HUKKATS hyoro Roc

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『ダニエル・バレンボイム第2夜/ベートーヴェン最終期三大ソナタ』ピアノリサイタル

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 今日は、バレンボイムピアノリサイタルの第2夜、ベートーヴェンの最後のソナタ三つを弾きました。第2夜と言ってもその前に、急遽追加された公演が、6/2(水)にあったので、今日で、実質、三日目となる訳です。その追加公演を聴いた人の話しでは、チケットはすぐに売り切れたと言いますから、如何に人気があるかが分かります。今日と同じ30番31番32番を昨年12月に来日したゲルハルト・オピッツが演奏した時聴きに行ったので、参考までその時の演奏会の模様を記した記録を文末に再掲しました。

 今日のリサイタルの概要は、次の通り。

【日時】2021.6.4.(金)19:00~

【会場】サントリーホール大ホール

【出演】ダニエル・バレンボイム

【曲目】

①ベートーヴェン『ピアノソナタ第30番』

 

②ベートーヴェン『ピアノソナタ第31番』

 

③ベートーヴェン『ピアノソナタ第32番』

 

【曲目情報】

  以下、WEBのWikipediaの情報です。 

①ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 op.109 

この作品の完成が1820年の秋であったのか、または1821年になってからであったのかははっきりしていない。

作品は当時18歳だったマキシミリアーネ・ブレンターノに献呈されている。1821年12月の献呈の句には、作曲者がブレンターノ家に抱いていた深い愛着の情が綴られている。

第1楽章 Vivace, ma non troppo

第1楽章冒頭

「ヴィヴァーチェ、マ・ノン・トロッポ」が主要主題、「アダージョ・エスプレッシーヴォ」が副次主題。テンポも曲想も極端に異なる2つの主題が、経過句もなくいきなり接続されて提示される。2つの主題を「A」「B」とすると、第1楽章は「A―B―A―B―A」の5部分形式で書かれているが、同時にソナタ形式と見なすこともできる両義性をもつ。

 

第2楽章 Prestissimo

ソナタ形式。第1楽章からは切れ目なく演奏される。楽章中で用いられる素材はffで出される第1主題の中に集約されている。

第1主題から導かれる第2主題はロ短調に出されるが、主題の持つ性質によりここでは通常のソナタ形式に見られるような主題間の対比は完全に失われている。

展開部ではまず第1主題のバスの音型がカノン風に処理される。その後静かな推移を見せるが、突如強奏で第1主題が回帰して再現部となる。第2主題はホ短調となって現れ、ごく短いコーダを経て勢いよく終結する。

第3楽章 Andante molto cantabile ed espressivo

変奏曲形式。主題と6つの変奏からなる。全曲の重心のほとんどはこの第3楽章に置かれており、変奏曲がこれほどの比重を占めたのはベートーヴェンのピアノソナタでは初めてのことであった。

主題: 3/4拍子

「じゅうぶんに歌い、心の底からの感情をもって」(Gesangvoll, mit innigster Empfindung)と付記されている。ゆったりとしたテンポで静かに曲が開始される。3拍子の2拍目に付点音符が置かれることにより、主題にはサラバンドのような性格が与えられている。

 

 第1変奏: 3/4拍子

モルト・エスプレシーヴォの指示の下、ワルツ様のリズムに乗った歌謡的変奏。曲の雰囲気や主題のテンポは主題から引き継がれ、装飾音が巧みに使われている。

 

第2変奏: 3/4拍子

主題は16分音符によるモザイク状の音型の中に隠される。さらにこの変奏と対照的な威厳ある変奏が置かれ、2つの性格の異なる変奏が入れ替わりながら進められていく。

第3変奏: 2/4拍子

対位法を駆使したアレグロ・ヴィヴァーチェでのテンポの速い変奏。開始部分の譜例8で示されるパッセージは左右の手を入れ替えて奏され、その後も手の交代が続けられていく。

 

第4変奏: 9/8拍子

「主題よりいくらか遅く」(Etwas langsamer als das Thema)と指示されている。第3変奏から大きく趣を変え、幻想的な雰囲気をたたえる。2声から4声の声部が対位法を用いてまとめられていく、温かみのある変奏。

 

第5変奏: 2/2拍子

スタッカートを多用した快活なフーガ的変奏。リズムによる推進力に支えられたこの変奏は多声的なコラールのような印象を与える。

第6変奏: 3/4拍子

カンタービレと指定され、まず内声部に主題が奏される。

 4分音符で始まったリズムの刻みは8分音符、三連符の8分音符、16分音符、32分音符と細かくなっていき、ついにトリルにまで細分化される[17]。12小節目から両手に現れたトリルは低音部に移され、17小節目からの荒れ狂うアルペッジョを経ると高音で鳴り続けるトリルの上に主題が明滅する。

最後に次第に弱まりながら主題が原型のまま回想され、静かに曲を閉じる。

このように最後に主題がそのまま回想されて終わる変奏曲であるという特徴から、この楽章はバッハの『ゴルトベルグ変奏曲』との類似性を指摘されている。

 

②ベートーヴェン:ピアノソナタ第31番 変イ長調 op.110

ベートーヴェンの最後のピアノソナタ3作品(30番   31番    32番)は、『ミサ・ソレムニス』などの大作の仕事の合間を縫うように並行して進められていった[1]。途中、やがて彼の命を奪うことになる病に伏せることになるが[2、健康を回復したベートーヴェンは旺盛な創作意欲をもってこの作品を書き上げた。楽譜には1821年12 月25日と書き入れられ、これが完成の日付と考えられる。

 後期の作品ではフーガの応用に大きく傾いている。この曲の終楽章は、最後の3曲のピアノソナタの中では最も典型的にフーガを用いたもの。

 

第1楽章 Moderato cantabile molto espressivo変イ長調

ソナタ形式。con amabilità(愛をもって)と付記されている。序奏はなく、冒頭から譜例1の第1主題が優しく奏でられる。

ベートーヴェンは第1主題の後半楽節を好んでおり、自作に度々用いていた。Vnソナタ第8番の第2楽章やその他の楽曲にも同じ旋律を見出すことが出来る。また、この旋律がハイドンの交響曲88番の第2楽章からの借用であるとする意見もある。

 

第1主題に続いて特徴的なアルペジョの走句が入り、変ホ長調の第2主題の提示へと移る。

ピアノソナタ第3番と同様提示部の反復は設けられておらず、そのまま展開部へと移行する。展開部はテノールとバスの音域を行き来する左手の音型の上で、転調を繰り返しながら冒頭2小節の動機要素が8回奏される。続く再現部では第1主題が細かな伴奏音型の上に姿を現し、第2主題は変イ長調となって戻ってくる[5]コーダでは経過部のアルペッジョが奏でられ、譜例1の断片を回想しつつ弱音で楽章を終える。

 

第2楽章 Allegro molto 2/4拍子 ヘ短調

三部形式。スケルツオ的な性格を持ち、軽やかな中にも全体的に不気味な雰囲気を漂わせる。第1の部分に使用されている旋律は当時の流行歌から採られている。『Unsre Katz hat Katzerln gehabt』(うちの猫には子猫がいた)、続く『Ich bin lüderlich, du bist lüderlich』(私は自堕落、君も自堕落)というコミカルなタイトルの楽曲に由来する。 それぞれ反復記号によって繰り返され、曲は中間部へと進む。中間部は下降する音型と上昇するシンコペーションの音型が交差する、この楽想が5回奏されるだけの簡素なものである。中間部が終わると第1部をほぼそのまま再現し、コーダで音量とテンポを落として切れ目なく終楽章へ続く。

 

第3楽章 Adagio ma non troppo- Fuga. Allegro, ma non troppo 6/8拍子 変イ長調

極めて斬新な構成と内容を備えた終楽章は、規模の大きな変ロ短調の序奏に始まる。この部分のベートーヴェンの手稿譜には例外的に数多くの修正の跡が残されており、作曲者が推敲を重ねて書き上げたことが窺われる。レシィタティーヴォと明記された楽想は頻繁にテンポを変更しながら進む。この中でタイで繋がれた連続するイ音に作曲者自身が運指を指定している部分は、クラヴィコードで実現可能な演奏効果を想定して書かれたものである。

続いて変イ長調の『嘆きの歌』(Klagender Gesang)が切々と歌い始められる。『嘆きの歌』の下降する哀切な旋律線は、バッハの『ヨハネ受難曲』の「Es ist vollbracht」との関連を指摘されている。

次に変イ長調で3声のフーガが開始される。フーガの主題は第1楽章第1主題に基づくもので、この上昇する音列が全曲を統一する役割を果たしている。フーガは自由に展開されてクライマックスを形成する。

盛り上がったところで再び『嘆きの歌』が現れる。「疲れ果て、嘆きつつ」(Ermattet, klagend)と記載されており、ト短調で休符によって寸断された途切れ途切れの旋律が歌われる。

クレシェンドを経て、再度3声のフーガとなる。ベートーヴェンはこのフーガ冒頭にイタリア語で「次第に元気を取り戻しながら」(Poi a poi di nuovo vivente)と記した。譜例12の主題は譜例10のフーガ主題の反行によっており、ト長調で開始される。

次第に譜例10の縮小形、拡大系が姿を現すようになり、さらにメノ・アレグロで4分の1の縮小形を出しつつト長調から主調である変イ長調に移行する。同時に、譜例10の主題が堂々とバスに回帰する。その後、対位法を離れて一層大きく歓喜を表しながら、最後に向かって徐々に速度と力を上げていき高らかに全曲を完結させる。

 

③ベートーヴェン:ピアノソナタ第32番 ハ短調 op.111

第1楽章 Maestoso - Allegro con brio ed appassionato ハ短調

ソナタ形式。序奏を持ち、フーガ的要素を含む。悲愴ソナタや運命交響曲などベートーヴェンのハ短調で書かれた他の作品と同じく、荒々しく熱情的な楽想を持つ。また、減七の和音を多く含む。第1楽章の冒頭、第1小節全体に広がる減七の和音はその一例である。

序奏は低音からのクレッシエンドにより主部へと接続される。第1主題は強奏により威圧的に提示され、まもなく対位法的に扱われていく。

第2主題は変イ長調で現れるが、たちまち細かい音の流れに融解していく。

第2主題のもたらす静寂は長くは続かず、第1主題に基づくコデッタに取って代わられると反復記号によって提示部を繰り返す。展開部では第1主題をフーガ風に扱っていくが、規模はさほど大きなものではない。4オクターヴのユニゾンが強烈に譜例2を奏して再現部となり、続いて第2主題はハ長調となって現れる。第2主題がヘ短調となって低音部で繰り返され、結尾句を経るとコーダとなる。コーダは短いながらも、ヂィミヌエンドしてハ長調で終止し、第2楽章の変奏曲に溶け込むように巧妙に作られている。

 

第2楽章 Arietta.Adagio molto,semplice e cantabile ハ長調

(厳格)変奏曲。16小節の主題とそれに基づく5つの変奏からなり転調を伴う短い間奏とコーダを持つ。16分の9拍子の下、譜例4に示される深みのある主題が穏やかに歌われる。

第1変奏では旋律に一定の律動が伴われ、以後、第3変奏にかけてこの律動が漸次細分化される。

第4変奏になると、32分音符の三連音による律動が低音部及び高音部に出現するが、この律動は非常に重要で、その後の楽曲全体を支配する。第4変奏末尾には間奏部が付されている。長いトリルを伴って主題の断片が現れ、一度ハ短調に転ずると最弱音から息の長いクレッシエンドを形成しつつ第5変奏へと接続される。

最終(第5)変奏より、主題が律動の上に出現する。再び姿を現した主題は名残を惜しむかのように、拡大されて歌われていく。

最後は高音域のトリルを伴いながら主題が回顧され、ハ長調の響きの中、楽曲は静寂のうちに幕を閉じる。


【演奏の模様】

①ベートーヴェン『ピアノソナタ第30番』

 第1楽章 Vivace, ma non troppo

昨日同じ演奏を聴いた筈なのですが、ハプニングの影響で、聴く心の準備(受け入れ態勢)が整わなかったので、言えることはありませんでした。今日はバレンボイムの紡ぎ出す音、一つ一つを子細漏らさず受け止めることが出来ました。コロコロと転がる珠玉の様な音、特に最高音に近い処がとても綺麗なのは、他のコンサートの時もそうですが、バレンボイムが特にいいというより、ベートーヴェンの作曲した譜面の表現を、ある域に達したピアニストが演奏すると、そういう状態が現出されるのでしょう、きっと。ただ、文末に引用したオピッツと比べると、今日の真珠(珠玉)は、やや粒が小さいかな?

 

第2楽章 Prestissimo 及び第3楽章 Andante molto cantabile ed espressivo

 両楽章とも、1楽章に負けず劣らず、澄み切った清透な音がキラキラときらめき、左手の低音が、あたかも月夜に照らし出された小川のさざ波を表現、右手の高音でさざ波上を乱舞するホタルを表現しているかの錯覚さえ感じます。

第2楽章での強打鍵や三楽章の強奏部分もバレンボイムは十分力強く表現していました。三楽章のフーガ的旋律の処に来ると、厳かと言うかしめやかというかなりバッハの影響を受けている感じはここでもします。後のソナタでも出て来ることなのですが。

 

②ベートーヴェン『ピアノソナタ第31番』

第1楽章 Moderato cantabile molto espressivo変イ長調

 今日ここまでのバレンボイムの演奏で一番目立つのは、ずーと一貫して極上の粒ぞろいの透明とも言える音質を弾き出していることですが、ただこの楽章のアルペジョの処が少しもやもやと歯切れ不足の感じがしました。

この曲で、一番の聴き処は、

第3楽章 Adagio ma non troppo- Fuga. Allegro, ma non troppo (6/8拍子 変イ長調)の

歌う様なメロディの箇所とフーガの部分でしょう。両者が連続するそのやり取りを、今日のピアニストはあたかもオペラの場面を見えるが如く演奏してくれました。

 所謂「嘆きの歌(確かに切々としていますね。)」をピアノが詠い上げると、続くフーガでピアノは、最初小さく、あたかも精霊の降臨を継げている様です。”主よ救え給え”との嘆きに ”汝の足元をみよ”と答え、嘆きがさらに激しく叫ぶと、フーガが今度はff で決然と告げるのでした、等と連想しながら聴くのも楽しい。 

 

③ベートーヴェン『ピアノソナタ第32番』

 この曲程、この作曲家の生涯の卒業論文とも言える作品は他に無いのではないでしょうか。第九も荘厳ミサ曲もその他いろいろあるとしても、音楽としてのその構成力、迫力、精神力、見事な美的表現、ダントツだと思います。ソナタの中では少ない二楽章構成ですが、曲としては長い大きい大曲です。ベートーヴェンはこの曲をさらに3楽章 4楽章と大きくする気は無かったのでしょうか?

第1楽章 Maestoso - Allegro con brio ed appassionato ハ短調

 冒頭の強奏から始まり、この楽章では、弱音部に比してこれまでの曲に無い程の打鍵で大きな音を立て、リズムも良く力演していました。鍵盤を手を振り下ろし指で叩き、楽章中低音部のff部は左腕をこの時だけかなり上にあげて、打ち下ろしていた。

第2楽章 Arietta.Adagio molto,semplice e cantabile ハ長調

 変奏部分で丹念に音をまさに紡ぐが如く、指を小刻みに動かしてキラキラキラキラと音をってていたのが印象的。最後に繰り返されるテーマのメロディは単純であるがゆえに複雑な作曲家の心理状態が込められている実感が伝わって来る様な素晴らしい演奏でした。 

 予定曲すべての演奏が終わると、他の曲の時とは比べ物にならない位の聴衆の興奮と拍手の渦がホールを埋め尽くしました。何回も出て来ては観客の声援、いやそれに等しい大きな拍手に答えるバレンボイム、八面ろっぴの活躍ではないですが、八面の観客に手をあげてまた頭を下げながら挨拶して周る演奏者はこれまで見たことがない。昨日のハプニングなど どこかに霧散してしまう様な人気振りでした。人気もあるのでしょうが、今日全体の素晴らしい音、素晴らしい演奏に人々は感動し、最後は Standing Ovation 状態でした。自分としては、この様なピアノリサイタルはオピッツの時以来でしょうか。

 

(追記)主催もとは、やはり昨日のバレンボイムの演奏予定曲の不作為に責任を感じたか、チケットの払い戻しをするという意向をホームページに掲載した模様です。

 

(再掲) ///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

編集

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 1953年ドイツバイエルン州生まれのオピッツは今年67歳、長年ミュンヘン音楽大学で教鞭をとりました。今では数少ないウィルヘルム・ケンプの弟子です。ケンプは誰もが認める「ベートーヴェン弾き」、ケンプの弾く32番のソナタのCDが家にあったので事前に聴いておきました(普段はアラウのベートーヴェンソナタを聴いています。)

 今回ベートーヴェン生誕250年を記念して各地で来日公演をしたのです。近場の横浜でも11月8日に演奏会があったのですが、曲目が別なものだったので行きませんでした。 今回はベートーヴェンの「最後の三つのソナタ」を弾くというので行ったのでした。なぜならば11月16日に「藝大奏楽堂」でソナタ32番を渡邊健二教授が弾き、それを聴いて感銘を受けたことと、最近30番、31番、32番の三つの曲が連番で入っているアラウが演奏するCDを、家で聴くことが多いことが、聴きに行きたいと思った大きな要因でした。

 

【日時】2020.12.11. (金)19:00~

【会 場】東京オペラシティコンサートホール

【演奏曲目】

①ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調 op.109

②ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 op.110

③6つのバガテル op.126
④ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 op.111

 

【演奏の模様】

 開演となり登壇したオピッツは、白い短髪と短い白鬚に覆われその柔和さは如何にもドイツ人といった風貌で、今の時期、赤色のガウンと、毛糸の三角帽を被れば、立派なサンタクロース(🎅)そのものです(失礼)。

①挨拶の後すぐにピアノに向かい30番のソナタを弾き始めました。がっしりした体躯から伸びた腕も太くて頑丈そうです。しかし平たく構えた太い指から紡ぎ出される音は、ビアノとは、こんなに繊細できれいな音が出るのだと感動すらする響き、録音では決して味わえない音です。

 オピッツは、終始落ち着き払って不動の姿勢でかなりゆったりしたテンポで弾いています。二楽章でも三楽章でも、右手の小指から出る高音のきれいな音、鍵盤を撫でる様にして弾いている。三楽章の終盤の速いパッセージも指をやや丸めて、あくまでソフトにタッチしていました。ソフト感が目立った演奏でした。 

 

②この31番の曲は、30番、32番程深い精神性を感じるものではありませんが、メロディが親しみやすさがある曲なので、若い人にも人気がある様です。何故か世に売り出した初期の頃のソナタの初々しさも感じる曲です。

 一楽章のModeratoでは、①の冒頭よりもさらに落ち着いた様子で、右手のしっかりしたタッチから、この世にこんなにも奇麗な澄んだピアノの高音が出るのかと思われる程の素晴らしい調べを奏でていました。録音では、何故この様な繊細さが出ないのでしょう。カットされている周波数の音のせいでしょうか?これはピアノの打鍵でなく、まるで鍵盤の愛撫ですね。

 第二楽章の速いパッセージも不動の姿勢で演奏、軽快に歯切れの良い演奏でした。

 三楽章のAdagioでは、ややせっないとも感じる主題をゆっくりと、しかし遅からず速からず絶妙のテンポで歌い上げていく、これはもう鍵盤に歌を歌わせているに等しいですね。低音のff部はズッシリとした重量感溢れる調べですが、やはり不動の姿勢で指を少し高くして、少し強く振り下ろす程度で音を出していました。如何に長い年月を演奏して、身に付いている音を軽々と繰り出しているかが分かりました。

長いフーガの最後は、相当力を込めて弾いていました。でもかなりゆっくりしたフーガでした。

        《15分間の休憩》

今日の演奏会でもホール放送は、感染症防止対策とその注意点を繰り返し放送していました。一階席は市松模様ではなく、連番でチケットを販売した様なので、前の方の席はかなり入っていましたが、後部席になる程空席が目立ちました。コロナの急速な拡大で来れなかった人も多くいるのではないでしょうか。自分の席は、ピアノリサイタルの場合鍵盤の見え二階のⅬ席を選ぶ場合がほとんどなのですが、どういう訳か両隣とも誰も来ませんでした。幸運にも密を避けることが出来たので安心して鑑賞出来ました。

  《中 略》

④32番のソナタは、ベート-ヴェンのソナタの中では少数派の二楽章構成(19、20、21、22、24、27、そしてこの32番)ですが、二楽章構成のソナタには、いい曲が綺羅星の様に輝いています。 21番『ワルトシュタイン(27分)』、24番『テレーゼ(10分)』の名称付きは勿論のこと、20番(9分)もなかなかいい曲なので好きです。最後のソナタ32番(30分)に至るとこれはもう、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの集大成・最高傑作と言って良いでしょう。二楽章構成の曲達の中でも異例の長い曲で、如何にベートーヴェンが力を尽くしてこの32番を作曲したかが伺えます。       

さて一楽章の冒頭で、左手⇒右手⇒左手⇒右手でババーン、ババーン、ジャジャ、タララララララララ というかなりドラマティックな音が立ちましたが、オピッツは今日の演奏の中でも最大と思われる大きい音量で、力を込めて演奏していました。それを二回繰り返した後の不気味な低音も、強い調子でリズミカルに表現、そして速いパッセージに移ると「忙中閑あり」というより「急中緩あり」の微妙な速度の変化で以て表現性豊かに弾き、その匙加減は見事と言う他無かったですね。最終音は随分と長くペダルを踏んだまま伸ばして消え入る様に終了しました。    

 二楽章は長い楽章ですが、最初のAdagioの主題は随分とゆっくりしたテンポで始まり、丹念に音を紡ぎ出しています。兎に角音が綺麗。主題が次々と変奏され、速く小さな音の部分でドンと足がステージを踏みつける音が二三回聞こえましたが、これはペダルを踏んでいた足を離して床に戻す時音がしたのでしょうか? 

 最終場面で、右小指でメロディの音を飛び飛びに出し、両手を揃えながら他の指は伴奏的に弾いていく箇所では、最高音が何と素晴らしく響いた事でしょう。兎に角、格が違う感じです。 将にもう巨匠の域にいると言っても良いのでしょう。

 ケンプやゼルキンやアラウより、旋律表現も演奏法も随分淡々としたものでした。 でもこの3人の名人の中ではケンプに一番近い奏法かな?

 まだ60歳後半ですから、これからズーッと世界のピアノ界をけん引して、末永く我々音楽愛好者を楽しませて下さい