HUKKATS hyoro Roc

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川 口PLAYS 『エラール製ピアノ』(エラールの午後)

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  表記の演奏会は、サントリホールのチェンバーミュージック・ガーデンの一環として今日行われたもので、古楽器ピアノ奏者では、我が国を代表するフォルテピアニストの川口成彦がエラールのピアノを使って、ヴァイオリンとチェロ奏者を交えて、古今の名曲を演奏するものです。

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   エラールの午後

プログラムの概要は次の通り。

【日時】2021.6.25.14:00~

【会場】サントリーホール・ブルーローズ

【演奏】川口成彦(f-Pf)

    原田 陽(Vn)

    新倉 瞳(Vc)

【プロフィール】

〇川口成彦                                1989年生まれ。第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール第2位、ブルージュ国際古楽コンクール・フォルテピアノ部門最高位。フィレンツェ五月音楽祭をはじめ欧州の音楽祭にも出演を重ねる。協奏曲では18世紀オーケストラ、{oh!} Orkiestra Historycznaなどと共演。東京藝術大学大学院およびアムステルダム音楽院の古楽科修士課程を首席修了。第46回日本ショパン協会賞受賞。

〇原田陽

1994年ジュリアード音楽院プレ・カレッジに入学。ドロシー・ディレイに学び、同音楽院より奨学金を受ける。2001年パリ国立高等音楽院第三課程を修了。03年ミラベル宮殿および王子ホールにてイェルク・デームスと共演したことで、04年S&R Foundationよりワシントン賞受賞。15年レ・ボレアードとモーツァルトの協奏交響曲を共演。オーケストラ・リベラ・クラシカ、バッハ・コレギウム・ジャパンのメンバー。 

〇新倉 瞳

桐朋学園大学音楽学部を首席で卒業、皇居桃華楽堂新人演奏会に出演し御前演奏を行う。その後スイスへ渡りバーゼル音楽院ソリストコース・教職課程の両修士課程を最高点で修了。これまでに毛利伯郎、堤剛、トーマス・デメンガ、マルティン・ツェラー(バロック・チェロ)に師事。国内外でリサイタル、オーケストラとの共演を重ね、現在はカメラータ・チューリヒのソロ首席チェリストとしてスイスを拠点に幅広く活躍中。使用楽器は、宗次コレクションより貸与されたGiovanni Grancino 1694年製。

 

【曲目】

①グリーグ『アンダンテ・コン・モート ハ短調』
②ラヴェル『ヴァイオリン・ソナタ(遺作)』
③フォーレ『ピアノ三重奏曲ニ短調作品120』
④J.S.バッハ(サン゠サーン編曲)『無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番BWV 1002 より「テンポ・ディ・ブーレー」』(ソロ・ピアノ用編曲)
⑤J.S.バッハ(サン゠サーンス編曲)『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番BWV1005より「ラルゴ」』(ソロ・ピアノ用編曲)
⑥サン゠サーンス『組曲「動物の謝肉祭」より第13曲「白鳥」』
⑦サン゠サーンス『ピアノ三重奏曲第1番ヘ長調作品18』

 

【使用ピアノについて】

 今回の川口さんの使用する「エラール社製ピアノ」は1867年製といいますから、演奏曲目にあるサンサーンスが、丁度パリのガルニエ宮に程近いマドレーヌ寺院の専属オルガニストとして活躍していた頃のものです。サン・サーンスもきっと同種のものを弾いたことがあるでしょう。


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この古楽器に関しては、H.P.で林田直樹氏が説明しているので、以下にそれを引用(抜粋)しておきます。

❝今回の「フォルテピアノ・カレイドスコープ」は、さまざまな時代と場所で活躍して いたフォルテピアノが次々に登場し、ソロ・リサイタルではなく室内楽という形で、他 の楽器との対話とともに楽しむことができるという点で、画期的なものだ。  会場のブルーローズは、19世紀ヨーロッパの貴族の館の音楽室と同じような広さ であり、平らな床に人々が集まって演奏家を囲むサロン的な空間の再現という意味で は、フォルテピアノの演奏にまたとない適した場所である。  今回、1867年製エラールを用いたオール・ブラームス・プログラムで演奏するヴァイ オニリスト佐藤俊介さんは、一台一台のキャラクターがすべて違うフォルテピアノと 一緒に演奏することの面白さについて、こう述べておられた。  「楽曲に対する自分の解釈のアイディアははっきりありますけど、古楽やヒストリカ ル・パフォーマンスをやる者としては、実際その場で調節できる余裕と柔軟性が、絶対 フォルテピアノ・カレイドスコープの聴きどころ 林田直樹にないとダメなんです。ガチガチに固めた解釈をそのままいろんなところに持っていく というのはできない。楽器のシチュエーションによっていくらでも変わりますから」  つまり、そのフォルテピアノと実際に出会ってみて、共演者の演奏も大きく変わる 可能性があり、その柔軟性もまた聴きどころになってくるというわけだ。  使用楽器について簡単に触れておこう。サントリーホールが所蔵する1867年製エ ラールは、かつて福澤諭吉の孫・進太郎(1912~95)がパリの由緒あるサロンから購入 したもので、フランツ・リスト(1811~86)も弾いたと伝えられている。妻となったギリ シャ人声楽家の福澤アクリヴィ(1916~2001)は、武満徹や湯浅譲二の参加していた 芸術家グループ「実験工房」のコンサートでシェーンベルク『月に憑かれたピエロ』日 本初演を行ったこともあり、近衛秀麿(1898~1973)もアクリヴィの歌唱の伴奏で弾い たことがあるという。生涯アクリヴィが大切にしていたため、保存状態は極めて良好で ある。今回は佐藤俊介さんの妻で音楽的パートナーのスーアン・チャイさん(I:6/13 ㈰)、 川口成彦さん(IV:6/25㈮)がこのエラールを演奏する。❞

 尚、今回の弦楽器は、出来るだけ古楽器に近づけるために、ガット弦を使用したとのことです。

【演奏の模様】

 エラールの音は、思ったより大きな音が出て、150年以上も経って実用に供することが出来るとは、驚異的です。余程改修を念入りにし、日頃のメンテも良く手入れされているのでしょう。柔らかく味のある音で、川口さんは、流石です。見事に弾きこなしていました。

 今回は、盛り沢山の曲目だったので、詳細については後日時間がとれれば記録するつもりですが、特に強く感じたことを、二点だけ記すると、

一点目、ラベヴエルのヴァイオリン曲が、えーこれがラヴェル?と思う程清明で淡泊な響きを有していた事です。あのボレロに見る様な繰り返し繰り返し諦めず続く情念的な調べとは、大違いです。調べてみると、それはそうなのかと納得する理由がありました。この曲は、ラヴェルが、23歳の年にパリ音楽院に再入学し、フォーレ他に師事した、若かりし時の最初の作品だったのです。どおりでフォーレの香りがする曲だった訳です。

 もう一点は、サン・サーンスの天才性に触れて驚きました。それは、⑤の曲(演奏順が変更になり、④より早く弾かれた)は、サン・サーンスがバッハのヴァイオリンパルティータを編曲したそうなのですが、えーこれがバッハ?と思う程デフォルメされているのです。しかしその曲の響きが何ともいえず、綺麗なものとなっている。サン・サーンスの曲になりきっています。ところが、その曲を聴き進むと、あーこれはやっぱりバッハだと分かってくるのです。古今東西、編曲されたものは数限りなくあるでしょう。原曲を大きく変化させて陰も形も無くなる様なやり方や、殆ど原曲の通りで、形だけ別な衣を着せ替えたものもあるでしょう。しかし、原曲とは分からない殆自分のものにして、その中から原曲を感じさせるのは、常人には出来ない技だと思います。凄い才能!

 尚、最後に、アンコール演奏があって、

ヴィドール『ビアノ三重奏のための四つの小品』から第4曲〈セレナード〉でした。ややショパンの香りもする綺麗な曲でした。