HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

フェスタサマーミューザ『フィナーレ・コンサート』ディレイ配信鑑賞

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原田啓太楼、カルテット・アマービレ

 フェスタ サマーミューザ のフィナーレコンサートはライヴ配信で見ようと思ったのですが、先に記した様にライヴ配信では、最後の方しか見れませんでした。そこでディレイ(アーカイヴ)配信を見ようとしたら、8/11(水)からとなっていて、いろいろ都合もあって結局、お盆に入った今日(8/13)見たのです。非常に面白い話を指揮者の原田さんは説明していたのですね。原田さんは海外育ちの指揮者の様です。その語った要旨は、

(1)選曲には留意している。今回は祝祭的意味でアイーダを最初に演奏、これには    アイーダ誕生から150年経ったこと、またヴェルディ没後120周年で、しかも最後の吉松さんの交響曲が誕生30周年なので、30×5=150、30×4=120、150-120=30といった(数学的?)数字の関係があって選曲(?)。オペラ関係の曲は自分の(経歴の?)コアーでもある。

(2)アダムズの『アブソルート・ジェスト』はオーケストラバックの弦楽四重奏協 奏曲、で中々演奏機会が無い曲。ジェストは❛冗談❜の意に使われるが、もともとはラテン語で ❛ invention❜ の意味。一つのアイディアがいろいろ変化していく。今回はベートーヴェンの弦楽四重曲やシンフォニー、ピアノ曲から選んでこのジェストに混ぜて作曲された曲。

(3)プレトークで、カルテット・アマービレの笹沼(樹)さんへの質問として、アマービレの意味は?(他の三人のメンバーが女性で ❛ 愛らしい ❜という意味)カルテットを始めた切っ掛けは?(桐朋の学生の授業で四重奏を受けた頃から)特徴は?(スタートして6年目にしか過ぎないので今後、これがアマービレの音だという音造りに心掛けたい)演奏曲の楽譜に ❛Amabile❜との記号記載有り(楽譜に記載がある曲を弾くのは初めて)

(4)『アブソルート・ジェスト』に使用されるピアノの調整(調律)が非常に複雑なので、今回は二台準備した。

(5)作曲者吉松隆氏とのトークで、オリンピックの閉会式に今日演奏する交響曲のメロディが流されたが知っていたか?(流す許可を求めて来たので当然知っているが何時どの場面で流すとか細部はまったく関心が無いので聴かなかった)(この曲は90年代初頭等のソ連崩壊やベルリンの壁崩壊や南アのアパルトヘイト崩壊等に触発されて、死者の為のオマージュの側面もあるが、最後は明るく新しい世界の創設の意味が込められている)。吉松さんの作曲プロセスは?(音楽は将来コンピュータが重要になって来る予感から工学部に入ったが、90年代当時のパソコンは出始めで、作曲に使えるものではなく、手書きで作曲した。パソコンは音楽素材の集積と利用程度)(楽章によってイメージが異なり、最初は中近東、2楽章はアジア、次章はヨーロッパ、最終章はアフリカをイメージしているのでそれぞれにあった音を出すようにした)
 仲々濃度の濃い、ハイレベルなプレトークでした。

日時:2021年8月9日(月) 15:00開演(14:00開場/14:20~14:40プレトーク)

会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演
指揮:原田慶太楼(東京交響楽団 正指揮者)
弦楽四重奏:カルテット・アマービレ *
篠原悠那(第1ヴァイオリン)、北田千尋(第2ヴァイオリン)、中恵菜(ヴィオラ)、笹沼樹(チェロ)
曲目
①ヴェルディ:歌劇「アイーダ」から 凱旋行進曲とバレエ音楽
②かわさき=ドレイク・ミュージック アンサンブル:かわさき組曲~アイーダによる(世界初演)
③アダムズ:アブソルート・ジェスト *
④吉松 隆:交響曲 第2番「地球(テラ)にて」

     (改訂稿/4楽章版)

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【感想】

①配信のせいなのか?ブラスの響きに迫力不足を感じました。少なくともトランペットは三本、出来れば四本欲しかった。弦楽アンサンブルは良し、バレエの踊る雰囲気が目に取る様です。打楽器もなかなか締まりがありました。

②川崎組曲は、市内支援学級の子供たち、川崎市、ドレイク・ミュージックや英国音楽団体、東京響の大人たち、それに指揮者の原田が協力して作り上げた組曲だそうです。

 原田さんがこの様な活動に力を注がれていることは、音楽を通した共生、共助の社会を目指すすべての人々の励みと勇気を与えるものと思われます。感動しました。流石米国仕込みですね。米国では、ボランティア活動や社会貢献は、社会的に認知された当たり前の極普通の行動の様です。利益追求の社会、激しい貧富の差・差別、資本主義の総本山と陰口もたたかかれますが、それだからこそ、バリアフリーの社会建設の努力は、営々として途切れなく続いています。ハンデキャップを持つ人々も一緒に楽しんで生きて行こうとする懐の深い社会だと思います。それが故に米国を目指す難民も多くいるのでしょう。要するに国民の中には、偏狭な心でなく、広い心の持ち主が随分多いのです。こうしたことを考え合わせて聴くと音楽も良く心に伝わって来ますね。

      《休憩》

③非常に珍しいタイプのコンチェルトです。独奏がカルテットというのは。考えれば、どんな楽器でも独奏がオケと競演する型はあっていいのですね。(声楽は無いのかな?声楽コンチェルトは?)最初は、ベートーヴェンの7番や9番2楽章のシンフォニーのリズミカルなモチーフを取り込んで反復する、いいどこどりのミニマルミュージック的な側面がある。それが途中では弦楽四重奏曲の速いテンポのパッセージや深いモチーフが出て来て、ピアノソナタ21番まで取り込まれ、しかもそれが全体的統一性で消化されている点には感心しました。最初からピアノの音が絶え間なく続いていたのが、目立つほどでは無く、カルテットの音が優勢で、オケは聞こえない位の時が多かった。カルテットに背中の増幅マイクは必要なかったのではないでしょうか?1Vnのソロの高音が綺麗に響きました。後半の1Vnの激しいパッセージは、ティンパニーのダンダーンという断捨離的音の合いの手が入り、再度繰り返し繰り返し出て来ますが、曲想は既に変化しています。カルテットの独奏、カデンツアの部分も結構長く、全体としてはオケの演奏はカルテットの演奏に、競奏でも共奏でもなくまさに協奏(協力している)感のする演奏でした。終盤ではティンパニーの合いの手がズーット入り大活躍でした。最後のハープとパーカッションの音が印象的。

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尚、カルテットのアンコール演奏があり、ベートーヴェン『弦楽四重奏曲第16番ヘ長調op135から第2楽章』

 これはベートーヴェンの最後の作品で死の5か月前に作曲されました。2楽章のこの激しさは、何を物語っているのでしょう?それに比し、次の3楽章はやや暗いですが、ゆったりとしっとりとした調べが流れ、達観したベートーヴェンの内なる心境がひたひたと伝わって来るようです。吉田秀和さんは、好きな曲にこの16番を上げていますが、自分としては第15番が一番好きですね、しかもベートーヴェンの最高傑作だと思います。

④この曲は全4楽章ですが順次付け加えられてこんにちの形になったそうです。作曲家の説明を参考まで以下に示します。

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第一楽章挽歌…東からの、ではビオラなどの低音弦、特にチェロの響きがいいですね。それが弦楽アンサンブルに引き継がれ、終盤には、ティンパニー、シロフォン等のパーカッションが大活躍しました。

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第二楽章踏歌…北からの は冒頭のピアノ、パーカッションが軽快で面白いアンサン。

以下第三楽章鎮魂歌西からの、第四楽章南からの も原田さんが若さを体一杯にみなぎらせて、オーケストラを盛り上げ、抑え見事にコントロールしていました。原田さんのもと今後の東京交響楽団の一進化が楽しみです。

 この曲を聴く前はもっと前衛的な現代音楽かと想像していたのですが、全体的にクラシカルな香りが芬々とする交響曲でした。優れて現代と古典の端境期を乗り越えた逸品だと思います。