HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

工藤PLAYSモーツァルト『フルート四重奏曲全曲』

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 表記の演奏会は、サントリーホール音楽祭、チェンバーミュージック・ガーデンの一環として行われたもので、我が国のフルートの第一人者工藤重典氏が、若手の弦楽奏者(Vn、Va、Vc)と共に、モーツアルトの良く知られた曲、四曲を連続演奏しました。
 プログラムの概要は次の通り。

【日時】2021.6.22.13:00~

【会場】サントリーH. 小ホール(ブルーローズ)

【出演】
 フルート:工藤重典
 ヴァイオリン:辻彩奈
 ヴィオラ:田原綾子
 チェロ:横坂源

【出演者プロフィール】

◉工藤重典(Fl)

国際的フルーティストとして活躍する工藤重典は、1979年にパリ国立高等音楽院を一等賞で卒業し、恩師ジャン゠ピエール・ランパルに認められ、リサイタルやマスタークラスを40ヶ国、180以上の都市で開催。78年第2回パリ国際フルートコンクール、80年第1回J-P. ランパル国際フルートコンクールでそれぞれ優勝。現在、東京音楽大学教授、エリザベト音楽大学客員教授、昭和音楽大学客員教授、パリ・エコールノルマル音楽院教授を務めている。2018年「モーツァルト:フルート四重奏曲」全曲演奏会を全国で展開し、成功をおさめた。

◉辻彩奈(Vn)

1997年岐阜県生まれ。2016年モントリオール国際音楽コンクール第1位。モントリオール響、スイス・ロマンド管、N響、東京フィル、群響、名フィル、大阪フィルなどと共演。第28回出光音楽賞受賞。19年4月、スイス・ロマンド管とツアーを実施し、その艶やかな音色と表現により各方面より高い評価を得た。使用楽器は、NPO法人イエロー・エンジェルより貸与されているJoannes Baptista Guadagnini 1748。現在、特別特待奨学生として東京音楽大学、およびパリ・エコールノルマル音楽院に在籍している。

◉田原綾(Va)

東京音楽コンクール、ルーマニア国際音楽コンクール優勝。読響、東響、東京フィルなどと共演、室内楽奏者としても国内外の著名アーティストと多数共演するほか、オーケストラの客演首席も務めるなど、活躍の幅を広げている。パリ・エコールノルマル音楽院にてブルーノ・パスキエ、デトモルト音楽大学にてファイト・ヘルテンシュタインに師事。桐朋学園大学院大学特待生、2019年度明治安田クオリティオブライフ文化財団海外音楽研修生。サントリー芸術財団よりPaolo Antonio Testoreを貸与。

◉横坂 源(Vc)

桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コースを経て、シュトゥットガルト国立音楽大学、フライブルク国立音楽大学で研鑽を積む。ビバホールチェロコンクール最年少優勝、全ドイツ学生音楽コンクール優勝(室内楽部門)、ミュンヘン国際音楽コンクール第2位。出光音楽賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞、ホテルオークラ音楽賞受賞。鷲尾勝郎、毛利伯郎、ジャン゠ギアン・ケラスに師事。2016年秋、ワーナーミュージック・ジャパンより『J. S. バッハ:ガンバ・ソナタ集』をリリース。


【曲目】
モーツァルト『フルート四重奏曲』

 ①第1番 ニ長調 K. 285(三楽章構成)

  ①-1 Allegro  ①-2 Adagio      

        ①-3 Rondeau     

 ②第2番 ト長調 K. 285a(二楽章構成)

       ②-1 Andante

       ②-2 Tenpo di  Menuetto

  ③第3番 ハ長調 K. Anh. 171(二楽章構成)

      (285b)

        ③-1Allegrro  ③-2 Andantino

   

   ④第4番 イ長調 K. 298(三楽章構成)

         ④-1Andante ④-2Menuetto

         ④-3 Rondieaoux...

 

【演奏の模様】

  演奏予定の四重奏曲は、第1番から第4番まで昇順で演奏される予定だったのですが、登壇した工藤さんは、予定とは逆に4番から降順に演奏することを宣言、理由は言っていませんでした。

 これ等の四重奏曲は、1777年から1786年にかけて作られたものです。  モーツアルトは後世「フルート嫌い」と看做されている側面もありますが、それにしては、四重奏曲の他、協奏曲、ハープとの曲、フルートソナタなどなど、素晴らしい珠玉の輝きを放つ作品を多く作っています。本当に嫌いだったらこんなに沢山素晴らしいフルート曲を作る筈が有りません、いくらお金の為とは言え。モーツアルトが「フルート嫌い」と看做されたのは1778年2月に父に宛てた手紙で、この楽器に「うんざりする」といった趣旨の事を書いたからです。でもこの時は、フルート四重奏曲の作曲依頼を受けて1777年に1番の四重奏曲を作り、1778年には2番と3番の四重奏曲を作ったにもかかわらず、依頼者の満足のいくものではなかったため(同時に依頼されて作ったフルート協奏曲が気に入られなかったのかも?)、報酬も減額されてしまったそうです。その直後ですからフルートにいい感じを持つわけがないと思うのです。しかも父に当てた手紙が2月で同年の7月には、パリに同行した母が亡くなってしまうのですから、2月頃は母の病がかなり重かったのではないでしょうか?そうした環境状態で、他の楽器と比べて作曲とその成果がスムーズにいかなかったフルート曲への一時的な感情が「嫌い」と思わせたのではないでしょうか?

 さて今回の演奏会は平日の日中ですが、フルート四重奏曲の全曲演奏が聴けるのは、滅多にない機会なのでチケット売り出しと同時に購入、万難を排して聴きに行ってきました。会場は小さい方のブルーローズ、400に近い席は、主として年配者たちで一杯でした。

 さて演奏の方ですが、金色に輝くフルートから出る音は、重々しいが軽やかで華々しく、工藤さんは以前聴いたリサイタル(hukkats注)の時よりさらに音が冴え冴えとして会場に鳴り響きました。特に④の第一楽章のフルート管全体を振動させる太い音、又①の第一楽章の軽やかな伸びのある音が印象的。

(hukkats注)                           

 2020.10.15.らららクラシックコンサートVo9「躍動するバロック音楽」~大編成アンサンブルの絢爛なる響き』拝聴

の記事に工藤さんが演奏した時のことが記載されているので、文末に抜粋引用しておきます。 

 弦アンサンブルは矢張りVnの辻さんの活躍が目立ちます。曲がその様に作られています。辻さんはそれを忠実に、いやそれ以上に安定して演奏。こうした弦の演奏が、特に目立ったのは、4番の第一楽章でフルートが低音旋律の主題から華やかな高音旋律でヴァリエーションをひとしきり吹いた後、比較的低音でVnが活躍し出してVcも蠢き、続いてVaがフーガ的にメロディを弾いて活躍、最後はフルートの旋律に戻るのですが、フルートに寄り添う様にVcは地味に活躍していました。モーツァルトの楽器采配の妙意を感じた気がしました。

 立ち上がりこそ弦アンサンブルの音の溶け具合が、いまいちの気がしましたが、演奏が進むと良くなった。例えて言うと、工藤さんの笛が、一吹き二吹きと、何回も鍋の汁を吹き冷ます程に、三種の汁は次第に溶け合って、透き通った美味しいスープが出来上がった様なものです(例えが変で失礼)。4番、3番、2番と演奏が進むにつれて弦楽アンサンブルが煌めいてきて、特に2番の二楽章辺りになると大変良くなったと思います。工藤さんのフルートも益々冴えてきて、同じく②-2の速いパッセージなどはめくるめくきらびやかさでした。

 今日の主役は工藤さんが立派に果たしましたが、それを彩る辻さん、田原さん、横坂さんの演奏が花を添えて、一層主役が際立つという相乗効果が出た演奏会でした。

 最後の1番はそれこそ1番有名な曲で、今日の聴衆なら誰一人知らない人はいないでしょう。工藤さんも弦楽アンサンブルも最後の曲が一番出来が良かったのではないかと思います。

 全体として期待していた通りで、聴きに来て良かったと思える演奏会でしたが、欲を言えば、弦楽アンサンブルは更に研ぎ澄まされた呼吸の一致と言うか、アウンの一致が出てくると申し分ないなと思いました。つい最近聴いた「エルサレム弦楽四重奏団」の演奏をつい思い出してしまいます。

 また工藤さんの金の笛は、実に重厚などっしりした音が出る様ですが、随分重そうで、吹くのも大変なのでしょう?まだまだ奥の深い楽器ではないかと勝手に想像しました。良い器(うつわ)程、使えば使うほどに輝きが増すと言うではないですか。

 今手元に「ニコレ+モーツァルトトリオ(Vnカントロフ Vaウラディミール・メンデルスゾーン Vc 藤原真理)」の同じ四重奏曲集(1983.3.9.武蔵野音大ホールで収録)のCDがあります。ニコレはランパルと二大フルーティストと称された時代も有りましたが、その音楽スタイルは異なっていました。トリオのメンバー、カントロフは真央君が2位になった時の優勝者アレクサンドルの父親で、メンデルスゾーンはかの有名な作曲家の子孫です。藤原真理さんは今もお元気に演奏活動をされています。お三方共今ご存命だと思いますが、ニコレは5年前に90歳で亡くなりました。これを聴くとアンサンブルは完璧、ニコレはランパルの音を濾過して清明にした様な音(濾過した分やや強さが減殺)を立て音楽性は抜群、貴重な録音です。家に大事にとっています。

 工藤さんは、ランパルに師事したとのことで、ランパル張りの音の切れの良さと華やかな音色、縦横無尽のテクニック等、益々磨きがかかって来ている様に思えました。今後ののさらに一層の発展を期待します。第二のランパルを目指して下さい。

 尚、演奏後大きな拍手に答えて、アンコール演奏がありました。工藤さんの話では、モーツアルト作曲『オーボエ四重奏曲』があるのでそのフルート版を演奏するとのことでした。知りませんでした。調べてみると確かにモーツァルトは1781年に、オーボエ奏者のために作曲していました。アンコールの第一楽章のみを聞いた限りでは、今日聴いたフルート四重奏曲の様な華やかさは有りませんが、あちこちモーツアルトらしさが芬々とする良い曲でした。

 今後もし工藤さんが、大バッハのフルートソナタ全六曲 (BVW1030~BVW1035 )や、カール・フィリップ・エマニュエル・バッハの無伴奏フルートソナタWq132 などを吹く演奏会を開けば、是非とも聴きに行きたいと思っています。

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《再掲(抜粋)》

③この大バッハの息子エマニェル・バッハのフルート協奏曲は、余り聴かない曲ですが、工藤さんは、素晴らし演奏で殆ど完璧に吹き終えました。あれはもう何十年前のことでしょう、若い頃の工藤さんの演奏を聴いたことがあります。「未完の大器」といった記憶しか残っていないのですが、今日の演奏は、テクニックも音質も非の打ちどころが無いくらいの変貌振りで、大変驚きました。素晴らしかった。今度工藤さんの吹くエマニェル・バッハの『無伴奏フルートのためのソナタイ短調(Wq132)』やバッハのフルートソナタ集を聴いてみたくなりました(時々ニコレの録音で良く聴く気に入った曲達です)。


 前半終了で休憩です。

 後半最初の曲は、

④『ブランデンブルク協奏曲第5番』 この曲に合わせてCembがステージの奥から前方へ出されました。Cembの長い独奏があるからでしょう。 Vn(4)Va(3)Vc(3)Cb(1)Ft(1)Cemb(1)の構成。

ヨハン・ゼバスチャン・バッハが作曲した6曲からなる合奏協奏曲集(Six Concerts Avec plusieurs Instruments (仏語))の中の一つです。ブランデンブルク辺境伯に献呈されました。 このフランス語での曲名は、バッハ自筆の楽譜に記載されているそうですから、バッハはフランス語も堪能だったのでしょうか?この時期のバッハは、ケーテンという都市の宮廷楽長を勤めていて 数年後には、ライプチッヒの教会に転出しているので、いろいろ対外活動をしていたのでしょう。何れにせよバッハの教会音楽以前の世俗的な曲で、かなり宗教音楽とは違った印象をうけます。特にこの5番は六曲の中では一番有名と言ってよいでしょう。よく演奏されます。
 聞き慣れたメロディが流れ出しました。5番の出だしが他の出だしと比べて1番厚みがありますね。特に低音弦が、ズッシリと腹に響きます。石田Vnと工藤Ftがソロ的パートを弾き、10人の石田組が伴奏を勤める。石田、工藤は相変わらず、見事な音を奏で、伴奏アンサンブルの響きも良い、特に3人のVnの響きが。終盤近くCembのソロ演奏が結構長く続きました。ここのところは見せ場、聴かせ処なのでしょうが、残念ながら、ソロの前半は音量不足、後半はやや大きくなったものの、リズムが不安定感がありました。第1楽章のみの演奏。