恒例の『ミューザ川崎ホリデーアフタヌーンコンサート』の後期分が今日からスタートです。来年1月 まで毎月一回、都合5回のコンサートが休日の午後に行われる予定です。
今回は、宮田大(Vc)&大萩康(Gt))デュオ・リサイタルということで以下のプログラムになっていました。
【日時】20.9.5.(日)13:30~
【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール
【出演】宮田大(Vc)
大萩康司(ギター)
世界的指揮者・小澤征爾にも絶賛され、国際的な活動を繰り広げているチェリスト宮田大と、デビュー20周年を迎え、国内外で熱狂的な支持を集めるギタリスト大萩康司。
ともに第一線で活躍する二人はかねてより親交が厚く、昨年東京・大阪にてデュオ・リサイタルを開催し、またメディアにも出演。豊かなハーモニーと絶妙なアンサンブルが絶賛されています。
【Profile】
宮田さんは大活躍中の良く知られたチェリストです。
大萩さんは、大阪音大の客員教授で略歴は以下の通りです。
高校卒業後にフランスに渡り、パリのエコール・ノルマル音楽院、パリ国立高等音楽院で学ぶ。これまでにギターを萩原博、中野義久(フォレストヒルミュージックアカデミー)、福田進一、キャレル・アルムス、アルベルト・ポンセ、オリヴィエ・シャッサンの各氏に、ソルフェージュを山田順之介、リュート、テオルボ、バロック・ギターをエリック・ベロックの各氏に、室内楽をラスロ・アダディ氏に師事。 ギター国際コンクールとして世界最高峰とされるハバナ国際ギター・コンクール第2位、合わせて審査員特別賞「レオ・ブローウェル賞」を受賞。その後4年間イタリアのキジアーナ音楽院でオスカー・ギリアに師事し、4年連続最優秀ディプロマを取得。日本国内での精力的な活動に加え、世界各国に活躍の幅を広げている。ルネサンスから現代曲まで多彩なレパートリーを持ち、ソロ、室内楽、協奏曲と幅広く取り組んでいる。ジャズ・ギタリストとの共演や、舞踏家とのコラボレーションなど、ジャンルを超えた活動を展開し、メディアへの露出も多い。
【曲目】
①サティ『ジュ・トゥ・ヴ』
②ニャタリ『チェロとギターのためのソナタ』
③ヴォーン・ウィリアムズ『揚げひばり』
④ピアソラ『タンティ・アンニ・プリマ』、
⑤ピアソラ『ブエノスアイレスの冬』『ブエノスアイレスの夏』
【演奏の模様】
会場に入ってみて少し驚いたのは、思っていた倍ほどの観客が入っていたことです。しかも女性客が目立ちます。座席は7~8割方埋っていたでしょうか。緊急事態宣言が出てから随分長い期間が経つので、規制により座席は半分位かと考えていたのでしたが。でもよくよく考えてみれば、今日のチケットが発売された今年6月中頃は、何回目かのコロナ感染の山が収まりつつあった時期で、緊急事態宣言も解除され、その後デルタ株の第5波感染が猛威を振るい始めるまでの期間に、発売数規制が無い状態で売り出された座席でしょうから、ほとんど全席と言っていい位相当数売れたのでしょう、きっと。ステージには大きく『会場内での会話は自粛して下さい』と言った旨の表示板が大きく出ていました。間隔を開けるどころか過密な状態ですから、あとは飛沫やエアロゾルをまき散らさない様に、息を潜めて鑑賞するしか有りませんでした。
今日のプログラムは曲によっては、本来オーケストラ演奏の部分があり、それをギター演奏に編曲したチェロ協奏曲的なものもあれば、大部分はそうなのですが、チェロ(Vc)とギター(Gt)の二重奏曲、もしくはGtが伴奏するVソナタ的曲も含んでいました。
先ず①のサティの曲、『Je te veux(私は君を欲しい)』は、非常に有名な曲で、サティが出入りしていたパリ・モンパルナスの文藝キャバレー「Le cha noir 」等でサティはピアノを弾いていて、最初はシャンソン歌手のためにを歌として作曲しました。さらにこれをサティはピアノ独奏用に編曲していて今日の演奏は、VcとGtのヴァージョンです。Vcでの演奏は初めて聴きましたが、やや哀愁を帯びた重い雰囲気のせいか、歌やピアノとはかなり風味が異なって聞こえました。この演奏を聴きながら、想い起こしていたことは、初冬のチェルリー公園は落葉樹の葉が落ち、朝方からちらほら綿毛のように乾いた小雪混じりの天気で降ったり止んだり、公園を横切ってセーヌ方向に歩けば、サクサクと1cm程積もった雪が、音を立てて靴跡を黒く背後に残します。歩行者専用のレオポール・セダール・サンゴール橋を渡り、中ほどに来てすれ違った女性はどこかで見たことがある様な気がして、振り返れば後ろ姿は全然違う人、セーヌを覗けば結構速い流れが 黒く渦巻いています。 などと取り留めないことを想像しているうちに、演奏曲は終了し拍手が響き、宮田さんがマイクで何か話していました。
②を作曲したハダメス・ニャタリは、ブラジルの人、ボサノヴァの創始者アントニオ・カルロス・ジョビンを見出したそうです。このソナタ曲は三楽章構成、②-1は、長・短不明瞭な旋律も有り不思議な響き、かなり憂愁を帯びています。Vcは度々ピッツィカートを多用、Gtのソロ部分もあって、最後は両者がジャーンとひと鳴らしして終了。②-2では、Gtが高音で、Vcが低音で弾いていたかと思うと急に入れ替わってその逆になったり、一楽章同様ピッツイカートが多用され、デュオ部分も有り、全体として、宮田さんの弾くVcは音が澄んでいて、メロディーに表情があり、重音部分や超低音部分の演奏も見事なものでした。Gtは伴奏に徹したかと思うとソロ部分があったり、結構忙しない動きをみせましたが、全然ブレない安定した演奏振りでした。
③ヴォーン・ウィリアムズは、英国の作曲家、勇壮な映画音楽でも知られています。
『揚げひばり』は元はオケとソロヴァイオリンの協奏曲風の曲ですが、その編曲版とのことでした藤井けいこ(敬吾?)さんという大阪音大の先生が編曲して呉れたと話していました。今回が編曲版初演とのこと。 後半こそGtの強奏箇所がありましたが短く、前半はほとんどVcのソロで伴奏音があまり聞こえませんでした。オケの代わりなのだから、Gtにもっと激しく活躍する箇所があっても良かったのでは?これは編曲への注文ですが。
最後はまさに「ひばりのさえずり」を連想出来る高音の調べで曲を終えました。
④はピアソラの曲の演奏です。最近この作曲家の曲があちこちで演奏されている様ですが、宮田さんのトークで納得、今年がピアソラ生誕100年の年なのですね。 『タンティ・アンニ・プリマ』は「遠い昔々」の意味とのこと。
自分としてはこの曲が今日聴いた中で一番気に入った演奏でした。深い色合いを含む抒情を最高に出し切れたデュオだったと思う。
⑤大萩さんもトークの口調もしだいに滑らかになって来て、「ブエノスアイレスの四季」は最初夏が作曲され、秋、冬、春の順に付け加えられて行った、冬の最後に次の春を思わせる(先取りした)パートが組み込まれているそうです。冬と夏が続けて演奏されました。
冬はその季節の厳しさを表現したのか、Vcはかなり激しく変化の大きいメロディを含む演奏で、Gtも時折ジャンジャンと大きい音を立て、激しく鳴らせます。最終部分の春を想起させる個所は、どこかで聴いた事のあるメロディを含みました。ピサソラは誰かの曲を引用したのかな? 夏は、時折ピッツィカートを織り交ぜ、確かに暑い雰囲気が感じ取れました。
今日の演奏は、二人の比較的まじめと思われる性格からのトークが交えられていましたが、かなり品の良い冗談た話し振りが聴衆の笑いを誘っていました。特に宮田さんの素敵な演奏は、その優しそうなマスクも相まって、女性心(母親心かな?)を引き寄せる魅力があるのでしょう。演奏を聴き終わって、これだけの大ホールが一杯になる理由が分かったような気がしました。
尚、演奏者お二人共サービス精神旺盛で、アンコールとして次の三曲が演奏されました。聴衆は皆大喜びの様子でした。
ピアソラ 『オブリビオン』
ミヨー :『コルコバド』
ルグラン 『ミュージカル映画「ロシュフォールの恋人たち」よりキャラバンの到着』