HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

 東京・春・音楽祭2021『 イタリア~狂熱のバロック歴遊』

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「バロック・ハープの西山まりえと仲間たち」

 表記の演奏会は、『東京春音楽祭2021(3/19~4/23)』も終盤にさしかかり、開催19日目のプログラムです。上記の副題で分かる様にハープの西山さんを中心とした、バロック演奏家達が行うコンサートでした。その特徴、趣旨に関しては、主催者H.P.に以下の様に案内されていました。

本日のプログラムは、オール・イタリア・バロックでお届けします。バロック・ハープ、バロック・ヴァイオリン、バロック・チェロ、チェンバロと古楽器を使用し、各楽器によるトッカータ、チャッコーナ、シンフォニアなどの作品と、語りながら歌う〈レチタール・カンタンド〉様式の味わい深い歌曲、さらに打楽器を加えたダンサブルなリズムの魅惑的なオペラのワンシーン、そして最後にはカンタータ! という盛り沢山の構成です。春爛漫の上野で『バロック小劇場』をお楽しみいただけましたら幸いです。
 プログラムは、1600年代初頭、この時代に愛されたバロック・ハープ(別名:トリプル・ハープまたはアルパ・ドッピア)の独奏からスタートします。トラバーチ(ca.1575-1647)はナポリの宮廷楽長を務め、その才能を存分に発揮して名声を博しました。彼自身がハープ弾きでもあったことから、「ハープのための」と題された作品は、古いハープの奏法が具体的に示されている貴重な資料となっています。原曲はルネサンス時代の音楽家アルカデルトの作品「どうぞ私の命を絶って/ああ悲痛なる苦しみ/死はわたしの喜びとなる」という歌詞のマドリガーレです。この詩には当時の文学的慣習(法悦や官能的な比喩)で、二重、三重の意味が込められていることを忘れてはなりません。
 続くディンディア(1582-1629)の2作品と、モンテヴェルディ(1567-1643)のアリア「甘美なる苦しみ」は、えも言われぬ情緒たっぷりな旋律の歌曲です。愛の苦悩とは恋する相手への最高の賛辞であり、その心情が言葉に即した旋律線や妙なる半音使いなどで表現されています。前半最後は、当時まだオペラという言葉ではなく「音楽寓話」(Favola in musica)と題された《オルフェオ》から抜粋した、類稀なる琴の名手である半神オルフォオが結婚を仲間たちに祝福され、妻の死の知らせを告げられる直前の幸福絶頂に昇りつめるシーンをお聞きいただきます。
 後半はイタリア弦楽器の隆盛の響きを中心にお届けします。まずはロッコ・グレコ(1657-ca.1717)のチェロ独奏から始まります。グレコはアルボレア、スプリアーニ、ランゼッティなどの名手を輩出した、偉大なるナポリのチェロの伝統の創始者と言えるでしょう。続いては、ナポリに生まれ、1670年代にイギリスに渡って当地で大成功を収めたヴァイオリニスト、ニコラ・マッテイス(ca.1650- after 1713)です。本日は珍しい2声バージョンでのチャッコーナを演奏いたします。そしてトリはナポリの至宝、アレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)のカンタータを奏します。タイトルは原語で「Ammore, brutto figlio de pottana」、これはナポリの方言で、“amore”の“m”がひとつ多いなど、いわゆる標準的なイタリア語と多々違う点があります。直訳すると「売春婦の息子」とのこと。恋に苦しむナポリ男が愛の神アモーレに向かって吐き捨てるスラングです。野菜を比喩にしたエロティックな表現もあります。さてさて、ドキドキの続きはステージで! どうぞイタリアンなバロックの午後をお楽しみください。

プロラムの概要は以下の通りでした。


【日時】2021.4.17.(土)15:00~

【会場】旧東京音楽学校奏楽堂

【出演】
チェンバロ&バロック・ハープ:西山まりえ

テノール:櫻田 亮

ヴァイオリン:小玉安奈、廣海史帆

バロック・チェロ:懸田貴嗣

パーカッション:濱元智行

 

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西山まりえ、櫻田 亮、小玉安奈

廣海史帆、懸田貴嗣、濱元智行

 

【演奏曲目】
①アルカデルト(トラバーチ編)『ハープのための《どうぞ私の命を絶って》』
②ディンディア『獣も岩も私の嘆きに涙を流し』
③トラバーチ『トッカータ 第2番 ハープのためのリガトゥーレ』
④ディンディア『君は私を捨て、おお、無慈悲な人、美しい人よ!』
⑤モンテヴェルディ『これほどに甘い苦しみが』
⑥モンテヴェルディ『音楽寓話《オルフェオ》より』
 1トッカータ
 2リトルネッロ
 3天上の薔薇、世の命
 4ぼくは帰ってくる
 5覚えているだろうか、深き森よ
 6モレスカ
⑦グレコ『2台の弦楽器のためのシンフォニア 第3番 ト長調』
⑧マッテイス『古風なサラバンダ上の様々な逸脱またはチャッコーナ』
⑨スカルラッティ『トッカータとバレット イ短調
⑩スカルラッティ『愛の神、このろくでなしめ!』

 

【演奏の模様】

 今日の演奏会は、上野公園内にある旧奏楽堂です。演奏会場に入って見ると一言でいって「異次元の空間」に迷い込んだ感じでした。     これまで、古楽の演奏会は何回か聴きに行ってますが、古楽器による演奏は、得てして音量が小さく、大ホールでの演奏だと、物凄くちまちました箱庭観賞のような感じを受け、何か物足りないと思っていました。ところが、今日の旧奏楽堂での演奏会は、バロック演奏にピッタリの雰囲気が溢れている、即ち古めかしい木造の小さいホール、ステージには小振りながらパイプオルガンが、厳めしく鎮座しています。木製と覚しき座席は、今日はチケットが半数のみの販売ということで、所謂市松状態のゆったりと坐れる配置になっています。ステージ中央には、チェンバロとバロックハープがあり、譜面台と椅子が数個、その椅子の一つには、何やら見たことも無い打楽器様のものが置いてあります。演奏を聴く前から、如何にも雰囲気溢れた舞台装置が揃っていました。こんな雰囲気で演奏される音楽は、きっといいものになるだろうなどと想像しました。そういえば、これに似た感じを以前受けたことがありましたっけ。そうそう想い出しました。あれは、ノイシュバインシュタイン城に真冬に行った時のこと。城の何階の部屋だったか忘れましたが、ルートヴィッヒ3世が小舞台を作らせてワーグナーなどのオペラを見ていたそうなのです。ガイドの説明をききながら、窓の外の風景を見たら、一面の雪景色、それが何とも言えない程の幻想的な素晴らしいものだったのです。別の季節に何回か訪れたことがありますが、それまでで最高の景色でした。その時ふっと思ったのですが、あの景色の雰囲気の中で、ジークムントが「 冬の嵐は去りぬ」などを歌ったら素晴らしいだろうななどと思ったもののでした。

 今日の演奏者の皆さんは、初めての方ばかりでしたが、演奏前からワクワクしていました。

 さて演奏の方ですが、①のハープ演奏からは、タイトルの「~命を絶って」という切羽づまった必至さや絶望や諦めの思い詰めた様子とはかけ離れた、心地良いメロディと雰囲気でした。演奏後、演奏者の西山さんのトークがあり、バロックハープについて説明して呉れましたが、左右の弦の他に中間にも弦が張ってあり、即ち三重構造で、中間の弦は鍵盤楽器で言えば黒鍵にあたるそうです。

②から④はハープ伴奏の歌で、テノールでした。櫻田さんは声に張りと力のある安定した歌唱力を有し、バロック歌唱らしく修飾音をあちこちまじえながら、最後はバロック音楽の特徴ある音階進行で終わり、これぞバロックテノールの感がしました。トークでの、④は ❛残るは死ぬか生きるかどちらしかない❜程の切実さといった趣旨通り、櫻田さんは切実さが伝わって来る程、力を込めて全力で歌っていました。ルチアのエドガルドかな?

⑤はこれまでのハープに加えるにバロックチェロが伴奏に加わった歌でした。バロックチェロは現代のチェロと比べて洗練されていない、やや粗野な音を立てるかも知れませんが、それが逆に素朴で味わい深い調べを醸し出していました。チェロが伴奏に加わったことにより、歌、ハープの二重奏よりアンサンブルに厚みが加わりました。

 前半最後の曲は⑥モンティベルディのオペラ『オルフェオ』のハイライトを抜き出して演奏するとのことでした。⑥-1トッカータは器楽のみ。バロックバイオリン二人とパーカッション一人がハープ+Vcに加わりました。このパーカッションがまた面白い。

二つあって、一つは大きなタンブリンの様な丸い形をしていて皮か何かを張って、円周に止めてあります。中に十字状に細い梁があり、音程を調節出来ると後半のトークで話していました。フレームドラムと言うそうです。もう一つはトンバクというイラン起源の楽器だそうです。鼓状の背高の花の鉢の形をしていて、鼓の様に手で叩いていました。

⑥-2は歌で、櫻田さんは完成された自分の「歌う型」をしっかり持っているまろやかないい声でした。ハープのみの伴奏。

⑥-3からは伴奏に、チェンバロが西山さん、Vnが二名、それからVcとパーカッションが加わり櫻田さんが歌いました。パーカッションは時々シンバルを弱くたたき、櫻田さんは歌を歌いながら、小さい複数の鈴のようなものが数珠状に繋がった小楽器を手にして鳴らしていました。

 ここで《20分間の休憩》です。

後半の最初は⑦でチェンバロ伴奏にVcが事実上のチェロソナタ(ソナタ形式ではないですが)の様に弾きました。弦を弓でこする音に現代チェロにはない雑味が加わり特殊なある種趣深い雰囲気を醸し出していました。冒頭は遅いテンポで次第に速度が上がる曲です。

⑧はVc、パーカッション、にVn2名が加わりました。バロック・ヴァイオリンは

小さくて随分軽いので、すーすーと軽々と弾けるといった趣旨のトークが有りました。

ここで先に述べたパーカッションにつぃての説明も有り。冒頭チェロが初めてピティカートで弾いていました。

⑨はハープの西山さんが、チェンバロを独奏しました。心地良い如何にもバロック風のメロディがシャリンシャリンと歯切れ良く出ていて、中々の腕前とお見受けしました。

最後の⑩の歌は、全楽器(ハープでなくチェンバロ)伴奏で櫻田さんが、歌いました。ここでも演奏の前に西山さんのトークがあり、この歌は女の子を口説く際に野菜に例えて、際どい言葉にオブラートを被せていると面白おかしくユーモラスに説明、櫻田教授の解釈だとその女の子はマーケットか何かの野菜売りではないかとの趣旨を話していました。ここで判明したのは、どうも櫻田さんは藝大教授の様なのです。道理で歌は堂に入ったものだと思いました。

 以上予定のプログラムが終わり最後にアンコール曲の演奏がありました。

モンティベルディ作曲 アリア『金髪がかわいいお嬢ちゃん』

 今日の演奏会は、やはり当初予感した様に、日常性とは別の素晴らしい異次元の世界にいざなって呉れました。