HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『ドイツ三大B名曲コンサート』を聴いて来ました。

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 表記の「三大B」とは、ここではブラームス、ブルッフ、ベートーヴェンを指し、それぞれの代表的曲の一つを演奏するものです。連休最後の祝日でしたが、主催者に電話で訊いたら、「蔓延防止対策実施中の神奈川県の指導に従って、座席数減などのコロナ対策を施して予定通り実施します」とのことでした。チケットは3月に購入していたものの、もしかしたら中止か延期になるかも知れないと思っていたので、予定通りということを聞いて、後は個人の責任でコロナに対する万全の注意をする他ないと考え、聴きに行くことにしました。

プログラムの概要は次の通りです。

【日時】2021.5.5.15:00~

【会場】テアトロ・ジューリオ・ショウワ(神奈川県川崎市)

【管弦楽】東京交響楽団

【独奏演奏】松田理奈(Vn)

【曲 目】

 ①ブラームス『ハイドンの主題による変奏曲Op.56a』

    ②ブルッフ『ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調0p.26』

 ③ベートーヴェン『交響曲第7番イ長調Op.92』

 

【演奏の模様】

 会場に入ると、座席には交互に張り紙がしてあり、市松模様がはっきり見えました。1/2の席数の7~8割位は入っていたでしょうか。

 器楽構成は、2管編成弦楽五部12型、ピツコロとトライアングルが入っています。

弦奏者は一人を除き、皆さんマスクを付けて演奏しました。

①ブラームス『ハイドンの主題による変奏曲Op.56a』

 全部で八つの変奏曲から成っていて、冒頭にCorale、最後にFinaleがあり、都合10の部分から構成されています。一つ一つは1~2分の短曲で全部あわせても18~20分の曲です。

・Chorale

ハイドンの楽譜とされた中には、聖アントニーのコラールの記載がありました。これを契機にブラームスが変奏曲を作ったといわれます。(当初はピアノ曲として)

・第1変奏  Poco piu animato 変ロ長調

 変ロ音の連続で始まり、弦楽器を中心として対位法的に展開。

・第2変奏  Piu vivace 変ロ短調

 短調となり、強弱の対比によって暗いながらも情熱的な変奏。木管の付点リズムが特徴。

・第3変奏 Con moto 変ロ長調

 オーボエとファゴットによるのびやかな旋律で始まり、対位法的な展開で進行。

・第4変奏 Andante con moto 変ロ短調

 オーボエとホルンによる短調の寂しい旋律で開始。交響曲的にとらえると、第3、第4変奏は緩徐楽章的な存在。

・第5変奏   Vivace 変ロ長調

 急速なテンポとなり、木管が軽快な舞曲風の旋律を演奏。

・第6変奏   Vivace 変ロ長調

 弦のピツィカートの上に、Hr.とFg.が旋律を演奏。緩徐楽章第3、第4変奏に続く第5、第6変奏はスケルツォ的な存在。

・第7変奏   Grazioso 変ロ長調

  曲想が変わり、のどかな晩秋的旋律のFlとなり、弦がそれを展開。

・第8変奏  Presto non troppo 変ロ短調

 弦と管が弱音で動き回り、不思議で奇妙な雰囲気の変奏でFinaleに繋ぐ。

・Finale   Andante 変ロ長調

   冒頭、変奏された旋律が低弦に現れ、この旋律を主題として終曲自体がパッサカリアという形式の変奏曲。冒頭の主題を繰り返しながら変奏がされていき、しだいに聖アントニウスの主題が明確になり、クライマックスを迎える。その後テンポを落としながら弱まって行き、最後、トライアングルも加わって華やに終了。

 

 全体的に通常のブラームスらしからぬメロディが基調をなし、かなり古典的な色彩の強い曲でした。3変奏、4変奏などの曲に、これまで聴いたブラームスのオーケストラを感じることは全然出来ませんでした。これは大友さんの指揮者指導に依るというよりは、誰が振っても同様ではなかろうかと思うのです。即ち曲が持つ特性だろうと。辛うじて6変奏にややブラームスの力が漲っていた感がします。

7変奏は優雅な流れで良い曲と思いましたが尻切れとんぼかな?

 大友さんは、一貫して背筋を伸ばして紳士然と構えて指揮をしていましたが、終曲の最後は相当力を入れて指揮者もオケも演奏、この箇処にはやはりブラームスらしさがあるかなとも思えました。トライアングルがあんなに小さい楽器なのにこんなに大きな効果を上げるとは!

 この曲はやはりブラームスが最初に作曲したピアノ曲として聴いた方が、各処にブラームスらしさを感じ、かなり違った印象の曲となります。同じ曲でも楽器の違いにより、こんなに曲想が違って聴こえるとは少し驚きました。

 

②ブルッフ『ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調0p.26』

 ブルッフ没後100年が経ち、今やこの曲はクラッシック界に珠玉の宝石の様に燦然と輝く存在です。ブラームス没後120数年、ブルッフは、ブラームスより時代が一昔もふた昔も後の作曲家の様に見えますが、実際は、5歳しか若くなかったのです。ほぼ同時代を生きた音楽家と言って良い。ブラームスが64歳で亡くなったのに対し、ブルッフが82歳と長命だったためでした。

 

〇第1楽章 (前奏曲)Vorspiel:Allegro moderato ト短調。

  比較的短い楽章。Timpのトレモロと木管に続き,独奏ヴァイオリンのカデンツァが開始。ヴァイオリンの最低音Gから高音まで一気に上昇する。続いて力強く第1主題をヴァイオリンが重音を交え演奏。対照的に第二主題は優美に展開、第1,2主題を力強く展開部で盛り上がり、再現部は省略された構成で、序奏のカデンツァ風の部分を再現した後、中継ぎの調べが続く。ほぼ全体が独奏ヴァイオリンが支配。アッタカで第2楽章と直接つながれる。 

 

〇第2楽章 Adagio 変ホ長調。

 展開部を欠いたソナタ形式。最も長い楽章で曲の中心を成す。第1楽章同様ほぼ独奏ヴァイオリンが活躍。ブルッフ特有の美しい旋律が溢れる。ヴァイオリンの歌う第一主題に始まり、第二主題は独奏のパッセージを背景に木管楽器のアンサンブル。再現部は変形されて変ト長調の第一主題再現で開始、第二主題がクライマックスを演じ、最後は静かに終了。

 

・第3楽章 (終曲)Allegro  enerugico ト長調、

 ソナタ形式。オケが主題を想起させる導入をはかり、ヴァイオリン独奏の重音奏法による熱烈な主題が現出。第2主題をオケが雄大に展開し、抒情性のすぐれた例となっている。

 

 この曲は何回聴いても素晴らしいと誰もが認める名曲だと思います。ここ数年、神尾さん、レーピンなどなど多く演奏会で演奏されるのを聴きました。古今東西幾多のVn名手が競ってその見事な曲姿を目に見えるが如き形に表そうとしたことでしょう。名だたるヴァイオリニストの生演奏又は録音を聴いても感動しない時は無いといってもいい位です。今日の独奏演奏の松田里奈さんは、一度『堀正文 70th Anniversary Concert(2019年5月19日)』で、クライスラーを演奏したのを聞いたことがありますが、力強い演奏だった記憶があります。今日の独奏も期待していました。改めて松田さんのプロフィールを見ると、藝高から桐朋音大に進みその後ドイツにも留学されて大学院を修了している様です。日本音楽コンクール第1位の実績も有り、まだ40歳にはなっておられないですが、我が国の中堅ヴァイオリニストと言って良いと思います。

 流石テクニックも表現力も音も素晴らしいものがあります。演奏を俯瞰してみると完璧と言っても良い演奏だったのですけれど、、失礼ですがやや小じんまりした印象を受けました。もっと音に厚みのある弩迫力の演奏部分があってもいいのかなという感じがしました。今度機会があったら、ブラームスも聴いてみたい。 

 

③ベートーヴェン交響曲第7番

 個人的好みを言って済みませんが、この曲はベートーベンのシンフォニーの中で8番に次ぎ好きな曲です。如何にもベートヴェンらしさに溢れている。

 

〇第1楽章 Poco sostenuto - Vivace イ長調 序奏付きソナタ

 フルートの楽しげなソロ部を聴くと、心が弾むようにうれしくなってしまいます。第1Fl奏者はとてもいい音で聴く者を魅了したのですが、若干精彩に欠けると感じました。もっと朗々と笛を鳴らしてもいいのでは?この感じは繰返しの箇所も他の箇所でも同じでした。Ob奏者は何処のオーケストラでもいい音を立てる人ばかりですね。今回も良かった。

 

〇第2楽章 Allegrettoイ短調  複合三部形式。

 静的な静かな旋律ですが、シューマンはこの主題を基に変奏曲を作ったし、ワーグナーはこの楽章を「不滅のアレグレット」と呼んだそうです。何らしかの民族音楽をベースにベートヴェンは作曲したのではないかと考えてしまう程の何となく一風異質な調べを有しています。東京交響楽団はこの箇所はこれまでにない位滔々とした流れで全体的に押さえ気味に演奏しているように見えました。

 

 

〇第3楽章  Presto, assai meno prestoヘ長調(トリオはニ長調) 三部形式。

 

 速いテンポのObの誘導の調べが心地良い。Timpの響きが効果的にHr.とFlの調べを誘い、弦のアンサンブルに引き継がれる処も軽快にオケは飛ばしました。相変わらず大友指揮は、微塵も動揺をみせず、悠然とオケを引っ張っている。何回か繰り返しを経た後あっさりと楽章は終了。

 

〇第4楽章 Allegro con brio イ長調  ソナタ形式(提示部反復指定あり)。  

 この楽章は、ベートーヴェンの本領を遺憾なく発揮している処だと思います。熱狂的なフィナーレ。第2楽章同様、同一リズムが執拗に反復され、指揮者はこの楽章で管弦の全力を引き出していました。流れる様な弦楽アンサンブルは、奏者が皆あたかも自己陶酔に陥ているが如く、気持ち良さそうに体をうねらせながら弓を動かしている。Obが切れの良い合いの手を入れ、Hr.も目立った動きをしています。弦はジャッチャ.ジャッチャ.ジャッチャ.ジャッチャと弓で弦を叩く様に音を出し、その後のOb.の相いの手も又良し、効果的でした。大友さんは先日のラザレフとは真逆で、多くは感情を体にも顔にも出さず、あくまで冷徹な指揮振りでしたが、流石抑え処はしっかり押さえていました。最後は力を振り絞って全力を傾けている感じで、管弦もこれにみごと答えた力演でした。ここもベートーヴェンらしく、これでもか、これでもかと何回も繰り返し、演奏のスピードを上げて、遂にはクライマックスに達して終曲となったのでした。このスリル感も応えられないですね。

 鳴りやまない大きな拍手に答えてアンコール演奏がありました。演奏の前に大友さんがマイクを握り、大変な時期に聴きに来てくれた事への感謝と、三大Bというからには、バッハを抜かす訳にはいかない旨を語り演奏し初めました。大バッハ作曲『管弦楽組曲3番より<エアー>』でした。本番の演奏で皆さん結構な力仕事をされた後、バッハの将に心が洗われる様な調べを滔々とホールに響かせ、短い曲でしたが、結論的に言うと、「バッハの一本技あり」でした。