表記の演奏会は、一見外国風のネイミングのオーケストラですが、実際は日本の若手演奏家が集まって出来たここ数年来の新しい管弦楽団の様です。 演奏曲目に、ブラームスの1番が入っていたので聴きに行きました。1番は若い時から何回聴いたか分からない程聴いています。コロナになってからも時々演奏され、7月初めにもサントリーホールで演奏会(確か東フィル)があったのですが、都合悪く聞けませんでした。「シェナークライスフィル」は初めてですが、聴いたことが無い名前なので、どんなものなのか様子見の気持ちも有りました。
【日時】2021.9.25.(土)14:00~
【主催】シェーナークライス
【後援】オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム東京
【会場】神奈川県立音楽堂
【管弦楽】シェーナークライス・フィルハーモニー管弦楽団
【指揮】益田雄真
【独奏】坂田優咲(ホルン)
【曲目】
~欧州音楽を愛する奏者が送る、珠玉のドイツ・オーストリアプログラム~
①モーツァルト『フィガロの結婚』序曲
②ハイドン『 ホルン協奏曲第2番 ニ長調』
③ブラームス『 交響曲第1番 ハ短調』
【沿革(H.P.より)】
Schöner Kreis Philharmoniker(シェーナー・クライス・フィルハーモニー管弦楽団)は2019年に設立された新しい管弦楽団です。奏者の意図を曲の解釈に取り込み,まるでアンサンブルのように緻密でありながらボリュームのある音作りをすることを目標にしています。また,ソリストを楽団内から出して協奏曲に取り組むなど,ユニークな音楽活動もしています。主なレパートリーとして,ドイツ語圏の作曲家(Beethoven・Mozart・Brahmsなど)に取り組んでいます。
【略歴】
⚪指揮者、益田優真
イシュテン音楽事務所代表
3歳よりピアノを始める。埼玉県立浦和高等学校吹奏楽部・オーケストラ指揮者を務め、指揮・ピアノ・編曲活動やステージマネージメントを行う。横浜室内楽フェスティバルオーケストラ定期演奏会などにピアノソリストとして出演。ピアノ曲やオーケストラ、吹奏楽、アンサンブル用の編曲も行っている。
⚪独奏、坂田優咲
ホルン吹き。 筑波大学附属盲→東京音大 / 視覚障害1級の全盲。点字楽譜ユーザー。視覚障害音楽家による演奏団体「Dominant」主宰。 年間100以上の演奏会に出演。
【演奏の模様】
①指揮者は、思っていたより非常に若い、学生の様なきびきびした動きの青年でした。楽団員も数えられるほど少数の年配者が混じった他は、ほとんどが若者から成る混成(男女比ほぼ拮抗)のチームでした。
冒頭の最初の音を聴いて、これは行けるかなと思ったのもつかの間、余り研ぎ澄まされていない音も出て来て少しがっかり、でもモーツアルトらしい喜々としたアンサンブルはまずまずのものでした。
②の演奏は余り聞けないホルン協奏曲だということもあり、この曲を聴くことも足を運ぶ一因だったのです。ところがHr.独奏者が目が見えないと知った時には、少なからず動揺しました。どんな人なのだろうかと身構えて登場を待ちました。
指揮者の増田さんと手を携えてゆっくり登壇した坂田優咲さんは、指揮者とほとんど同年代と思われる、これまた学生っぽい演奏者でした。何回か挨拶した後、おもむろにピカピカのホルンを構え吹き始めました。音量はやや抑え気味ですが、安定感ある演奏でリズムも良い、弦楽とのアンサンブルも大変良く合っています。申し遅れましたが、①の演奏は2管編成弦楽五部略8型でした。②の演奏前に管楽器奏者は退場し、弦楽の伴奏でHr.を吹いたのです。
カデンツァの部分もノーミスでまずまずの演奏でした。第二楽章では、冒頭ホルンを抱えたまま向きをクルリと変えオーケストラに向かって右手で指揮の動作で腕を振り、すぐに元の位置に戻り、吹き始めました。指揮も出来るのですね。恐らく全楽譜を(点字で)読んでいるのでしょう。頭のいい青年です。この楽章で特に弦楽アンサンブルで感じたことは、低音弦がややズッシリ感が出ていないことでした。これはVn奏者がトータル15名に対しVaが5名、Vcが5名、Cb2名と数の上での劣勢であることが、アンサンブルの劣勢につながっていると思われます。
三楽章では、テクニックの基礎もしっかり身につけていることが、リズミカルで速いテンポの箇所を勢いよく吹きこなした事からも分かります。ここでのカデンツアは一楽章のそれより、音も大きくはっきりと演奏されました。第1Vnのアンサンブルが卓越した伴奏をしていました。やはりVn奏者は幼い時から学んだ奏者が多いせいか優秀な奏者の層が厚いですね。
演奏終了して尚止み終えぬ拍手に答えて、坂田さんは、再登場しアンコールを一曲演奏しました。ハイドン『ロマンス』、この曲は元々、モーツァルトのホルン協奏曲第3番、変ホ長調K.447 の第二楽章ロマンス・ラルゲットがオリジナルだそうです。
ハイドンの二曲を聴き終えた感想は、坂田さんがこれらの立派な演奏が出来るようになった陰には、如何程の苦難と努力が隠されているか計り知れないと思いました。まだまだ随分と若い春秋に富む才能ある奏者ですから、今後益々精進され、ホルン界の辻井君的存在を目指して下さい。
さていよいよ③ブラームス1番です。それにしてもブラームスがこれ一曲のために何十年も心血を注いだということは、逆にベートーヴェンのシンフォニーが如何に後世の作曲家たちには険しく聳え、自分なりの交響曲を書くことは、あたかもアルプスを登るが如き覚悟が必要だったのでしょう。
それにしても、たった二回目の定演でブラームス1番に挑戦するというこのオーケストラの意欲的積極姿勢には感心しました。前向きの姿勢ですね。
演奏で特記しなければならないことは、弦楽全体は安定したアンサンブルを続けていたことと、ブラームスは管楽器にも活躍の場を与えていて、管で特に素晴らしいソロを披露してくれた奏者がいたことです。オーボエは特に素晴らしく、ホルンの女性首席も各処で大きな安定的なソロ音を立てていました。その他、クラリネット、ファゴット、トロンボーン等。フルートはやや弱かったかな?もっと自信をもって少し大きい音を立てたら如何が。コンマスのソロももっと華があっていいのでは?いい音の割に地味な演奏で、損していると思いました。
最後に指揮者の益田さんは、浦和高校時代からオケの指揮をしていたと言いますから、二十歳後半としても指揮は10年のキャリアがある訳ですね。今回の演奏会のチラシや宣伝のネット配信、などから感じる統率力、企画力が感じられる、安定した指揮振りでした。今後益々管弦楽団を更なる高みに引っ張って行って欲しいと思います。
それにしてもブラームスの1番は何回聴いてもいいですね。「好きこそ蓼食う」で、今日はとても素晴らしい演奏会に思えました。