ブッフォ(「セビリアの理髪師」のバルトロも同じバスで面白いキャラクターでした)の面白ろおかしい声質で、これまた内容が滑稽で奇妙なロバの夢を歌い上げて、このオペラの喜劇性を盛り上げていました。ただ表情、手振り身振り等の演技には、面白そうな雰囲気は、皆無でした。もう少し喜劇性が出せないかなと思った。その後も面白ろおかしい早口歌は続きましたが。むしろ今回は上江さんのひょうきんな動作・演技が光りました。
 全員が退場したあと、いよいよラミーロ王子(従者に変装)が登場し、チェネレントラと出会って互いに一目惚れし二重唱を歌いました。<優美さが 何かの魅力があの顔に輝いているように見える!何て愛しいあの笑顔。魂を震わせ 希望を抱かせる(Una grazia, un certo incanto Par che brilli su quel viso! Quanto caro è quel sorriso.Scende all'alma e fa sperar..)>

 ここでの二重唱は短いですが、初めての恋心をバルベラと脇園さんはしっとりと見事に歌い上げ、最初の見せ場の盛り上がりとなりました。

 王子に変装したダンディーニが家来たちを従えて登場。ドン・マニフィコと二人の姉にあいさつし、宮殿へ招きます。チェネレントラは、自分も連れて行ってくれとすがります。今度は正装したアリドーロが登場し、この家には娘が三人いるはずだと主張するのですが、ドン・マニフィコは、チェネレントラは召使いにすぎず、三人目の娘はすでに他界していると嘘をつき連れて行かないのです。酷い。昨今問題となっている継子虐待の典型ですね。でも捨てる神あれば拾う神あり。アリドーロが取り残されたチェネレントラを連れ出し宮殿へ送るのでした。

 舞台は宮殿に変わります。ドン・マニフィコは酒蔵の管理人に任命されます。有頂天になった継父ドン・マニフィコは、合唱とともにワインに関する布告を滑稽に歌う。入れ代わりに王子とダンディーニが登場し、ダンディーニは王子にあの姉妹は虚栄のかたまりだと伝えます。クロリンダとティーズベが現れ、王子(従者ダンディーニの変装)に早く選べと迫るのですが、どちらかは従者(王子の変装)に嫁がせると言われて怒り出す始末。

 新たな来客の到来が告げられます。着飾ったチェネレントラが登場し、全員がその美しさにはびっくり仰天。ここで合唱、所謂ロッシーニ・クレッシェンドを伴う華やかな六重唱(序曲の中の主題が使用)で、第一幕を閉じました。

 

第二幕 

 ドン・マニフィコは、娘を王子の花嫁にすることを夢見て滑稽な歌を歌います。入れ代わってチェネレントラとダンディーニが登場。チェネレントラは従者(王子の変装)を愛していると告げ、王子に片方の腕輪を渡して立ち去るのでした。自分はもう一方の腕輪をつけているので探してと言い残して。この辺りがシンデレラ物語のガラスの靴と違っている処です。

王子はチェネレントラを探すために馬車を用意させ、愛の歌を朗々と歌うのです。<あの娘を誓って探し出してみせる。(Si,ritovarla io guiro )>を歌った王子ラミーロ役のバルベラは、ここまで大きな見せ場は少なかったのですが、この場面に来て素晴らしい伸びのあるテノールの歌声を披露、最後の高い音を長く出し続けていました。これだけ歌えれば、本物のロッシーニ歌いと言えるでしょう。

 入れ代わりにドン・マニフィコとダンディーニが登場し、ダンディーニは自分は王子に変装した侍従だと告白するのです。

 さらに舞台はドン・マニフィコの邸宅に戻り、チェネレントラは再び口癖の「王様と純情な娘の歌」を歌っています。その後オケは嵐の轟音を立て、仮装をやめた王子とダンディーニが雨宿りに来て、王子はチェネレントラの手に腕輪を見つけました。ここで、驚いた全員による愉快な六重唱が歌われました。王子はチェネレントラに、あなたが私の花嫁だと告げ、宮殿へ連れ出すのでした。

 再び宮殿に舞台が移ります。チェネレントラは継父と姉たちを許し、王子の妻

の座に就きます。フィナーレではチェネレントラによる超絶技巧的な華麗なアリア<苦しみと涙のもとに生まれ心は黙って耐えてきました。でも麗しい魔法のおかげで、花開く私の年頃にまるで煌めく稲妻のように、私の運命は変わりました。(Nacqui all'affanno e al pianto Soffrì tacendo il core;Ma per soave incanto,Dell'età mia nel fiore,Come un baleno rapidoLa sorte mia cangiò.)>が歌われ、ここをチェネレントラ役の脇園さんは、アップダウンする修飾音の入った比較的ゆっくりしたメロディを、喉をコロコロ鳴らしいながら稲妻の煌めきの如きコロラテュールで駈けあがったり、❛運命は変わった❜とせつせつと歌いました。引き続き、以前は散々いじめられた継父と姉たちに<いいえ いいえ 涙を拭いてください。なぜ震えるのですか、なぜ?この胸に飛び込んできてください。娘よ、妹よ、友よ、。みんな私のうちに受け入れますから(No, no; tergete il ciglio;Perché tremar, perché?  A questo sen volate;Figlia, sorella, amicaTutto trovate in me.)> 

 周囲の人々の感動の歌声に続き、チェンネレントラは

もう悲しく 火のそばで一人ぼっちで歌を口ずさむこともない。 ああ一瞬の閃光は、夢、戯れでした。私の長かった苦しみも。(Non più mesta accanto al fuoco Starò sola a orgheggiar.Ah fu un lampo, un sogno, un gioco Il mio lungo palpitar)>

 と最後まで同じテンポですが、上下するコロラテュールで脇園さんは歌い終わり、幕を閉じたのでした。中盤から最後まて、脇園チェネレントラの歌唱は、欠点が見当たらない程の見事な歌い振りで、さすが、タイトルロール役に選ばれただけのことは、有りますね。粟國演出の映画オーディションで選ばれただけのこともあります。立派なオペラ映画になったことでしょう。

f:id:hukkats:20211002110117j:plain

 尚、このチェネレントラ役はマリア・カラスも歌っています。事前に録音を少し聴いたのですが、高音から低音まで素早い修飾音を織り交ぜた調べを、安定した伸びのある歌声で歌っています。素晴らしいコロラテューラ、超絶技巧、さすがですね。

 処で、このシンデレラ物語は、プロコフィエフが、バレエ用の曲を作曲していて、新国立劇場では、2016年に上演した様です。NNTTの予定表を見たら、来春にまたバレエ上演があるみたいです。今日の舞台は、大変カラフルで、小道具、セットも洗練されたものが多かったのですが、バレエの舞台もとても華やかで綺麗です。ストーリーは、オペラとは若干違うようですが。別の予定と重ならなければ、観に行こうと思っています。